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サゴでん粉をめぐる現状と将来

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最終更新日:2011年2月2日

サゴでん粉をめぐる現状と将来

2011年2月

東京農工大学大学院生物システム応用科学府 教授 岡崎 正規

 

1.サゴヤシおよびサゴでん粉の基礎知識

 東南アジアの国々では、でん粉を「サゴあるいはサグ」と呼ぶことが多い。したがって、でん粉を抽出できる植物も「サゴ」と言う。サゴヤシ(Metroxylon sagu Rottb.)は東南アジアの湿地に生育するヤシで、樹高は20mにも達し、幹に多量のでん粉を蓄積する(*1,*2)。
 
 ひとたびサゴヤシの吸枝きゅうし(サッカー)を植栽すると、その後の栽培管理は、吸枝のコントロールと雑草の刈り取りでよく、一般に、施肥は行わない。成熟するまでに約10年を必要とするが、1本のサゴヤシから約200kgの乾燥でん粉を得ることができ、1haに100から120本を植栽すると、20トンのでん粉を生産できる。
 
 キャッサバ、トウモロコシ、ばれいしょから生産されるでん粉は、1ha当り1〜2トンである。サゴでん粉の粒径は、30〜50μmで、トウモロコシでん粉(10〜20μm)よりも大きく、ばれいしょでん粉(15-75μm)(*3)と同程度かやや小さい。サゴでん粉は、規則的なグルカンの結晶構造を持つアミロース(23〜27%程度)(*4)およびアミロペクチン、さらに非晶質成分とからなる。X線回折像から、でん粉は、A(トウモロコシなど)、B(ばれいしょなど)、C(AとBの混合物)の3タイプに区分されるが、サゴでん粉はCタイプ(*5)に類別されている(図1)(*6)。
 
 Aタイプでん粉(*6,*7)は、グルカンの二重螺旋らせん構造が細密に充填し、単斜晶系の結晶構造をつくり、構造(6グルコース残基を1単位として二重螺旋構造をつくるために12グルコース単位となる)内には4〜8分子の水分子しか存在しない。水分子の多くは構造の外に存在し、Aタイプでん粉の物性、とくにゲル化温度を支配している。
 
 一方、Bタイプでん粉(*8)は、グルカンの二重螺旋構造が空隙を作って充填し、六方晶系の結晶構造を形成しており、空隙内に6グルコース残基(二重螺旋構造であるので12グルコース単位)を1単位として36の水分子を留めておくために、Aタイプでん粉よりも、水中で加熱すると膨潤しやすく、粘度が上昇しやすい(糊化しやすい)。
 
 上述したように、サゴでん粉は、Cタイプでん粉(*9)であるが、大部分はAタイプで、Bタイプを少量含み、両者の性質を併せ持っている。水中で加熱すると膨潤する程度が異なる二つのタイプを併せ持っている特性を生かして、わが国では、サゴでん粉はもっぱら麺類の打ち粉として利用されているが、今後、サゴでん粉の特性を生かした食品として、また工業材料としての展開が期待されている。
 
 
 
 

2.マレーシア、インドネシア、パプア・ニューギニアにおけるサゴでん粉の生産と我が国への輸出

 サゴヤシの生育は、東南アジアの湿地に限られている。自然状態に近いサゴヤシ生育面積は、225万haであり、積極的にサゴヤシを栽培している面積は、22万4000haで、全サゴヤシ生育地域の9%にしか過ぎない(図2)(*10)。
 
 
 
 積極的にサゴヤシを栽培している地域は、パプア・ニューギニア14万8000ha(66%)、インドネシア4万5000ha(20%)、マレーシア2万ha(9%)、タイ3000ha(1%)、フィリピン3000ha(1%)などに限定されている(図3)。サゴでん粉の生産量を定量的に扱った統計は知られていないが、これまで発表された文献(*11,*12,*13)を総合して、約40万トン/年のサゴでん粉がインドネシア、マレーシア、パプア・ニューギニアで生産されている(図4)と推定している。
 
 
 
 
 
 明確なサゴでん粉生産量が不明であるのは、生産されたサゴでん粉が、現地で消費され、世界の貿易統計に現れにくいことにある。2009でん粉年度(2009年10月〜2010年9月)における我が国のでん粉需要量(見込み)(*14,*15,*16)は、260万トンで、その65%である170万1000トンが異性化糖・水あめ等に利用され、化工でん粉34万4000トン(13%)、繊維・製紙・段ボール16万5000トン(6%)、ビール9万7000トン(4%)、水産練製品2万5000トン(1%)、その他26万8000トン(10%)である。
 
 一方、2009でん粉年度における我が国のでん粉供給量(見込み)は、262万4000トンで、その84%である219万8000トンがコーンスターチであり、輸入でん粉の中の「その他用」1万2000トンの大部分が、サゴでん粉である(図5)。我が国に輸入されるサゴでん粉は、主としてマレーシア、インドネシアからで、2009暦年では、マレーシアからは1万3979トンが、インドネシアからは1404トンが輸入されている(図6)。我が国に輸入されたサゴでん粉の大部分は、輸入されたままでは使用されず、酸化後、酸化でん粉として利用される。

3.我が国におけるサゴでん粉の利用と国内でん粉市場における展望

 現在、輸入されたサゴでん粉は、酸化、漂白され、酸化でん粉として使われており、化工前のでん粉と比較すると、糊化開始温度が低くなり、粘度が低く、老化しにくいことから、ゆで湯に溶出せず、ゆで湯が濁らなくなるため、ゆで湯の取り替え回数が少なくて済む。したがって、我が国では、サゴでん粉は、そば、うどん、ラーメンなどの麺類やシュウマイ、餃子の皮の打ち粉として利用されている(図7)。
 
