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砂糖とお菓子の関係と和洋菓子のトレンドについて

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最終更新日:2023年10月10日

砂糖とお菓子の関係と和洋菓子のトレンドについて

2023年10月

スイーツジャーナリスト® 平岩 理緒

はじめに

 お菓子は「嗜好品」と言われ、お腹を満たすためのものではないが、人の心を満たすあたたかなコミュニケーションツールとして、その国々、地域ごと、時代ごとに、さまざまな新しい品が生み出されてきた。

 私は「スイーツジャーナリスト®」として、1カ月に200種類以上の和洋菓子を食べ歩き、雑誌やウェブサイト、テレビ番組などで最新トレンド、歴史や文化などのスイーツの情報発信を行っている。

 今回は砂糖とお菓子の関係、和洋菓子の最近のトレンドについて紹介する。
 

1.スイーツジャーナリスト®としての活動

 スイーツジャーナリスト®の活動は、菓子店や職人を取材して発信し、作り手と食べ手をつなぐことを日課としている。

 活動を開始したきっかけは、マーケティング会社に勤務していた2001年に、趣味の情報ウェブサイト「幸せのケーキ共和国」を始めたことだった。それが契機となり、『TVチャンピオン』という番組に出演して優勝し、雑誌のデパ地下スイーツ特集などでコメントを求められるようになった。お菓子についてより深く学びたいと2006年に退職した後、製菓専門学校で基礎知識を学び、現在に至る。
 

2.砂糖とお菓子

 栄養士であり、大学で食生活学を教えていた母がよくお菓子を作ってくれたり、こだわって買ってきてくれたりしたので、子供の頃からスイーツ好きだった。母が所蔵するお菓子のレシピ本を見て、こっそり自分で作っていた。

 しかし、甘さを控えようと砂糖の量を減らしたところ失敗してしまい、母から「砂糖は甘くするだけじゃなく、気泡を安定させたりしっとりさせたり、焼き色や香りを付けるなど色々な効果があるのよ。まず本の通りに作って、必要ならばそれから調整しなさい」と注意されたこともあった。

 時々、菓子職人の方々が「『このお菓子、甘くなくておいしい』と言われるのは、あまり嬉しくない」と仰るが、「甘くない」のではなく、甘みに対して酸味や塩味、ほろ苦さでバランスを取ったり、含気率や食感でコントロールしたりと、「甘ったるいと感じさせない工夫をしている」のだ。近年は「糖質オフ」といった言葉も浸透し、糖質をとにかく減らせばいいように思われがちだが、お菓子には必要不可欠な糖分量があり、それによって、色つやよく香りよく、舌触りや喉越しも含めて楽しめるものになるのだ。
 

3.和洋菓子のトレンド

 最近の菓子業界では、古典的なお菓子やデザートを見直して、今の時代に合わせてアレンジする「温故知新」の考え方が評価されている。「メレンゲ」を使ったクラシックなお菓子やデザートが復権しているのもその一例だ。フランス菓子では、卵白と砂糖を泡立てたメレンゲを、ムースや生地、デコレーションにも使い、そのものを乾燥するまで低温で焼いて単体のお菓子としても楽しむ。かつて日本では、「メレンゲは甘くて苦手」という人も多かった。最近は、メレンゲの砂糖の一部を、グラニュー糖よりも甘味度の低い糖に置き換え、必要な糖度を保ちつつ甘いと感じさせにくくするといった技法も見られる。

 例えば、2枚のメレンゲの間に生クリームを絞った「ムラングシャンティ」を販売する専門店も増えた(写真1)。いちごなどのベリー類、柑橘(かん きつ)類、トロピカルフルーツなどと合わせて色味や酸味を加え、より愛らしく華やかに仕上げたものが人気だ。





 
 「ヴァシュラン」は、メレンゲを器のような形に絞って焼き上げ、その中にアイスクリームなどの氷菓を詰めたデザートだ(写真2)。人気のフレンチレストランやデザート専門店が、球体状のメレンゲの器で目を引くデザインにするなど、面白い提案をしている。




 
 和菓子界でも、伝統的な製法を生かして、新たな形で表現する取り組みが増えている。最近、「琥珀糖(こ はく とう)」がブームだが、その背景には、この10年ほどの間に、「ネオ和菓子」と呼ばれる新感覚の和菓子が注目されるようになったことが挙げられる。

 老舗の跡継ぎたちが、代々受け継いできた銘菓を大切にしつつ、新しい挑戦を始めた。中でも、カラフルでキラキラと輝く宝石のような琥珀糖(写真3)は、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で話題となり、さらにコロナ禍における「家で手作り」ブームの中で、自宅で手軽に作れる可愛らしいお菓子としても注目された。

 

 

 従来は、色粉で着色したのみという琥珀糖も多かったが、最近はフルーツピューレ、ハーブティーやリキュールなどで、自然な色彩や風味をつけたものが増えた(写真4)。人気の品は、オンライン販売でも入手困難で、争奪戦となるほどだ。琥珀糖や和三盆糖などの干菓子(ひがし、水分の少ない和菓子の総称)をコーヒーやお酒に合わせるなど、楽しみ方も自由になり、若い世代が親しみやすくなっている。



