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中国の製糖業・砂糖事情

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最終更新日:2025年6月10日

中国の製糖業・砂糖事情

2025年6月

東京経済大学 経済学部 教授 李 海訓

【要約】

 2010年代に入ってから、中国では精製糖業の拡大に伴い粗糖輸入も大幅に増加した。急速な輸入糖の増加は、中国の旧来の製糖業や甘蔗(かん しょ)農家に影響を与えた。そのため、中国では2017年5月から3年間にわたりセーフガードを発動したが、中国の製糖業にとって、より根本的な課題は、いかに現状の一歩法製糖法から、純度のより高い製品の得られる二歩法製糖法体系に転換していくかということである。

はじめに

 中国製糖業にとって、2010年代は粗糖を精製糖に加工する精製糖業が急速に拡大した時期であった。精製糖は、中国の従来の砂糖に比べて品質が優れており、精製糖業の拡大は高品質な砂糖の供給を可能にしたが、当然ながら中国の旧来の製糖企業や甘蔗農家などにも影響を及ぼした。本稿は、精製糖業の拡大およびそれによる影響について紹介する(注1)

 なお、本稿の中国製糖業の議論において、てん菜に触れることはあるが、基本的に甘蔗(サトウキビ)を対象とする。

 (機構注)本稿中の為替レートは、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2025年4月末TTS相場の1中国元=19.91円を使用した。
 (注1)本稿は、『砂糖類・でん粉情報』編集部署の依頼をうけ拙稿(2024)「世界における小豆餡貿易と中国の砂糖事情」『エコノミア』(74巻2号) の一部を再編集して転載したものである。より詳細な議論については、「世界における小豆餡貿易と中国の砂糖事情」を参照されたい〈https://ynu.repo.nii.ac.jp/record/2000467/files/74-2_5.pdf〉。

1 高品質の砂糖と製糖方法

 てん菜や甘蔗を用いて砂糖を製造する場合、「石灰法、亜硫酸法、炭酸法という3つの方法がある。このうち石灰法を用いた場合、粗糖しか生産できず、白糖の生産はできない。一方、亜硫酸法と炭酸法では、白糖の生産が可能であるが、その生産原理が異なる。「白い砂糖」とはいわれるものの、実は砂糖の結晶そのものは白色ではない。不純物(着色物質)の少ない砂糖の結晶は無色・透明であり、結晶が光を乱反射しているため白く見える。つまり、白糖を造るということは、着色物質の少ない砂糖の結晶を造ることであり、このような結晶を造るには、糖液(糖汁)から着色物質を取り除く方法と、着色物質そのものを無色成分に変える方法がある。後者が亜硫酸法であり、前者が炭酸法である。亜硫酸法により製造される白糖は、炭酸法により製造される白糖に比べ品質に劣るものの、設備が簡単で、清浄剤の使用量が少ないなどのメリットがあるため、中国国内の甘蔗糖業においては未だ広範に採用されている」(李2019:56)。

 炭酸法は、「石灰と二酸化炭素を清浄剤として糖液を清浄する方法」(李2019:56)であるが、2000年代において、中国の甘蔗産地で炭酸法を取り入れている製糖企業は主に広西チワン族自治区に立地しており、雲南省と広西チワン族自治区に立地しており、雲南省と広東省にはそれぞれ1カ所のみで、海南省においては、すべての製糖企業が亜硫酸法を用いていた(徐雪2006)。

 亜硫酸法と炭酸法による製糖法を「一歩法」といい、中国の製糖業においてはほとんどが一歩法を採用しており、てん菜糖業ではすべて一歩法(炭酸法)を採用している。2000年代に中国国内で生産される砂糖の中で、コカコーラやペプシコーラといった国際的な炭酸飲料用砂糖の基準をクリアできるのはごく一部だった(徐雪2006;中国期貨協会2019)。

 これに対し、上記石灰法によって造られた粗糖を溶かして精製糖を製造する製糖法を「二歩法」という。粗糖を溶かした段階で不純物が徹底的に取り除かれるため、「二歩法」による精製糖の方が、純度がより高い高品質の砂糖である(中国期貨協会2010;中国期貨協会2019)。「二歩法」では、国内に甘味資源作物のない国であっても、粗糖を輸入して精製糖を生産することが可能である。

