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でん粉を利用したエコ容器

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最終更新日:2010年4月30日

でん粉を利用したエコ容器

2010年5月

日世株式会社 経営企画室開発部部長 和田 強志

はじめに

 企業や家庭から出される各種の廃棄物の減量と処理は、世界的な課題となっています。中でも、日本では一般廃棄物の多くを占める「容器や包装」については、その処理をめぐり、各方面の注目を集めています。こうした状況のなか、当社では1993年より、環境にやさしい容器の開発に取り組んできました。
 
 ここでは、こうした技術開発の経緯と、その結果生み出されたでん粉を主成分としたエコ容器についてご紹介します。

「エコどんぶり」(=バイオマス生分解性プラスチック複合容器)とは

 「エコどんぶり」とは、世界初の生分解性・バイオマススナックめん専用容器であり、でん粉を基材とし生分解性フィルムを被覆した「地球にやさしい環境対応のワンウェイ容器」です。地球にやさしいとは、「自然から生まれ(=入口のバイオマス利用)自然に還る(出口での生分解性機能の発揮)」ことを指します。具体的に言うとこのエコ容器は、自然から生まれた植物資源をベースに、最終的には炭酸ガスと水に生分解され自然に還る原料で構成されています。そしてカーボンニュートラルな性質は、CO2増加を抑制し地球温暖化防止に役立つと考えられます。
 
■カーボンニュートラルって、なに!
 バイオマスには、もともと植物が光合成により取り込んだ二酸化炭素が含まれています。そのためバイオマスを燃やしても、発生する二酸化炭素は自然にかえるだけ。このように、二酸化炭素の増減に影響を与えない性質のことを「カーボンニュートラル」といいます。
 
 

エコ容器開発の経緯

 当社は昭和26年に日本に初めてソフトクリームを紹介し、コーンカップ、ソフトクリームミックス、フリーザーなど、ソフトクリーム関連製品を製造販売しています。
 
 バイオマス生分解性プラスチック複合容器(以下、「エコ容器」)は、このソフトクリームを構成する重要な要素であるコーンカップの製造技術開発をベースに開発されました。
 
 コーンカップは、容器の役目を果たしながら、ソフトクリームやアイスクリームをよりおいしく引きたてる味と食感を備えた食品、すなわち「食べられる容器」です。コーンカップは、ソフトクリーム・アイスクリーム専用容器であると同時に、容器がゴミとして残らない究極の環境対応容器(可食容器)だったのです。
 
 このコーンカップの製造技術と特長を活かし、「新しい時代の容器を創ろう!」という発想から、様々な研究開発を実行してきました。
 
 

基礎研究開発期

 エコ容器の基礎になる開発期(1993〜1999年)には、まだ「バイオマス」や「サスティナブル(持続可能な)」と言った言葉は出てこなかったのですが、食物残渣や未利用廃材(酒かす・おから・油かす・茶殻・みかんの表皮など)を原料としてプレス成形する容器の開発(特許第3085554号等)やでん粉発泡体をベースに大豆タンパク・コラーゲンなどを加え加工特性を向上させる技術、大豆タンパクシートをラミネートコートすることにより耐水性を補強する技術(特許第3221933号等)など、現在注目されている食物残渣や未利用バイオマス利用やサスティナブル素材の活用を具体化するため、加工技術の研究開発をしていました。また、「生分解性」は、開発初期から維持している技術開発・製品開発の基本コンセプトです。

第1次マーケティングテスト

 1990年代前半の研究開発の成果は、リッカビーバイオパック社(オーストリア)と共同して商品企画したトレイタイプ(エコウェアー)のでん粉発泡容器が、1994年リレハンメル冬季オリンピックの公式食器として採用されたことに代表されます。日本でも、選手村食堂でウェイトレスがエコトレイを食べる写真が報道されずいぶん話題になりました。
 
 この1990年代に実施した第1次マーケティングテスト期の商品コンセプトは、「自然から生まれ、自然に帰る」、「天然素材(じゃがいものでんぷん)を原料とした地球にフレンドリーな容器です」でした。この第1次マーケティングテストにおいて、耐水性が非常に重要な要素であることが明確になりました。当時のエコトレイは、耐水性が不足していたので、この機能向上・改良が、1990年代後半の大きな開発テーマとなりました。

