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海外情報 畜産の情報 2024年4月号

中国における家畜飼養の持続可能な発展の現状と対策

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中国農業大学 王森、張晨、劉玉梅
首都師範大学 谷梓嘉

【要約】

 中国では、畜産業の急速な発展に伴い、環境汚染の問題が深刻化しつつある。本稿では、まず全国および各地域の家畜飼養規模の抑制と汚染状況の二つの面から中国の家畜飼養の持続可能な発展の現状を分析し、そこに存在する問題点を探り、既存の対策措置をまとめた。その上で、それに基づく家畜飼養の大規模化、デジタル・インテリジェント(DX)化、エコ化に向けた持続可能な発展を進める未来像を指し示し、政策的提案を行った。

1 はじめに

 中国では、改革開放政策が実施されてから40年余りが経過したが、その間、国内の畜産業は急速な発展を遂げ、農業分野における基幹的産業となった。2021年、中国の畜産業の総生産額は2兆8329億元(60兆8億円:1元21.18円(注1))に達し、農林水産業の総生産額全体に占める割合は30.5%となった。
 一方で、このような急速な発展は環境汚染を引き起こし、年々、その度合いは深刻さを増している。世界的な視点で見ても畜産は温室効果ガスの大きな発生源とされており、国連食糧農業機関(FAO)の報告データによると、毎年、家畜(牛、羊、ラクダ、馬、豚、家きん)が排出する二酸化炭素換算量は、世界全体の総排出量の18%を占めるとされる。2010年2月公表の中国全土を対象に実施した「第1回全国汚染源一斉調査」(対象は07年)によると、畜産から排出される汚染水に含まれる化学的酸素要求量(COD)(注2)は、農業由来排出量の95.8%、国内総排出量の41.9%であり、総窒素は同37.9%と同21.7%、総リンは同56.3%と同37.9%を占めている(韓振,2020)。
 このため、畜産の環境汚染問題は国や社会全体から非常に重視されるようになっている。中国では、畜産の生産形式を健康的な飼養、生態学的安全性、優れた品質を備えた現代的畜産業へと転換させるため、一連の政策・措置を打ち出している。中国共産党第十八回全国代表大会(2012年開催)以降、新たな発展の理念にのっとり、『家畜・家きん飼育廃棄物の資源化利用の推進加速に関する意見』、『全国家畜・家きん排せつ物の資源化利用の全県的推進プロジェクト業務計画(2018-2020年)』、『畜産業の質の高い発展を促進することに関する意見』など、多くの指導的文書が出された。これらの中では、家畜飼養による廃棄物の資源化・利用の推進に力を入れ、農業と畜産業の循環的な発展を促進し、畜産業を転換・向上させることが明記された。また、総合的な生産力の定着、発展の質と効果の向上、グリーンな発展の推進に重点を置いて、現代的畜産業を構築するために新たなステージを切り開くことが求められた。これらにより、2020年の中国では、畜産が盛んな585の県(区)で家畜排せつ物の総合利用率がすでに75%に達し、大規模畜産飼養農場の排せつ物処理施設設置率(平均)は93%に達した(参考1)
 一連の環境保護政策が打ち出されたことで、中国の畜産業にとって持続可能な発展は必然的な傾向となった。畜産業の転換の初期段階においては、中国の家畜の持続可能な発展に関する研究が欠かせない。そこで本稿では、中国の家畜飼養が拡大する過程で存在した問題点と対策・措置を探ることで、中国の家畜飼養の持続可能な発展の将来性を示し、相応の政策的提案を提示したい。
 
(注1)三菱UFJリサーチ&コンサルティング格式会社「月末・月中平均の為替相場」の2024年2月末TTS相場。
(注2)海水や河川の有機汚染物質などによる汚れの度合いを示す数値。

2 畜産の持続可能な発展の現状

 畜産業の持続可能な発展は、主に家畜飼養規模の抑制や廃棄物の排出削減によって成し遂げられる。本項では家畜のうち、飼養規模が最も大きい豚、牛、羊、家きんについて分析を行った。
 

