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沖縄のサトウキビ出穂状況調査とドローンの活用法について

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最終更新日:2021年12月10日

沖縄のサトウキビ出穂状況調査とドローンの活用法について

2021年12月

東京農工大学大学院 生物システム応用科学府 客員教授     
アグリランド 代表      
河野辺 雅徳

【要約】

 製糖期前の風物詩であったサトウキビの(しゅっ)(すい)が近年は昔ほど見られない。系統選抜時に出穂性確認はされているが、沖縄の現況はあまり知られていない。今回、久米島・石垣島の()(じょう)を対象に広域の出穂状況の確認を行った結果、半数以上の圃場で出穂は無く、1アール当たり平均約4本の出穂(全茎数に対して推定0.5%)が確認された。出穂茎の計測には、簡易に設定できるGPS自律飛行を使った小型ドローンによる空撮画像を活用した。

はじめに

 サトウキビの出穂(写真1)は品種改良のための交配になくてはならないが、出穂が(そく)()の発生などを通じて原料茎の生育阻害の原因となり収量減(原料茎重および糖収量の減少)をもたらすこともある1)。もともと熱帯に由来するサトウキビは、日長、気温など条件の違う亜熱帯では出穂・開花が少なく2)、また、これまでのサトウキビ系統選抜でも出穂の少ない系統が選抜されてきたことから、結果として多くの品種で出穂が少なくなっている3)。実際、沖縄のサトウキビ農家に伺っても、かつては製糖期に入る前の風物詩であった出穂が、近年は昔ほど見られない状況となっている。

 新品種の開発(交配)には出穂が必要であるが、出穂を回避する系統選抜のもと現況はどうなっているのであろうか。これまで沖縄の出穂について、広域の調査は行われていなかったことから、本稿では、春植え、夏植え、株出しのサトウキビ圃場について、久米島および石垣島の広域にわたる合計74圃場を対象に、現地での主要栽培品種について出穂状況を網羅的に確認した結果を報告する。現況確認にあたっては、ドローンによるGPS自律飛行の活用方法を検討し(写真2)、主として空撮画像を用いて出穂茎の計測を行った。当該計測に使ったドローンの飛行および撮影のプログラムは、個人用で比較的安価なドローン機種で設定することができ、専門知識も不要なものとした。さらに、今回使用したプログラムは、サトウキビ圃場の欠株や雑草の確認など、農家にとってより身近でありながら地上からの目視では難しい情報収集の効率化にも資するものと考えられる。

 

 

1.出穂状況調査の概要

(1)出穂調査の対象

 2019-20年作の久米島(29圃場)および石垣島(45圃場)のサトウキビ圃場を調査地として、主要サトウキビ品種について作型(夏植え、春植え、株出し)の違いも踏まえて、2020年1月に出穂状況の確認を行った。調査圃場は、久米島および石垣島(写真3)の主要サトウキビ品種と作型が網羅的に選ばれるように、作付け品種と作型が把握できている刈り取り前のサトウキビ圃場の中から選定した。対象品種は、久米島はNi21、Ni27、Ni29、RK97-14、石垣島はNi22、NiH25、Ni27とした。

 

(2)出穂状況の確認方法の検討

 サトウキビの出穂は刈り取り直前期に起こるため、通常草丈は2メートルを超える。このため、圃場外からの目視で圃場外周の出穂は確認できても、圃場中心部の出穂を確認することは難しい。本調査では圃場外から目視にて出穂状況を確認、必要に応じて脚立上およびドローンを使った上空からの確認(簡易的)を行い、おおむね出穂が集中している区画を確認した。そのうえで、事前に設定したプログラムに基づいて高度20メートルの上空から一定間隔で航空写真を撮影(撮影範囲:17メートル×26メートル〈画像1枚当たり〉を3枚、目視で出穂が確認されている場合は出穂地点付近を撮影)し、撮影画像3枚の中から出穂茎数の多い1アール(10メートル×10メートル)の区画を選定し出穂茎数を計数した(詳細は次項以下にて解説)。

