砂糖を利用したお菓子の消費拡大に向けて
〜インバウンド需要調査で見えた課題と展望〜
最終更新日:2026年10月9日
砂糖を利用したお菓子の消費拡大に向けて
〜インバウンド需要調査で見えた課題と展望〜
2026年10月
株式会社ぐるなび パブリックアカウント部
データ・リサーチ戦略プランナー 黒沼 篤
はじめに
近年、日本を訪れる外国人旅行者は大きく増加しており、2025年は約4000万人に及んでいる(図1)。
訪日外国人旅行者による消費に伴う経済需要、いわゆる「インバウンド需要」が日本経済に与える影響が注目され、国内需要の減少を補う有力な柱の一つとして期待されている。砂糖の1人当たりの年間消費量が他国に比べ少ない(図2)日本にとって、訪日外国人観光客の購買力は菓子業界、ひいては砂糖業界の維持・発展に必要な要素であり、インバウンド市場開拓への期待は高まっている。

1 調査目的・結果概要
株式会社ぐるなびは、訪日外国人観光客による砂糖を利用したお菓子の消費増加が見込まれる中、海外における砂糖を利用したお菓子の消費実態を把握し、訪日外国人観光客に向けた今後のマーケティング戦略策定に資する情報を得ることを目的に、農林水産省の補助事業である令和7年度畑作物産地生産体制確立・強化緊急対策事業のうち砂糖等の新規需要開拓支援事業を活用し、全国和菓子協会、一般社団法人日本洋菓子協会連合会の協力を得て、「砂糖を利用したお菓子に関する消費実態・意識調査」を実施した。
本調査は、WEB調査(【日本】2025年9月24〜29日、【日本以外】同年9月30日〜10月17日)、街頭調査(同年11月14・15日)、グループインタビュー(同年12月10〜13日)の3段階に分けて行い、主なポイントとして以下の調査結果が得られた。
【調査結果のポイント】
ア インバウンド客の多くは、土産品として砂糖を利用した菓子類を購入している(表1)。
特に土産用お菓子に高い購入意欲を示し、昨今の訪日観光客数を踏まえると、訪日外国人客のお菓子購入機会は相当な規模に上ると見込まれる。
イ 味の好みや評価軸は、国・地域ごとに異なる。
味の評価は文化によって大きく異なることが試食調査からも明らかとなり、国・地域ごとに同一のお菓子に対して多様な評価がなされている様子がうかがえた。
ウ 嗜好の違いを踏まえた工夫により、新たな可能性が広がる。
以上のポイントを踏まえると、「万人に受け入れられるようにする」という発想よりも、「自店の味を好む人に、いかに見つけてもらい、実際に食べてもらえるか」という視点が重要であると考えられる。
2 調査結果
(1)菓子購入金額から読み解く各国の消費意欲
直近の旅行における「専門菓子店での菓子購入金額(お土産用・総額)」は、中国が6909円、台湾が6119円、米国が4529円と、各国とも日本(3327円)を上回り、海外旅行客の消費意欲の高さを示す結果となった。商品の適正価格を算出するPSM分析
(注1)を用いてお菓子にかける金額を調査した結果、中国の妥協価格は、「旅行中に自身が食べる目的で日本でお菓子を購入する場合(4123円)」に対して、「お土産目的で日本でお菓子を購入する場合(6097円)」が上回る結果となり、他の国・地域でも、自用よりも土産用に高い金額を許容する傾向が見られた。
(注1)消費者(調査回答者)の商品に対する価格感(値頃感)を探るための手法。
(2)日本のお菓子に対するイメージ
WEB定量調査の結果、米国・豪州は「品質が高い」、中国は「種類が非常に豊富」、台湾は「地域限定・ご当地お菓子」が1位となった。グループインタビューでは、「バリエーション豊か」や「パッケージの美しさ」を評価する一方、日本よりも1人当たりの年間砂糖消費量が少ない中国では、「甘すぎる」というイメージが強いことがわかった。
(3)訪日時の専門菓子店での菓子購入重視点
いずれの国・地域でも、「味」、「日本らしさ」が上位に入った。「日本らしさ」についてはグループインタビューの結果、「日本語の文字」、「日本のシンボル(桜、富士山など)」といった分かりやすいものが挙がった。
(4)お菓子に関する情報収集源
旅行先での参考情報は、米国・豪州・台湾では「クチコミ」が1位となり、中国は「SNS」(インターネット交流サイト)に加えて「動画サイト」を重要視していた(表2)。街頭調査では、専門菓子店の認知拡大の手段として「SNS」、「動画サイト」が上位を占めた。訪日リピーターにおいては、「クチコミ」を参考にする傾向にあり、長期的なインバウンド需要獲得には、家族・友人・知人の情報拡散を促す施策が有効だと考えられる。
(5)訪日時のお菓子購入・喫食チャネル
WEB定量調査の結果、豪州・台湾は「コンビニ」、米国は「スーパーマーケット」、中国は「専門菓子店」が最も支持を集めた。「専門菓子店」に関しては、中国・台湾は6割前後と高い一方、米国・豪州は4割前後で、コンビニ、スーパーマーケットを下回る結果となった(表3)。
また、同WEB調査で、訪日中の土産用お菓子の購入総額をたずねたところ、訪日時の土産用お菓子の購入総額は、いずれの国でも専門菓子店がトップとなった。この結果から、1人当たりの購入単価の高い専門菓子店への誘客は大きな経済効果をもたらすと期待できる。
(6)専門菓子店が選ばれにくい背景
アジア以外のエリアにおいて専門菓子店での購入・喫食が少ない要因は、街頭調査で明らかとなった。