(1)家畜飼養頭羽数の抑制

 中国における家畜飼養は頭羽数が多く、さらに拡大の速度が速い。図1に示す通り、2007年の豚、牛、羊、家きんの総出荷頭羽数は105億9000万頭羽であったが、21年には同167億9000万頭羽に達し、この間の増加率は58.5%であった。中国の家畜の飼養頭羽数は引き続き拡大傾向にあり、その結果、環境汚染問題もますます深刻なものとなっている。
 家畜の飼養規模を抑制し、畜産業の持続可能な発展を促進するため、中国政府は一連の法律・法規を打ち出し、家畜の飼養規模を合理的な範囲に抑えようとしている。例えば、『中華人民共和国草原法』に基づき農業農村部は2005年、『草食家畜平衡管理方法』を打ち出した。この中で、(1)農業農村部が草原の家畜収容力の基準を定め(2)省レベルまたは地域(市)レベルの人民政府がその行政区域における草原の種類に応じた具体的な家畜収容力の基準を定め(3)県レベルの人民政府が草原使用者または請負経営者が使用する草原、管理された草地および牧草生産地について、直近5年の平均生産能力に基づく家畜収容力を定め、草原使用者または請負経営者の家畜飼養頭羽数を明確にするよう規定した(参考2)。この『方法』に基づき各地では、地方の特色に応じた条例を制定した。これにより、家畜収容力の査定、家畜と草原とのつり合いが取れる状態の分析、草原の生態補助・奨励金の審査と監督、草食家畜と草原とのつり合いが取れる状態の管理、監督、賞罰などについて具体的な規定を定め、それぞれの土地の畜産業の持続可能な発展に導こうとしている。
 内モンゴル自治区のフルンボイル市が制定した『フルンボイル市第三次草原生態保護補助・奨励金政策実施計画(2021-2025年)』を例に取り上げると、市の全範囲内で放牧禁止区域を961万3700ムー(64万945ヘクタール(注3))、牧草・家畜の平衡地域面積を9329万5300ムー(621万9998ヘクタール)に定めた。また、2021〜25年の間、内モンゴル自治区財政庁が6億3246万元(134億円)を支出して同市内の1億290万9000ムー(686万943ヘクタール)の草地に対し草原補助・奨励金政策を実施している。具体的には、放牧禁止草地に1ムー当たり毎年14.4元(305円、1ヘクタール当たり4575円)、家畜と草原とのつり合いが取れる状態の草地に同4.8元(102円、同1530円)を補助している。こうしたことから分かる通り、中国政府は家畜の飼養頭羽数抑制の面として「上から下へ」、「一層ごとに推進する」形式を作り、質の高い発展を十分に保障している。
 
(注3)1ムー=0.06667ヘクタールで換算。


 

(2)畜産の廃棄物

 畜産の廃棄物は、中国の農業における最も中心的な汚染源である。畜産業が発展を続けるに伴い廃棄物の排出量も年々増加しており、生態や環境に極めて大きな脅威を及ぼしている。発生する汚染は、主に水質汚染、土壌汚染、大気汚染の3種類である(呉浩〇等、2020)。
 
ア 水質汚染
 畜産の廃棄物から生じる水質汚染物質は、主に有機物、窒素、リンなどである(呉浩〇等,2020)。第1回全国汚染源一斉調査の結果(図2)を見ると、2007年に畜産から排出された汚水に含まれる化学的酸素要求量(COD)は1268万2600トン(農業由来排出量の95.8%)、総窒素は102万4800トン(同37.9%)、総リンは16万400トン(同56.3%)であった。
 その後の中国政府の対策により、これら水質汚染物質は減少傾向を示している。前回調査から10年後の20年2月に公表された「第2回全国汚染源一斉調査」(対象は17年)によると、CODは1000万5300トン(2007年比削減率21.1%)、総窒素は59万6300トン(同41.8%)、総リンは11万9700トン(同25.4%)とそれぞれ減少した(図2)。つまり、削減の効果は比較的顕著であり、水質汚染物質は減少している。ただし、畜産が農業由来の汚染の中心的な発生源であることに変わりない。


 
イ 土壤汚染
 中国では、家畜飼養で生じるふん尿など排せつ物の排出量がかなり多い上、変動しながらも近年は増加傾向を呈している。図3に示す通り、2007年の家畜排せつ物の排出量は24億6000万トンであったが、21年には26億3000万トンに増加した。土壌の収容能力を超える家畜排せつ物の排出は、速やかに土壌に吸収されず、アンバランスな土壌構造、有害物質の継続的な累積を引き起こす。さらに、有害な成分がこれら農地で生産される農産物に吸収され、または土壌に残留し、食品生産に大きな脅威を及ぼす可能性もある。そのため、排せつ物の排出量を減らすことは、家畜飼養の持続可能な発展を実現する上で重要な事項となる(呉浩〇等,2020)。


