砂糖 砂糖分野の各種業務の情報、情報誌「砂糖類情報」の記事、統計資料など

ホーム > 砂糖 > 調査報告 > その他 > 甘いものがもたらす心理的影響の検討 〜甘いものの摂取傾向を中心に〜

甘いものがもたらす心理的影響の検討 〜甘いものの摂取傾向を中心に〜

印刷ページ

最終更新日:2024年1月10日

甘いものがもたらす心理的影響の検討 〜甘いものの摂取傾向を中心に〜

2024年1月

名古屋文理大学短期大学部 食物栄養学科
助教 櫻井 瞳、教授 山本 ちか

 

【要約】

 本調査は、菓子が人々に与える心理的影響を明らかにしていくための基礎的な資料を集めることを目的とした。調査の結果、(1)調査対象者の84.8%が甘いものが好きであり、頻繁に摂取していること(2)甘いものが好きな理由について心理的な影響を理由とする回答は、女子で多く見られること(3)調査対象者の90%以上が甘いものを食べた時に幸福感を感じること―などが明らかとなり、甘いものの適度な摂取が人々の心に良い影響を与える可能性があることが示唆された。
 

はじめに

 食生活の中で、菓子類などの甘いものは、食事(朝食・昼食・夕食)以外の間食で摂取することが多い食品である。ケーキ、クッキー、チョコレートなどの甘い菓子類は炭水化物と脂質が多く、摂りすぎてしまうとエネルギーの摂取過多にもつながり、肥満や生活習慣病となる可能性が高まる1)。しかし、量や種類などを考え適切に間食を摂ることは、食事だけでは摂取できない栄養素を補うほか、気分転換をしたり、生活にうるおいを与えたりすることができるとされている2)。これまでにも菓子に対する食意識についての報告はされている。門間3)は、中・高・大学生に対する菓子のイメージ調査において、「幸せ」「気分転換」「ストレス解消」という意見が多数あり、菓子が気持ちに与える影響が非常に大きいことを報告している。中村ら4)は、食物系の学問を専攻する女子大生への甘味に対する認識について、気持ちを落ち着かせる効果があるという認識が高いことを報告している。これらの研究から甘いものを食べることによる心理的影響は大きいことがうかがえる。そのため、本研究で甘いものがもたらす心理的影響について明らかにすることは重要だと考える。

 本研究では、菓子類の中でも「甘いもの」に着目し、甘いものの好き嫌いと食意識に関する調査を行い、甘いものが人々に与える心理的影響を明らかにするための基礎的資料を収集することを目的とした。

 なお、本稿は『名古屋文理大学紀要』(2023年第23号、pp.109-114)にて報告したものを一部変更して紹介する。
 

1 調査の方法

(1)方法

 令和元年10月に調査用紙を配布し、その場で回収を行った。
 

(2)調査対象者

 調査協力者は、127人(大学生および短期大学生女子67人と大学生男子60人)であった。調査対象者には、個々の回答内容については秘密を厳守し、調査以外の目的に使用することはないことを説明し、承諾を得て調査を実施した。なお、127人のうち、未回答であった2人は集計対象から外した。
 

(3)調査の内容

ア 甘いものの好き嫌い
 
甘いものは好きかどうかを「好き」「嫌い」「どちらでもない」から選択してもらった。そして、その理由を自由記述で尋ねた(複数回答あり)。

イ 甘いものの摂取頻度
 
甘いものをどのくらいの頻度で食べるかを「ほぼ毎日」「週2〜3回」「2週間に1回」「月数回」の選択肢から選択してもらった。

ウ 甘いものを欲するタイミング
 
どのような時に甘いものを食べたくなるかを自由記述で尋ねた(複数回答あり)。

エ 幸福感
 
甘いものを食べたときに幸せを感じるかを「はい」「いいえ」「どちらでもない」の選択肢から選択してもらった。
 

2 調査の結果

(1)甘いものの好き嫌い

 「甘いものは好きですか」という質問の結果を、図1に示した。男子で「好き」と答えた人は56人(94.9%)、「嫌い」と答えた人は2人(3.4%)、「どちらでもない」と答えた人は1人(1.7%)であった。好きと答えた男子は「美味しいから」という理由が多かった。心理的な理由では「幸せに感じるから」「元気になるから」「気分が良くなるから」という回答があった。嫌いと答えた男子は「知覚過敏で歯にしみるから」「甘いから」という理由で、どちらでもないと答えた男子は「あまり食べたいと思わないため」という理由であった。

 女子で「好き」と答えた人は50人(75.8%)、「嫌い」と答えた人は4人(6.1%)、「どちらでもない」と答えた人は12人(18.2%)であった。好きと答えた女子は男子と同様、「美味しいから」という理由が最も多かった。心理的な理由では11人が「幸せに感じるから」と回答したほか、「安心するから」「癒しになるから」「イライラがなくなるから」「元気になるから」「落ち着くから」という回答もあった。嫌いと答えた女子は「食べていて気持ち悪くなるから」「胃もたれするから」「くどいから」という理由で、どちらでもないと答えた女子は「甘すぎるとくどくなるから」という理由が多かった。
 
