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南西諸島におけるサトウキビ省力的安定多収生産の要点

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最終更新日:2021年10月11日

南西諸島におけるサトウキビ省力的安定多収生産の要点
―産業の持続的発展に向けて―(前編)

2021年10月

サトウキビコンサルタント 杉本 明

【要約】

 南西諸島においてサトウキビ産業が持続的に発展するために必要な技術の基本的な方向を10月号と11月号の2回に分けて掲載する。()(じょう面積が狭く労働市場が比較的活発な南西諸島でのサトウキビ生産は、省力的・軽労的で環境保全的な栽培方法であることを前提に、一層の安定多収を保証し得ることが必須である。

 第1章ではそれを実現するための要点が、ケーンハーベスタによる収穫とビレットプランタによる植え付けを基本とする機械化一貫栽培体系による多回株出し安定多収栽培技術にあるとした。今号ではその実現(技術開発と圃場での実践)に必要なサトウキビ栽培に関する基本的知識を述べる。

はじめに

 北は鹿児島県の種子島から、南は沖縄県の波照間島、東は絶海の孤島と呼ばれる沖縄県の北大東島と南大東島、西は台湾が遠く望める与那国島(沖縄県)、この広大な海域に点在する島々が日本におけるサトウキビの主産地、南西諸島である(図1)。他国との国境の島でもある。沖縄本島、特に那覇市以外は人口の少ない離島である。美しい海を背景にした観光地である島も多い。島しょ部であることが示すように、圃場は狭く海に向かって傾斜している。

 大部分の圃場は島尻マージまたは(くに)(がみ)マージと呼ばれる隆起サンゴ礁や火山岩に由来する痩せて保水力の低い土壌によっている。収穫期は冬、降雨量は多くはないが機械が圃場に入り難い降雨日が多い。生育旺盛期である夏は台風による大雨以外は少雨で、毎年のように干ばつ被害が発生する。7月〜9月には台風が来襲し折損茎が多発するほか潮風害が頻発する。経営規模も世界的に見れば極少であり、消費地から遠い市場遠隔性を抱える地域でもある。

 そんな条件の中で、公的機関からの強い支援を受けて成立しているのが南西諸島のサトウキビ産業である。後継者が生まれず、担い手は高齢化し、従事者数も減少を続けている。その帰結でもあるが栽培面積、生産量も減少して産業は存続の危機にあるといっても過言ではない。

 砂糖生産による国民の食への貢献の他に挙げられる南西諸島におけるサトウキビ産業の存在意義は、「地域の経済社会の維持」この一言に尽きる。経済社会の維持、すなわち地域の持続的な発展は、多様な担い手が数多く存在することに始まる。そのことによって資材や文化的商品の消費者も増える。この稿では経済社会の維持を基幹産業として担うサトウビ産業のあるべき姿を「製糖用サトウキビ生産」の観点で考えてみたい。

 繰り返しになるが、円滑な食料供給のための砂糖の生産をしつつ狭い土地で多数の人口を(かん)(よう)すること、このことが南西諸島におけるサトウキビ産業の主要な目的である。多数の人口の涵養はサトウキビだけで考える必要はないと思うが、先にも述べたように、この稿では、あえて今あるサトウキビ産業の持続的な発展を望む内側でそれを考えてみたい。自然環境の維持はその前提として位置付けようと思う(写真1)。

 ごく普通に想定される社会生活を前提にすれば、「多数の人口の安定的な涵養」とは「多額の商品の生産」を前提とした「収益性の高い経営」の実現に根拠を置くであろう。高度な市場主義原理の中での移動の自由を前提とすれば労苦からの解放は後継者確保の前提であり、機械・圃場・施設・労働力の高度利用にその解が求められよう。すなわち、高度な機械化に基づく単位収量の飛躍的な向上である。ハーベスタによる収穫が80%を越えることにみられる通り、南西諸島は世界的にみても機械化が進行している。苦役を排除した省力的な肥培管理と収穫、投じられた資金に見合う余剰を生む生産、そして効率的な機械の運用による経営、南西諸島がサトウキビの持続的生産に向かうために、技術・システムはその方向に深化するはずである。