 圃場外からの目視では出穂の分布状況を把握するのは一般的に難しく、地上からの目視(図1A)では全体にまんべんなく出穂しているように見える圃場でも、ドローンにより20メートル上空から撮影した一定区画の画像(図1B)を確認すると出穂が偏在していることが分かる。なお、本稿で報告するドローンを活用した調査では、航空法による飛行制限区域(空港および住宅密集地域周辺)の圃場は対象外としている。

 

2.航空写真撮影プログラム

 晩秋に入ってサトウキビの生長がひと段落すると出穂時期となるが、品種、作型、気象条件などの要因で出穂の状況も日々変わっていく。特に多くの圃場を対象とした調査や広域の圃場調査などでは、短時間で効率的にデータを収集する必要があり圃場での時間の浪費は極力避けたいところである。そのため、効率的なデータ収集ができるように品種、作型、地理的要因など必要な条件を反映して、各調査圃場で実施するプログラムを事前に決め、可能な限り機器の設定をしておくことが重要となる。

(1)使用機器

 本調査で使用した撮影機材およびソフトウェア(アプリ)は、ドローンがMavic™ 2 Pro (DJI製)、操作デバイスはiPad (Apple製)、ドローンオペレーションアプリはDJI GS Pro V2.0とした

(2)事前準備(圃場に行く前にできること)

本調査では下記のとおり必要最小限のプログラム(GS Proではミッション)のみを設定した。

(ア)インターネット環境下でiPadのApp StoreからGS Proをインストールし立ち上げる。

(イ)「ミッションリスト」の画面を開くと地図が表示されるので、ミッションを設定する場所を地図上で拡大する(図2)。

(ウ)「ミッションリスト」の画面で「+」をタップすると新規ミッションの各 種モードが表示されるので、「計測撮影領域モード」⇒「地図上指定」と選ぶ。地図上に撮影エリアが表示されるので、実際にドローンを航行・撮影するエリアをメートル単位で設定する(本調査では縦22メートル×横22メートルのエリアを設定)。エリアは圃場で状況を確認後簡単に変更可能。

(エ)作成した「ミッション」を選択して「編集」タップすると「パラメーターリスト」がでてくるので、必要な設定(基本・詳細)を行う(図3、表1)。表1の設定で上空20メートルから真下の圃場の指定区画について各3枚の画像を自動撮影することができる。

(オ)パラメーターの設定後ミッションを保存の上ドローン本体に転送する。

 

 

 

(3)ドローンの運用と運用時の留意点

 Mavic™ 2 ProおよびGS Proのマニュアルに指定された手順でドローンの準備をし、設定したミッションを呼び出せば調査に必要な画像データの収集をすることができる。本調査では各調査圃場で脚立上あるいはドローンにて上空から概観して、圃場内の出穂区画を確認の上、航行・撮影エリアの調整を行った(GS Proを立ち上げ、「ミッションリスト」を選び「編集」で調整可能)。

 なお、圃場内の一定面積内の出穂数を確認するにはドローンの飛行高度を一定にする必要があることから、出発地点の高度を圃場の高度と同じにすることが重要である。また、自動発着とするため、発着場所は大きめの段ボールを敷くなどして平坦な状況にすることが望ましい。

3.画像データの分析

(1)画像による出穂状況の確認

 得られた画像はmicroSDカードにJPEGおよびDNG(RAW画像)のファイル形式で保存されているので、パソコンのフォトビューアーなどの一般的なアプリを使って確認することができる。地上からの目視確認(図4A)で見える出穂個体について航空写真による確認を行うと、 地上20メートルからの航空写真(図4B)では若干判別しにくいが、拡大航空写真(図4C)では出穂確認と計数が十分に可能な情報を得ることができる。この拡大航空写真(図4C)は23インチモニターで全画面表示したフォトビューアーの画像相当なので、23インチモニターを使っていれば画像確認時に拡大する必要はほぼない。今回使用した機材の解像度であれば、さらに写真を拡大(図4D)して確認することもできる。

