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でん粉原料用ばれいしょの安定生産に向けて〜北海道における気象変動の影響と対策〜

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最終更新日:2026年4月10日

でん粉原料用ばれいしょの安定生産に向けて
〜北海道における気象変動の影響と対策〜

2026年4月

ホクレン農業協同組合連合会
農業総合研究所 営農支援センター 営農技術課 田中 宏樹

【要約】

 ばれいしょでん粉は、年間17万〜18万トンの需要があり、北海道が全量を生産しています。近年は気象変動による高温・少雨などの影響により生育不良やでん粉価の低下が続き、生産量が需要量を満たせない状況が続いています。令和7年産も高温・少雨の影響で弱勢株が多く、収量・でん粉価ともに平年を下回りました。こうした中、産地や研究機関が連携し、適正株間・施肥体系の改善など生産性向上に向けた取り組みが進められています。 

はじめに でん粉原料用ばれいしょをめぐる情勢

 「片栗粉」としてわれわれに身近なばれいしょでん粉は、家庭用のみならず多くの食品に使用され、かまぼこなどの水産練り製品、お菓子、即席麺製品などで風味や食感の向上に一役買っています。その用途は食用にとどまらず、加工用(糖化用、化工用)、医薬品用、工業用と実に幅広く、ばれいしょでん粉は日常生活に欠かせない重要な農業製品となっています(独立行政法人農畜産業振興機構ホームページ「日本のでん粉事情」を参照〈https://www.alic.go.jp/content/001232563.pdf〉)。

 このようなさまざまな活用をされるばれいしょでん粉は、年間17万〜18万トンの需要があり、その国産のすべてを北海道産ばれいしょで賄っています。北海道のばれいしょ作付面積は約4万6000ヘクタールと北海道で作付けされる品目の中でも大きく、求められる用途に応じて生食用・加工用・でん粉原料用と、需要に応じた作り分けがされています。でん粉原料用は、北海道内のばれいしょ作付面積の約30%を占め(約1万4000ヘクタール)、ばれいしょの主要用途の一つとなっています。でん粉原料用ばれいしょは広い作付面積に加え、より効率的・より高品質のでん粉原料を供給するため、北海道内の研究機関との連携の下、専用品種を開発し作付けされています。北海道におけるでん粉専用品種の作付けの歴史は古く、「紅丸」や「コナフブキ」など、需要や栽培環境に応じた品種を使用し、安定供給を実現してきました。現在の基幹品種は、平成28年に北海道優良品種となった「コナヒメ」(ホクレン農業総合研究所育成)であり(写真1)、植え付けされるでん粉原料用ばれいしょのうち、80%以上で使用されています。
 
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 「コナヒメ」開発の経緯の一つに、土壌害虫である「ジャガイモシストセンチュウ」の発生地域拡大が挙げられます。ジャガイモシストセンチュウは土壌に生息する線虫で、ばれいしょに寄生し大きな生育阻害を引き起こします。発生地域拡大を防ぐべく、北海道ではばれいしょを含めた輪作体系を組み、感染防止・線虫の密度低減を進めてきましたが、ジャガイモシストセンチュウはシストという硬い殻で卵を包み込み、長期間にわたり(数年〜10年以上)土壌中に潜むことができるため、間隔を空けてばれいしょを作付けしたとしても、土壌に潜伏したシストから幼虫がふ化し、ばれいしょに寄生してしまいます。このため密度低減に向けては、シストを形成させないことが最も有効な対策であり、その一つとして抵抗性品種の開発が各育成機関で進められてきました。ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を持つ品種は、線虫が根に寄生しても、そこで線虫をとどめてしまうため、シストの形成を防ぐことができます。このため、翌作以降のジャガイモシストセンチュウの発生拡大を防ぐだけでなく、未発生()(じょう)で使用することで、ジャガイモシストセンチュウのまん延を抑止することができます。