 以下、担い手の昨日と今日の努力に応えるため、魅力に満ちた産業、後継者を招きたくなる産業=若者が就業したくなる産業としてのサトウキビ産業の創出を前提に、サトウキビと環境(自然的・社会的)との関係をより深く理解して省力的に安定多収を実現することを目的に、主にサトウキビの特性に沿って技術的に知りおくべきことを述べる。将来の事ではなく現在の重要事項として読み取って下されば幸いに思う。この提言を大きく二つに分けて行い、最初に第1章として南西諸島のサトウキビ生産の現状と目指す姿を総論的に概観する。次に第2章として、南西諸島の各島で展開されているサトウキビ生産に触れ、島ごとにできる限り具体的に生産の在り方を提案したい。今回は第1章を前編、後編と分けて提案する。
 
 

第1章 南西諸島のサトウキビ生産の現状と目指す姿

1.知っておきたい概念と用語

(1)栄養繁殖性作物

 例えばイネは、圃場の稲穂から採取した種子を()(しゅ)すると親と同一の等質な集団を作ることができるが、サトウキビは雑種性が高いために、圃場にあるサトウキビから種子を採取して播種すると、親とは異なる(個体ごとに姿形・糖度などの特性が異なる雑多な)サトウキビの集団になってしまう。それでは肥培管理上の都合が悪く効果的な作物生産ができないために、種子による個体の増殖を行わない。一方で、茎の節部に根基と芽子を持つため、節部を畑に植え付けると茎内に蓄積された栄養によって発根・発芽することができる(しかも親と同一の等質な集団となる)ため、実際の栽培は、茎を種苗に用いて行われる。このように、親の体の一部を用い、親と等質な次世代を作出する作物を、栄養繁殖性作物と言う。挿し木や取り木で増殖する樹木、塊根や塊茎で増殖するかんしょやばれいしょ、茎の挿し木で次世代を構成するイチゴなどは栄養繁殖性作物である。

(2)株出し栽培

 栄養繁殖性を特徴とするサトウキビは地上部の茎を収穫すると、頂芽優勢が崩壊して、土壌中に残された茎の節部の芽子が発芽して成長する。これを(ほう)(と言う。萌芽した茎や萌芽茎から発生した分げつ茎を肥培管理しておよそ一年後に収穫する栽培法を「株出し栽培」と言う。新植と比べ実質的に密植となること、さらに、在圃期間が長くなることから、原理的には新植より多収になる。これを数回繰り返すのが、世界的標準としてのサトウキビ栽培である。ちなみにブラジルでは1回の植え付けで6、7回程度、豪州では7、8回程度の収穫を繰り返すことが多い。南西諸島は、株出しの単位収量が低く継続回数も少ないことが大きな課題である。

(3)根圏土壌容量

 生育期間が長く長大作物であるサトウキビの順調な生育には、継続的で安定した養分供給が必要である。頻度の高い施肥は実際には実施できないために、圃場におけるサトウキビへの養分供給は土壌の養水分保持力に頼っている。すなわち、土壌中の養分量(具体的には養分の存在密度<地力といわれる>と土壌の量)が重要である。南西諸島の多くのサトウキビ圃場は養水分密度の低い場合が多い。そこで重要になるのが根圏土壌容量である(図2)。ここでは1茎当たりのサトウキビから発生する根が接することのできる土壌の容量を根圏土壌容量と呼ぶことにする。水平方向(栽植密度と深く関係する)と垂直方向(根の生育特性、培土などの肥培管理と関係する)の双方で考えることが必要である。培土は土を株元に寄せることで節部からの発根を促すとともに発生した根が接触しうる土壌の量を確保することを主目的として実施される。一方、苗を深く植え付ける深植えは、培土が土壌の浅い層に根圏土壌容量を増加させるために行うのに対し、土壌の深い層に根圏土壌容量を増加させる目的で行われる。同じ根圏土壌容量の増大を目指す栽培技術であるが、目的が異なる。地下水位の低いところでは、高い培土が土壌水分の保持に向かないのに対し、深植えでは土壌水分の保持に有利であるなどの違いがある。一方、深植えの場合苗が不時の大雨で土壌中に埋まってしまい発芽できない場合があるなどの欠点がある。
 
