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収穫期作業の分担および機械の共同利用による収益性の向上について

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最終更新日:2021年12月10日

収穫期作業の分担および機械の共同利用による収益性の向上について
〜種子島 女洲おなす さとうきび生産組合の事例〜

2021年12月

鹿児島事務所 小笠原 健人

【要約】

 サトウキビの生産現場においては、生産者数の減少と高齢化による労働力不足を背景として、省力的な株出し栽培への移行が進んでいる。株出し栽培で単収を確保するためには、株出し管理作業を適切に実施する必要があるものの、収穫作業と時期が重なることもあり、管理作業が適切に実施されていないことも多く、株出し栽培における単収は近年低下傾向にある。  

 本稿では、種子島において、複数戸の農家で収穫期の作業を分担し、作業効率を向上させることで適期に管理作業を実施し、島内の平均以上の単収を実現するとともに、機械類を共同利用することで個々の経営における生産コストを低減し、高い収益性を実現している女洲さとうきび生産組合の取り組み事例について紹介する。

はじめに

 鹿児島県におけるサトウキビの生産者数は、平成22年には9248戸であったが、令和2年には約7割の6825戸と減少傾向にある。また、年齢構成の推移をみると、65歳以上の構成割合は平成22年には約4割であったが、令和2年には5割を超えており、高齢化が進行していることが分かる(図1)。
 
 
 同県におけるサトウキビの収穫面積は、平成22年の1万465ヘクタールから令和2年の9598ヘクタールまで減少したものの、一部の生産者による経営規模の拡大などを背景に同期間中に生産者一戸当たりのサトウキビ収穫面積が113.2アールから140.6アールまで増加したことから、当該期間における収穫面積の減少幅は1割程度にとどまっている(図2)。
 

 
 一部の生産者が経営規模を拡大する一方で、生産者数の減少や高齢化は労働力不足の原因となっており、作業の省力化と単収の向上を両立する取り組みが重要である。特に栽培型の約7割を占める株出し栽培は(図3)、植え付け作業が必要な春植えや夏植えと比較して、種苗費がかからないことに加え、植え付けなどに使用するトラクターなどの機械の稼働に必要な燃料費や労働費も少ない栽培型である。サトウキビ栽培における収益性向上のためには、計画的な新植を前提として、株出し栽培における株出し管理作業を適切に行い、単収を確保することが求められる。
 

 
 しかしながら、株出し管理作業は、収穫作業と実施時期が重なることもあり、労働力不足が続く近年では、栽培面積に占める株出し管理作業の実施面積割合は低い水準にあり(表1、2)、株出し栽培における単収も低下傾向にある。



 
 そこで本稿では、種子島において複数戸の農家で収穫期の作業を分担し、作業効率を向上させることで適期に株出し管理作業を実施し、島内平均以上の単収を実現するとともに、機械類を共同利用することで個々の経営コストを低減し、高い収益性を実現している女洲さとうきび生産組合の取り組み事例について紹介する。

1 地域の概況

 種子島は、九州本土の最南端である佐多岬から南方40キロメートル地点に位置している。同島は種子島、屋久島、口永良部島、馬毛島の4島から成る熊毛地域に属しており、西之表市、中種子町、南種子町の一市二町で構成されている(図4)。総面積は4万5259ヘクタールであり、県全体の4.9%を占めている。比較的平坦な地形が多いことから農耕地に恵まれており、耕地面積は8690ヘクタールと、島全体の19%を占めている。 

 
 主な品目はサトウキビ、かんしょ、肉用牛であり、これら三つで、農業生産額全体の6割以上を占めている。  

 耕種部門のうちサトウキビは、作付面積、生産額が最も大きく、同島における基幹的な作物である。これら上位3品目のほか、酪農、茶、米も盛んであり、茶、米については、温暖な気候を生かした早出し出荷が行われており、日本一早い新米、新茶の産地として有名である。また、近年では、フラワーアレンジメントに用いられるレザーリーフファンの産地化も進んでいる(表3)。  


 
 サトウキビ産地として種子島は、国内の主要な産地の中では北限地といわれており、他の生産地と比較して、年間平均気温は低くなっている。冬季にはこの温度差がさらに顕著となり降霜による被害が発生することもある(表4)。そのため、種子島では、低温や降霜による被害を受けやすい夏植えは避けられる傾向にあり、作付面積に占める夏植え面積の割合は他の地域と比較して小さくなっている(図5)。  