2 精製糖業の拡大と粗糖の輸入増加

 中国において、精製糖工場は21世紀に入ってから本格的に設立されるようになったとされるが(董2014)、生産能力が急速に増加するのは2010年以降である。2007年から2009年まで1日当たり1万2600トンだった中国の精製糖生産能力は、2010年には同1万5000トンを超えるようになり、2012年には同2万トンを超え、2015年には同3万トン以上となった。こうした精製糖工場は主に沿海地域に立地し、生産能力の上位3省は、山東省、遼寧省、広東省であり、それぞれ全国合計に占める割合は25.9%、18.4%、12.4%であった。なお、その他の広西チワン族自治区(以下「広西」という)、雲南省(以下「雲南」という)、河北省、内モンゴル自治区、福建省、江蘇省、天津市、黒竜江省、(しん)(きょう)ウィグル自治区などはいずれも生産能力が全体の10%未満だった(李・周2018)。精製糖業の拡大は、中国国内に精製糖に対する需要があったからこそ可能であった。精製糖は、品質のより高い砂糖であり、食品工業に好まれる。

 中国における精製糖業の拡大は、粗糖の輸入増加を伴っていた。表1は、2012年以降における中国の砂糖輸入量を詳細に示したものである。中国に輸入される砂糖の8〜9割が粗糖であり、精製糖の輸入量も趨勢的に増加しているものの、粗糖に比べられるレベルの量ではないことがわかる。2010年代前半において、毎年300〜400万トンの粗糖が輸入され、中国国内で精製糖に加工されたことになる。

 世界貿易機関(WTO)加盟(2001年)以降における中国の砂糖貿易は関税割当制の下で行われており、2004年以降は関税割当量(194万5000トン)の範囲内であれば1次関税15%が適用され、関税割当量を超える分については2次関税50%が適用されている。2000年代までは、中国の砂糖輸入量が割当量を超えることはなかった。しかし、2011年に砂糖輸入量292万トンを記録してからは、毎年割当量を超えるようになった(表2)。




 
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3 輸入糖の増加がもたらした影響

 こうした輸入糖の増加により、廃業ないし破産に追い込まれる製糖企業の事例がみられるようになった。広西だけでも廃業となった製糖企業は2012年に1社、2013年には3社、2014年に7社(1社は破産)、2015年には12社(1社は破産)にのぼった。廃業までには至らなかったとしても、製糖企業による原料甘蔗代の未払い問題が大量に生じ、甘蔗農家も被害を受ける状況となった(広西糖業協会2016)。

 原料甘蔗代未払い問題以外にも、農家の甘蔗栽培への意欲を低下させる問題があった。すなわち、甘蔗の買付価格は2011/12製糖期(10月〜翌9月)には全国平均で1トン当たり493元(9816円)であったが、2012/13、2013/14、2014/15製糖期にはそれぞれ同469元(9338円)、同435元(8661円)、同418元(8322円)と下落を続け、主産地である広西の場合は全国平均よりも大幅に下落した。広西における甘蔗買付価格は2011/12、2012/13、2013/14、2014/15製糖期にそれぞれ1トン当たり500元(9955円)、同475元(9457円)、同440元(8760円)、同400元(7964円)と推移しており、3年間で1トン当たり100元(1991円)、20%も下落したことになる(広西糖業協会2016)。甘蔗農家の10アール当たり所得がマイナスになったわけではないが、確実に少なくなった。こうした影響により、中国においては甘蔗の作付面積が2010年代前半をピークに減少するようになった(表2)。

 中国の製糖業にとっては「新しい産業」である精製糖業の拡大により、砂糖の輸入量が増加し、従来の一歩法による製糖法がメインであった中国国内の製糖工場だけでなく、甘蔗農家にも経済的な影響を与えることになった。

4 精製糖業の拡大に対する糖業協会関係者の対応

 中国糖業協会(注2)は、各省(自治区)糖業協会および各製糖企業宛てに「粗糖加工能力の盲目的な拡大の防止に関する通知」(2013年8月15日付け)を発した。そこでは、中国の年間粗糖加工能力が2010年の300万トンから700万トンに拡大しており、加えて設立準備中にある精製糖企業もあり、製糖業の設備は加工能力が過剰となっていることを伝え、国の産業政策(注3)にも触れ、粗糖を精製する工場の新設・増設について厳格に対応するよう求めた。同時に各地方政府や関連金融機関にも厳格な対応を求めたが1)、この通知は注意を促すことであったと理解される(董2014)。