(4)株上がり

 地上部を収穫すると土壌中の茎の節部にある芽子が成長して次世代の茎が発生・成長する。それを肥培管理するのが株出し栽培である。地上部の収穫後、地下に残った株から萌芽する茎の発生位置は通常は新植茎の発生位置より上方、すなわち地表面に近くなる。それが株上がりである(図3)。株上がりによって根圏土壌容量が減少し、1茎の成長量が減少して収量が減少するために、本来は新植より多収になるはずの株出しの収量が実際には新植より少ない例が多い。それを防ぐために培土がある。培土できる高さには限界があることから、多回株出しの場合には高培土より深植え(図4、写真2)の方が有利であると思われる。
 
 
 

2.サトウキビの作物としての特徴

 はじめに、理解しておきたいサトウキビの作物としての特筆すべき特徴を述べる。

(1)C4型光合成をすること

 植物の炭酸同化作用の機作には、概別してC3型光合成、C4型光合成、CAM型光合成の三つがある。イネ・麦・大豆・野菜類など多くの作物はC3光合成型植物に属する。温度、葉中の二酸化炭素濃度が一定以上に達すると光合成機能が停滞するのが特徴である。一方、サトウキビ、トウモロコシ、ソルガム、ネピアグラス、ススキやエリアンサスなどはC4光合成型植物といわれる。葉中に取り込んだ二酸化炭素を濃縮して保持する機能を持つため、水の供給がある場合は高温条件下でも光合成活性が低下しないのが特徴である。従って高温・高日照条件下で高い物質生産力を発揮することが多い。乾燥した環境への高度な適応性を獲得した植物もある。パイナップルやサボテンのように、体内からの水分蒸発を防ぐために昼は気孔を閉じて二酸化炭素の吸収をせず、気温が下がる夜のみ気孔を開いて二酸化炭素の取りこみをする植物、CAM型光合成植物と言われる。サトウキビは代表的なC4型光合成植物として、熱帯・亜熱帯地域で養水分さえ担保できれば高い物質生産力を発揮することが知られている。この特性が毎年のように干ばつの被害を受ける南西諸島におけるサトウキビ生産において水供給(土壌水分含量)が安定多収の基本となるゆえんである。

(2)要水量が低いこと

 自分の身体(乾物重量)1グラムを作るために必要とする水の量のことを要水量と言い、その値が小さいほど水利用効率が高いことを意味する。温度に不足はないが毎年のように干ばつに見舞われる南西諸島においては重要な事項である。サトウキビはソルガムなどと共に要水量が最も少ない作物の一つである。要水量が少ないということは増体に必要な水の量が少ないという意味であり、乾燥条件下で生存・生育をし続ける能力が高いと言うわけではない。要水量が低いことをもってサトウキビは乾燥条件に適している、と考えるのは適切ではない。十分な水の供給があれば、C4型光合成をするサトウキビは高温・高日照にある熱帯・亜熱帯で高い物質生産力を発揮すると理解するのが妥当である。

(3)生育期間が長いこと

 生育期間が長いことは、天候不良や病害虫の攻撃にさらされる期間が長くその機会が多いことを意味する。サトウキビは普通植え付けから収穫までに1年間程度の生育期間を必要とする。熱帯雨林地域を除き、雨季と乾季、低温期と高温期を跨いで生育することが多い。乾燥や低温はサトウキビの生育にはふさわしくない環境であり、生育の停滞(条件によって糖度の上昇)がおこる。台風が多発する南西諸島では、茎の破損、生葉の消失・障害による生育の停滞がおこりやすい。