 「コナヒメ」は片親に前基幹品種「コナフブキ」を用い、「コナフブキ」の生産性を引き継ぎながら、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を付与したことで、新たな基幹品種として作付けされています。「コナヒメ」はジャガイモシストセンチュウ抵抗性だけでなく、でん粉生産に必要な高いでん粉価と優れたでん粉品質を持つとともに、北海道の重要な作付け品目である秋()き小麦の前作として、早掘り特性(注1)も有していることから、使い勝手の良い品種として使用されています。

  (注1)早掘り特性とは、秋播き小麦の播種は しゅ 時期である9月下旬までに収穫できる特性。通常は10月以降の収穫ですが、「コナヒメ」は早い段階から高めのでん粉価が確保されており、9月上旬頃の早掘りでも一定の収益を得ることができます。

1 近年の気象推移がばれいしょ生産、でん粉原料用ばれいしょに与えている影響

 夏の猛暑やゲリラ豪雨、冬の局地的大雪や極端な少雨など、われわれが感じる気象変動だけでも顕著なものがありますが、農業現場ではより如実にその影響が現れ、品目維持・産地維持に関わる重大な課題となりつつあります。

 世界の平均気温は産業革命以降、上昇傾向にあり、中でも平成22(2010)年以降の温度上昇が急激に進んでいるといわれ、令和6(2024)年には1850年〜1900年の平均気温と比較して、1.5度以上上昇したとの報告も出ています(世界気象機関)。1.5度はわずかな温度上昇に見えますが、これはあくまで平均気温の話であり、最高気温では平年に比べて、より高くなる年も見られています。気温上昇は生育促進や栽培期間の確保などのプラスの面もありますが、これまでの品目が作れない、栽培体系が合わない、などマイナス面も多く挙げられます。

 北海道も例外なく気象変動の影響を受けています。大きな特徴として、標準気温の上昇と降水パターンの変化が挙げられます。過去3年間とそれまでの気象推移を比較すると、春から初秋にかけて総じて高温で推移しており、とりわけ6〜7月は平年よりも約1〜5度高く推移しています(表1)。降水量については、生育期間中の総降水量が平年より少ない上、偏った降雨パターンにより長期間の少雨・多雨が見られるほか、主産地の地域間差がかなり大きくなっています(表1)。ばれいしょはそもそも冷涼な気候を好む作物ゆえ、北海道で広く作られてきた経緯がありますが、近年の気象変動はばれいしょの生育適温(茎葉生育は21度、塊茎肥大は15〜18度)から離れてきています。特に重要な生育時期である夏場の気温は生育適温を大きく超過しており、その結果、生育やその後の収量・品質にも多大な影響を与えています。



 
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 近年の気象変動がばれいしょ生育に与えた影響として、主に下記2点が挙げられます(ここではでん粉原料用を主眼に)。

 (1)偏重的な降水とそれに伴う肥料溶出パターンの変化による茎葉生育の阻害
 (2)登熟期間中の温度上昇に伴う、でん粉蓄積の阻害

 ばれいしょ栽培では、植え付け後、培土時期から開花期の間に追肥をする体系が多く見られます。追肥では硫安(硫酸アンモニウム)や尿素などの粒状肥料を使用することが大半で、生育時期に合わせて天水(降雨)により溶出させることで、効果的な施用を進めています。ただし、近年は施用時期に長期間の少雨・無雨が重なり、肥効が発揮できず弱勢となるばかりか、その後の短期間多雨により施用肥料が一気に溶出し、茎葉の過剰伸長・倒伏につながるケースも増えてきています。植物体の弱勢により地表が茎葉で覆われにくい上、近年の多日照・高温が重なることで、地温が上昇し、開花期以降の生育や塊茎形成に影響が出るほか、降雨後の急激な肥効によりストロン(地下の茎から延びるわき芽)が異常に伸長し、深なり・横なりによる収穫阻害も懸念されています。

