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でん粉の麺用途における最近の動向

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最終更新日:2010年4月30日

でん粉の麺用途における最近の動向

2010年5月

松谷化学工業株式会社研究所 第二部2Gグループリーダー 横山 公一

1 はじめに

 麺は小麦粉から作るうどんや中華そばが代表的であるが、小麦以外の穀物粉を主体に作るそばやビーフン、あるいはでん粉を主体に作るはるさめやくずきりなど、バラエティーに富み食生活上の重要な食品として位置付けられている。
 
 それぞれの麺は時代ごとの消費者の要求に適応しながら現在に至っている。うどんを例にとってみると1950年代は「ゆで太りするうどん」、1960年代は「ゆで置きできるうどん」が求められ、1970年代は「おいしいうどんを作る時代」となった。1990年代になると、さらに調理の簡便性や保存性が求められるようになり、ゆであがりが早く、コシがあり、舌触りが滑らかで風味に優れているものが良いうどんとされた。うどんは小麦粉中の小麦でん粉が、加熱調理により糊状へと変化したものである。生のときのでん粉は、微細な粒子の状態であり、消化吸収も良くないが、加熱するとでん粉の粒が膨潤・崩壊し糊状のアルファー型になりおいしくなる。ところがアルファー型のでん粉は室温に放置したり、冷たいところに置いたりすると、変化を起こし硬くもろい状態になる(1)。このようにでん粉が糊化したのち硬くもろくなることを老化というが、硬化を防ぎ老化を抑制する素材の一つとして、でん粉が利用され、さらに調理時の糊化促進や摂取時の食感改良にもでん粉添加が試みられてきた。
 
 本格的にでん粉が麺に使用されるようになってから数十年が経過した現在、でん粉の麺への使用量は安定しており、添加量もほぼ一定の基準ができている。
 
 麺へのでん粉使用の歴史を表1に示す。本格的な麺類へのでん粉使用は、1970年代の即席麺へのばれいしょでん粉の使用に始まる。その後、のど越しの良さや新しい食感を求めてワキシーコーンスターチやタピオカでん粉の使用が始まった。流通形態の変化や簡便性志向などと相まって、冷凍麺・LL(ロングライフ)麺・加熱不要の水さばき麺および調理麺などが市販されるに至り、加工でん粉の使用も広がっている。2000年代になると、さらに加工度の高い加工でん粉により品質向上が図られている(2)。
 
 

2 各種でん粉の麺食感への影響

 小麦粉に対して5%以上のでん粉を添加すると、麺は一様に滑らかでのど越しが良くなる。また、でん粉の種類ごとに異なる食感が付与される。麺に各種でん粉を添加した場合の食感変化を図1に示す。ワキシーコーンスターチやもち米でん粉は最も柔らかい食感となり、緑豆でん粉では最も硬い食感となる。ばれいしょでん粉は、硬さを伴った粘りが付与され、タピオカでん粉は、もちもちとした粘りの強い食感が得られる。一般にコシと弾力が強く、粘り感の強い食感が好まれており、ばれいしょでん粉やタピオカでん粉が麺類に良く利用されている。
 
 
 

3 各種加工でん粉の麺品質への影響

 麺の食感は各種加工でん粉の添加によっても、異なる品質が得られる。異なる加工方法を施したでん粉を添加した場合の食感変化を図2に示す。リン酸架橋デンプンではサクサクした硬い食感になる。酢酸デンプンやヒドロキシプロピルデンプンなど、エステル化やエーテル化した加工でん粉ではソフトでモチモチした食感になる。アセチル化アジピン酸架橋デンプンやアセチル化リン酸架橋デンプンおよびヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプンなど、架橋エステル化や架橋エーテル化処理した加工でん粉では、モチモチ感に硬さを付与したような食感になる。
 
 また、生麺や即席麺などの調理時間を短縮するには、酢酸デンプンなどエステル化処理した加工でん粉が常用される。冷凍麺やチルド麺では、保存時の食感劣化抑制を図るため、酢酸デンプンやヒドロキシプロピルデンプンが使用される。
 
 

4 麺へのでん粉使用の実態

 各種麺の製造法を図3にまとめた。基本的には、ミキシングから切り出しまでほぼ同様な製造工程であるが、切り出し以降の工程が異なる各種の麺(生麺、即席麺、冷凍麺、チルドゆで麺、特殊麺)を下記に記す。表2では麺の種類によるでん粉使用をまとめている(3)。
 
4−1 生麺(乾麺を含む)
 生麺や乾麺におけるでん粉の用途として、まず麺線同士の付着防止目的で使用される打ち粉がある。打ち粉には、でん粉の粒径が大きく、均一であるため粉体流動性に優れたサゴでん粉を原料に選択する場合が多い。さらに麺調理時のゆで湯の粘度上昇を抑制し、麺が均一にゆであがり易くなるようでん粉糊液粘度が低粘度となる加工を施した酸化デンプンが用いられる。麺に練り込む形ではばれいしょでん粉やタピオカでん粉が、ゆで時間の短縮や食感改良の目的で利用されている。
 