 (注2)1992年に設立された社団法人。同年中国では砂糖の流通が市場化された。
 (注3)ここでいう国の産業政策とは、2011年に国家発展和改革委員会が公表した「産業結構調整指導目録(2011年本)」の中で、「粗糖精製プロジェクトおよび1日甘蔗処理能力5000トン(雲南は3000トン)、1日てん菜処理能力3000トン以下の新設プロジェクト」は制限される部類に含まれるようになったことを指す。

 2014年4月になると、中国最大の甘蔗生産地である広西の糖業協会の関係者らが『広西糖業』に「粗糖精製の盲目的な生産能力拡大は製糖業の秩序のある発展を妨害した」(注4)との論文を発表し、2011年以降の砂糖輸入量の増加を受け、広西製糖業は毎年赤字を計上しているとし、2011年以降に設立された精製糖業は「産業結構調整指導目録(2011年本)」(「結構」は日本語の「構造」の意)に違反していると、精製糖業の拡大を批判している(藩・農2014)。

 (注4)中国語のテーマは「原糖加工盲目拡能、妨碍了糖業的有序発展」。

 そして、2015年2月になると、中国国内の製糖企業間の合意で割当外砂糖の輸入量を年間190万トン以内、すなわち砂糖の年間輸入量を全体で384万5000トン以内に抑えようと試みられたが(李2018)、他方で、民間レベルの目標が輸入糖の抑制に有効か否かについては懐疑的な見方もあった2)。表2で確認できるように、2015年における砂糖輸入量は485万トンに達し、民間レベルの合意は有効ではなかった。

 こうした民間レベルの対応に対して、国家レベルの政策も登場するようになる。その一つが、割当外砂糖の輸入を2014年11月から「貨物自動輸入許可管理」(注5)対象に追加したことである。ここでいう「自動輸入許可管理」とは、中国のWTO加盟時に導入した制度であるが、その目的は統計上の情報収集であるとされ、2004年に公布された「貨物自動輸入許可管理弁法」(弁法は法律に基づき中国国務院が定める行政法規の一つ)に基づくものである。自動輸入許可管理の対象商品は、輸入が行われる度に商務部の自動輸入許可証が必要となる。「これは、国が一部の商品の輸入について監視するためであると理解されるが、同弁法第15条によれば、国が対象とする商品の輸入に対し、臨時的な輸入禁止や数量制限といった措置をとる場合があるとされる。理論的には国内農業に対し深刻なマイナス影響を及ぼす時には許可証の発行を禁止することにより、輸入量を制限することが可能となる」(李2018)。ただし、表2でみるように、2014年以降の砂糖の輸入量は、いずれの年においても関税割当量の194万5000トンを超えており、中国政府が砂糖に自動輸入許可管理を適用して砂糖輸入量をコントロールしたとは判断しにくい。

 表1、表2でみられるように、2017年と2018年には砂糖輸入量が大幅に減少しているが、これは中国が政策的にセーフガード(緊急輸入制限措置)を発動したためである。この点について、以下に述べる。

 (注5)「自動輸入許可管理貨物目録(2023年)」によると、2023年の自動輸入許可品目には牛肉、豚肉、羊肉、ミルク類、キャッサバ、大麦、コウリャン、大豆、ナタネ、砂糖、DDGS、大豆かす、たばこなどの農産品が含まれている。このうち大豆、ナタネ、大豆かすは2010年1月に、大麦、コウリャン、キャッサバ、DDGSは2015年9月から「自動輸入許可管理貨物」の対象となった(李2018)。なお、DDGSは、distiller's dried grains with solublesの略語で、穀物の残さのこと。

5 商務部の調査

 広西糖業協会は、2016年7月27日付けで商務部に「中華人民共和国食糖産業保障措施調査申請書」を提出した。雲南省糖業協会、広東省糖業協会、新疆ウィグル自治区製糖工業協会、内モンゴル自治区糖業協会、黒竜江省糖業協会も支持団体として名前を連ねた。「申請書」には、外国の安価な砂糖が中国市場に大量に入ってきたため、中国の製糖業および甘蔗農家が被害を受けているとし、商務部が国務院関税税則委員会に意見を上申するとともに、輸入糖に対しセーフガード措置を発動するよう求めている(広西糖業協会2016)。