 
 図4に示した通り、21年の牛からの同排出量は11億8000万トンと家畜の総排出量の45.0%を占め、これに続く豚が10億2000万トンと同38.8%を占めた。飼養頭羽数と排出量を総合的に分析すると、家きんは単位当たりの排出量が比較的少ないため、飼養頭羽数では家畜全体の90%以上を占めるものの、総排出量では5%前後を占めるにすぎない。
 一方で、総飼養頭羽数の1%にも満たない牛は、総排出量の5割近くを占めている。つまり、それぞれの生物的特徴によって排せつ物の排出量に顕著な差がある。こうしたことから、排せつ物の排出量削減、家畜飼養の高品質で持続可能な発展を進めるうえで、家畜飼養の規模や構造の改善が極めて大きな潜在力を有していることが分かる。
 家畜排せつ物の排出量には、地域による差異も存在する。図5に示した通り、20年の排出量上位3省は四川省(1億4400万トン、全国の総排出量に占める割合は8.1%)、山東省(1億2800万トン、同7.2%)、河南省(1億2500万トン、同7.1%)であった。それぞれの地域の飼養規模が直接反映されている。




  
ウ 大気汚染
  家畜飼養で生じる大気汚染物質は、揮発しやすい不快臭のある液体のメルカプタン、アンモニア、硫化水素、哺乳動物のふんなどの悪臭成分の一つであるスカトールが中心であり、畜産は世界で2番目の温室効果ガス発生産業にもなっている。家畜のライフサイクルから見ると、畜産の炭素排出は(1)胃腸内の発酵(2)ふん尿の管理(3)飼料穀物の栽培(4)飼料の輸送・加工(5)飼養段階のエネルギー消費(6)と畜・加工−の6段階を発生源としている。そこから発生する炭素排出量は世界の総排出量の14.5%に達する(呉浩〇等、2020:張金○・王紅玲、2020:何可等、2020)。この部分の大気汚染物質の排出状況を分析する。
 中国の家畜飼養に起因する温室効果ガスの排出は、2006年にピークに達した後、顕著に減少に転じ、その後は一定水準を維持している。張金○・王紅玲(2020)の計算によると、図6に示したように、17年には家畜飼養による二酸化炭素排出量は3億4670万トンであり、07年(4億564万トン)比で14.5%減少している。この減少については、飼養方法の転換や技術の進歩、技術的な効果が大きな役割を果たしている(周晶等、2018)。技術の進歩は、家畜の成長周期の短縮を通じて温室効果ガス排出削減の重要な役割を発揮している。また、飼養段階の飼料効率を高めることで、飼料生産における温室効果ガスの排出を抑えている。このほか、大規模な家畜飼養の形式は、飼養段階における石炭、電力、水資源の利用効率をいっそう高め、関連の温室効果ガスの排出量をさらに抑えるなど、多くの面で炭素排出量の削減を実現している(周晶等,2018)。
 また、大まかな地域区分で見ると、全体として中・西部で多く、東部で少ない傾向を示している。図6から分かる通り、17年には西部の温室効果ガス排出量が最も多く(1億3184万トン)、中部がこれに続き(1億2895万トン)、東部は最も少なかった(8591万トン)。さらに、07年から17年までの間、東部は一貫して中部、西部を下回り、全国の総排出量に占める割合も30%未満にとどまっている。人口の増加、都市化、農業構造・家畜生産の効率化など、さまざまな要因が地域による家畜飼養の温室効果ガス排出の大きな差異の中心的原因になっていると考えられる(姚成勝等、2017)。

3 畜産業の持続可能な発展に関する問題

 中国の畜産業の持続可能な発展にとっての大きな問題は、家畜排せつ物の処理効果の低さであるが、遅れた家畜飼養技術、不足する疾病防止・対処能力、保証されていない畜産物の品質・安全性なども、発展を阻む要因となっている。
 