 温度上昇は、植物体の代謝向上にもつながります。植物体は光合成と呼吸を行い、光合成産物の生産・消費をしています。日中は光合成を行っていて、呼吸による消費を上回るため、光合成産物(でん粉)は蓄積されていきますが、夜間は呼吸のみを行うため、蓄積した光合成産物は消費されます。これまで、夜間は気温が下がるため呼吸はそれなりに落ち着いていましたが、近年の気温上昇により代謝が上がり、呼吸量が増加していることから、これまで以上に光合成産物が消費されやすくなります。加えて、植物体が弱勢となりやすい条件下では、植物体全体の光合成量が低下しやすい上、地表露出により温度上昇幅も大きく呼吸量が増加することから、消費程度はより大きくなり蓄積がより阻害される結果となります。そもそも地温が高すぎるために、光合成自体が抑制され、でん粉蓄積が進まなかった圃場もあると推測されます。

 このような要因が重なり、ここ数年のばれいしょでん粉の生産量は15万トン前後で推移し需要を満たしきれない状況が続いています。産地では以前から種々改善を図っていますが、気象変動のスピードが極めて速いことから、対策が追いつかない、効果が薄れてしまう、など生産性改善につながっていない状況が続いています。

2 令和7年産のでん粉原料用ばれいしょについて

 北海道でのでん粉原料用ばれいしょの栽培期間は5〜6カ月を要します。4月下旬〜5月上旬に種ばれいしょを植え付けると、5月下旬以降から萌芽(ほう が)が始まり(芽が出てくる)、茎葉が80〜100センチメートルほどまで生育した7月下旬ころから開花を迎えます。塊茎形成は開花前から開始し、開花後急激に塊茎肥大が進みます。収穫は早掘り体系が9月上旬から、通常掘り体系は10月上旬から行われます。

 令和7(2025)年は、4月下旬に一部地域で降雪があるなど、生育初期は低温で推移しましたが、その後は平年並みまで回復し、6月以降は平年を上回りました。特に盛夏に当たる7〜8月は平年よりもかなり高い傾向にあり、アメダスによると、7月の旬別平均最高気温で30度を超える地点も見られました。降水量については、生育前半から中盤が平年より少雨で推移し、特に7月は長期間ほとんど無雨となる地点も見られました(表2)。

 北海道内の「コナヒメ」の作付圃場では、低温の影響から一部の圃場で黒あざ病(注2)の発生が見られました(写真2)。その後、気温の上昇に伴い生育は促進されましたが、少雨条件に伴う肥料吸収・光合成抑制の影響から、総じて茎葉はやや弱勢となり、降雨量や圃場条件によっては、畦間(うね ま)がふさがらないほどのかなりの弱勢にとどまる圃場も散見されました(写真3)。その後も高温で推移したため、塊茎へのでん粉の蓄積は緩やかとなり、特に弱勢により畦間などが露出した圃場では、地温が大きく上昇した影響から、でん粉価が大幅に低下した事例も見られました。結果的に、塊茎収量は平年を下回り、でん粉価(塊茎のでん粉含有率)は平年よりも1〜2%も低くなり、北海道全体のでん粉生産量が14万トンを下回り、過去に例を見ない収量水準となりました。

