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高齢化が進む種子島のサトウキビ生産を支える生産法人

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最終更新日:2023年3月10日

高齢化が進む種子島のサトウキビ生産を支える生産法人
〜株式会社銭亀の取り組み〜

2023年3月

鹿児島事務所 原田 祥太

【要約】

 種子島のサトウキビ生産現場においても他産地と同様に高齢化が進んでおり、生産基盤を維持するための取り組みが必要である。本稿では、耕作放棄地の借り受け、作業受託および高齢者雇用を積極的に実施し、地域のサトウキビ生産を支える株式会社銭亀の取り組みを報告する。

はじめに

 砂糖は、国民の摂取カロリー全体の約8%を占めている。その原料となるサトウキビやてん菜の生産基盤を維持することは、日本の食料自給率の維持向上を図る上で必要となる。

 その中で、サトウキビは、台風の常襲地帯である沖縄県や鹿児島県南西諸島において基幹的な作物である。この作物の安定生産とそれぞれの地域に立地する国内産糖製造事業者などの関連産業は、地域の経済・雇用にとって、なくてはならない重要な役割を果たしている。

 このことから、サトウキビはわが国にとって欠かすことのできない農作物であり、その農業基盤を維持していく必要がある。しかしながら、生産現場においては農家の減少および高齢化が進んでいる。種子島のサトウキビ農家は、平成24年に2343人であったが、令和3年は1288人と10年で大幅に減少している(図1)。また、年齢層を見ても、平成24年では60歳以上の割合が61%であったが、令和3年は76%と高齢者の割合が15%程増加している。

 サトウキビに限らず、日本の農業全体としても同様の問題を抱えているが、農家の減少および高齢化は耕作放棄地の拡大、さらには、それらが再び農地として作物を栽培することが難しい荒廃農地となる場合もあり、日本の食糧自給率を押し下げることにつながる。また、耕作放棄地は病害虫や雑草、外来動植物の温床となりやすく、周辺環境に悪影響を与えることになる。一方で適切に管理された農地には、雨水を一時的に保持し、洪水や土砂崩れの災害リスクを低減させる機能も有している。以上の観点から、農家の減少および高齢化はさまざまなリスクを内包していると言える。

 

1 種子島の概要

 種子島は鹿児島県に属する離島であり、鹿児島市から南に約115キロメートル離れた場所に位置し、西之表市、中種子町および南種子町の一市二町で構成されている(図2)。一般的な航行手段としては、航空機または高速船があり、鹿児島市にある鹿児島本港と種子島の西之表市にある西之表港を結ぶ高速船の所要時間は片道約95分と、県内の中でもアクセスの良い離島である。面積は4万4378ヘクタール(県全体の4.8%)、人口は2万7692人、年平均気温は19.8度、年間降水量は2533ミリメートル、年間日照時間は1822時間の亜熱帯性気候であり、沿岸部はほとんど霜の降りない地帯が帯状に取り巻いている。また、種子島は丘陵性の山地が連なる比較的平坦な島であるため農耕地に恵まれており、耕地面積は8440ヘクタールと島全体の19%を占めている。土壌は低腐植性黒色火山灰土が大部分で、深耕・有機質増肥など対策の必要な土壌が多い。温暖な気候、基盤整備の進んだ畑地など、地域の特性を生かし、サトウキビ、かんしょ、肉用牛を主要品目として、ばれいしょなどの野菜、米および茶の早出し農産物に加え、酪農、レザーリーフファンなどの特産化も進んでいる。

 

 産業の中心は農業であり、販売農家数は1968戸、農業生産額は約128億4000万円となっており、肉用牛、サトウキビ、乳用牛の3品目で、全体の60%強を占めている(図3)。なお、令和2年度のサトウキビの農業生産額は26億4000万円で全体の約21%となっており、種子島の経済を支える大切な作物である。一方で令和3年産における種子島のサトウキビの収穫面積は2207ヘクタール、生産量は15万3197トンと図4の通り減少傾向にある。

 サトウキビ産地としては、国内の主要な産地の中では北限地と言われており、他の生産地と比較して、年間平均気温は低くなっている。冬季にはこの温度差がさらに顕著となり降霜による被害が発生することもある。そのため、種子島では、低温や降霜による被害を受けやすい夏植えは避けられる傾向にあり、作付面積に占める夏植え面積の割合は県平均と比較して小さくなっている。

 

 