(1)家畜排せつ物処理効果の低さ

 家畜飼養による排せつ物は総量が極めて大きく、その処理は土地政策、農業の発展、生産者の資質、技術的水準などによって制約され、所期の効果をあげることは難しい。仇煥広等(2012)の分析によると、耕種農業と畜産の分離の程度や畜産農家の認識のレベルが、排せつ物の処理やその効果に顕著な影響を与えている。全体的に見て、家畜排せつ物の処理には、持続可能な飼養形態の推進が十分に行われておらず、さらには、適応性が劣る、排せつ物の資源化が進んでいないといった問題が存在する。
 まず、直接排出する場合と比べて無害化処理はコストが高くつくことから、一部の畜産農家などは処理を施さずに直接排出してコストを削減する道を選ぶことになり、持続可能な飼養形態が推進されない。中国では現在でも各農家が土地請負経営権を通して耕種農業を行う形態が中心であるが、一部の畜産農家では排せつ物を受け入れるための専用の土地を確保する能力や意欲が見られない。さらには畜産業の多くが耕種農業から独立して発展しているために、地域内で耕種農業と畜産業とのバランスを取ることも難しく、排せつ物の処理に高額なコストを要することが原因で、持続可能な飼養形態の実現が困難となっている。
 次に、家畜排せつ物の資源化利用と処理などの新しい形態は実行の効率が悪く、効果も芳しくない。中国では家畜飼養関連の汚染防止対策が開始された時期がかなり遅く、(1)飼養従事者の総合的な資質が低いこと(2)汚染対策技術が適切に認知されていないこと(3)地域によって異なる飼養関連の汚染処理に関する経験が乏しいこと−などが相まって、畜産農家はやみくもに処理施設の設置を選択してしまい、施設のランニングコストの高さ、処理の不十分さなど、さまざまな問題を引き起こす結果となる。それは持続可能な飼養形態の普及をさらに妨げることにつながっている。
 さらに、家畜排せつ物の資源化利用の水準が不十分である。排せつ物の資源化利用は難度が高く、科学的で効率的な利用形態も不足していることから、ほとんどの家畜飼養農家はいまだに「水で洗い流す」ことを排せつ物の処理方法としている。2015年、中国には一定規模の畜産農家が計13万9147戸あったが、そのうち2万4184戸が「水で洗い流す」ことで片付けていた(比率は17.4%)。一定規模の養豚場では水で洗い流す清掃方式の割合が21.57%に達しているという(呉根義、2016)。この清掃方法は、多くの水資源を必要とし、水資源の浪費となるほか、大量の汚水に高濃度の汚染物が含まれることになり、家畜排せつ物の処理も利用も難度が高まり、処理のコストはさらに高く、「汚染物の排出+水資源の浪費」の二重のマイナスが引き起こされる。
 

(2)飼養技術の遅れ

 中国では家畜飼養に従事する者の資質が相対的に低く、飼養に対する考え方や技術が遅れている。研究によると、中国では家畜飼養は主に中・西部や農村地域に分布しているが、そうした地域の経済的発展の度合いと、東部や都市部の発展度合いとの間にはかなり大きな開きがある。現代化に対する飼養従事者の意識も相対的に薄弱であり、技術の研究開発やその普及を阻む要素も大きい。さらには、「家族単位、世帯単位」の小規模で分散した飼養が家畜飼養の主な形態となっているため、高いコストの投資や機械化が進まないといった問題がある(〇燕,2020)。
 現時点において、畜産関連の機械化措置は、主に自動給水・給餌施設、ふん尿の自動清掃システム、計画的照明切り替え設備などの簡単な機械設備にとどまっており、全プロセスの機械化は当面の実現性はない。また、飼養管理技術も十分にインテリジェント化されておらず、精細ではない。さらには、飼料の配合比率は科学的ではなく、畜舎の温度、風通しの状況も制御が難しく、それが家畜の成長や繁殖に影響を及ぼすとともに、家畜排せつ物も資源化利用には適したものではなくなることで、最終的に排せつ物処理の効果に影響が生じる(張栄花、王春暁、2022)。
 

