

ホーム > 砂糖 > 海外現地調査報告 > 用途の多様化と持続可能な生産が進む砂糖業界の今〜第34回国際砂糖機関(ISO)セミナーと欧州砂糖業界団体との意見交換から〜
最終更新日:2026年4月10日






イ インド:バイオエタノール混合燃料推進に向けた官民連携
インドでは、2018年に設定された「バイオ燃料に関する国家政策(National Policy on Biofuels 2018)」により、30年までにガソリンへのエタノール混合率20%(E20)を目標として掲げている。また、16年に国際民間航空機関(ICAO)が採択した「国際航空のカーボンオフセットスキーム(CORSIA)」への対応としてSAF導入も進めている。
同国のエタノール生産に占めるサトウキビ由来の割合は約3割とされるが、同国の製糖企業によれば、サトウキビ由来のエタノール生産能力は2019/20エタノール年度(11月〜翌10月)の43億リットルから25/26エタノール年度には90億リットルへ倍増した。これにより、エタノール生産量は24/25年度時点で19%に到達し、E20達成の目標年が当初の30年から25/26エタノール年度に前倒しされた(図4)。また、サトウキビのエタノール向け転用の進展により、1)農家収益の改善、2)過剰生産による相場下落リスクの低減、3)年間170億ドル(2兆6577億円)の外貨節約、4)原油輸入2450万トンの削減、5)累計7360万トンのCO2削減−など多面的な効果が生じている。政府はCORSIA対応として、国内航空会社に対し国際線航空燃料へのSAF混合率を27/28年度までに1%、30年までに5%とする義務を課している。23年5月には、国内航空会社がインド石油公社株式会社(IOCL)などの協力の下、国産SAF1%混合燃料を使用した商業フライトを成功させている。砂糖関連企業を中心に、多くの国内企業がSAF投資に意欲的である。
また、インド砂糖・バイオエネルギー製造業者協会(ISMA)は、同国のエネルギー資源研究所(TERI)と連携し、サトウキビ由来のSAFを製造する際の炭素強度の定量化調査を開始したほか、国外航空会社や航空省と協議しつつ、SAF政策の策定を目指している。

ウ 欧州:新規用途開発の取り組み
欧州からは、ドイツ、スイス、英国の企業や農業団体などが登壇し、てん菜・砂糖の多様な利用方法や生産状況について報告した。
(ア)ドイツ:製糖企業によるてん菜の新規用途開発
ドイツの製糖企業Südzucker社からは、以下の取り組みが紹介された。
a ビートクラフト(BeetKraft® )
砂糖生産時に発生する副産物(乾燥ビートパルプ)を元に化学薬品を使わずにクラフト紙や段ボール、カートンボードなどの包装材を生産する技術。原料は同国産を使用し、森林資源を利用することなく年間を通じた大量生産と国内外への迅速な供給ができ、結果としててん菜の効率的な利用が可能であるとしている。また、紙製品に占めるパルプまたは再生紙の約40%を代替可能であり、砂糖の包装材としても適しているという。
b エタノール混合燃料の推進
EUでもE20への移行を目指す動きがあり、同社はドイツ南西部マンハイムにE20対応のデモスタンドを設置し、九つの異なる自動車メーカーのE20燃料車両の走行試験に成功した。公共の給油所でE20の使用を実現するためには、「EU燃料品質指令(EU Fuels Quality Directive)」の改正が必要であると訴えた。
(イ)スイス:食品・化学分野におけるてん菜や砂糖の活用拡大
スイスのバイオテクノロジー企業は、砂糖を発酵して精製するたんぱく源「マイコプロテイン(Mycoprotein)」を紹介した。これは、さまざまな食品に組み込むことが可能である。
また、機械メーカーは、てん菜などに含まれる糖から製造されるバイオマスプラスチック「ポリ乳酸(PLA)」を紹介した。リサイクル可能で環境配慮型包装材として注目されており、製糖企業の新たな収益源となることが期待される。インドでは、同社の技術提供により、国内初のバイオマスプラスチック工場の建設が進んでいる。
(ウ)英国:生産コスト増と病害拡大への懸念
英国の全英農業者組合(NFU:National Farmers’Union)によると、2010年代半ば以降、てん菜価格の下落と資材価格の高騰により、同国のてん菜収穫量は伸び悩んでいる。2026/27年度のてん菜価格も1トン当たり30〜33ポンド(6424〜7066円)と生産平均コストを下回る見込みである。
さらに、依然としてネオニコチノイド系農薬の使用が禁止される中、病害虫の発生が減収を招いている。気候変動の影響もあり、22年にはビートモス(Beet moth)と呼ばれる蛾の一種が国内で初確認され、また、英国では未発生であるが、欧州の一部ではSBR(注3)やRTD(注4)が深刻化しており、病害虫生息域は確実に拡大していると警告した。
また、2050年までのネットゼロ戦略(注5)の実現に向け、大手食品・飲料企業からの資金援助を得て、播種時の効率的な窒素分施用試験が24年に実施され、「低炭素糖」生産への取り組みが進む。同団体は、今後のプロジェクト推進には資金調達が課題であると指摘した。
(注3)てん菜の病気である糖含量低下症(Syndrome Basses Richesses)の略。ヒシウンカ科の一種によって媒介される病気で、葉の黄変をはじめとした病徴を呈し、根部の含糖量を著しく低下させる。
(注4)てん菜の病気であるRubbery Taproot Diseaseの略。SBRと同様にヒシウンカ科の一種によって媒介される病気で、水分が失われた主根はゴム状を呈するほか、葉の黄変などの病徴が特徴である。感染したてん菜は収量が減少するほか、ゴム状になることから収穫後の工場での加工においても支障をきたす。
(注5)2050年までに温室効果ガス排出量ゼロを達成するための、民間投資や雇用創出を基本とした取り組みのこと。
ア てん菜の生産動向
てん菜は平均3〜5年の輪作体系に組み込まれており、てん菜以外では小麦、トウモロコシ、ばれいしょ、菜種などが輪作作物として作付けされる。現行の共通農業政策(CAP)では長期輪作が推奨されているものの、てん菜に特化した支援措置は存在しない。
てん菜生産者は、2000年代初頭の約20万人から近年は約10万人へ半減している。作付面積は近年150万ヘクタール前後で推移しており、横ばいかやや減少傾向にある。このため、生産者1人当たりの作付面積は増加している(図5)。