 これを受け、商務部は、2016年9月22日からセーフガードの立案にかかわる調査を開始した。国内外の75の関連機構・団体(注6)を対象にアンケート調査、公聴会の開催、現地調査を実施し、これらの調査過程で得られた事実を公表し、上記利害関係者の意見を再度募るなどして調査し、2017年の5月22日に73ページに及ぶ調査結果を公表した。これによると、中国における砂糖の需給のギャップを埋めるためには、一定量の砂糖輸入が必要であるとの見解を示しつつも、2011年1月1日から2016年3月31日までの期間中における砂糖輸入量の増加は、中国国内の製糖業に深刻な影響を与えたとの結論であり(商務部2017)、発表されたセーフガード措置は、割当外砂糖輸入に対して2017年5月22日から2018年5月21日までは追加関税45%を徴収し、2018年5月22日から2019年5月21日までは40%、2019年5月22日から2020年5月21日までは35%の追加関税を徴収するという内容だった3)

 セーフガードとは、「GATT第19条(特定産品の輸入に対する緊急措置)及びWTO設立協定の一部である「セーフガード協定」により認められた、国内産業に重大な損害等を与えまたは与えるおそれがあるような増加した数量の輸入に対して、かかる損害を防止するために、当該輸入国政府が発動する関税引上げ・輸入数量制限の緊急措置」4)であるが、中国がWTO加盟以降、セーフガードを発動するのは、2002年に一部の鉄鋼製品に対して発動して以来、これが2件目である。

 2020年5月上旬に、中国国内の糖業協会7団体が中国政府に対し、輸入糖への追加関税を撤廃しないように要請したとされる5)が、セーフガードは予定通り2020年5月21日に終了した。セーフガードの発動以降、世界最大の砂糖輸出国であるブラジルと中国の間でさまざまな協議が行われてきた経緯がある。

 (注6)75の関係機構・団体とは、豪州、ブラジル、EU、韓国、エルサルバドル、台湾の六つのWTO加盟国・地域、三つの外国の糖業協会(ブラジル、豪州、韓国)、八つの外国製糖企業(ブラジルの製糖企業4、米国の製糖企業1、韓国の製糖企業3)、中国の輸入商20、申請者の広西糖業協会およびその会員の31企業、中糧屯河股有限公司、中国糖業協会、雲南省糖業協会、内モンゴル糖業協会、新疆ウィグル自治区製糖工業協会、広東省糖業協会、黒竜江省糖業協会である(商務部2017)。

 当初中国は、一部の途上国はセーフガードの追加関税措置の対象に含まれないとしていた。その結果、2017年と2018年は、ブラジルからの粗糖輸入量が減少する一方で、南アフリカ、フィリピン、ニカラグア、コスタリカ、カンボジア、ラオスといった追加関税対象に含まれない途上国からの粗糖輸入が増えるようになった。2018年8月以降、中国は対象国を限定しない方針に変更するなどブラジルに配慮を示してきたが、2018年10月にブラジルは、中国の追加関税措置についてWTOに提訴した6)。その後も両国は協議を続け、両国間で合意がみられ、中国は輸入糖から追加関税を徴収する期間を延長しない方針となり、ブラジルはWTOのパネル(小委員会)の設置要請(注7)を取り下げる結果となった7)

 そして、2020年7月1日から砂糖は「実行進口報告管理的大宗農産品目録(輸入報告管理を実行する主要農産品目録)」に追加されるようになった。「実行進口報告管理的大宗農産品目録」は「大宗農産品進口報告和信息発布管理弁法(主要農産品の輸入報告及び情報公表管理規則)」(2008年施行)に依拠するものであるが、無秩序な輸入増加などを防ぐための情報発信を目的にしており、半月ごとに商務部のホームページにおいて砂糖輸入情報が更新される8)

 図は、中国農業農村部が公開している「農産品供需形勢分析月報(農産品需給情勢分析月報)」各号により、2013年12月から2022年12月までの中国における砂糖の国内価格・国際価格の推移を示したものである。「国内価格」は、広西食糖卸売市場の食糖卸売価格の月平均価格であり、「国際価格(1次関税含む)」は、関税割当量範囲内(関税15%)での輸入砂糖(ブラジル産砂糖)の珠江三角洲の港湾到着税後価格(CIF価格×1.15)である。「2次関税計算」は、「国際価格(1次関税含む)」を基準に、「国際価格(1次関税含む)÷1.15×1.50」で求めた国際価格であるが、実際の割当外(関税50%)輸入砂糖(ブラジル産砂糖)の港湾到着税後価格より1トン当たり100〜200元(1991〜3982円)高い水準となっている。「追加関税計算」は、「国際価格(1次関税含む)」を基準に、2017年6月〜2018年5月までは「国際価格(1次関税含む)÷1.15×1.95」で求めた価格であり、2018年6月〜2019年5月までは「国際価格(1次関税含む)÷1.15×1.90」、2019年6月〜2020年5月までは「国際価格(1次関税含む)÷1.15×1.85」で求めた価格である。砂糖輸入には、関税以外に13%の輸入増値税(注8)がかかるが、グラフには反映されていない。

