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世界のでん粉需給の見通し

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最終更新日:2010年11月4日

世界のでん粉需給の見通し
〜天然でん粉と化工でん粉について〜

2010年11月

調査情報部調査課

はじめに

 でん粉は、地理的条件や気候などに応じてとうもろこし、ばれいしょ、小麦、キャッサバなどさまざまな原料作物から生産され、天然でん粉として流通するほか、糖化製品、発酵製品、化工でん粉などに加工されて流通している。
 
 原料作物のうち、とうもろこし、小麦およびキャッサバについては、その価格がここ最近上昇傾向で推移しており、これに合わせてでん粉生産を取り巻く状況も変化している。
 
 本稿では、世界の主要な天然でん粉(コーンスターチ、タピオカでん粉、ばれいしょでん粉、小麦でん粉)、およびデキストリンを含む化工でん粉の最近の生産状況と消費の見通しについて、英国の調査会社LMC社の報告に基づき紹介する。
 
 

1.天然でん粉

(1)コーンスターチ
 〜引き続き中国で需要増の見込み〜

 コーンスターチは天然でん粉の中では最も多く生産されており、2009年の生産量は、1254万トンであった。地域別には、アジアが837万トンと最も多く、世界全体の約2/3を占め、次いで北アメリカの250万トン、ヨーロッパの126万トンと続いている。
 
 一方、2009年の消費量は、生産量と同様にアジアが最大の840万トン、次いで北アメリカの245万トン、ヨーロッパの123万トンであった。北アメリカおよびヨーロッパにおいて、2009年の景気後退から、特に製紙業での需要が落ち込んだが、現在は回復傾向にある。
 
 2014年の消費の見通しについては、アジアが2009年比56.8%増の1318万トンまで増加すると予測される。特に中国での需要が伸び、約300万トンの消費増が見込まれる。中国は現在、食用および飼料用とうもろこしを確保するためにでん粉用への仕向けが制限されており、米国からとうもろこしを輸入しているものの、コーンスターチ生産能力は大きく変化していない。
 
 しかしながら、増え続ける国内需要に応えるためには、生産能力の拡大を図る必要がある。今後見込まれる中国のでん粉需要の増加および生産能力の拡大によっては、米国産とうもろこしへの引き合いはさらに高まるとみられる。
 
 
 

(2)タピオカでん粉
 〜今後はタイの害虫被害の動向に注目〜

 タピオカでん粉は、天然でん粉の中でコーンスターチに次いで生産量が多く、2009年の生産量は804万トンとなっている。地域別には、アジアが722万トンで世界全体の約9割を占めており、次いで、南アメリカの70万トン、アフリカの11万トンとなっている。
 
 2009年の消費量も、生産量と同様にアジアが最も多く711万トン、次いで生産地域でもある南アメリカ71万トン、アフリカ14万トンとなっている。
 
 消費量は今後増加傾向で推移し、2014年には世界全体で、2009年比36.2%増の1100万トンと予測される。現在、タピオカでん粉の価格は、タイで発生した害虫被害による減産に加え、中国などの需要増によって高騰しているが、同時にとうもろこしなどの価格も上昇しているため、かろうじて競争力を保っている状況である。
 
 今後見込まれるアジアの需要増に応えるのは主産地である東南アジアであろうが、ユーザーの間では現在のところ、タピオカでん粉価格高騰を受け、ほかのでん粉への代替を模索するなどの動きもみられる状況であり、今後はタイの害虫問題が解決されるかどうかにその生産量や価格は大きく左右される。
 
 アジア以外では、地域産の原料作物によるでん粉の利用がコスト的にも持続性の面でも有利であるため、タピオカでん粉の需要はほぼ横ばいで推移すると見込まれる。ただし、アフリカでは、タピオカでん粉がコーンスターチとの間で価格競争力を保つ限り、需要は伸びると見込まれ、キャッサバの主産地であるナイジェリアでは、タピオカ産業の積極的な振興が図られている。
 
 
 

(3)ばれいしょでん粉
 〜EU産の供給見通しは不透明〜

 ばれいしょでん粉は、ヨーロッパが最大の生産地域となっており、2009年の生産量は、117万トンと世界全体(161万トン)のうち約3/4を占めている。そのほかの地域では、アジアで38万トン、北アメリカで6万トンが生産されている。
 
 2009年の消費量は、ヨーロッパ78万トン、アジア62万トン、北アメリカ15万トンとなった。EUにおけるばれいしょでん粉需要は景気後退から2009年に落ち込んだが、2010年には回復傾向にある。また、EU産ばれいしょでん粉価格は、2009年には需要減やばれいしょの豊作により前年から大きく下落したが、2010年後半に入って減産したタピオカでん粉の代替としてアジアからの引き合いが増加したことに加え、ばれいしょ生産の落ち込みに伴う供給減により上昇傾向にある。
 