イ 気候変動と病害虫対策
欧州ではこれまで多くの殺虫剤が禁止されてきた経緯があり、規制された農薬に代わる適切な植物保護製品(PPP:Plant Protection Products)(注6)の利用が推奨されている。品種開発では、黄化病を媒介するアブラムシに有効であったネオニコチノイド系農薬が禁止された後、少なくとも2種類の病害に抵抗性を持つ新たな品種が開発されているものの、有効な代替手段が不足している。この影響で、てん菜の収穫率は低下傾向にある。こうした現状を踏まえ、CIBEはEUおよび加盟国に対し、実務に即した農薬規制の見直しを求めている。
気候変動の影響により、特に湿度が高い状態が続く場合、病気の発生リスクが高まっている。近年では生産者向けに、初期警報システムを備えたIT管理ツール(アプリ)が普及している。このシステムは、監視地点における病虫害の発生状況を防除が必要なレベル(防除閾値)に達した際に通知するものである。この仕組みにより早期防除が可能となり、防除費用の節約にも寄与している。
また、CIBEはEUてん菜糖サステナビリティ・パートナーシップ(EUBSSP:EU Beet Sugar Sustainability Partnership)(注7)を通じ、てん菜生産における栽培技術、土壌管理、作物保護に関する優良事例の紹介に加え、水資源管理や気候変動対応などに関する情報発信を行っている(写真2)。
さらに、総合的病害虫・雑草管理(IPM:Integrated pest management)や輪作の活用により、農薬に過度に依存しない生産システムの構築に向けて、欧州の研究機関などと連携し取り組みを進めている。
(注6)害虫を忌避・防除・駆除することを目的とした一つ以上の有効成分と取り扱いや散布を容易にすることなどを目的とした共剤から成る混合物であって、EU加盟国での承認を得たもの。
(注7)持続可能なてん菜生産のための優良事例のとりまとめと共有を図ることを目的とし、CEFSおよび欧州食品・農業・観光関係労働組合連合会(EFFAT:European Federation of Food, Agriculture, and Tourism Trade Unions)と共に2013年に発足した。

ウ 持続可能性に関する取り組み
2019年12月に公表された「欧州グリーン・ディール」では、EU全体で50年までのカーボンニュートラル達成を掲げ、30年までに少なくとも55%(1990年比)の中間削減目標を導入している。てん菜生産におけるGHG排出の大部分は、1)無機肥料の使用、2)土壌内の自然プロセス(いわゆる間接排出)、3)トラクターや収穫機などで使用される化石燃料の使用−に起因するとしている。
GHG排出削減においては、窒素利用効率の向上が重要であるとされ、てん菜は比較的少量の窒素で生育可能であり、土壌肥沃度を高める効果もある。最近では土壌分析に加え、衛星画像や収量マップを用いた可変施肥が普及しつつあり、窒素利用効率はさらに向上する見込みである。
砂糖業界では、蒸気や電力を多量に消費する砂糖の製造工程の脱炭素化が課題となっており、製糖工場における化石燃料の使用量削減が進められている。こうした動きに対して、てん菜生産者も適応し、貢献することが求められている(写真3)。

