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生産の効率化や生産性向上を図る取り組み

サトウキビ生産量拡大に向けた、
生産の効率化や生産性向上を図る取り組み

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最終更新日:2023年4月10日

サトウキビ生産量拡大に向けた、生産の効率化や生産性向上を図る取り組み
〜沖永良部島知名町・福井源乃介氏の事例〜

2023年4月

鹿児島事務所 平山 有紀

【要約】

 生産者の高齢化により農地管理が困難となることから、サトウキビ生産においても経営継続が課題となっている。沖永良部島知名町の福井源乃介氏は離農者から農地賃借や、収穫作業の受託により地域の生産基盤の維持を担っている。本稿では、大規模化を進めつつ、機械設備の投入による生産の効率化や生産性向上を図る栽培管理について、福井氏の取り組みを報告する。

はじめに

 サトウキビは、鹿児島県南西諸島の農家の約8割が生産している基幹作物であり、製糖工場が発揮する経済波及効果は、地域経済を支えている。しかしながら、生産者の高齢化などに伴う労働力不足や台風などの気象災害、病害虫被害により、近年生産量は伸び悩んでおり、また担い手農家の減少も課題となっている。

 沖永良部島においても、同様の傾向があり、サトウキビ生産の持続的発展が危ぶまれる状況にある。そこで、知名町では経営感覚に優れた担い手の確保・育成、畑地かんがい施設などの生産基盤の整備などにより、栽培面積の維持、拡大および単収向上につながる取り組みを進めている。

 表1で、1戸当たりの栽培面積の推移を見ると、鹿児島県と沖永良部島のどちらにおいても、増加傾向にあることが分かる。沖永良部島では、令和3年産時点で、1戸当たり186アールを管理しており、鹿児島県平均よりも26アールほど栽培面積が大きい。生産者の高齢化による栽培農家戸数の減少などを背景として、地域の中心的な農家に農地集約が進み、結果として経営の大規模化が進んでいることがうかがえる。大規模化が進む一方で、収穫時期が他作物の収穫時期と競合することなどで生じる、適期管理作業の遅延が単収低下の原因となっている。

 本稿ではこうした課題を抱える沖永良部島で、大規模経営でありながら、効率的な生産と、高単収を実現している知名町の福井源乃介氏の取り組みを紹介する。

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1 地域の概況

 沖永良部島は九州本土から南南西約550キロメートル、那覇本島北部から北北東約60キロメートルに位置する奄美群島の一つであり、面積は93.7平方キロメートル、人口は約1万2000人(令和4年1月1日現在)で、島の東側の和泊町、西側の知名町の2町で構成されている。気候は年平均気温が22.6度、年間降水量が1856.7ミリメートルの亜熱帯海洋性気候である。

 全島がほとんど隆起サンゴ礁からなる琉球層群に覆われ、平坦地が多いため、農耕地に恵まれており、島の面積の47.4%が耕地されている。作目は、サトウキビと、ばれいしょを始めとする野菜を中心に、ソリダゴ、キク、ユリなどの花き、肉用牛との複合経営が確立されている。サトウキビは沖永良部島の農業産出額の18.8%、耕作面積の48.2%を占めており、重要な基幹作物であることが読み取れる(図1)。

 図2で、栽培規模別サトウキビ栽培農家戸数割合の推移を見ると、鹿児島県と沖永良部島のどちらにおいても、10アール以上1ヘクタール未満と、1ヘクタール以上5ヘクタール未満の栽培規模の農家の割合が多いことが分かる。また、平成13年産から令和3年産にかけて、栽培規模が10アール以上1ヘクタール未満の割合が減少し、1ヘクタール以上5ヘクタール未満の栽培規模の割合が増加しており、特に沖永良部島でその傾向が顕著である。

 サトウキビ生産の大規模化に対応するため、沖永良部島では、機械化一貫作業体系が進展し、令和3年産のハーベスター収穫は、98.8%の1685ヘクタールである(鹿児島県平均は95.7%)。ハーベスターの導入以外には、植え付けや株出し管理などで機械の導入もされており、サトウキビ生産の省力化が進んでいる。

 

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 最近の栽培型の生産動向を示した図3を見ると、株出しが収穫面積の7割を占めており、夏植えと春植えが少ない。株出しの割合が大きい要因としては、栽培技術が向上し安定的な収量を確保できるようになってきたことと、小規模農家の高齢化が進み新植時にかかる労力が負担になり、更新が進まないことが考えられる。株出し回数を重ねると、収穫茎数の減少や細茎化などにより、単収が減少する傾向があることから、株出しの更新を図るため、調苗とビレットプランターを使用した植え付けについて、各島などで補助事業が措置されている。