(3)伝染病の予防・対処能力の不足

 家畜伝染病の頻発、防疫の経験不足、低い実施効果が畜産業の持続可能な発展を阻む重要な要素となっている。
 第一に、多くの小規模畜産農家に家畜伝染病の予防・対処意識が行き渡っておらず、整った隔離・消毒殺菌施設が不十分である。さらには家畜伝染病の発生初期に飼養者がパニックを起こして家畜を投げ売りしたり、殺処分したりする現象が発生して、大量の有害汚染物が排出され、環境リスクを劇的に拡大させてしまうことがある。
 第二に、家畜飼養地域が均等に分布していないため、中国では家畜の移動が大変頻繁に行われ、その移動の過程には(1)輸送用車両の登録管理制度の未整備(2)車両の不統一な設備基準(3)厳格ではない販売輸送に対する規制−といった問題がある。その結果、家畜の伝染病感染リスクが増すとともに、それがまた、汚染物質排出の隠れた発生源となっている。
 第三に、伝染病防止体制の基盤が整備されておらず、また、検疫の業務量が多く、人手が不足している上に検疫水準も不十分であるため、伝染病予防業務や産業発展のニーズを満たすことができていない。これにより「ネットワークの漏れ、つながりの断裂、人の分散」といった問題が生じ、多くの予防対策措置が机上の空論となって管理が難しくなり、伝染病の予防制御効果は低く、汚染物質の排出リスクも増大してしまう(孫永健、2020)。
 

(4)畜産物の品質・安全管理の不足

 畜産物の品質・安全に関する管理が適切でない場合、家畜飼養の効率は大きく下がり、飼養の持続可能な発展も影響を受ける。畜産物の品質・安全の問題は産業チェーン全体の問題であり、上述の問題とも密接に関係している。
 第一に、家畜の排せつ物が適時に処理されなかったり、処理が不適切であったりした場合、飼養環境が汚染され、細菌の繁殖によって家畜の疾病のリスクが増大するとともに、飼養効率にも影響が及び、さらには畜産物の品質・安全に悪影響を来す。
 第二に、家畜飼養の過程で飼料の配合比率が科学的根拠に基づかない場合、家畜は順調な成長や発育ができなくなり、生産される畜産物の質も下がる。さらには飼料に薬物、添加物などが不適切に混入していれば、食品の安全性にも深刻な脅威が生じる。
 第三に、伝染病の予防・制御が不適切であると、家畜は伝染病に罹患したり、死亡したりすることになり、病死した家畜で食品が製造されれば消費者の健康に深刻な危害が及ぶ可能性がある。

4 持続可能な発展のためのガバナンス措置と成果

 家畜飼養の持続可能な発展を推進するため、中国共産党と国はさまざまな措置を同時に講じ、法律・法規、補助金による奨励、技術指導などの面から家畜飼養に対するガバナンス、是正を行っている。
 

(1)法律・法規

 中国は関連の法律・法規を制定して、畜産の廃棄物の排出を規範化し、家畜伝染病の予防対策、現代的畜産業と公共衛生事業の発展のために統一的な取り決めを行っている。また、家畜飼養の汚染防止対策ならびに畜産廃棄物の総合利用や無害化処理の科学技術の研究や装備の研究開発を奨励・支持している。さらに、特定地域での家畜飼養施設・飼養エリアの建設禁止、家畜飼養で生じる廃棄物の種類と数量の把握、廃棄物の総合利用と無害化処理の計画と措置、廃棄物の収容と処理の状況ならびに環境への直接的排出に関し、最終的に水質・土壌環境や人の健康に与える影響を抑制、削減する方法と措置などについての環境評価を実施している(参考3)
 2013年には、国務院が『家畜・家きん大規模飼養の汚染防止条例』を採択し、家畜飼養による汚染を防止し、畜産廃棄物の総合利用と無害化処理を推進し、環境を保護、改善して、人々の健康を保障し、畜産業の持続可能で健全な発展を促進することを打ち出した。防止条例の規定に基づき、家畜飼養場・飼養エリアは、飼養規模や汚染防止・汚染対策の必要に応じて、(1)家畜のふん尿/汚水と雨水の分流施設(2)家畜のふん尿/汚水の貯蔵施設(3)ふん尿の嫌気発酵/堆肥化・有機肥料加工(4)家畜の死体処理などの総合利用・無害化処理施設―を建設することが求められる(参考4)
 