1

(2)甘いものの摂取頻度

 「甘いものをどのくらいの頻度で食べますか」という質問について、図2-1に男子、図2-2に女子の結果を示した。男女別でそれぞれの人数を示している。甘いものが好きな男子は摂食頻度について、56人中26人(46.4%)が「週に2〜3回」、22人(39.3%)が「ほぼ毎日」、6人(10.7%)が「2週間に1回」、2人(3.6%)が「月数回」と回答した。甘いものが嫌いな男子は2人中1人(50.0%)が「週2〜3回」、もう1人(50.0%)が「月数回」と回答した。どちらでもないと答えた男子1人(100.0%)は「月数回」と回答した。

 甘いものが好きな女子は摂食頻度について、50人中27人(54.0%)が「週2〜3回」、20人(40.0%)が「ほぼ毎日」、2人(4.0%)が「2週間に1回」、1人(2.0%)が「月数回」と回答した。甘いものが嫌いな女子は4人中3人(75.0%)が「月数回」と回答し、1人(25.0%)は無回答であった。どちらでもないと答えた女子は12人中6人(50.0%)が「2週間に1回」、3人(25.0%)が「週2〜3回」、2人(16.7%)が「月数回」、1人(8.3%)が「ほぼ毎日」と回答した。



 
2

(3)甘いものを欲するタイミング

 「どのようなときに甘いものを食べたくなりますか」という質問では、甘いものが好きな男子は「疲れたとき」という回答が多く、次に「ご飯を食べた後」という回答が多かった。甘いものが嫌いな男子2人はそれぞれ「風呂の後」「食べたいと思ったとき」という回答であった。どちらでもないと答えた男子1人は「味が濃いものを食べたとき」という回答であった。

 甘いものが好きな女子も「疲れたとき」という回答が多く、次に「ご飯を食べた後」という回答が多かった。甘いものが嫌いな女子は「疲れたとき」「生理前」「辛いものを食べた後」という回答であった。どちらでもないと答えた女子は「疲れたとき」という回答が多かった。

(4)幸福感

 「甘いものを食べたときに幸せを感じますか」という質問について、図3-1に男子、図3-2に女子の結果を示した。男女別でそれぞれの人数を示している。甘いものが好きな男子は54人(96.5%)が「はい」、2人(3.5%)が「どちらでもない」と回答した。甘いものが嫌いな男子は、2人(100.0%)が「はい」と回答した。どちらでもないと答えた男子1人(100.0%)は「どちらでもない」と回答した。男子全体では56人(94.9%)が「はい」と回答した。

 甘いものが好きな女子は48人(96.0%)が「はい」、2人(4.0%)が「どちらでもない」と回答した。甘いものが嫌いな女子は2人(50.0%)が「いいえ」、1人(25.0%)が「はい」、1人(25.0%)が「どちらでもない」と回答した。どちらでもないと答えた女子は10人(83.3%)が「はい」、1人(8.3%)が「いいえ」、1人(8.3%)が「どちらでもない」と回答した。女子全体では59人(89.4%)が「はい」と回答した。


 
3

3 まとめと考察

 甘いものの好き嫌いについて、男子は94.9%、女子は75.8%、男女全体では84.8%の学生が甘いものが好きという結果となった。中村ら4)は食物系の学問を専攻する女子大生925人と服飾系の学問を専攻する女子大生310人に甘党である認識についての調査を行い、食物系の学問を専攻する女子大生では71.3%、服飾系の学問を専攻する女子大生では71.0%が甘党であると回答したことを報告している。また、川村ら5)も女子学生60人への甘味嗜好(し こう)の調査で71.7%が甘いものが好きと回答したことを報告しており、本研究においての甘いものを好む女子の割合と類似していた。一方、加藤ら6)は、昭和62年〜63年に家庭専攻の女子学生50人と他領域の専攻の女子学生98人、男子学生78人に甘味の食物の好き嫌いについて調査した結果、男子学生は「ふつう」という回答が最も多く、女子学生の方が有意に甘味の食物への嗜好度が高かったことを報告している。本調査では、男子は「好き」という回答が94.9%と最も多かった。また、女子は「好き」という回答が75.8%と最も多かったが18.2%は「どちらでもない」と回答していた。これは調査方法の違いや、菓子を食べる頻度の違いといった時代の変化など、さまざまな要因が考えられる。