製品開発期

 前述の第1次マーケティングテストの結果を踏まえ、2000〜2007年に開発されたのが、今回紹介する「エコどんぶり(エコカップ)」です。
 
 このエコ容器は、非常に高い機能性を要求するスナックめん(=インスタントラーメンを代表とするカップめん)容器として開発されました。スナックめん容器は、「食品コンテナーとしての機能」、「調理器具としての機能」、「食器としての機能」を、一つの容器ですべてこなす高い機能性を必要とします。きわめて日常的で身近なスナックめん(カップめん)ですが、大ヒットした背景には、非常に高いパフォーマンスを発揮する機能性が詰め込まれているのです。
 
 

エコ容器の構造

 でん粉発泡体を基材とし、その表面を生分解性プラスチックフィルムで被覆した、新しいカテゴリーのスナックめん専用容器です。
 
 ■生分解性プラスチックって、なに!
 通常のプラスチック製品と同じように使えて、しかも使用後は自然界の微生物や分解酵素によって水と二酸化炭素に分解されて行く、“自然に還る”プラスチックです。この「生分解性プラスチック」の中には、(1)化石資源を原料とするもの(2)バイオマス(生物資源)を原料とするものがあります。(生分解性プラスチック研究会)
 
 

スナックめん容器としてのエコ容器の利点

 発泡ポリスチレン容器や紙プラスチック複合容器と同等の機能・性能を満たし、さらに生分解性も有する当社のエコ容器は、消耗品として大量に使用され、地球に優しいことを要求されるインスタントラーメンに代表されるスナックめん容器に最適です。
 
■スナック麺容器に求められる性能とは
 透湿耐性・酸素透過耐性・耐水性・耐熱性・断熱性・安全性・強度など

生分解性(=自然に還る)

 エコ容器は、でん粉発泡体が基材であるため、生分解性プラスチック単体の同様製品より生分解スピードが早く、生ごみと一緒に捨てても、土の中の微生物によって、水と二酸化炭素に分解されます。
 
 
 
 
 

誤飲・誤食に対する安全性

 当社のエコ容器は、食べられません。しかし、でん粉を主体とし健康に対する安全・安心な材料を基材として使用しています。表面を被覆する生分解性プラスチックフィルムも、おなかの中では分解されないものを使用していますので、万一の誤飲・誤食に対しても安全です。

第2次マーケティングテスト

 2008年夏季に、即席めんメーカーからエコ容器を使用したスナックめんが発売され、同時期に開催された北海道洞爺湖サミットや各種展示会でのサンプリングを実施し、当該商品もエコ容器も高評価(2008日本パッケージングコンテストで「ジャパンスター賞(日本包装技術協会会長賞)」を受賞)を得ました。
 
 

おわりに〜バイオマス生分解性複合プラスチック容器の将来〜

 当社のエコ容器に代表される「バイオマス生分解性複合プラスチック容器」は、まだまだ社会的に広く認知された製品ではありません。それによって起こる問題もあります。エコ容器は、基本的に可燃ゴミに分類されます。しかし、エコ容器を知らない消費者は、プラスチック製品と類似した外観と強度・質感から判断して不燃ごみ・プラスチックとして分別してしまいがちです。また、食物であるでん粉を容器に使用することに対する厳しい眼もあります。価格的にも、まだまだポリスチレン容器に代表される汎用プラスチック製品ほど安価ではありません。
 
 しかし、毎年大量に収穫される「でん粉」という天然素材を原料とした容器開発に注目する研究者・開発者は多数存在し、米国ではハンバーガー容器に、欧州では果物や精肉用トレイに、韓国やタイではインスタントヌードル用にと、世界各国で「でん粉」を使用したサスティナブル容器の開発は進められています。これらの開発が進むと同時に、生分解性プラスチックが普及し、安価になり、バイオマス日本総合戦略やカーボンフットプリントに代表されるCO2削減のための各種施策がどんどん具体化する近い将来に、より一層「バイオマス生分解性複合プラスチック容器」が注目されるであろうことを期待します。
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:情報課)
Tel:03-3583-8713