また、現行のCAPでは、「エコ・スキーム」と呼ばれる、環境や気候変動などへの取り組みを行う生産者に対する基礎支払いの上乗せ支援が設定されるなど、政策面での優遇措置も講じられている。
さらに、EUが進めるカーボンファーミング(注8)は、輪作のほか、有機肥料施用、副産物活用、収穫後のてん菜の葉(残さ)の処理、カバークロップ(主作物の休閑期などに栽培される作物)の利用などを組み合わせて実施される。現在、このような活動を実施する生産者などは、欧州委員会が承認した認証制度に申請することで、認証機関による監査を受け、公的証明書の発行を受けることができる(注9)。このように、低炭素化に向けた仕組みづくりが強化されている。
CIBEは、GHG削減に関連する支援が、削減措置の実施コストを十分に補完できているか、また、その持続性に注目しており、生産者の取り組み継続には、コストと報酬のバランスが極めて重要であると指摘している。
(注8)炭素を土壌に固定し、大気中への炭素排出量を減らす農業であり、炭素農業とも呼ばれる。
(注9)24年11月に欧州委員会によって採択された炭素除去およびカーボンファーミング(CRCF: Carbon Removals and Carbon Farming)規則は、「恒久的な炭素除去」、「カーボンファーミング」、「製品における炭素貯留」に関するEU全体の自主認証枠組みを確立した。25年11月には、同規則の実施規則を採択し、26年2月には、「恒久的な炭素除去」における初めての自主的な認証手法を採択した。
ア てん菜糖生産の動向
てん菜糖生産は、農業部門としてのてん菜生産と工業部門としての製糖工場稼働という二つの側面を持つ。EUは世界有数のてん菜生産地域であり、世界のてん菜糖のおよそ半分を生産する。EUのてん菜糖産業は、主に農村地域の製糖工場において約2万4000人の雇用を生み、サプライチェーン全体では約34万人の雇用を支え、サトウキビ生産が不可能な地域における食料安全保障と地域雇用の維持に重要な役割を果たしている。原料となるてん菜は、砂糖以外にもビートパルプやバイオガスとして利用され、糖蜜は飼料や発酵原料など副産物の利活用が確立している。
てん菜の作付面積は、砂糖相場が好調だった過去2年間には拡大したが、現在は世界的な過剰状態と相場低迷により減少傾向にある(図5)。2025/26年度の砂糖生産量は、世界の砂糖相場低迷に伴うEUの砂糖相場低迷により、てん菜作付面積が減少した結果、1603万トンと見込まれる(図6、7)。


イ 脱炭素化
欧州の製糖工場では、脱炭素化の流れを受け、主要燃料を従来の石炭から天然ガスへ段階的に移行している。CEFSによれば、EUの製糖業界は1990年から2021年の間にCO2排出量を59%削減したとしている。一方、砂糖業界における脱炭素化は、製糖工場が期間限定で稼働する季節産業であるため、年間を通じた収益が得られず、小規模な事業者にとって設備投資が大きな負担になり得るとしている。また、設備産業である砂糖産業は、脱炭素化に向けて、1)工場内のエネルギー効率の改善、2)製糖工程の電化、3)工場で発生する残さや廃棄物由来のバイオマスの活用−などの取り組みが求められるとしつつも、万能の解決策は存在しないと指摘している。
EUでは、排出量取引制度(EU ETS:EU Emissions Trading System)により、EU域内のGHG排出量上限を設定するとともに、排出枠を市場で取引することが可能となっている。CEFSは、同制度の排出権取引により発生した収益が必ずしも収益の貢献者となった産業の脱炭素化に還元されていない現状を批判している。現在、てん菜生産を含む農業部門は同制度の対象外であるが、欧州委員会は将来的な適用の可能性を示唆している。CEFSは、生産者側の反発などを踏まえ、農業部門への導入は困難であると見つつも、規制見直しが続く26年の動向を注視している。
ウ 資源としての活用
EUの砂糖消費は、砂糖と健康に関する議論の高まりにより、消費者が批判的な意見や印象を抱きやすい状況にあることなどから、特に食用を中心に減少傾向にある(図8)。一方、アフリカや東南アジアなど一部地域では、今後も砂糖の消費拡大が続くと見込んでいる。
CEFSの会員企業は、ISOセミナーで紹介されたマイコプロテインなど、砂糖の新規用途開発に取り組んでいる。しかし、てん菜をバイオエタノールの原料とする場合には、食料・飼料との競合作物であるとの理由で、エネルギー利用には制限があることから(注10)、欧州における拡大余地は小さいとされる。てん菜は、生産コストの高さなどからトウモロコシなどの他原料と比較して「高価な作物」と位置づけられており、てん菜の非食用用途の拡大には十分な支援が必要である。
(注10)再生可能エネルギー利用促進指令(RED:The Renewable Energy Directive)」による制限。REDは、2009年4月6日の欧州理事会で採択された「気候・エネルギー政策パッケージ(The EU Energy and Climate Change Package)」の一部として位置付けられている。これまでREDU(18年改正)、REDV(23年改正)と2回改正され、現行のREDVでは、EU全体のエネルギー消費に占める再生可能エネルギー比率を42.5%に引き上げることなどが目標として定められている。

