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健康な中高年男性と若年男性への糖負荷時の血糖値の変化について

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最終更新日:2014年11月10日

健康な中高年男性と若年男性への糖負荷時の血糖値の変化について

2014年11月

昭和女子大学 生活科学部
小川 睦美、清水 史子、石井 幸江、黒田 みさき、尾 哲也、志賀 清悟
昭和大学医学部 木庭 新治
群馬大学大学院保健学研究科 中嶋 克行
NPO法人「食と健康プロジェクト」 高田 明和

【要約】

 50〜80代の健康な中高年男性と、20歳前後の健康な若年男性を被験者として、50gのグルコースもしくはスクロースを単回投与した場合の血糖値の変化を測定し、比較検討した。中高年男性ではインスリン抵抗性を示していること、グルコースおよびスクロース摂取後の血糖曲線から算出される血糖指数(GI:glycemic index)は、スクロースではグルコースに比べて低いことが確認された。

はじめに

 血糖とは血液中のグルコースのことである。

 哺乳類のエネルギー源として重要な糖は、でん粉を構成するグルコースのほかに、乳糖を構成するガラクトースやショ糖の構成糖であるフルクトースがあるが、これらは血糖には含めない。従って、血糖値とは血中グルコース量のことを指す。

 グルコースは、脳、神経系、赤血球の主要なエネルギー源であり、またすべての細胞において優先的にエネルギー源として利用される。生命維持のためには、グルコースが細胞に安定供給される必要があるため、血糖値は空腹時でも70〜110mg/dLに保たれている。食後、血糖値は上昇するが、これに対応してすい臓β細胞からインスリンが分泌され、グルコースの各細胞への取り込みを促すため、健常者では食後およそ120分には血糖値は定常状態に戻る。

 インスリンを分泌する臓器はすい臓のβ細胞のみであるため、中高年期に達しβ細胞の働きが鈍くなると、インスリンの分泌量や作用能力の低下が起こり、グルコースが細胞に取り込まれにくくなるため血糖値が上昇し、高血糖の状態が持続することになる。

 では、高血糖や糖尿病を防ぐには、原因となる糖の摂取を制限すれば良いのだろうか? 

 表1は、世界各国の糖尿病有病者数、有病率と国民一人当たりの砂糖消費量を示したものである。糖尿病有病者数で日本は世界第10位にランクされており、メディアではこの数字が取り上げられることが多いが、有病率(成人人口に対する有病率、世界の年齢構成を踏まえた修正値)で比較すると日本は5.1%であり、調査対象のおよそ220カ国中、下から50番以内に入っている。また、砂糖の一人当たりの消費量を比較すると、日本は2009年以降一人当たり16kg台で推移しているのに対し、有病率(修正値)が日本と同等のオランダでは約44kgと、日本の3倍近い消費量がある。表1をもとに、糖尿病有病率と砂糖消費量の相関を見たものが図1である。砂糖の消費量と糖尿病の有病率に相関性は見られない。
 
 
 また、図2は日本人の糖尿病受療率と砂糖の消費量を示したものである。日本人の砂糖消費量は、年々減少しているにもかかわらず、糖尿病の受療率は増加している。つまり、砂糖の消費量と糖尿病の間には相関が認められないのである。 
 一方、肥満が糖尿病発症の一因であることは厚生労働省や日本糖尿病学会などが明確にしている。確かに世界の肥満大国のトップ10にランクされる国は、砂糖の消費量が多いのも事実である。しかし、肥満の原因は、摂取エネルギーと消費エネルギーのアンバランスが大きな要因であるから、総摂取エネルギー量や脂質エネルギー比率と運動のバランス、生活リズムなども考慮しなければならないはずだが、なぜか日本人の思考の中では、肥満に至る多くの原因を排除し、「砂糖⇒肥満⇒糖尿病」が成立する。

 食と健康プロジェクトでは、糖質、特に砂糖がヒトの生体に与える生理的、情緒的、知的影響を科学的に明らかにすることを目的とし研究を行っているが、糖に関する研究の多くは、グルコースによるものであり、スクロースを中心とした一連の先行研究はほとんどない。

 そこで筆者らは、50〜80代の健康な男性45名と、20歳前後の若年男性36名を被験者として、50gのグルコース、フルクトース、スクロースを単回投与した際の血糖値および血中インスリン濃度を経時的に測定し、併せて血中脂質プロフィール、食事調査などを行っている。本稿では、グルコースとスクロース摂取後の血糖値の変化について報告する。

1. 方法

(1)被験者
 中高年男性被験者(e群)は、糖尿病などの疾病を有さず、投薬などの治療を受けていない、健康な50〜80代の男性45名とした。この一部は高尾らの報告(砂糖類・でん粉情報2013年10月号)に詳細が記載されている被験者である。

 若年男性被験者(y群)は、疾病を有さず、投薬などの治療を受けていない、健康な20歳前後の男子大学生36名とした。

 両群ともに、健康状態については、自己申告により確認を行った。

 なお、本研究は昭和女子大学倫理委員会の承認を受けて実施した。

(2)被験試料
 被験試料は、グルコース、スクロースとした。

 市販のペットボトル入り飲料水(550mL)を用意し、あらかじめ50mL程度の水を捨てた後、試料50gを加え、キャップをして緩やかに混和し溶解した。

 対照群として試料添加のない、水のみの群を設定した。

 飲料のペットボトルは、キャップに被験者番号のみを記載し、外見から試料の判別はできないように実施した。

(3)血糖値測定および採血
 被験者は、無作為に対照群(C群)、グルコース摂取群(G群)、スクロース摂取群(S群)の3群に割り付けられた。

 被験者には、前日の午後9時以降の飲食を禁じ、当日の朝食も欠食とし、実験中の飲食も禁じた。実験は、午前9時半から10時の間に順次開始した。被験者には各人専用の穿刺器具と使い捨て針、血糖測定器と使い捨ての測定用チップを配布し、指先より自己採血をし、血糖測定器で空腹時(0分)の血糖値を測定した。被験者はその後、当日実験会場で配布された被験飲料を約5分の時間をかけて摂取した。