 
 また、種子島では低温による発芽や萌芽(ほうが)不良を防ぐため、新植時や株出し管理の際に、マルチ被覆が行われている。マルチ被覆は単収の増加に大きな効果があることが知られていることから、株出し栽培の場合、収穫後可能な限り早期に実施することが望ましいとされているものの、労働力不足などにより、株出し栽培においてマルチ被覆を行っている圃場(ほじょう)は全体の3割弱にとどまっている(表2)。  
 
 栽培品種は農林8号と18号が多く、この二つの品種が収穫面積全体の約8割を占めている(図6)。種子島では長年の間、農林8号が主要品種として、高い作付割合を維持していたが、ハーベスターの普及に伴い、収穫時の株の引き抜きなどにより、株出し栽培での単収低下が問題となったことから、近年は作付割合が減少している。
 

 
 そのため種子島では、ハーベスターによる収穫を行っても引き抜きが発生しにくく、株出し栽培における単収に優れる新品種が求められていた。  

 こうした状況の中、令和元年に、熊毛地域向けの推奨品種として選定された新品種「はるのおうぎ」は、機械収穫による引き抜きが発生しにくく、萌芽性に優れるといった特徴を有しており、今後、同品種の普及による単収回復が期待されている。

2 女洲さとうきび生産組合について

(1)組合の概要

 女洲さとうきび生産組合(以下「組合」という)は、平成7年12月に結成され、中種子町内の生産者である浦島茂氏、野口謙治氏、河野春生氏の3人により運営されている(調査日時点、写真1)。結成時に、補助事業を活用してハーベスターを導入しており、これを使用して構成員の所有する圃場の収穫作業を実施するほか、構成員以外の圃場の収穫作業を受託している。また、構成員の圃場の株出し管理やマルチ被覆作業を共同実施している。作業に使用する機械は全て組合所有であるが、収穫した原料については個々の構成員名義で出荷している。


 組合を結成するきっかけは、浦島氏の圃場の株出し管理作業が遅れた際、それを見かねた野口氏、河野氏が作業を手伝った結果、複数人で作業したほうが効率よく作業を行うことができると実感したことであった。

 例えば、根切り排土作業の場合、根切り排土機は、除草剤と肥料を同時に散布する必要があるため、一人が機械を操作している間に、他の人員が除草剤や肥料の準備を行うなど、複数人で作業を分担することで作業を中断することなく効率的に実施することが可能となる(写真2)。


 
 このように収穫期における収穫作業と適期の株出し管理作業を実施するためには、分担による作業の効率化が重要である。翌日の天候悪化が見込まれる場合などは、株出し管理作業の適期を逃さないために、当日中に作業を終える必要があり、作業の効率化によるメリットは特に大きい。

 また、組合で作業に使用するハーベスターなどの農機具については、補助事業の活用や、中古で購入することで初期投資を抑えながら導入を進め、現在の体制を構築した(表5)。

 

(2)取り組み内容の詳細

ア 収穫期作業の分担

 サトウキビ栽培が繁忙期を迎える収穫期には、収穫作業に浦島氏、株出し管理作業に野口氏をオペレーターとした分担体制で効率的に作業を実施している。作業ごとの実施体制については表6のとおり。

 
 組合では、収穫作業を受託した圃場の作業を実施するにあたり、圃場の持ち主がどのような作業を望んでいるのかを意識することが重要だと考えている。

 具体的には、株を傷めることのないようにベースカッターの刃を良く研ぎ、運転時は、枕や(うね)をまたぐ際に急なハンドル操作をしないようにしている(写真3)。また、ぬかるんだ圃場での作業はハーベスターの踏み付けにより株が痛みやすいため、雨天時は作業を行わないことを徹底しており、雨が降り始めた場合には、作業が途中であったとしても必ず中断している。このほかにも、作業の際には、補助者の位置を常に確認するなど、作業従事者の安全確保という点においても基本を徹底している。
 