2 株式会社銭亀の取り組み

(1)設立経緯

 株式会社銭亀(以下「銭亀」という)は南種子町の島間田尾地区を中心にサトウキビの栽培を行う法人である。同地区では農家の高齢化や後継者不足により、生産者数が減少傾向にあり、その結果、耕作が困難な圃場(ほじょう)が発生している。そのような中、同社では、耕作放棄地対策として耕作されなくなった圃場を借り受け、サトウキビ栽培を行っている。地域の農家からの信頼も厚く、平成30年に設立して以来、サトウキビの栽培面積は年々増加傾向にある。

 代表取締役社長の池亀昭次氏(以下「池亀氏」という)は同地区の生まれである。就職を機に上京していた池亀氏であったが、30歳手前頃母が他界したことにより、父を支えるため島に戻ることを決意した。初めは父の行う花卉(かき)の栽培・販売を手伝っていたが、後にかんしょやサトウキビの栽培も行うようになった。それ以降、長年農業を営んできた池亀氏であったが、同地区の農家の高齢化については常々問題意識を持っていた。同地区では農家の約80%が80代であり、兼業農家も多い。高齢農家は体力的な問題もあり耕作規模を縮小する傾向にあり、その結果、耕作放棄地は増加するとともに、農業収入は減少していった。このような現状を何とかしなければいけないと考えた池亀氏は、同世代の仲間2人に声をかけ銭亀を設立し、荒れていく故郷の農地を守るとともに、高齢農家の収入増加につなげるため、農地の借り受けなどの耕作放棄地対策に取り組むこととなった。

(2)農地の借り受けおよび作業受託

 法人設立当初の収穫面積は、構成員の3人が所有していた農地と設立時に借り受けた農地を合わせて9.68ヘクタールであったが、令和3年時点では15.40ヘクタールにまで増加している(表1)。農家の間では、「高齢になり耕作する体力が無くなってしまったが自分の農地が荒れるのは見たくない」「農地を貸すことで少しでも収入が得られるのであれば使ってほしい」といった声が多い。池亀氏は同地区の出身であり、長年の営農経験もあるため、周りの農家との信頼関係が構築されていることから、こういった相談が多数寄せらせている。

 

 しかし、中には農地の借り受けを円滑に行えない場合もある。例えば、(1)農地の名義人と納税者が異なっている(2)名義人が遠方にいる(3)名義人が分からない−といった利権関係の問題で事務手続きが行えない場合である。また、作業効率化として圃場同士を交換して集約できれば理想的であるが、圃場交換は自分の農地を手放すことになるように感じる農家が多く、なかなか思いどおりには進まないといった課題がある。

 さらに、銭亀では農地の借り受け以外にも作業受託を行っている。自ら農作業を行うのが困難になってきた高齢農家からの依頼が多く、徐々に受託面積は増加している。最も多いのは収穫作業の受託であるが、委託者が収穫を希望するタイミングが重なることもしばしばあり、スケジュールの調整には苦労しているという。特に悩まされるのは雨である。雨でぬかるんだ状態の圃場にハーベスタで入ってしまうと株を痛めてしまうため、委託者は嫌がってしまう。そのため、雨が降った翌日は、水はけの良い圃場の収穫を行うようにスケジュールを調整しているが、どうしても都合の良い圃場がない場合は、やむを得ず自社が保有している圃場の収穫を行う場合もあるという。また、今後は植え付け、株出しなどの作業受託も増やしていきたいとのことであった。

 相当数の作業をこなす同社では、表2の農業機械を所有しているが、これらのメンテナンスにも相当の費用がかかるという。ハーベスタについては、鹿児島県の事業を活用して、寿命を延ばすためのメンテナンスを行ったが、維持費として一番の悩みの種であるとのこと。加えて、ハーベスタのメンテナンス業者は収穫時期には島に常駐しているものの、収穫時期以外は、自らがメンテナンスを行う必要があり、負担となっている。

 また、コスト削減のため、農業機械は地域で共同利用しているが、それらを保管しておく場所がないため、直近で利用した農家の自宅に散り散りになっており、利用状況確認が容易ではない状態にある。もし、それらをひとまとめに保管しておく倉庫を建てることができれば、地域全体の作業効率向上につながるため、今後はそういった地域全体で円滑に農機具および農業機械をシェアできる体制を作ることも考えていきたいという。

 以上のとおり、法人のマンパワー、利用できる農業機械、かけられるコストは限られているが、農地を使ってほしいという相談は多く、また困っている高齢農家を助けていきたいという思いもあるので、依頼はもっと受けていきたいと池亀氏は語る。

 