 (注7)WTO体制の下で、貿易にかかわる国際紛争の解決の第1段階は協議であるが、「一定期間内(通常、協議要請を受けた日から60日以内)にこの協議によって紛争が解決できなかった場合には、申立国はパネル(小委員会)に紛争を付託することができ」る。(外務省HP、「世界貿易機関(WTO)紛争解決制度とは」〈https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/wto/funso/seido.html〉(2023年3月2日アクセス))。
 (注8)輸入増値税は、(CIF価格×関税×増値税率で計算される。なお、砂糖の輸入増値税は2017年までは17%であったが2018年5月1日から16%となり、2019年4月1日から13%となった。

 
2015年3月以降、2021年1月までの期間中、2016年5月から2017年2月までの期間を除けば、国内砂糖価格は割当外砂糖の2次関税込み価格よりも高かった。セーフガードが発動された2017年5月からの3年間のうち、2017年6月から2019年7月までは、国内価格は「追加関税価格」より安いないし同程度だった。こうした関税引き上げ措置が、2017〜18年に砂糖輸入量が減少した理由である。2019年に砂糖輸入量が2017〜18年に比べ増加したのは、2019年後半において国内砂糖価格が「追加関税価格」を上回る水準にまで上昇したためである。2020年6月以降はセーフガードが終了したため、砂糖輸入量はさらに増加した。2021年以降は、割当外砂糖の2次関税込み価格の方が国内価格より高くなったが、輸入量も増加した(表2)。これは、高価格でもより高品質な精製糖を求める需要があることを意味する。

 商務部も、企業が国際市場と国内市場の二つの市場からの砂糖資源を充分に利用することを提唱し、現在の製糖業の生産設備能力の合理的な利用も支持しており、業界全体の発展を進め、製糖業の国際競争力を高めるよう発信している9)。製糖業の構造調整が必要なのである。
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6 中国製糖業の課題

 中国製糖業の課題は、価格面の課題と品質面の課題に分けることができる。価格面の課題は、甘蔗製糖企業において原料甘蔗の費用は製造費用全体の70%を占めており(劉・劉・白2021)、甘蔗栽培の費用をいかに抑えるかは、中国産砂糖価格を安く抑えるための重要なポイントである。

 甘蔗の最大産地である広西における甘蔗栽培の1トン当たり費用は、ブラジルやタイの倍以上に高いとされる(顔2021)。総費用の中の各項目を割合ベースでみていくと、物財費が費用全体の4割前後の水準で推移し、地代は費用全体の10〜15%である。広西の甘蔗栽培の総費用の中で比重が最も大きいのは労働費であり、費用全体の45〜52%を占める。

 すなわち、個々の甘蔗農業経営において労働費をいかに削減するかが、中国における製糖業の価格面での課題となる。広西の甘蔗栽培においては家族労働時間も雇用労働時間も減少はしており、機械作業費が増加するなど機械化が進んでいる。しかし、機械化が進んでいるのは植え付け作業であり、収穫は依然として人力作業に頼っているのが実態である。広西崇左(すう さ)や雲南の臨滄(りん そう)徳宏(とっ こう)といった地域では、長年ベトナムやミャンマーからの労働力が収穫作業を担っている(劉・劉・白2021)。

 品質面における課題は、いうまでもなく、上述の「一歩法」製糖方法がメインであることである。ただし、品質面の課題と価格面の課題は相互に関連している。

 2016年から2020年までの5年間において、中国における甘蔗収穫の機械化率は0.75%から5%までに上昇した。一方、広西では農業機械補助金や機械作業補助金といった政策が導入され、甘蔗生産の機械化が進められている。その結果、甘蔗ハーベスターは2015/16搾季(てん菜や甘蔗から糖汁を抽出する期間。地域によって異なるが、広西の場合は11〜12月から翌年の4〜6月までの約半年間)の149台から2020/21年搾季には2000台以上と増加した。しかし、同時期に収穫の機械化は進んでおらず、2015/16搾季の1%から5年後に達成した機械化率は5.6%だった(顔2021)。機械化が進まなければ、甘蔗栽培における労働費の削減は困難である。