 

(2)各圃場での出穂状況の確認

 各圃場の出穂状況は、撮影した3枚の画像のなかで、10メートル×10メートルの区画(1アール区画)内で最も出穂茎が多い区画の出穂茎数を計測することで求めた。圃場環境では出穂茎は偏在しており、詳細な茎数調査を行う場合には圃場全体を撮影し、出穂茎数を計数することが必要となる。本調査での確認は、図5Aで地上からの確認、図5Bで脚立上または上空からの確認を行い、最終的にドローンによる出穂画像の撮影(図5C)を行った。計測した出穂茎数は、図5Cの赤枠内のように画像上もっとも出穂茎数の多い区画を選定し出穂茎数の計数を行っており、1アール区画についておおむね最大の出穂茎数を求めていると考えられる。

 

4.結果

(1)出穂圃場の位置

 調査地点は航空法による飛行制限区域を除いて久米島および石垣島の主要なサトウキビ栽培地区をカバーするように設定したが、圃場の場所による出穂状況には顕著な差異は見られなかった(図6)。

 

(2)出穂圃場数

 出穂状況を確認した結果、久米島および石垣島ともに調査したうちの半数以上の圃場で出穂が確認されず、約9割の圃場で10本/アールを下回る出穂茎の確認となった。両島の結果を合算して品種別に見ると、NiH25のみ3割程度の圃場で10本/アール以上となったが、それ以外の品種ではおおむね9割以上の圃場で10本/アール以下となった(表2)。同様に作型別にみると、若干の違いはあるもののどの作型も8〜9割以上の圃場で10本/アール以下となった。

 さらに作型別に出穂が見られなかった圃場の割合を見ると、夏植えと春植えでは6〜7割であったが、株出しでは3割弱であった。本調査で得られた1アール当たりの平均出穂茎数は久米島で3.4本(最大25本)、石垣島で4.2本(最大36本)、両島を合わせて平均3.9本となった。今回の調査では対象となる圃場の全茎数の実測はしていないことから、対象とした6品種の特性調査研究4),5),6),7),8),9)に記載の、品種および作型ごとの平均茎数の単純平均(749本/アール)を分母として出穂率を推計すると、0.5%であった。

 

(3)結果のまとめ

 今回の調査は久米島および石垣島全域を対象として、現地の実情に合った品種および作型のサトウキビ圃場を選定したうえで出穂調査を行ったもので、両島の2020年1月時点における出穂実態を示している。調査対象区画である1アール当たりに数本のみの出穂確認も含めて、全74圃場中半数弱の35圃場で出穂が見られたものの、航空写真による確認によると出穂茎数は最大で1アール当たり36本、平均出穂数は同3.9本と全茎数に対して推定0.5%ほどであった。また、久米島と石垣島での出穂の傾向はおおむね同様で、品種および圃場の場所による顕著な違いは見られなかった。作型による違いについては、1アール当たり10本以下の出穂茎数を基準とすると、作型間の違いはなかったが、一方で、出穂なしを基準とすると夏植えと春植えは7割弱であったが、株出しでは同3割弱と差が見られた。

 航空写真による出穂茎数の確認の際には、出穂が見られた場所を中心に航空写真の撮影を行っていることから、出穂茎数としては1アール当たりの最大値に近い数値を確認した結果と考えられる。一般的に出穂が道路際などに偏在していることは、実際に刈り取り作業をしている現地サトウキビ農家および製糖工場の担当者も認識しており、全体の出穂茎の割合は本調査の水準より限定的と考えるのが妥当と思われる。

 また、近年栽培されているサトウキビはほとんどの品種で出穂が少なくなっており、今回調査した品種も育種時の生態特性として出穂はほぼ「無」〜「少」と位置付けられている。一方、本調査時点での聞き取りでは、例年になく出穂しているというのが農家および製糖工場の方々の印象で、一般的に天候などのストレスが出穂に影響すると考えられていることから、初秋の少雨が影響した可能性もある。