4−2 即席麺
 即席麺では、その名称の通り即席性いわゆる復元性の向上目的でばれいしょでん粉やタピオカでん粉が利用されている。油揚げ麺における、酢酸デンプンを添加した場合の吸水速度の違いを図4に示す(4)。近年の即席麺は生麺の食感を目標とし、麺線の太い製品が多く上市されている。太く厚い麺線の復元性向上適性としては、ばれいしょでん粉を原料とした酢酸デンプンが優れており、添加量の増加により対応することが出来る。特徴ある食感の付与を目的としてばれいしょやタピオカの各種加工でん粉やそのアルファー化品、あるいはオクテニルコハク酸デンプンナトリウムが使用される。
 
4−3 冷凍麺
 冷凍麺は、ゆであげ直後に急速冷凍処理を行うため、麺線中の外側と内側で水分勾配(水分含量のバラつき)が維持されたまま喫食することが可能である。チルドゆで麺の均一的な食感とは異なり、ゆであげ直後の粘弾性に優れた食感となる。冷凍麺とチルドゆで麺の内部状態の違いを図5に示す。
 
 冷凍麺は、製造時のでん粉老化による品質低下を改善するためにでん粉原料自身が老化しにくいワキシーコーンスターチやタピオカでん粉が利用されてきた。近年は冷凍技術の進歩により、この問題は解決されてきたが、流通時や購入後の冷解凍による品質劣化防止や、湯がきたての生麺に近い粘弾性の強い食感付与を目的に、各種加工でん粉が利用されている。
 
4−4 チルドゆで麺
 チルドゆで麺は、図6に示すように再加熱を行うタイプ(ゆで麺)と再加熱を行わないタイプ(冷水で洗う水さばき麺やコンビニエンスストアなどで販売されている調理麺)の2系統に大別される。
 
 喫食時に再加熱を行うタイプは、食感改良目的が優先され、ばれいしょでん粉やタピオカでん粉の酢酸デンプンが良く使用されている。一方、再加熱を行わないタイプは、老化耐性も考慮されてタピオカでん粉やワキシーコーンスターチのヒドロキシプロピルデンプンが使用されることが多い。コンビニエンスストアで販売される調理麺は、麺線のほぐれ改良や強いコシ食感が求められており、ばれいしょでん粉やタピオカでん粉のアセチル化アジピン酸架橋デンプンやアセチル化リン酸架橋デンプンおよびヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプンが使用される場合がある。
 
4−5 特殊麺
 特殊麺の代表的な製品ははるさめやくずきりで、ばれいしょでん粉を主原料に、かんしょでん粉やコーンスターチやくず粉が併用されている。また韓国冷麺や盛岡冷麺は、小麦粉とばれいしょでん粉やかんしょでん粉から作られ、そば粉が添加される場合もある。最近は、はるさめやくずきりあるいは冷麺類を従来設備(通常のミキサーや麺機)により製造出来るよう、アルファー化でん粉をつなぎ剤として使用し製造する場合がある。アルファー化でん粉は水に溶解してすぐに粘度が上昇するでん粉で、湯練りをせずに通常の水練りで生地製造が可能となる。つまり小麦粉未使用もしくは小麦粉使用量の少ない麺においてアルファー化でん粉は必須な原料となる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

5 まとめ

 麺へのでん粉添加は、数十年前から始まり、小麦粉の一部分をでん粉に置き換えることで、食感の改良や調理性の改善および保存時の食感劣化抑制効果が認知され、必要不可欠な素材として定着した。しかし、でん粉添加により、麺の味が薄くなる点や水っぽくなり糊感が強すぎる点などの短所を併せ持っている。麺に利用するでん粉の研究に携わる立場の者としては、これらの課題を解決し、さらなる付加価値付与のため、小麦粉風味を増強する機能や復元性のさらなる向上機能、粘弾性の強い食感を付与する機能など、市場の要求に応えられるよう高機能なでん粉および加工でん粉の開発にまい進していきたい。また、麺にとって必要不可欠なでん粉は、予期せぬ天候不順や虫害などにより原料作物収穫量の変動があるが、安定供給が大前提であり、品質面の安心・安全および安定を肝に銘じ、麺の食文化を支えたいと考える。

参考文献

(1)大塚滋:パンと麺と日本人
(2)不破英次,小巻利章,檜作進,貝沼圭二:澱粉科学の事典
(3)高橋禮治:でん粉製品の知識
(4)横山公一:月刊フードケミカル、12月号(2002)
 
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