 
 こうした丁寧な作業の結果、島内で稼働しているハーベスター1台当たり収穫面積の平均が約20ヘクタールであるのに対して、同組合の収穫受託面積は、約30ヘクタールと平均を大きく上回っており、さらに受託した圃場の単収も島内平均を上回っている。

 また、株出し管理作業においては、株揃えの際、品種により深さを調整し、根切り排土の際に株を切らないように気を付けるなど、萌芽に悪影響を及ぼさないよう注意している。他にも、収穫後、株出し管理作業からマルチ被覆まで1カ月以内を目安として実施することが推奨されているところ、組合では天候にもよるがおおむね1週間程度で完了している。

 こうした適期の株出し管理作業の実施により、茎数を確保することで、構成員自身の圃場(写真4)についても、その単収は10アール当たり約7.3トンから7.9トンと、島内平均である同5.8トンを大きく上回っている(図7)。
 



 
 分担を行うことで構成員の圃場の単収向上が実現できたほか、分担制開始以前は、手刈りによる収穫を行っていたため、収穫作業には家族の手伝いが必要であったが、その必要がなくなったことも大きな利点となっている。
イ 機械の共同利用

 また、作業に必要となる機械を組合保有とし、共同利用することは、各構成員の経営における、生産コストの削減につながっている。

 農産物生産費統計によると、令和元年産の鹿児島県におけるサトウキビ生産費(副産物価額差引)は10アールあたり11万6651円であり、うち、賃借料および料金が約3割にあたる3万5272円と最も大きな割合を占めている(表7)。
 

 
 この費目は建物や農業機械などの賃借料や、サトウキビの収穫作業などを受託組織などに委託した場合の委託料金に該当するものである。組合構成員の圃場については、収穫作業および株出し管理作業は組合により実施をしていることから、各構成員の経営における、この費目の支出は平均的な経営と比較して低減されているものと思われる。また、機械を共同利用することで、それらの作業に必要となる機械を所有する必要がなくなるほか、これらの作業に用いる機械の修繕費や光熱動力費の支出も発生しないことから、農機具費や光熱動力費についても、平均的な経営と比較して低減されているものと思われる。

ウ 組合の運営

 組合の構成員による作業の分担および機械の共同利用は、各圃場の単収の向上および生産コストの低減というメリットがある一方で、これらを実現させるためには、組合をいかに維持するかが課題となる。

 組合では、その運営において当初から組合で得た収入を構成員に配分できることを目指していた。前述のとおり、機械を導入する際には補助事業の積極的な活用や中古での購入により初期投資の低減に努めている。また、保有する機械の償却は問題なく終えており、継続して発生する修繕費や動力光熱費、収穫補助員の雇用労働費などの経費についても収穫作業の受託収入により賄うことができ、受託収入から経費を除いた余剰分について、当初目指していた通り構成員に配分することが実現できている。

 さらに組合では、中古で導入した機械を維持するため、始業、終業時の点検、オイル交換などのメンテナンス、作業日報や会計処理などの事務作業が徹底されており、こうした日々の取り組みも組合の維持のために重要な要素である。

おわりに

 サトウキビの生産現場において、生産者数の減少と高齢化による労働力不足が続くことが見込まれる中、今回取材した組合は、作業の分担による適期管理を実現し、株出し栽培において島内平均以上の高い単収を確保するとともに、機械の共同利用による生産コストの低減も実現しており、このような取り組みは、労働力不足により、十分な管理作業を実施できていない状況を解決するための一つの解決策である。

 このような取り組みを成功させるためには、作業を共同して実施する者同士の強い連携が必要不可決であり、それを実現するためには、相互の信頼関係の構築が重要である。今回の取材の中でも、組合を維持するための秘訣として「自分のことだけを考えないこと」と「お互いの信頼関係が大事」と話されていたことが印象に残っている。

 組合においては、普段からの話し合いはもちろん、前述の通り、メンテナンスや事務作業についても構成員各人が徹底しており、こうした日々の積み重ねが信頼関係の構築に必要不可欠であると感じた。

 一方で、組合においても、構成員の高齢化と後継者の確保が課題となっている。生産現場を取り巻くこれらの課題が今後解消されることを願いたい。

 最後に、本稿の執筆に当たり取材にご協力いただいた女洲さとうきび生産組合および新光糖業株式会社の皆さまにこの場を借りて深くお礼申し上げます。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272