 最近の研究(*17)から、サゴでん粉を糊化させると、そのゲルが透明となり、離水量が少なく、粘弾性に優れ、保型性がよいなどの特徴から、わらび餅の製造に適していることが知られるようになった。さらに、サゴでん粉がA、B両タイプのでん粉からなることから、サゴでん粉を賦形剤として利用すれば、主薬の分子サイズに応じて、でん粉の結晶構造の内外に主薬を分離・吸着させることができ、サゴでん粉そのものを利用して新たな薬剤のデリバリーシステムを構築することができる(*18)。
 
 こうしたサゴでん粉の特徴を生かした利用方法の他に、でん粉を工業的に利用する場合には、サゴでん粉以外のでん粉と同様に、異性化糖・水あめ、水産練製品(*19)、加工でん粉、繊維・製紙・段ボール接着材、ビール、グルタミン酸ナトリウム、バイオ燃料(*20)、生分解性プラスチックなどの用途が見込まれる(*21)が、サゴでん粉が他のでん粉と競争できる基盤に立つには、一定の品質(*21,*22)のサゴでん粉が、一定量確実に供給される体制を確立する必要がある。
 
 

文 献

(*1)山本由徳(1998)サゴヤシ, 熱帯農業シリーズ, 熱帯作物要覧 No. 25, 109 pp, 国際農林業協会, 東京
(*2)サゴヤシ学会編(2010)サゴヤシ 21世紀の資源植物, 390 pp, 京都大学学術出版会, 京都
(*3)Prez, S. and Bertoft, E(2010)The molecular structures of starch components and their contribution to the architecture of starch granules: A comprehensive review. Starch/Strke, 62, 389-420
(*4)Tie, A. P. , Karim, A. A. and Manan, D. M. A. (2008)Physicochemical properties of starch in sago palm(Metroxylon sagu)at different growth stages. Starch/Strke, 60, 408-416
(*5)濱西知子・八田珠郎・Jong, F. S. ・高橋節子・貝沼圭二(1999)サゴヤシの生育段階および部位におけるデンプンの理化学的性質, 応用糖質科学, 46, 39-48
(*6)Imberty, A., Bulon, A.,Tran, V.,Prez, S. (1991)Recent advances in knowledge of starch structure. Starch/Strke, 43, 375-384
(*7)Wu, H. C. and Sarko, A. (1978)The double-helical molecular structure of crystalline A-amylose, carbohydrate research, 61, 27-40
(*8)Imberty, A. and Perez, S. (1988)A visit to the three-dimensional structure of B-type starch. Biopolymers, 27, 1205-1221
(*9)Okazaki, M. , Igura, M., Kimura, S. D., Lina, S.B., Matsumura, S., Nakato, T.,Takahashi, K.,Quevedo, M. A. And Loreto, A.B. (2008)Development of the structure of sago starch. Sago: Its Potential in Food and Industry, Ed. By Y. Toyoda, M. Okazaki, Quevedo, M. and Bacusmo, J., p. 127-135, TUAT Press, Tokyo
(*10)江原宏(2010)世界におけるサゴデンプンの生産量, サゴヤシ, p. 247-253, 京都大学学術出版会, 京都
(*11)Bujang, K. B. and Ahmad,F.B. (2000)Production and utilization of sago starch in Malaysia. Sago 2000: Proceedings of the International Sago Seminar, Bogor, March 22-23, 2000, p.1-8, UPT Pelatihan Bahasa-IPB, Bogor
(*12)Bourke, R. M. and Vlassak, V. (2004)Estimates of Food Crop Production in Papua New Guinea. The Australian National University, Canberra
(*13)Secretariat of Directorate General of Estates(2006)Tree Crop Estate Statistics of Indonesia 2004-2006 SAGO, 25 pp. Jakarta
(*14)財務省(2010)財務省貿易統計
(*15)農林水産省(2010)でん粉の需給見通しについて
(*16)板垣啓四郎(2009)サゴヤシとサゴでん粉の話〜インドネシアの調査を通じて〜, でん粉情報, No. 25,p.1-5
(*17)高橋節子・平尾和子(1994)サゴ澱粉の理化学的性質と和菓子への利用, 共立女子大学家政学部紀要, 40, 59-64
(*18)Okazaki, M.(2009)Function and utilization of sago starch as a pharmaceutical excipient, pp. 96, Tokyo University of Agriculture and Technology
(*19)Sompongse,W.,Morioka,K., Yamamoto,Y. And Itoh,Y. (2006)Comparison of the effect of sago starch and potato starch on the textural properties of gels cooked from walleye pollack frozen surimi. SAGO PALM, 14, 45-52
(*20)Singhal, R.S.,Kennedy,J.F., Gopalakrishnan, S.M.,Kaczmarek,A., Knill, C. J. and Akmar, P. F. (2008)Industrial production, processing, and utilization of sago palm-derived products. Carbohydrate Polymers, 72, 1-20
(*21)岡崎正規(2010)21世紀におけるサゴヤシの将来, サゴヤシ, p.347-358, 京都大学学術出版会, 京都
(*22)Karim, A. A. , Tie, A. P. Manan, D. M. A. and Zaidul, I. S. M. (2008)Starch from the sago(Metroxylon sagu)palm tree-properties, prospects, and challenges as a new industrial source for food and other uses. Food Science and Food Safety, 7, 215-228
 
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