(2)補助金による奨励

 中国は補助の範囲を拡大し、補助率を引き上げている。農業農村部は、家畜排せつ物の資源化利用の全県推進プロジェクトを指揮し、処理施設・装備の建設を重点的に支援している。具体的には、畜産が盛んな585の県のすべてをカバーし、一定の規模を有する飼養農家10万世帯近くを支援するとともに、累計で400社以上の有機肥料製造企業、専門的なメタンガス製造企業なども支援してきた(参考5)。また、各省・自治区が相応の補助金基準を打ち出してインフラの整備、良種の母豚、繁殖雌豚の導入、大規模飼養、家畜防疫などに対するさまざまな補助金を打ち出している。全体的に、2025年までに家畜飼養の一定規模化率を70%以上、家畜排せつ物の総合利用率を80%以上、さらに30年にはこれをそれぞれ75%以上、85%以上とすることが計画されている。
 

(3)技術指導

 中国は農業農村のビッグデータ事業の構築推進を急ぎ、農業のIoT、ビッグデータ、ブロックチェーン、人工知能(AI)、5G(第5世代移動通信システム)などの新型インフラの構築に加え、現代的情報技術を応用した研究開発と普及を推進するとともに、農業農村のデジタル化とインテリジェント化の水準を全面的に引き上げることを推進している。さらに、関連の技術を利用して、現代的な飼養体系の構築、家畜防疫体系の整備、現代的加工・流通体系の構築を急ぎ、畜産業の高品質で持続可能な発展を推進している。
 

(4)企業の取り組み

 国による政策の推進や指導の下で、畜産企業も家畜飼養の重要な主体として、持続可能な飼養形態のために努力している。正大集団、希望集団、牧原集団、温氏集団、正邦集団などを中心とする大型企業は、従来の単一な飼養生産方式を改め、飼料や動物用薬品の生産、育種、飼養、と畜・加工の全産業チェーン型へと転換している。また、一部企業は先進的な技術設備、管理、生産形式も導入している。例えば、環境制御に関係するインテリジェントな飼養設備・技術を家畜の飼養生産プロセスに応用して、家畜飼養施設の温度環境、空気の質や照明などをコントロールし、生物感知や音声、個体の特徴を利用して家畜の識別を行い、細やかな給餌、ふん尿の自動清掃、鶏卵などの自動集荷などを行う(楊飛雲等、2019)。
 

(5)各種対策の成果

 全体的に見て、中国における持続可能なガバナンスは比較的顕著な効果を上げている。仇煥広等の調査によると、表に示した通り、2005〜10年の間、専門的養豚農家から排出されるふん尿について、廃棄比率は25%ほどの割合が続いているが、メタンガスとしての利用や販売の割合は比較的低いものの、やや増加している(仇煥広等、2012)。

5 家畜飼育の持続可能な発展の将来性

 健康な食事に対する関心や考えが広まる中、畜産物のニーズはまだ相当の伸びしろがあり、今後も、家畜飼養頭数や畜産物の品質は、いずれも非常に大きな発展の可能性がある。従来の家畜飼養は汚染が深刻で、効率が悪かったことを考えると、家畜飼養の大規模化、デジタル・インテリジェント(DX)化、エコ化などの持続可能な方向への発展は必然であり、家畜飼養は高品質な方向へと発展する必要がある。
 

(1)大規模化

 家畜飼養の大規模化とは、主に飼養頭数を増やし、飼養コストを抑え、全体的に効率を高めることを指す。現在、中国では、家畜飼養の集約化があまり高くはなく、大規模飼養を行う企業数も少なく、小規模な飼養農家の数が多い。しかし、小規模な飼養農家は家畜伝染病の予防・制御能力が弱く、汚染防止・対策の監督管理も困難とされ、汚染物質の無害化処理技術や科学的で高効率な技術を推進するためのコストは高くなる。このため、市場競争が激しく、産業の転換が進む中、家畜飼養の大規模化は今後、スケールメリットを発揮して大規模であるがゆえの優位性を実現し、より低い生産コストでより大きな市場占有率を確保することで、より高い飼育収益を実現することになる。同時に、汚染物質の排出を効果的に抑制し、畜産業の持続可能な発展を実現する役割を果たしていくことになる。
 

(2)デジタル・インテリジェント(DX)化

 家畜飼養のDX化は、関連技術を利用して飼養に科学的技術を導入し、飼養効率を高めるものである。インターネットとITは、現在、急速にさまざまな伝統的業界にも浸透し、これら業界を再構築しつつあるが、家畜飼養もまた例外ではない。豚を例にとると、DX化の特徴を持つ「豚の健康飼養のための生態環境インテリジェント制御技術」は全方位的な自動確認、全プロセスの情報化制御、すべての栄養の正確な供給、チェーン全体のクラウドプラットフォーム遠隔管理を実現するものである。豚飼育の高品質化、精緻化の重要な取り組みとなっており、今後、企業のために顕著な経済的利益、生態面の利益、社会的利益をもたらすと見込まれる。
 