 こうした機械化が進まない原因は、旧来の一歩法による製糖企業の側にもある。甘蔗ハーベスターで収穫される甘蔗は切断された状態であり、工場に搬入する時に茎葉、泥砂といった不純物が5〜15%ほど含まれている。一歩法による製糖企業は、こうした不純物を取り除くための費用が発生することから、切断された甘蔗については1日の買い付け量に制限を設けたり、不純物含有量を過剰に見積もったりしがちである。一歩法による製糖企業は、切断されていない状態の甘蔗(不純物5%以下)を選好しており、こうした製糖企業の行動が収穫作業の機械化の進展を妨げることになる(顔2021)。このほかにも、機械化が進まない理由として、甘蔗栽培の主産地の多くが丘陵地・山間地に立地していることが挙げられる(矯ほか2019)。

 そもそも甘蔗には鮮度問題が存在し、収穫して早いうちに糖汁を搾り結晶化しないと糖分が分解し、損失が発生する。国際的には、甘蔗は収穫後20時間以内に製糖工場に運ばれ、圧搾されることが標準になっている(顔2021)。ただし、甘蔗生産地においては白糖を製造する必要はなく、粗糖を製造し、保存可能な粗糖を消費地に運搬して、消費地で精製糖に仕上げる二歩法のほうが効率面では優れている。国際的には1990年代以降、精製糖消費量の増加にともない、亜硫酸法を採っていた製糖工場が石灰法による粗糖生産に切り替え、甘蔗栽培地の近くで半製品である粗糖を生産し、これを精製糖工場に供給する二歩法が主流となっており、二歩法のほうが産業集中度を高めるのに有利である(徐2006)。つまり、中国の製糖業においては、現状の一歩法製糖法をいかに二歩法製糖法体系に転換していくかが、最優先されるべき課題なのである。
【引用文献】
 1)「関於防止盲目拡大原糖加工産能的通知(「粗糖加工能力の盲目的な拡大の防止に関する通知」)」中国糖業協会HP〈http://chinasugar.org.cn/i,32,1791,0.html〉(2023年2月14日アクセス)
 2)「2015年国内配額外進口糖将限定在190万」中国軽工業網HP
http://www.clii.com.cn/zhhylm/zhhylmHangYeJuJiao/201502/t20150204_3866948.html〉(2023年2月13日アクセス)

 3)「商務部公告2017年第26号 関於対進口食糖采取保障措施的公告」中華人民共和国商務部HP
http://www.mofcom.gov.cn/aarticle/b/e/201705/20170502579130.html?ivk_sa=1024320u〉(2023年2月16日アクセス)

 4)「2019年版不公正貿易報告書(PDF形式)」271頁、経済産業省HP〈https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/tsusho_boeki/fukosei_boeki/report_2019/pdf/2019_02_08.pdf〉(2023年3月2日アクセス)
 5)「関税割当枠外の砂糖への追加関税を撤廃(中国)」独立行政法人農畜産業振興機構HP〈https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002725.html〉(2023年3月2日アクセス)
 6)「中国による砂糖への追加関税をめぐり、ブラジルがWTOへ提訴(中国)」独立行政法人農畜産業振興機構HP〈https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002314.html〉(2023年3月2日アクセス)
 7)「関税割当枠外の砂糖への追加関税を撤廃(中国)」独立行政法人農畜産業振興機構HP〈https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002725.html〉(2023年3月2日アクセス)
 8)「関於調整《実行進口報告管理的大宗農産品目録》的公告」中国商務部HP〈http://www.mofcom.gov.cn/article/b/e/202006/20200602978638.shtml〉(2023年2月16日アクセス)
 9)「商務部外貿司負責人談関税配額外食糖実行進口報告管理」中国商務部HP〈http://www.mofcom.gov.cn/article/ae/sjjd/202007/20200702980330.shtml〉(2023年2月16日アクセス)
【参考文献】
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 顔旭(2021)「“甜蜜事業”蘊含苦渋?―我国糖業穏定発展必須破解甘蔗機収難題」『農民日報』2021年7月30日版
 中国期貨協会(2010)『白糖』中国財政経済出版社
 中国期貨協会(2019)『白糖期貨』中国財政経済出版社
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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