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北見農業試験場におけるばれいしょ育種体制について

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最終更新日:2010年7月1日

北見農業試験場におけるばれいしょ育種体制について

2010年7月

地方独立行政法人 北海道立総合研究機構 研究部作物育種グループ 主査(馬鈴しょ)

江部 成彦 (農林水産省ばれいしょ育種指定試験地)

 

1.ばれいしょ育種体制の変遷

 北海道としてのばれいしょ育種は、昭和32年、北海道立農業試験場根室支場(現根釧農業試験場)に農林省(現農林水産省)指定試験地が設置されたのが始まりです。主にでん粉原料用品種の開発を行ってきましたが、需要の変化と耐病虫性育種を強化するため、畑作物を中心に研究している北海道立北見農業試験場へ、平成10年に移転しました。
 
 平成22年4月からは、地方独立行政法人北海道立総合研究機構(以下、道総研)農業研究本部北見農業試験場として組織機構が大きく変わりました。馬鈴しょ育種担当も、牧草の育種スタッフとともに作物育種グループの一員となって新たな体制で出発しています。
 

2.育種目標

 設立当時は、戦後のでん粉需要の増加により作付面積が増えてきたことを背景に、道東地域のでん粉原料用ばれいしょの安定生産が育種目標でしたが、北見農試移転後は、ジャガイモシストセンチュウ(以下、シストセンチュウ)抵抗性品種の早期育成のため、また加工用原料需要の増加に対応するため、「寒地北東部向け、病害・線虫抵抗性、でん粉および加工食品原料用品種の育成」として現在に至ります。
 
 北海道、特に道東・道北に適するでん粉原料用のほか、コロッケ、サラダ、チルドなど業務加工用やポテトチップ用の品種を育成しています。時代のニーズに合わせて目標も多様化していますが、でん粉原料用品種の開発が業務の大きな柱であることは今も変わりません。
 
 現在のでん粉原料用品種の育種目標は、
(1)植物防疫上の大きな問題であり安定生産の阻害要因であるシストセンチュウに抵抗性であること、
(2)最も作付面積の大きい「コナフブキ」並又はそれ以上にでん粉収量があること、
(3)固有用途需要の多かった「紅丸」並にでん粉品質が優れていること、
 に重点を置いています。
 
 また、多発すると著しく減収する疫病や種いもで伝染すると被害が大きいYモザイク病に強い育種素材を作出することも行っています。
 
 

3.新品種育成の具体的手法

 図1に北見農試におけるばれいしょ品種育成までの流れを示しました。でん粉原料用もこの中に組み込んで実施しています。新品種育成は、真正種子を得る交配から始まり、およそ11年の歳月を要します。でん粉特性は、特に有望な組合せは交配3年目から、その他は4年目から調査と選抜を開始します。
 
 病害虫抵抗性では、最も重要なシストセンチュウに対しては、Yモザイク病とともに道総研中央農試で開発されたDNAマーカーを用いて育成初期に選抜しています。疫病については、北見農試の病虫部門と連携しながら圃場選抜を繰り返します。
 
 交配7〜8年目から行う特性検定試験では、北見農試でシストセンチュウ、そうか病と塊茎腐敗に対する抵抗性、北農研センター及び北見農試で疫病抵抗性、北農研センターで打撲黒変耐性、中央農試でYモザイク病抵抗性、長崎県農林技術開発センターで青枯病抵抗性など、各地の関係機関と連携しながら実施しています。8〜9年目以降は北農研センター及び道総研各農試において、さらに10年目以降は全道各地の現地試験に供試し、生育、収量などについて適応性を確認します。
 
 

4.近年の成果

 北海道では現在、でん粉原料用専用品種としては約18,000ヘクタールが作付けされています。このうち85%を占める「コナフブキ」は、でん粉価が高く、安定多収であることから、それまでの「紅丸」に換わり主力品種となりました。しかし、「コナフブキ」のでん粉はリン含量や離水率が高いなど、「紅丸」とは特性が異なっており、実需の要望を十分に満たしているとは言えません。
 
 一方、でん粉原料用の主産地では、年々シストセンチュウの発生地域が拡大し安定生産の脅威となっているため、シストセンチュウ抵抗性のない「コナフブキ」に換わる抵抗性品種の育成が強く望まれています。これまでにも抵抗性品種は開発・導入されてきましたが、収穫時期が遅かったり、収量性が十分でなかったため、栽培面積はそれほど増加していません。
 
 このため、前述の3つの育種目標に合致した品種「北育13号」を育成しました。「北育13号」はシストセンチュウ抵抗性で、生育期間は「コナフブキ」と同程度です。収量性は「コナフブキ」と概ね同等で、でん粉品質(リン含量、離水率)は「紅丸」並に優れます。塊茎に紫色の斑が入りますが、でん粉の白度は全く問題ありません。
 
 本品種は平成22年1月に北海道の優良品種に認定され、3年後の平成25年から一般栽培が開始される見込みです。ただし、小粒塊茎の割合が高く掘り残しによる雑草化が増える懸念があり、また多湿条件では収量が変動する試験事例も見られたため、普及あたっては産地での栽培特性を考慮しながら進めることが肝要です。
 
 シストセンチュウ発生地域及びその周辺の「コナフブキ」の一部に置き換わることを期待しています。
 
 
 
 
 
 

5.今後の課題

 ばれいしょは、北海道の畑輪作体系を維持するうえで不可欠な作物です。また、北海道はばれいしょでん粉国内供給量のほぼ全量を生産し、食料の安定供給においても重要な役割を担っています。そのため、一層の低コスト生産と高品質化が求められており、品種開発の果たす役割はますます大きくなっています。
 
 でん粉原料用では「北育13号」の育成によって、シストセンチュウ抵抗性と「紅丸」並のでん粉品質に、「コナフブキ」並の収量性と枯凋期を組み合わせることができましたが、収量安定性や管理作業上の問題が残されています。従って、安定生産と低コスト化のためには、こうした特性を改善した、産地にとってさらに作りやすい品種が望まれると考えています。一方、でん粉品質については、当面、「北育13号」や「紅丸」並の離水率、リン含量及び糊化特性を維持することが目標ですが、ばれいしょでん粉をより安心して利用いただくためには、固有用途を中心として様々な原料に求められる品質特性を再確認し、選抜に反映させていかなければなりません。
 
 北見農試の組織体制は大きく変わりましたが、今まで以上に産地と実需の動向やニーズを的確に把握し、要望に応えられる新品種の育成を目指していきます。
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:情報課)
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