おわりに

 より正確な出穂茎数の計測および出穂率を算出するためには、各圃場でより広い範囲の出穂茎数の計数が望ましいと考えられる。本調査では各圃場で約17メートル×26メートル(画像1枚当たり)をカバーする画像を3枚撮影し詳細確認をしたが、1ヘクタールの圃場をカバーする場合でも30〜40枚程度の画像確認で済むことから、目的に応じて圃場全体をカバーする設定とすることもできる。本調査では、出穂が集中している場所において航空写真による出穂茎数を計数しているため、計測値は圃場全体平均よりも高い数値が出ているものと考えられる。調査の際にも認識されたが、比較的多く出穂していると思われる圃場でも道路際など一部の区画に集中して出穂していることが多く、本調査結果は出穂の偏在の影響を排除していない。なお、出穂率の上限を計測する場合であれば、今回の測定精度は目的に合致すると考えられる。

 また、本調査は調査方法の確認など基礎的情報を収集する位置付けで行った。出穂時期や程度は品種、作型、各種気象・圃場条件などさまざまな要因で大きく異なると考えられることから、刈り取り開始直前の11月から12月と刈り取り途中の1月から2月の2期に分けて調査をするとかなり網羅性は高まるのではないかと思われる。ただし収穫作業の進展を考慮する必要があることから、現地との連携を密にして調査可能な圃場の確認を行うことが重要である。また、これまで出穂について広域の調査は行われていなかったが、今回提示した方法では非常に簡易にかつ多くの畑を短期間で集中的に調査することができる。さらに、調査方法自体は広いサトウキビ圃場の欠株や雑草の確認などでも活用できると考えられ応用範囲は広いと考えられるため、今後の調査・研究の一助となれば幸いである。

 本調査のうち久米島での調査はBASFジャパン株式会社の依頼により実施しました。調査にあたっては久米島製糖株式会社、石垣島製糖株式会社の方々に圃場選定を含めて大変お世話になり、また調査開始前の情報収集には宮丸直子博士にアドバイスを頂き、圃場調査実施時には大城浩照氏にご協力いただきました。記して深謝いたします。
参考文献

1)Clements, H.F.(1975)「Flowering of sugarcane: mechanics and control.」『Technical bulletin』92, pp.57. Hawaii Agricultural Experiment Station, University of Hawaii.
2)伊禮信(2013)「米国におけるサトウキビ育種と関連遺伝資源」『砂糖類・でん粉情報』(2013年10月号)pp.52-57.独立行政法人農畜産業振興機構
3)出花幸之介ら(2011)「沖縄県農業研究センター宮古島支所における育種を中心としたサトウキビ研究の紹介」『特産種苗』(12),pp.85-89.日本特産農作物種苗協会
4)崎山澄寿ら(2009)「台風時の茎の折損が少ないサトウキビ品種「Ni21」」『沖縄県農業研究センター研究報告』(3),pp.33-43.沖縄県農業研究センター
5)伊禮信ら(2010)「株出し栽培で多収の早期高糖性サトウキビ新品種「Ni22」の育成」『九州沖縄農業研究センター報告』(54),pp.1-22.沖縄県農業研究センター
6)出花幸之介ら(2008)「さとうきび新品種「農林25号」、「農林26号」の特性」『砂糖類情報』(2008年10月号)(145),pp.14-21.独立行政法人農畜産業振興機構
7)寺内方克ら(2014)「サトウキビ多収品種「Ni27」の育成とその特性」『九州沖縄農業研究センター報告』(62),pp.11-24.沖縄県農業研究センター
8)伊禮信(2012)「南大東島向けさとうきび新品種「Ni29(農林29号)」の特性と利用」『砂糖類情報』(2012年7月号)(189),pp.45-48.独立行政法人農畜産業振興機構
9)下地格ら(2015)「沖縄県全域向けとなるサトウキビ新品種候補系統「RK97-14」の特性」『九州農業研究発表会専門部会発表要旨集』(78),pp.36.沖縄県農業研究センター
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