 摂取後15分、30分、60分、90分、120分に空腹時と同様の方法で血糖値を測定した。

 また、各タイミングには、前腕正中皮静脈より採血を行った。採血は医師および医師の監督下、看護師が行った。

 実験会場は快適な空調を保ち、被験者には椅座位にて安静に過ごすよう求めた。

 採取した血液は、血漿(しょう)分離後分析時まで−80℃にて保存した。

2. 結果および考察

(1)被験者
 本研究に参加した男性の年齢構成は、10代9名、20代27名、50代20名、60代12名、70代12名、80代1名であった。被検者の体格を、日本人の食事摂取基準(2010年版)に示されている各年代の基準体位と比べると、若年男性では被験者の平均身長および体重171cm、65.0kgに対し、基準体位は171.4cm、63.0kgと大きな隔たりはなく、標準的な体型と考えられた。中高年男性50〜69歳では、被験者の平均身長および体重は168cm、69.0kg、基準体位は165.7cm、65.0kg、70歳以上では、被験者の平均身長および体重は168cm、67.7kg、基準体位は161.0cm、59.7kgと、被験者がやや大柄であった(表2)。
 
 各実験群の体位では、身長、体重、BMIにおいて、全群間に有意差は得られなかった。しかし、中高年男性の身長の平均がやや低く、体重がやや重いことから、全体として中高年男性群でBMIが高い傾向を示した(表3)。
 
(2)血糖値の変化
 中高年男性の空腹時血糖値は92.5±16mg/dLであり、正常範囲内であった。対照(eC)群では120分間を通じてほぼこの値を保っていた。被験試料投与群の血糖値の変化をみると、スクロース(eS)群では摂取30分後に最高値165.4±21mg/dLを示し、その後低下したのに対し、グルコース(eG)群では摂取60分後まで血糖値が上昇を続け、最大値177.7±51mg/dLを示し、その後低下した。摂取90分後の血糖値においては、グルコース群が有意に高い値を示した(図3)。この血糖曲線から血糖曲線下面積を算出し、血糖指数(GI:glycemic index)を求めたところ、グルコース100に対し、スクロースは66であった。1981年にJenkinsらが提示したスクロースのGIは59±10であり、ほぼそれに該当する値であった。
 
 一方、若年男性の空腹時血糖値は79.4±11.9mg/dLで、中高年男性に比べて有意に低い値を示した。対照(yC)群では120分間を通じてほぼこの値を保っていた。被験試料投与群の血糖値の変化をみると、グルコース(yG)群、スクロース(yS)群ともに摂取30分後に140.9±28.7、146.4±22.7mg/dLと最高値を示し、グルコースでは120分後に定常値に戻り、スクロースでは90分後に定常値に戻っていた(図4)。若年男性のGIは、グルコース100に対し、スクロースは67で、中高年者とほぼ同じ値を示したが、血糖値の下降は中高年者に比べて速やかであった。
 
 中高年男性の血糖曲線と若年男性の血糖曲線の特徴を比較するため、両群とも空腹時血糖値からの変化量をとり全曲線を重ねたところ(図5)、摂取後30分までの血糖値の上昇に有意差はなかった。60分まで上昇を続けた中高年グルコース群は、摂取90分後には他群に対し有意に高い値を示したが、中高年スクロース群は、若年男性のグルコース群、スクロース群と有意な差はなかった。スクロースは年代にかかわらず低GI食品であり、血糖値に急激な変化をもたらさないことが明らかとなった。
 
(3)空腹時の血中インスリン濃度
 中高年男性の空腹時血中インスリン濃度は6.09±3.79μU/mL、若年男性では6.81±4.00μU/mLであり、インスリンの基礎分泌量に差がないことが確認された。しかし、中高年者グルコース群における血糖値の緩慢な低下から、インスリンの追加分泌が不足しているか、作用が低下していることが予想され、インスリン抵抗性を示していることが推察された。 血中インスリン濃度の変化については、今後、精査をする予定である。

おわりに

 本研究から、スクロースはグルコースに比べ、GIが低く、血糖値の下降が速やかであることが明らかとなった。砂糖(スクロース)摂取とその後の過剰なインスリン分泌が体重増加(肥満)の原因であり、これが糖尿病を引き起こすという考えを否定するためには、今後、グルコース、フルクトース、スクロース摂取後の血中インスリン濃度の変化や、血中脂質プロフィール、性差などについても検討する必要があろう。

 本研究では経時的な採血も行っており、血中インスリン濃度や血中脂質分析、食事摂取状況調査も併せて実施している。普段の食事の影響、糖代謝と脂質代謝の相互関係など多角的に検討し、順次報告をしていく予定である。

 砂糖の有用性を明らかにすることができれば大変嬉しく思う。

 本研究にご協力くださいました被験者の皆さまに、心から感謝申し上げます。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713



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