エ てん菜における有機栽培
欧州委員会が2020年5月に発表した「Farm to Fork Strategy(農場から食卓まで)(注11)」には、30年までにEU農地の25%を有機農業とする目標が掲げられている。20年時点のEU農地面積は約1億5500万ヘクタールであり、そのうち、てん菜は約149万ヘクタール(EU農地面積比0.1%)を占めたが、有機栽培に限定すれば約1万2900ヘクタール(てん菜農地面積比0.9%)とごくわずかである。有機栽培のてん菜は、1)圃場での生産コストの高さ、2)製糖工場搬入時に慣行栽培品と混合できないこと、3)有機品を生産する際には、混合を防ぐために製糖期間の初期または終盤に処理する必要があり、その都度、工場の停止と再稼働が必要−などから取り扱いに制約が多く、現在は需要も限定的である。
(注11)欧州グリーン・ディール実現に向け、農業部門で核となる戦略であり、有機農業のほか、農薬、肥料、食品表示などに関する各種目標を定めている。



コラム 砂糖税をめぐる世界の状況世界保健機関(WHO)は2026年1月、「糖類を含む飲料税に関するグローバル報告書(Global report on the use of sugar-sweetened beverage taxes 2025)」を公表した。これによると、24年7月時点で、世界116カ国において1種類以上の糖類を含む飲料に国レベルの砂糖税(コラム注)が課されている(コラム−図)。(コラム注)一般的に糖類を含む飲料や食品に対する課税のこと。導入国ごとに税制の正式名称は異なる。 ![]() このうち、114カ国で糖類を含む炭酸飲料が課税対象となっている。地域別では、アフリカ地域で糖類を含む飲料への適用率が最も高く、対象47カ国の89.4%(42カ国)が導入している。これに続くのが東地中海地域(17カ国中13カ国:76.5%)、東南アジア地域(8カ国中6カ国:75%)、南北アメリカ地域(33カ国中22カ国:66.7%)、西太平洋地域(24カ国中12カ国:50%)、欧州地域(50カ国中21カ国:42.0%)である。また、所得階層別では、低所得国が最も高い適用率(21カ国中20カ国:95.2%)を示している。 報告書では、経済成長に伴う物価上昇の中で飲料価格が据え置かれた場合、糖類を含む飲料が一層手頃な価格となり、入手しやすさが高まることで消費増につながる点を指摘している。このような消費の拡大は、過体重や肥満の有病率と関連する要因と位置付けており、砂糖税などの税制政策は価格を引き上げ、入手しやすさを抑制する効果的な手段であるとしている。 以下に主要国の砂糖税の概要を取りまとめた(コラム−表)。 ![]() 一方、WHOが2015年に公表した「糖類摂取ガイドライン」は、「糖類の完全排除」ではなく、「健康リスクを避けるための上限設定」を目的としている。すなわち、「糖類はゼロにすべきもの」ではなく、「摂取量を適切に管理すべきもの」との立場である。また、糖類の中には砂糖のようにエネルギー源としての機能に加え、脳内の神経物質に働きかけてリラックス効果をもたらすなど、一定の有効性が報告されているものもある。問題となるのは、あくまでも「一定量を超えた過剰摂取」である。 他の食材の事例を見てみると、例えば乳製品のバターは、かつて健康への悪影響が懸念され、長く消費が伸び悩み、「脱脂粉乳の副産物」とまで言われた時期があったものの、14年に米「TIMES」誌で「バターの脂肪は健康に良い」との報告が紹介されたことなどを契機に、健康的な食材として再評価が進み、世界的に消費が拡大した例がある。 どのような食材であれ、過度な摂取が健康に影響を及ぼす可能性がある点は共通であり、砂糖税のような強い政策措置を通じて消費の削減を迫られる状況は、食生活や食文化が十分に機能しない兆候とも言えるのではないか。今後、研究や調査の進展によって砂糖を含む糖類が再評価される可能性もある。従って、その有効性や有益性、適切な摂取量など、科学的根拠に基づく正確な情報を発信することが求められている。 |