(4)長大作物であること

 サトウキビは熱帯地域では、茎の太さが4センチメートル程度、長さは4メートル、1茎の重さが3キログラム以上にも達する。環境の比較的厳しい、乾季を持つ地域、冬のある地域でも1茎の重さが3キログラム近いものも少なくない(写真3)。長大作物であることの生育上の特徴は、台風や雨、植物体自体の重みで倒伏することである。倒伏することの負の意味は受光態勢が劣化して個体としての光合成機能が低下することにより、生育と糖度上昇の停滞を引き起こすことである。また、野ネズミなどの生息環境を良くすることにつながってその食害を受けやすくなることも多い。作業的には、圃場内での肥培管理のための作業が困難になること、収穫作業が重労働化することなどが欠点となる。激しい倒伏によってその困難は一層激しくなる。南西諸島では多くの圃場で倒伏が激しい。
 
(5)茎に糖を溜めること

 サトウキビの作物としての最大の特徴は茎内にショ糖を蓄積することである。ショ糖は結晶化するため、製糖工程を経て、人間の生存に必須の砂糖(含蜜糖・分蜜糖)の生産が可能になる。ウォーレス線の東側近傍スラウェシ島近くで成立したサトウキビ(Saccharum officinarum;オフィシナラム種)がインド、中国、地中海地方を経てアフリカ、南北アメリカ、豪州と世界中の熱帯・亜熱帯地域に伝搬・定着し、世界的大作物となった理由であり特性である。ちなみにオフィシナラム種発祥の地からも、砂糖発祥の地インドからも遠い南西諸島への伝搬は、17世紀、中国福建省から黒糖の製造法と共に、琉球王国の()()(しん)(じょう)によって沖縄に、次いで直川智により奄美大島にもたらされたとされている。当時用いられていた品種はS. sinense種(中国細茎種、読谷山はそのうちの一つ)である。その後、品種改良によってインドネシアで育成されたPOJ2725(世界的な大品種であるPOJ2878と同じ育成地の兄弟品種)が導入・普及されて発展するに至った。さらに第2次大戦後は南アフリカで育成された、これも世界的な大物品種であるNCo310が導入・普及されて近代のサトウキビ産業が完成した。現在は台湾育成品種F177の隆盛を経てNiF8を中心とする日本育成の品種が栽培されている。高糖性品種の導入とその活用、サトウキビが茎に砂糖を効率的にためることのできる作物だった故の歴史である。

 ショ糖を体内に多量に蓄積する作物は限られ、かつショ糖は人類の生存に有用性の高い食料であったため、糖蓄積機能はサトウキビの特性の中でも最も重要視された。そのため、作物改良においても肥培管理においても、環境への適応性、多収性など、他の特性を犠牲にしても高い糖度を追及することが王道とされた。犠牲にされた厳しい環境への適応性などは、かん水、多肥、労力の多投入で補われた。このことはサトウキビの負の歴史遺産であり、現在も世界各地での収量の停滞という形で残っている。

(6)他の作物と比較して根系が豊かで、不良な環境への適応性が高いこと

 サトウキビはショ糖蓄積能力を高めるために旺盛な生育力を犠牲にしてきたと述べたが、それでも他の作物と比べると根系が深く豊かであり不良な環境条件下でも生育が可能なため、世界各地の不良農業環境地域でも、収量は低いがそれなりの栽培が続けられている。この特性も南西諸島で基幹的な作物としてサトウキビが長年月にわたり生産し続けられてきた理由の一つである。