(3)作付け品種および作型

 作付け品種は、原料茎長が長く、低温下での萌芽(ほうが)性に優れた農林18号が70%と大半を占めている(写真1)。折れにくく株出しも良好であり、使い勝手が良いとのこと。残りの30%は、茎数が非常に多く株出し多収である「はるのおうぎ」となっている(写真2、3)。はるのおうぎは、葉が多いため日影ができ、雑草が生えにくいというメリットがある一方で、硬くて刈りにくいというデメリットがあるため、収穫作業の際は適宜ハーベスタを前後させながら、刈り取りを行う必要がある。なお、いずれの品種も株出しは3回行うが、収量は良好とのことであった。
 

 

 

 

 また、年間の作業スケジュールは図5の通りである。夏植えはサトウキビが育ちすぎて穂が出てしまい、糖度が落ちてしまうため、春植え(2〜4月)と秋植え(9〜10月)を行っており、比率はおよそ半々となっている。

 発芽率向上を目的とした新植前の天地返し、水はけを良くするための培土、刈り取り後の速やかな株(そろ)えといった丁寧な作業を心がけており、独自の工夫のみならず、町の指針に関する情報収集を積極的に行うとともに、近隣農家からの知恵も借りて収量向上に取り組んだ結果、設立当初に約428トンであった生産量は令和3年では約987トン、単収は10アール当たり4.4トンから同6.4トンに増加した。今後は秋植えの比率を増やすことも検討しており、単収を同7〜8トンまで増加させることを目標としている。

 

(4)今後の展望

 設立当初の構成員は3人であったが、現在では1人増員し4人体制となっている。新たな構成員として入社した方は30代の農業未経験者であるが、農業をやってみたいと、直接池亀氏のもとに電話をかけてきたという。池亀氏は、若い世代が入ってきたことはいい流れだと考えている。この流れが周りに波及し、若い世代がもっと農業に参入してきてほしいと願っている。

 構成員のほか、繁忙期となる2〜4月は、集落内の高齢者を季節雇用として雇っている。堆肥の散布、脱葉したサトウキビをまとめて縛る作業など、体力に見合ったものを適材適所で行ってもらっている。労働力を少しでも集める必要があるという理由もあるが、池亀氏は農業と福祉の連携を考えている。一人暮らしの高齢者が自宅の外に出て、他者とコミュニケーションをとる機会を作ることで、高齢者の孤立を防ぐことができる。また、異なる年齢層の交流が生まれることで、それが人材育成の基盤となり、地域の活性化につながると信じている。さらに、今後地域の活性化が進み、農作物直売所やレストランなどが地域にできれば素晴らしいと考えている(写真4)。

 

おわりに

 サトウキビの生産現場においても生産者数の減少と高齢化による労働力不足は今後も大きな課題となることが考えられるが、銭亀のように農地借り受けや作業受託といった地域のサトウキビ生産を支える生産法人の取り組みを今後も拡大していくことが解決の糸口となると思われる。また、このような取り組みを円滑に進めていくためには、相互の信頼関係の構築と地域内での強い連携が必要であり、銭亀は地域の中でも重要な役割を担っている。

 「銭亀」という社名は、池亀氏の故郷である島間田尾地区にある地名から付けたということからも池亀氏の地元への思いの深さがうかがえる。今回の取材の中で特にその思いが感じられたのは、「皆がほんの少し先を見て動いていくことが大切である」という言葉である。「自分たちの地域を守っていくには、自分たちの時代だけ良ければいいのではなく、後世にも引き継がれるよう、未来のことを考えて行動していくことが大切である。しかし、全員が同じ思いのもと行動するのは難しい。だから、ほんの少しでいい。ほんの少し先の未来を見据えて行動することができれば、良い未来が待っていると思う。自分たちの世代だけで終わるのではなく、次の世代に地域を引き継いでいかなければならない」と池亀氏は語る。農業と福祉の連携により、地域の交流が深まり、人材育成が進み、地域を担うバトンが引き継がれていく仕組みが出来上がることで、今後これらの課題が解消に進むことを願いたい。

 最後に、本稿の執筆に当たり取材にご協力いただいた株式会社銭亀の池亀昭次社長および南種子町役場の皆さまにこの場を借りて深くお礼申し上げます。

【参考資料】
・独立行政法人農畜産業振興機構「砂糖は安心な自然食品〜お砂糖Q&A〜
・熊毛地域農政企画推進会議「熊毛地域農業の動向」
・鹿児島県農政部農産園芸課「さとうきび及び甘しゃ糖生産実績」(令和4年)
・BASFジャパン株式会社「minorasu」<https://minorasu.basf.co.jp/80092>(2023/1/30アクセス)
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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