 土壌は、粘着性の強い暗赤色土が大部分を占め、透水性が大きく、また保水性が小さいため、降雨が少ない時期は干ばつ被害を受けやすい特徴がある。沖永良部島では、梅雨時期と台風の襲来が増える夏場に降雨が多く、冬期は降水量が少ない。サトウキビの生産で考えると、2〜4月、7〜9月の間は、夏植えと春植えの植え付け適期、株出しの萌芽(ほう が)期、伸長旺盛期にあたる(図4)。前述の時期にかん水を行うことで、発芽率や萌芽率を向上させ、安定的な生産となり、収量の確保につながる。そのため、適期にかん水を実施することが重要である。かん水施設については、国営沖永良部農業水利事業により、地下ダムや揚水機場、ファームポンド、幹線水路など畑かんの基幹的施設の整備が進められており、令和7年度完了予定である。さらに給水栓や末端散水施設などは、県営事業により整備が進められ、施行計画に対して約7割の1041ヘクタールが整備済みで、一部通水が始まっている。また、沖永良部島の土壌の特徴として、pH値が高いため、土壌診断の実施とその結果の有効利用による適切な土壌改良を行うと効果が大きい。資材高騰の背景から、知名町役場では、より効果的な資材投入を促すため、土壌診断を無料とする補助事業を行っている。

 次に、図5で品種別収穫面積の割合を見ると、新植多収かつ耐病特性のある農林8号、早期高糖の農林22号、夏植え高単収の農林27号で大部分を占めている。全体的に、気象被害のリスク分散を取れる割合であると考える。

 

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2 福井源乃介氏の事例

(1)経営の概況

 福井源乃介氏(以下「福井氏」という)は、知名町で、子息の源規氏と23ヘクタールの農地(うち16ヘクタールが借地)でサトウキビを生産している。福井氏と源規氏はともに農業経営基盤強化促進法に基づく認定農業者として、次世代の農業を背負っている(写真1)。また、福井氏は指導農業士として、地域の生産農家からサトウキビ栽培の相談を受けて、指導を行うなど、担い手育成に関わっているほか、知名町議会の議員として公務を行っている。

 福井氏は、高校卒業後に沖永良部島を離れた後、昭和63年頃にUターンをし、農協に勤めながら父のサトウキビ作りを手伝い、47歳から本格的にサトウキビ生産を始めた。生産者からの農地の借り受け依頼に応じ、徐々にサトウキビ生産を拡大してきた。

 23ヘクタールの管理面積のうち、収穫面積は19ヘクタールである。これを作型別に見ると、春植えが0.5ヘクタール、夏植えが2.5ヘクタール、株出しが16ヘクタールである。夏場に干ばつの影響があった場合には、夏植えの単収が落ちてしまうことも考慮し、春植えを多く選択し、リスク分散している。株出しは通常、3回で更新しているが、公務により作業ができない年は4回目の株出しとなっている。

 令和3年産の単収は6.3トンで、知名町の平均単収5.5トンを0.8トン上回っており、大規模生産者でありながら、地域の平均単収と比較しても高い単収を維持している(表2)。また、品種は農林8号、農林22号、農林23号、農林27号などを栽培している。苗については、8割は知人から購入し、残りはハーベスター採苗により確保している。

 肥料は緩効性肥料の「さとうきびBB400」を利用している。特徴としては1袋当たりの窒素の成分が多く、窒素成分が長続きするため、追肥回数を減らす省力散布が可能である。たい肥については、畜産農家で処理しきれなくなった際に依頼があれば、新植の圃場に投入をしている。その他、バガス堆肥の補助事業が利用できる場合には圃場への投入を行っている。

 受託作業については、主に同じ集落内で、収穫作業22ヘクタールを請け負っているが、公務と収穫作業の時期が重なることが多いため、最近は受託件数を減らしている。

 収穫作業は、外部に委託せず家族で行っているが、公務により作業できない場合には、1、2日ほど知人にアルバイトを依頼している。

 その他、80代の両親は欠株の補植や(あぜ)草取りを自主的に行っているが、作業量については、両親の裁量に任せ、負担にならない範囲でお願いしている。

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(2)生産の効率化や生産性向上を図る取り組み

ア.適度なかん水の実施

 かんがい設備については、保有農地には埋没式のスプリンクラーを設置しており、梅雨明け後から週1回10アール当たり10トンほどかん水を行っている(写真2)。

 借地の圃場では、スプリンクラーを設置していないことも多いため、生長期のかん水が必要とされる時期に、かん水を十分実施できないことがあった。しかし、令和元年度からの知名町糖業振興会の補助事業により、5トン容量の散水車が1回500円と、以前の半額で利用できるようになったことから、令和2年産から利用している。3年産については、5トンタンク車で220回ほどかん水を行った。かん水の取り組みにより、夏場の干ばつの影響が軽減され、サトウキビは十分に伸長し、高単収につながる一因になっていると考えられる。