 

 もう一つ最近のトレンドとして挙げたいのが、さまざまな種類を詰め合せた「クッキー缶」だ。多彩なバリエーションで飽きが来ないように、甘い味だけでなく塩味のものが入っていたり、両方の味を備えた“甘じょっぱい”味のクッキーが入っていたりもする(写真5)。

 「甘じょっぱい」というのは、「みたらし団子」に見られるように、日本にも昔からあった味覚で、どこか懐かしさも感じさせる。近頃は、あめ色玉ねぎ入り、カレー味、ピザ味、みそ味といった個性的なフレーバーのクッキーも登場している。お酒にも合い、辛党の方にも楽しんでもらえると、父の日ギフトなどにもよく登場する。
 
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4.地域の魅力を生かした黒糖のお菓子

 東京は、日本中のみならず世界各地のお菓子が集積する、世界屈指のスイーツ都市だ。また、「お取り寄せ」もブームで、遠方のスイーツも気軽に味わえる。しかし、そんな時代だからこそ、その土地に行かなくては味わえないものの魅力は大きい。

 ここ10年ほど、かき氷が大ブームとなり、季節を問わず全国を食べ歩くファンが増えた。そんな「かき氷」一派の中でも独自のスタイルで知られるのが「沖縄ぜんざい」である(写真6)。黒糖や砂糖で甘く煮た金時豆にかき氷を乗せたものが一般的で、沖縄ならではの食文化が集積している。最近は、アイスクリームをのせたり黒みつソースをかけたり、パフェ風に仕上げたようなおしゃれな沖縄ぜんざいも増え、沖縄を旅行する若者たちからも人気だ。




 宮古島を訪ねた際、公設市場にさまざまな種類の黒糖や黒糖加工品が並んでいるさまを見て、とてもワクワクした。「新糖」と書かれたポップもあり、現地の方にとってはこれが季節の風物詩なのだろうと思った(写真7)。宮古島の黒糖は、行政区分で言うと沖縄県宮古郡多良間村となる多良間島で作られている。

 砂糖の生産・加工現場も訪問したいと思いつつ、サトウキビの製糖シーズンである12月〜翌4月頃は洋菓子業界の繁忙期であるため、まだ実現できていない。しかし最近は、熊本県産の黒糖を使っている知り合いのパティシエの話なども聞いており、遠からず見に行くつもりでいる。

 砂糖にも旬があるという認識は、特に、和菓子を通じて深まった。さまざまなテーマで和菓子の文化を伝えている「とらや 東京ミッドタウン店ギャラリー」で2013年6月に開催された「第29回企画展『黒糖のこと』」は、興味深い内容だった。沖縄の島々で作られる黒糖にそれぞれ特徴があり、作るお菓子に合わせて選び、使い分けていることに感銘を受けた。

 


 
 その後、茶道を学び始め、黒糖を使ったまんじゅうや麩焼きに、その風味を好んだという「利休」の名を冠すことや、「大島」という銘がつけば、それは黒糖の一大産地である奄美大島を意味し、黒糖風味のお菓子だとわかるという符丁に膝を打つ。

 12月になると、旬の素材として、黒糖を使ったきんとんなどを作る店もある(写真8)。昨今の海外での茶道ブームも、和菓子の再評価につながっている。最近話題の「プラントベース」(植物由来の原材料を使用した食品)の実現や、食物繊維が豊富で低脂肪であるといったさまざまな利点と、その豊かな精神性とを併せて、今後のさらなる伸びしろに期待したい。
 
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おわりに

 お菓子はその時代の流行や人々の好みを映し出す。現代は、「食」に関する意識も大きく変化した。おいしさや見た目の美しさを求めるだけでなく、サステナブルであること、食べ手も作り手も、原材料の生産者も含めて、皆が幸せになれる循環型の食文化が求められるようになりつつある。

 私は、パティシエの方々が使う農家直送のフルーツへの興味がきっかけで、17年ほど前から産地を訪ねるようになった。地元農産物を生かしたスイーツで地域活性化を目指す自治体も増え、私も多くのスイーツフェアやコンテストに関わらせていただいている。今秋は、愛媛県の地元農産品を使い、地域をPRするための「えひめスイーツコンテスト」の審査員を担当させていただく。

 現在は、フェイスブックやインスタグラムなどのSNSを通じて、各地の生産者や菓子職人の方々ともつながりやすく、日々の様子を知ることもしやすくなった。私も、天災で傷がつき市場に出せなくなってしまった果実や、コロナ禍で需要が減り余ってしまった牛乳などを、農家や酪農家から消費者が直接購入できるよう情報をシェアしたり、それをお菓子に使いたいというパティシエとつないだりしたこともある。そのようなスピード感はSNSならではの強みであり、今後も食べ手と作り手をつなげていく上で必要な取り組みだと感じている。

 お菓子を通じて各地を訪ね、季節の産物を体験できることに感謝しつつ、これからも大いに学び、スイーツの魅力を発信し続けたいと思う。
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272