日本各地に存在する専門菓子店について、アジアでは4割が認知しているが、アジア以外のエリアでは「知らなかった」が6割以上に上った。さらに、グループインタビューで専門菓子店の外観画像を提示したところ、いずれの国・地域においても、外観から菓子店だと認識されなかった。
3 日本の菓子市場の課題と可能性
(1)本調査で判明した課題
本調査の結果から、訪日外国人観光客は、日本のお菓子への関心が高く購買意欲も旺盛だが、街の専門菓子店への誘客を阻む「三つの大きな壁」が明らかになった。
【三つの大きな壁】
ア 商品が分かりにくい(認知・理解の壁⇒味のミスマッチ)
イ 店舗を探しにくい(情報到達の壁⇒情報源の偏り)
ウ 入りにくい(外観・心理的な壁⇒外観の認識不足)
ア 商品が分かりにくい(認知・理解の壁 ⇒ 味のミスマッチ)
訪日外国人観光客は、日本のお菓子に興味を持ってはいるものの、商品名や見た目だけでは味や特徴をイメージしにくいという課題がある。実際、調査では、国や地域によって甘さや食感に対する評価基準が異なることが確認された。消費者が求める味と商品の特徴が事前に共有されていなければ、「自分の好みに合うか分からない」という不安が生じ、購入につながりにくくなると考えられる。
イ 店舗を探しにくい(情報到達の壁 ⇒ 情報源の偏り)
旅行中の情報収集手段としては、口コミやSNS、動画サイトの影響力が大きいことが分かった。一方で、多くの地域の専門菓子店は、こうした情報発信が十分ではなく、訪日外国人の情報接触機会が限られている可能性がある。特に旅行者は限られた滞在期間の中で行動するため、検索結果やSNSで見つけられない店舗は、来店候補に上がらないという課題がある。
ウ 入りにくい(外観・心理的な壁 ⇒ 外観の認識不足)
街頭調査では、専門菓子店の存在自体を認知していない回答が多く見られた。また、グループインタビューでは、店舗外観の写真を見ても菓子店と認識できないケースが多く、訪日外国人にとって、店舗の業態や商品が伝わりにくいことが明らかになった。日本人には馴染みのある落ち着いた和風のたたずまいが、外国人旅行者には「何の店かわからない」、「入りづらい」という心理的障壁になっている可能性がある。
これらの課題は、個々の店舗が抱えるものであると同時に、日本の菓子文化や砂糖を利用した商品が持つ魅力を十分に伝え切れていないという業界全体の課題でもある。一方で、見方を変えれば、これらの障壁を取り除くことができれば、専門菓子店にはさらなる需要拡大の余地があると考えられる。
(2)今年度の調査目的
上記課題を解消するために、当社では、継続調査として、今年度(2026年度)は、デジタル(集客)とアナログ(店頭)の両面からアプローチする実店舗をフィールドとした実態調査を行う予定としている。「実店舗での検証調査」→「『三つの壁』打開策の習得」→「ノウハウ・ツールの共有」のプロセスで得た知見を、「ありが糖運動」参画企業をはじめとした業界全体に還元することを目指す。
本調査では、「三つの大きな壁」を解消するための施策を各実証店舗に導入して、その効果を検証する。
調査施策の方向性は下記を想定している。
ア「分かりにくさ」を解消する施策
(商品認知アップ、例:菓子内容と甘さレベルの可視化POP)
イ「探しにくさ」を解消する施策
(デジタル誘導、例:Googleビジネスプロフィール&インバウンドメディア配信)
ウ「入りにくさ」を解消する施策
(外観・視認性向上、例:ウェルカムボード&オープンな間口)
まず、アの「商品が分かりにくい」という課題に対しては、商品内容や特徴、甘さの度合いを分かりやすく伝えるPOP(店頭販促)広告や多言語表記などを活用し、商品認知の向上を図る。国や地域によって味覚や嗜好が異なる中で、消費者が自らの好みに合う商品を見つけやすくすることで、購入機会の拡大につなげたい。
次に、イの「店舗を探しにくい」という課題に対しては、Googleビジネスプロフィールの活用やインバウンド向けメディアへの情報掲載など、デジタル施策による誘導強化を行う。訪日外国人観光客の多くは、SNSや口コミ、検索サービスを活用して情報収集を行っていることから、オンライン上での発信力を高めることで、これまで接点を持てなかった潜在顧客への訴求を目指す。
また、ウの店舗に「入りにくい」という課題に対しては、店舗外観の視認性向上やウェルカムボードの設置、店頭での商品訴求などにより、初めて訪れる外国人観光客でも安心して入店できる環境づくりに取り組む。日本人にとっては魅力的な伝統的店舗外観であっても、外国人からは業態が分かりにくいケースもあるため、店舗の存在や商品内容を直感的に伝える工夫が求められる。
これらの取り組みを通じて、「分かりにくい」、「探しにくい」、「入りにくい」という障壁を低減し、専門菓子店への来店機会やお菓子の購入機会の創出につなげるとともに、インバウンド需要を取り込むための知見の蓄積を進めていくこととしたい。
おわりに
本調査により、専門菓子店がインバウンド需要を取り込むための課題が見えた。
専門菓子店への来店の促進は、砂糖を使用した菓子類の消費拡大にもつながることが期待される。
今年度も、当社が掲げる「日本の食文化を守り育てる」という想いの下で調査を継続し、得られた有益な情報を菓子業界・砂糖業界と共有し、日本の豊かな食文化を支える産業の維持・発展を後押ししていきたい。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8678