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イ.機械化一貫作業体系の進展

 作業の効率化のため、植え付けから収穫まで表3の通り機械を確保している。

 サトウキビの収穫期は、花き、野菜などの他作物の収穫・選果作業などの時期と重なり、島内の労働力が不足するため、収穫期全体を通した雇用は難しい。また、収穫、株出し管理、春植えの植え付け、中耕、培土など複数の作業を早期に対応することで単収の向上につながるが、労働力不足で早期対応が難しいため、国の補助事業を利用して、昨年からビレットプランターを導入した。ハーベスター採苗と植え付けを省力的に行うことが可能になっている(写真3)。ビレットプランターについては、同じ集落内で導入している生産者はいないため、先進的に機械導入に取り組んでいると言える。

 防除では、雑草対策として培土までに防除機でアージラン液剤と2.4-Dアミン塩、また、メイチュウ対策としてはサムコルフロアブル10を散布している。一部、ドローンによる除草剤散布の防除作業を委託しており、効率的な農薬散布による農薬の使用量削減や、一般的な防除機の利用よりも労働時間を短縮できることが利点だと実感していることから、福井氏は今後、ドローンを導入して、より効率的に防除を行いたいと考えている。

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ウ.雑草防除と作業調整

 大規模生産者の場合、管理面積の広さから、雑草防除が大きな負担となる。福井氏は、株出し管理作業時のスクープの利用と、中耕作業を2回行うことにより、雑草の防除効果を感じている(写真4)。しかし、中耕作業に取り掛かると1回で1日がかりとなり、公務や他の作業で作業時間の確保が難しい場合は、沖永良部農業開発組合を介して作業を委託している。

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(3)今後の展望

 福井氏は、将来的に40ヘクタールを目指して規模拡大を進めたいと考えている。家族で作業可能な範囲や、公務のことを考慮すると、今後は法人化して作業者の雇用なども検討していきたいと考えている。

 後継者として息子である源規氏がいてくれるのも心強いと語っており、ゆくゆくは自身の農業経営について、源規氏に譲るつもりである。

 農業資材の調達については、昨年来肥料価格が高騰し、普段投入している肥料も平年より100万円ほど購入費用がかさみ、投入量を減らすことを検討していた。しかし、値上がり分については、国の肥料価格高騰対策事業と、鹿児島県と知名町の独自の支援策の利用により、結果的に全額補填(ほ てん)されるため、今後も安心してサトウキビ生産できると考えている。肥料価格の高騰対策の他に、知名町独自でハーベスター燃料費の高騰に対する助成が実施されている。肥料や燃料などの価格高騰は、経営を圧迫するため、高齢のサトウキビ生産者の離農に拍車をかけることが危惧されるところである。福井氏は、生産者の費用負担が軽減される支援策を活用することで、地域生産者によるサトウキビ生産の維持やさらなる規模の拡大につながることを期待している(写真5)。

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おわりに

 サトウキビ生産については、生産者の高齢化による栽培農家戸数の減少や、労働力不足が続き、粗放的な栽培管理による単収の低下が懸念される。今回取材した福井氏は、家族で大規模なサトウキビ生産を行うとともに、高単収を実現するためのかん水の取り組みや、効率的な生産となる機械化一貫作業体系の進展や作業調整を行っていた。機械化一貫作業体系を行うためには、導入費用がかかるため、高い費用対効果を得る見通しが必要となる。かん水と雑草防除、作業調整については、大規模生産に限らず、比較的実践可能な取り組みであるため、労働力不足に伴う粗放的な栽培管理を改善するための一つの解決策であると考える。

 大規模なサトウキビ生産と収穫作業受託を行う福井氏の取り組みの中では、収穫時期が繁忙となるため、作業の調整が重要であった。今回の取材で、福井氏は「砂糖をなくすわけにはいかない。いいキビを作りたい」と語っており、大規模生産による業務の大変さは十分にあるものの、情熱を持ってサトウキビ生産をされていると感じた。

 福井氏や子息の源規氏のように、地域の模範的なサトウキビ生産者を確保・育成することも重要な課題である。今後のサトウキビ生産維持のためにも、担い手確保の課題が解消されていくことを願いたい。

 最後に本稿の執筆にあたり、ご多用にも関わらず取材にご協力いただきました福井源乃介氏、福井源規氏、知名町農林課の皆さまに、この場を借りて深くお礼を申し上げます。


【参考文献】
1)沖永良部さとうきび生産対策本部、和泊町・和泊町糖業振興会、知名町・知名町糖業振興会、大島支庁沖永良部事務所農業普及課(2014)「沖永良部高単収さとうきび栽培の手引き」pp.3-6. pp.13-14.
2)公益社団法人鹿児島県糖業振興協会(2015)「さとうきび栽培指針」pp.16-18.
 
 
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