(7)熱帯性の作物であること

 サトウキビは自然界の進化によって、赤道に近い熱帯雨林気候の、ニューギニア島、スラウェシ島の近傍で2万年程度前に誕生したと言われるオフィシナラム種が基になっている。現在の製糖用サトウキビ品種はそのオフィシナラム種と北インドを原産地とするサトウキビ野生種との種間交雑(実際に使われた野生種の多くはインドネシアに分布していたものである)により両者の長所を統合して作出されたものである。このように熱帯性の作物であるがゆえに、サトウキビの発芽や生育には十分な土壌水分のほかに32〜35度程度の気温が必要であり、気温が低下するにつれて生育が緩慢になり、10度以下では停滞する。そのため、新植の植え付けや株出しの萌芽期が低温の場合、雑草や病害虫との競合に弱く欠株の原因になることや降霜に遭遇すると生育が阻害されることなどが問題として現れる。これは南西諸島において株出し栽培が低調であることの要因の一つであると考えられる。

(8)利用に際して製糖工場という機械装置を必要とすること

 一部地域を除き、サトウキビは砂糖生産の原料として製糖工場に搬入され、搾汁―不純物除去―濃縮―結晶の工程を経て製品化される。工場の安定した操業には一定以上の生産規模が必要なため、他の食料作物のような小規模な生産は存在しにくい。冒頭に「安定した原料調達がサトウキビ産業持続の必須事項」と述べたゆえんである。製糖工程はすなわち価値付加工程でもあるため、雇用労働の創出などを含め経済効果が高く、大きな産業が成立しにくい南西諸島地域に欠くことのできない重要産業として位置付けられることが多い。その結果として産業の維持のために、公的機関の支援を強く受けつつ成立している産業である。

3.サトウキビの収量および収量構成要素

 南西諸島のサトウキビ産業では砂糖生産のみが行われているが、世界的には、砂糖生産だけではなく、搾汁残さであるバガスを燃やして生産する電力(バガスの燃焼熱で蒸気を生産して生産工程の熱源とする他、余剰の蒸気でタービンを回して発電を行う。生産された電力は工場の動力になるほか余剰の電力は地域に供給されることが多い。)、ブラジルで盛んなエタノール、バガスを原料にするパルプなどの繊維製品も生産・販売されている。南西諸島では、工場稼働のための電力の生産と利用以外はしておらず、世界各地で実施されている電力の販売、3番糖蜜を原料としたエタノール生産を実施している工場はない。バガスを原料としたパルプ生産、製糖残さ・エタノール製造残さを原料とした肥料生産なども行われてはいないが、ここではそれらの副産物の利用も含んだ形で記述を進める。

 図5に目的生産物の収量構成要素を示した。(1)(5)(9)(12)は目的関数(目的生産物量)であり、品種改良、肥培管理技術の進展や生産環境の改良および工業技術の改良によって変動する。(2)(3)(6)(7)(10)は原料作物生産に関わることであり、品種特性や肥培管理、自然環境の変化によって変動する。(4)(8)(11)(13)は工業的要素であり、システム構築技術・機械施設・運転技術などによって変動する。

 (2)原料茎収量は=(14)原料茎数×(15)1茎重×(16)収穫歩留まりである。原料茎数と1茎重は品種固有の特性と肥培管理の相互作用、すなわち広い意味での栽培技術によって左右される事項である。(16)の収穫歩留まりは収穫従事者の行動様式、収穫方法、収穫機械の性能や操作技術によって決まる。

 (14)原料茎数は=(17)植え付け種苗数(農業慣行によって決まる)×(18)発芽・出芽率(品種特性や種苗品質、土壌の温度・水分の影響が大きい)×(19)株生存率(気象条件や雑草との競合、病害虫の状況で決まる)×分げつ発生数×茎生存率で表される。

 (15)1茎重は=(20)茎の伸長(圃場の養水分環境・気象条件)×?茎の太さ(品種特性、生葉の状況の影響を受ける)×?茎の比重(ショ糖の蓄積が増えると比重は上がり、海綿化や髄孔が増えると比重は下がる)で表される。

 目的生産物の収量を構成する収量構成要素は目的とする生産物の違いによって重要性が変化し、土壌条件の違いによっても要点が異なる。安定多収の実現、そのために必要な栽培技術の開発・導入に、地域におけるサトウキビの収量構成要素の把握に始まる生育実態の正確な解明が求められるゆえんである。
 