 甘いものが好きな理由で最も多かった回答は男女ともに「美味しいから」であったが、「幸せに感じるから」「安心するから」「癒しになるから」「イライラがなくなるから」「元気になるから」など、心理的な影響を好きな理由とする回答もあり、これらの回答は女子で多く見られた。笠巻7)は女性は男性に比べて気分転換を目的とした間食を行う傾向が強いことを報告しており、今回の結果からも男子に比べて女子の方が甘いものが心理に与える影響が大きいのではないかと考えられる。

 摂取頻度について、甘いものが好きな人は男子の80%以上、女子の90%以上が「週に2〜3回」「ほぼ毎日」と回答し、頻繁に摂取していることが分かったが、嫌い、あるいはどちらでもないと答えた19人も7人が「月数回」、6人が「2週間に1回」、4人が「週2〜3回」、1人が「ほぼ毎日」甘いものを食べていることが分かった(1人無回答)。

 甘いものが好きな人が甘いものを欲するタイミングは、「疲れたとき」が男女ともに多かった。疲れたときに甘いものが欲しくなることがあるのは、糖質が重要なエネルギー源であることを示す現象とされている8)。嫌い、どちらでもないと答えた女子でも「疲れたとき」という回答が多かった。また、甘いものが嫌い、あるいはどちらでもないと答えた人は、疲れたときの他にも風呂の後、イライラしたとき、味が濃いものや辛いものを食べたときなどは甘いものを欲すると回答していた。甘いものが好きではない人でも甘いものを食べたいと思う場面があることが分かった。

 甘いものを食べたときの幸福感では、甘いものが好きな人は男女ともに96%以上が幸福感を感じると回答しており、幸福感を感じないと回答した人はいなかった。また、どちらでもないと答えた女子の83%は幸福感を感じると回答し、さらに嫌いと答えた人でも、男子は2人中2人ともが、女子も4人中1人は幸福感を感じると回答した。この結果から甘いものが好きではない人にも幸福感を与える可能性があることが分かった。
 

おわりに

 本研究の目的は、甘いものが人々に与える心理的影響を明らかにするための基礎的資料を集めることが目的であった。調査の結果から、甘いものを食べることで幸せを感じる、元気になる、気持ちが落ち着くなどの心理を感じている可能性があることが示唆された。甘いものの過剰摂取は肥満や生活習慣病、虫歯などのリスクが高まるが、適度な摂取は人々の心に良い影響を与えることができると考えられる。また、笠巻ら9)は、対人ストレスの程度が高いほど間食(お菓子やスナック菓子類の摂取)頻度も高くなる傾向にあることを明らかにしている。本調査においてもストレスがたまっているときに甘いものを欲するという回答があったため、今後は甘いものの嗜好とストレスの関連についても調査を行っていきたい。

 今回の調査では、対象者の84.8%が甘いものが好きと回答しており、甘いものが好きではない人との食意識の違いなどの比較は十分に行えなかった。そのため、より多くの人を対象として調査を続け、甘いものの好き嫌いが食意識に及ぼす影響なども検討をしていく予定である。


【引用文献】
1)農林水産省(2022)「実践食育ナビ
https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/zissen_navi/use/concept.html〉(2023/10/27アクセス)
2)厚生労働省(2019)「e-ヘルスネット」『間食のエネルギー』
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-03-013.html(2023/10/27アクセス)

3)門間敬子(2013)「学生の菓子に対する意識」『京都女子大学生活福祉学科紀要』第9号、pp.19-26. 京都女子大学
4)中村理乃、小西史子、川嶋かほる(2020)「食物系女子大生の甘味に対する嗜好性及び認識−第1報. 調査紙調査による嗜好性と認識」『日本家政学会誌』Vol.71、No.2、pp.105-117. 一般社団法人日本家政学会
5)川村美由紀、松坂かすみ、中山和子、古屋美知、高松和永(2010)「女子学生の甘味嗜好と食事摂取内容の関連について」『高知学園短期大学紀要』第41号、pp.21-27. 高知学園短期大学
6)加藤征江、永田佳子、井川明美(1992)「大学生の塩味または甘味に対する味覚意識と食物嗜好」『調理科学』25巻第1号、pp.39-46. 一般社団法人日本調理科学会
7)笠巻純一(2013)「高校生・大学生の食行動に影響を与える食物嗜好及び社会心理的要因に関する研究」『日本衛生学雑誌』68巻第1号、pp.33-45. 一般社団法人日本衛生学会
8)岡村浩嗣(2009)「砂糖とからだ」『砂糖の事典』初版pp.201-203.株式会社東京堂出版、日高秀昌、岸原士郎、斎藤祥治(編)
9)笠巻純一、宮西邦夫、笠原賀子、松本裕史、西田順一、渋倉崇行(2021)「女子大学生の間食行動と心理的ストレスとの関連−1年次から3年次にわたる縦断調査による検討−」『Health and Behavior Sciences』19巻第2号、pp.45-56. 日本健康行動科学会
 

このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272