(注2)茎葉が黄化し萎れる病気で、植物体の生育を阻害し、収量の減少をもたらします。









 
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3 生産性向上に向けた取り組み

 先述の通り、ばれいしょでん粉は多様な用途に利用され、安定供給が求められる中、北海道ではその期待に応えるべく生産を続けています。ただ、でん粉原料用ばれいしょの生産をめぐる情勢は年々厳しさを増しています。でん粉原料用ばれいしょに限らず、畑で作物を作るためにはさまざまなモノが必要です。作物の種子、生育を促す肥料、病虫害を防ぐ農薬にはじまり、生育を安定させる石灰や堆肥などの土壌改良材、播種や栽培管理、収穫などに必要な農業機械とそれを動かす燃料、そのほぼすべてが近年高騰し、農業生産に占めるコストが年々高くなっています。消費者・実需者にも売価上昇の理解・協力を得ていますが、生産現場ではさらなるコスト削減に向けた取り組みが喫緊の課題となっています。さらに、後継者や担い手など、農業生産に従事する人口が減少しており、種ばれいしょ生産量が減少していることに加え、自身の経営でも作業人員が制限されていることから、コスト削減に加えて効率化も求められるなど、これまでにない環境下での農業生産を強いられています。

 ホクレン農業協同組合連合会(以下「ホクレン」という)ではでん粉原料用ばれいしょの生産低迷を受け、北海道内の主要産地や各地区の農業改良普及センターなどの試験研究機関と連携し、産地の実状を聴取しながら、このような環境でも生産性を維持・向上している優良事例を収集・検証し、産地への水平展開を進めてきました(ホクレンホームページ「でん粉原料用馬鈴しょ栽培共励会について」を参照
https://www.hokuren.or.jp/info/3ix5txcw1e9〉)。

 優良事例の共通点として、植物のポテンシャルを生かした栽培管理が実現されていました。何か特別な技術を駆使するのではなく、植物体の状態・声に合わせた細やかな管理を実践することで、健全な株を長く維持し、収量と品質の維持向上を実現しています。長く維持できる要因の一つとして、株当たりのスペースを適切に確保した点が挙げられます。ばれいしょは萌芽後、茎葉が成長すると、開帳して葉を展開します。株同士が近かったり、茎葉の生育が旺盛すぎたりすると、隣接する株の葉が重なってしまいます。水稲やトウモロコシのように鋭角に出葉すると、隣接する株と葉が干渉することなく、効率的に受光すること(光が植物体に差し込み、光合成に活用できること)ができますが、ばれいしょは横に広がり重なりやすいため、その分だけ受光面積は小さくなります。重なって日陰にさらされたばれいしょの葉は活性を失い、黄化・枯失(老化)につながり、株全体の光合成量が減少するだけでなく、栄養バランスの偏りによる茎葉徒長や不均衡な塊茎形成、老化部分からの枯れの広がりなど、多くの2次被害につながってしまいます。

 スペースを適切に管理するために、1)面積当たりの株数を減らし隙間を空ける、2)面積当たりの株数はそのままに株をややコンパクトにする−などの栽培管理が挙げられます(図)。そもそも「コナヒメ」は以前の主要品種よりも葉面積が大きい上、初期生育が緩やかで中盤以降に急激に茎葉生育が進むことから、条件により茎葉が過繁茂になりやすく、その結果、老化も早い傾向にありました。ここを逆手に取れば、畦間・株間を少し広めに空ける、または肥料総量をやや抑え生育パターンに合わせた施肥体系とする(基肥重点ではなく分施重点とする)ことで、1)、2)の実現に近づきます。実際、収集した優良事例でも実証されており、同技術を採用した生産現場では収量向上を実現した事例も報告されています。また、副次的な効果として、畑当たりの種ばれいしょ量や肥料投入量を減らすことができるため、コスト低減にもつなげることができます。
 
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おわりに

 このように収量向上を実現した事例は見られるものの、先述のような昨今の異常高温と偏った降水パターンでは通常の生育を確保することすら難しく、ましてやもくろみ通りの生育を確保することは至難の業です。これまで以上に天候を予測し、畑に注意を払い、適切な管理を図らねばならない状況にあるため、全体的な生産性が低下しつつあることに加え、生産者間の生産性の差も大きくなってきているのが現状です。気象変動の早さに経験や技術開発が追い付いていない実状の中、速やかに対応を図るべく、産地・試験研究機関・ホクレンで一蓮托生の取り組みを進めてまいります。
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8678