4.産業の持続的発展のためのサトウキビ生産の基本的視点
―サトウキビ産業の持続的発展の重要事項と発展への基本的道筋―

 地域の基幹作物として存在せざるを得ないサトウキビ産業の持続的な発展は、原料となるサトウキビの安定的な調達、すなわち「収穫面積の安定的な確保と単位収量の高位安定」(少収・苦境からの脱却およびその実践的な姿としての、省力・省資材的な安定多収栽培の実現)に始まる。将来に向けた産業の持続性の担保は、次世代の人材を引き付けるに足る生産の在り方と、社会の持続的発展に貢献しうるために必要な産業の一層の高度化によってもたらされる。

 サトウキビにおいて産業の一層の高度化は「労働力、圃場、機械・施設利用の高度化」、さらに将来にわたる高度な発展のためには、それに加えた「作物利用の高度化」によって達成される。持続的なサトウキビ産業確立のためには、上記の各段階を通過することが必要である。

 南西諸島のサトウキビ生産の現在の最重要課題は、原料の安定的な調達、すなわち「収穫面積の安定と単位収量の高位安定」が実現していないことである。どこも収量が少なく、特に株出しの収量が少なく継続回数も少ないなど、経営は苦境の中にある。同地域を含め、日本は発展した市場原理社会であり、産業間、地域間の人口移動が比較的容易で、労働条件や労働環境の劣る産業・地域からより良い産業・地域への人口の移動が当たり前のように起こっている。それゆえに、南西諸島のどの地域でもサトウキビ経営の後継者不足が深刻化し、栽培面積の減少が続いている。

 単に単位収量を向上するだけでなく、それを後継者の確保とそのための産業の一層の高度化のための措置とともに実現することが必要である。トラクタおよびトラクタけん引型の肥培管理用機械が相当程度導入され、ハーベスタによる収穫率が80%を越える中、その一層の効果的利用を通した、圃場・機械・労働力利用の高度化が必要である。そのことは、株出しの多回化・多収化を通した植え付け面積の縮小と高度で効率的な機械化による省力化・軽労化・経営の改善を実現することを意味する。

 南西諸島は島しょ性を特徴としている。島しょの特徴として圃場は海に向かって傾斜しており一筆の面積は小さい。南西諸島におけるサトウキビ産業の持続的な発展に向けた第一歩は、そのような生産環境の中、収穫面積の安定的な確保と単位収量の向上を省力的な方法で達成することである。その肝の第一は、(1)新植栽培での収量改善と(2)株出しの改善による多回株出し安定多収の実現である。次節では「2.サトウキビ作物としての特徴」で述べた収量構成要素を下敷きにして、多回株出し多収実現の基本を述べる。これらの事項を高度な機械化の基に実現することが「サトウキビ産業の持続的発展」の必須事項である。

5.多回株出し多収生産に向けた基本的要点

(1)株出し多収栽培の要点

 株出し多収の実現には、新植の多収と高い対前作比が必要である。そのために必要なことは、新植で多収であることに加え、前作収穫後に数多くの萌芽が発生すること、さらに萌芽した茎が良く成長することである。そのためには、第一に、萌芽が良く、萌芽茎の生育も優れる株出し多収性品種を用いることである。

 サトウキビの茎収量は、普通、新植<第1回株出し=第2回株出し>第3回株出し>第4回株出しのように、新植から株出しに至り増収し、連続株出しの進行に伴って減収する。新植の多収がそのスタートであるが、そのためには、十分な株数の確保に始まる茎数の確保、すなわち(ア)良好な発芽と(イ)良好な初期生育(分げつ茎の発生と発生した茎の伸長・肥大)による欠株の最小化と生育量の確保が必要である。