 2014年の消費量は、世界全体で、2009年比20.2%増の192万トンと予測される。この増加分31万トンのうち、約2/3がアジアでの需要増によるものと見込まれる。
 
 EUは2008年、共通農業政策(CAP)の中間見直し(ヘルスチェック)において、ばれいしょでん粉関連政策を見直すことを決定した。これを受け、既に生産払戻金(域内産穀物利用に対する補助金)を廃止し、輸出補助金についても交付がなされていない。また、2012年度(10月〜翌9月)以降は、生産割当制度やばれいしょでん粉の最低保証価格制度などが廃止されることとなっている。
 
 このため、2012年度以降のEUのばれいしょでん粉供給の見通しについては不透明な部分が多い。業界は安定的な販売先確保のため、域内向けとしては、ばれいしょでん粉を評価している製紙および食品向けに注力していくとみられる。また、輸出向けとしてはばれいしょでん粉の特性に着目した市場を狙うと予測される。
 
 なお、EUのばれいしょでん粉に関しては、9月号「EUのでん粉をめぐる状況」に、中国のばれいしょでん粉に関しては、今月号の調査・報告「中国のばれいしょでん粉需給」に詳述しているので参照されたい。
 
 
 

(4)小麦でん粉
 〜副産物価格が収益面で貢献〜

 小麦でん粉の生産は、ばれいしょでん粉と同様にヨーロッパが最大の生産地域となっている。2009年の生産量は、52万トンと世界全体(113万トン)のうち約5割を占め、次いでアジア41万トン、北アメリカが10万トンと続く。
 
 一方、2009年の消費量は、生産と同様にヨーロッパが最も多く50万トンで、アジア45万トン、北アメリカ9万トンとなった。
 
 2014年の消費量は、2009年比49.1%増の167万トンに達するとみられる。特にアジアでの需要増が見込まれ、2010年にはヨーロッパを抜いて最大の消費地になると予測される。アジアの需要増は、今後も小麦でん粉がほかのでん粉と比較して価格競争力を維持できるかに大きく影響を受けると考えられる。
 
 小麦でん粉は、コーンスターチなどと比較して市場規模は小さいが、現在のところでん粉生産の副産物として得られる小麦たん白の価格が高水準で推移していることから、生産コストが低くなっており競争力がある。主産地であるEUでは、小麦でん粉生産が増加しており、現在小麦のでん粉原料用仕向け量は、5年前と比較すれば100万トンほど増加している。
 
 しかしながら、今後急激な生産能力の拡大は行う必要性がないと考えられている。これは、ヨーロッパでの消費量の大幅な増加が見込まれないこと、仮に能力を拡大すると安定的であるが比較的弾力性に欠く小麦たん白市場が大きく影響を受け、価格の下落を引き起こすと懸念されることによる。
 
 
 
 
 

2.デキストリンを含む化工でん粉

〜米国が主な供給者として台頭〜
 
 化工でん粉は、アジアが最大の生産地域である。2009年の生産量は、266万トンと世界全体(718万トン)のうち約4割を占め、次いでヨーロッパ217万トン、北アメリカ192万トンとなっている。化工でん粉生産は、2009年には景気後退、特に製紙業での需要減に影響を受けたが、2010年にはヨーロッパおよび北アメリカで急速に回復を見せている。
 
 2014年の消費量は、天然でん粉と同様、アジアにおいて大きく増加し、世界全体では2009年比26.0%増となる908万トンと予測される。また、中国は、需要の急増が見込まれるものの、国内生産で賄うことは難しく、輸入によって対応すると考えられる。中国は2009年、タイの総輸出量が前年比で2万トン減少する中にあって、前年より4万トン多い化工でん粉をタイから輸入した。
 
 一方、ヨーロッパでは、輸出補助金の削減によって、純輸出量は減少傾向が続いていたが、2009年には輸入量が減少したため、わずかながら増加した。主要な化工でん粉輸出国は米国(コーンスターチ由来)およびEU(ばれいしょでん粉由来)となっているが、今後EUのばれいしょでん粉生産が大きく成長することは考えにくいため、米国が世界の化工でん粉の主な供給者として、生産規模を拡大していくと予測される。
 
 
 

まとめ

 2009年、でん粉需要は景気後退から世界的に落ち込みを見せた。しかしながら、2010年には景気回復に伴って需要増の動きが見られる。特にアジアにおける消費の伸びは、生産のそれを上回って推移すると見込まれる。
 
 その牽引役となっているのは中国であり、同国が天然でん粉および化工でん粉市場に占める存在感は非常に大きくなっている。今後のでん粉需要を見通す上では、中国の動向に注目していく必要があろう。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:情報課)
Tel:03-3583-8713