(3)エコ化

 家畜飼養のエコ化は、環境と飼養効率をともに重視し、資源を循環利用して、持続可能な飼養を実現するものである。従来の畜産業がやみくもに生産量を追求し、環境保護の重要性を軽視した結果、汚染物質が大量に排出されることとなり、また、畜産物の質も高まらず、それが畜産業の健全な発展をかなりの程度制約してきた。持続可能な新しい飼養形式は、今後、汚染対策とエネルギー開発、資源の回収利用を有機的に結びつけるものとなり、畜産廃棄物を総合利用し、廃棄物の減量化、無害化、資源化を実現して、環境に対する汚染を大幅に抑えるものとなるに違いない。

6 結論と提案

(1)監督管理を強化して、エコな畜産業を発展させる

 まず、戦略的な面において、川上から川下まで、中国的な特色を備えた畜産業の持続可能な発展メカニズムを形成する必要がある。国は適時に関連の法律・制度を制定し、家畜の飼養規模と排出量、製品の品質と安全性検査の実施基準を厳格化する必要がある。また、行政・法執行部門は監督管理を強化して、(1)生産、排出、輸送、加工の全プロセスの品質制御・管理を整備し、(2)飼養場の隔離・消毒殺菌施設の構築と整備、廃棄物の低炭素化・無害化、輸送・加工過程の完全に透明なシステムの構築を推進し、(3)企業が汚染物質の発生を最小限に抑えるための包括的な生産形式を実行することで安全かつ高品質な畜産物を提供できるよう力添えし、(4)従来型の畜産業がエコな畜産業へと発展するよう推進することで、畜産業の持続可能な発展を実現する。
 

(2)政策による支援を強化して、飼養技術のDX化を普及させる

 次に、技術的な面において、効率のよいDX化技術の研究開発と応用を推進し、同時に政策的支援、経済面での支援を拡充する。畜産廃棄物の無害化、資源化処理は、飼養者にはあまり経済的な利益をもたらさないが、社会、環境全体などに対する影響は大きく、経済の外部性がかなり高い。このため、政府は政策による誘導・指導、資金支援などの方法でこれを手助けし、家畜飼養の持続可能な発展を統一的に取り扱い、すべての関係者を導く役割を発揮しなければならない。法律、行政、経済、宣伝などさまざまな方法を通して連携を生み出し、家畜飼養で生じる負の部分を排除し、技術的訓練に力を入れ、企業がDX化飼養技術を導入するよう奨励するとともに、畜産業の構造調整と産業のレベルアップを推進し、畜産業の科学技術性を高め、飼養効率を高めていく必要がある。
 

(3)従業者の専門的資質を高め、新しい経営主体を育成する

 最後に、家畜飼養に従事する者の資質を高め、畜産業の持続可能な発展のために人材を育成する。宣伝・訓練によって飼養従事者の環境保護意識や低炭素意識を高め、家畜のふん尿処理技術、処理設備を応用する能力を高めて、汚染の防止・対策の効果を確実に高める。加えて、多様な形態の大規模経営の発展を奨励し、他を導く効果が明らかな畜産のトップ企業、合作社(経常的な経済活動を行う協同組織)、家族経営農場を重点的に育成し、新しいタイプの大規模経営主体の生産のシェアを拡大する。これにより、一定の規模を持つ経営主体との繋がりをもって、小規模経営者が現代的な家畜飼養生産形態とリンクし、現代的生産要素や大規模市場環境に主体的に結びつくよう促進する。こうして、大規模経営主体をリーダーとし、さまざまな経営規模が互いに協調する、高品質の畜産経営の体系を形成し、畜産業の高品質で持続可能な発展を実現する。
 
参考資料
(参考1)中華人民共和国国家発展・改革委員会
(参考2)中華人民共和国農業農村部
(参考3)中華人民共和国中央人民政府
(参考4)中華人民共和国中央人民政府
(参考5)農業農村部:飼育廃棄物の資源化利用設備に対する補助金拡大について
 
参考文献
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