 サトウキビ生産の主な目的が砂糖生産であることからは、サトウキビの十分な成長に加えて(ウ)十分なショ糖蓄積が必要である。株出しにおける多収確保には新植での多収を基に、(エ)収穫後の良好な萌芽、そして(オ)十分な数の分げつ茎の発生と分げつした茎の良好な生育が必要である。さらに、茎への(カ)十分な糖蓄積があって製糖産業としての株出し多収が成立する。(キ)この過程を5〜6回(すなわち5〜6年)程度繰り返すことで、世界に肩を並べる多回株出多収サトウキビ生産が実現する。この7項目の満足ができない場合、サトウキビの世界的標準としての安定多収生産は実現しているとは言えない。

 (ウ)を除く(ア)〜(オ)すなわち新植と株出しにおける茎の良好な生育のためには、適切な温度と水分、根圏土壌の質と量の増大による十分な養分の吸収が必要である。

 具体的には、(ア)良好な発芽には、健全な芽子と養分を持つ無病種苗が、適温(32度程度)に近い季節に、適切な水分を持つ土壌に植え付けられることが必要である。肥培管理の視点では、植え付け適期であることを前提に、新植茎の健全無病な種苗を用い(株出しの茎は黒穂病などに感染している危険があるため)、心土破砕と深耕(土壌の反転は避けた方が良い場合も多い)により土壌を膨軟な状態にして水分の上下動に都合の良い状態を保った上で、湿害回避を前提にして(株出しでの株上がり防止に有効な)深植えを実施することと表現できる。

 (イ)良好な初期生育には、母茎から発生した根が十分な養分を吸収し得る環境が存在することが重要である。また、養分吸収・光受容の競合に独占的に勝ち抜くことが必要である。肥培管理の視点では、新植茎への病害感染の防除、株元への施肥(植え付け時に基肥として施用されることが多い)および競合相手である雑草の排除、メイチュウなどの食害の防止がそれにあたる。

 (エ)収穫後の良好な萌芽には収穫時の株の引き抜きや土壌中に残される株への傷害を最小化した上で出来る限り太陽光を当てて温度を高めることが必要である。新植の発芽時と同様、適切な温度と土壌中の水分、土壌中に残された茎内の十分な養分(還元糖成分や窒素分)の存在が必要である。肥培管理の視点では、適温に近い環境下で収穫されること(収穫後のマルチ被覆や根切り・排土などの肥培管理もそれに当たる)、深植えや適切な培土などによって新植茎の根系発達を促しておくこと(引き抜きへの抵抗)、鋭利な刃物で茎を切断すること、株上に強い圧力を加えないことなどなどである。

 また、(オ)萌芽茎の良好な生育には十全な根の生育に基づく根系の発達、生育全期を通した良好な受光態勢の維持が必要であり、深植えや施肥、培土によって土壌の萌芽茎への養水分供給力を高めることが重要である。分げつ茎発生の誘導には、多くの場合、成長点への物理的な刺激をはじめとする成長の一次的停滞を誘導する環境が必要である。肥培管理上は、発生した分げつ茎をできるだけ多く残し、大きく成長させるための継続的な養分供給と受光態勢維持に必要な茎の直立性維持に向け十分量の土壌を株に寄せるための培土(必ずしも高く土を盛る必要はなく根の周りに十分な量の土を集めることを意味する。深く植えた場合は平均培土で良い:前述の図4、写真2)、そして培土によって土壌中になる節部から発生する新しい根が吸収する養分供給のために実施する追肥がそれにあたる。これに加え、根が土壌中で成長しやすい状況を保つために有効な膨軟な土壌の状態の維持が必要である。さらに、状況によっては病害虫の防除も必要となる。

 新植の場合と同様、養水分の供給環境と茎の支持に十分な土壌容量が必要である。肥培管理の視点では、植え付け前の深耕(土の反転を避けることが必要な場合も多い)に加え、新植時の深植えと低い培土、地際刈り取りによる株上がりの抑制、泥濘(ぬかるみ)圃場でのクローラ型ハーベスタの使用による土壌硬化の最小化、収穫後に行う畦間の心土破砕、施肥・中耕・培土などが必要な事項である。

 糖度の上昇には多くの場合成長の停滞が必要なため、株出し萌芽の促進と糖度上昇のバランスに配慮して最終施肥の時期を決めることが必要である。一般的には最終培土時に最終施肥を実施する。

 株出し多収性を備える品種の利用がまず重要であると述べた(写真4)。かつては株出し能力に定評のある品種NCo310が多用されたが、黒穂病や黄さび病に弱いこと、新植の収量や糖度が当時の要求からは不足することなどの理由により高糖性のNiF8が育成され普及した。その後も高糖性を基盤に株出し能力を強化した品種が育成され普及してきた。しかし、それらの品種も先に述べた理由などによって、昨今、栽培面積、生産量ともに減少を続けている。そのような中、茎が細く脱葉性に難点があるためにトラッシュ率が高く繊維分も高いが、高糖性かつ多回株出しでの多収が期待される「はるのおうぎ」が製糖用実用品種として普及し始めた。

 また、糖度上昇はやや遅いがやはり株出し多収性で、多回株出しでの多収実現が期待されるRK10–29などの系統が開発されている。いずれも株出し多収の実現を第一の目的として開発されたものであり、良い成績を示している。今後、実用の中で、株出し多収性品種が合わせて備えることの多い、高いトラッシュ(注)率や繊維分、幾分低い糖度などをいかに活用し吸収するかについて、圃場および製糖現場の知恵を出しあいたい。

(注)原料茎以外の梢頭部、稚茎、枯葉、枯死茎、生葉、土砂、雑草などの(きょう)(ざつ)(ぶつ
(2)省力化に向けた基本的要点

 南西諸島において、軽労化・省力化は多収化と共にサトウキビ産業の持続的発展の鍵だと述べた。ケーンハーベスタの普及が収穫率で80%を超え、収穫の軽労化・省力化が進んだ今、急務は植え付けの軽労化・省力化である。現在は主に、全茎式のプランタで行われているが、これは苗の生産(茎の収穫と種苗化のための調整)に手作業が必要である。その実施が困難になりつつある今日、用意すべきはハーベスタによる苗の収穫と調製、ビレットプランタによる植え付け体系である(写真5、6)。現状は苗の収穫からビレットプランタへの投入に至る省力のためのシステム化が不十分であること、芽子の損傷や、苗が植溝に落ちなかったり、1カ所に集中して落ちるなどの置床の不確実性があり、まだまだその信頼度は低い。株出し回数の増加には、深植え型のプランタが必要であるが今のところ未開発である。機械メーカー、公的機関の研究陣が一体となってその確立を急ぐ必要がある。また、ビレットプランタ植え付け体系に適する品種の開発も重要である。さらに、植え付けの軽労化・省力化には、株出しの多回化による新植面積の縮小が有効である。しかし、新植の減少と株出しの増加によって生産量が減少したのでは省力化とは言えない。株出しの多回化と共に多収化が必要なゆえんである。労働力・機械・圃場の利用高度化には、IOTを用いた機械・労力の高度利用に加え、収穫時期の大幅な前進および作業の周年化も有効である。収穫時期の大幅な前進(高温期収穫)は萌芽の向上を通し株出しの多収化にもつながる可能性が高い。早急に検討すべき課題である。

おわりに

 この号では南西諸島におけるサトウキビ生産の持続的な発展には機械化一貫栽培体系を前提とした多回株出し安定多収栽培が必須であること、そしてそれを実現するために関係者が知っておくべき基本的なサトウキビの特性と栽培上の要点について述べた。次号では今号で記した基本的な知識・情報の上に立って、南西諸島各地の自然的環境・社会的環境条件に沿って機械化一貫栽培体系による多回株出し安定多収を実現するための基本的方法について述べる。
共著者一覧

・西原 悟(鹿児島県農業開発総合センター 企画情報部普及情報課 農業専門普及指導員)
・内藤 孝(沖縄県農業研究センター 作物班 班長)
・寺島 義文(国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター 熱帯・島嶼研究拠点 熱帯作物資源プロジェクト 主任研究員)
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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