でん粉 でん粉分野の各種業務の情報、情報誌「でん粉情報」の記事、統計資料など

ホーム > でん粉 > 世界のでん粉事情 > 世界のでん粉需給動向(2022年)

世界のでん粉需給動向(2022年)

印刷ページ

最終更新日:2024年1月10日

世界のでん粉需給動向(2022年)

2024年1月

調査情報部

【要約】

 2022年の世界のでん粉生産量は、前年を1.7%上回ったものの、ロシアによるウクライナ侵攻などの影響を受けて、増加率は前年の6.2%を5ポイント近く下回った。品目別では、タピオカでん粉が、原料作物であるキャッサバの病害の影響が緩和し、収量が回復したことから最も高い増加率を示した。消費量は前年を1.6%上回り、全品目のでん粉で増加した。気候条件など、供給面で不確定要素はあるものの、消費量は今後も堅調に推移するものと見込まれている。
 

はじめに

 本稿では、2022年の世界の主要な天然でん粉(コーンスターチ、タピオカでん粉、ばれいしょでん粉、小麦でん粉)および化工でん粉の生産・消費動向および2024年までの消費見通しについて、農産物の需給などを調査する英国の調査会社GlobalData UK Ltd.の調査結果を中心に報告する。

 なお、図表については、特段の記載がない限り、GlobalData UK Ltd.の資料を基に農畜産業振興機構が作成した。
 

1 需給概況など

 2021年はコロナ禍で停滞した経済活動が回復傾向にあったが、22年は鈍化に転じた。これは、ロシアによるウクライナ侵攻の影響を受けて穀物やエネルギー価格などが上昇したことで、「生活費危機(Cost of Living Crisis)」としてマスコミ報道などで取り上げられた生活費の高騰といった問題が世界各地で発生し、消費者の購買力が低下したことなどが要因と考えられる。

 でん粉は需要に応じて生産されるため、同年の世界のでん粉生産量は4625万トン(前年比1.7%増)と、消費量と同様に前年をわずかに上回ったが、増加率は前年の6.2%を5ポイント近く下回った(表1)。内訳を見ると、コーンスターチが生産量全体の約41%と最も多く、次いで、タピオカでん粉が約24%、化工でん粉が約21%、小麦でん粉が約7%、ばれいしょでん粉が約4%となっている(図1)。

 具体的には、同年の世界のでん粉消費量は、4628万トン(同1.6%増)と前年をわずかに上回ったものの、増加率は、前年の6.4%を5ポイント近く下回った(表1)。このうちコーンスターチが全体の約41%と最も多く、タピオカでん粉が約24%、化工でん粉が約21%、小麦でん粉が約7%、ばれいしょでん粉が約4%となっている。







 生産量増減の推移を見ると、でん粉全体では2010年以降、一貫して増加傾向にあり、品目別では、22年はでん粉全品目で前年を上回った。特に、タピオカでん粉は、主産国であるタイのキャッサバモザイク病(写真)(注1)が回復に向かうとともに、コーンスターチの代替需要などもあり、前年比5.6%増と最も高い増加率を示した。
 


(注1)ウイルスの感染によって葉に黄化斑ができる病気で、光合成が十分に行われず、最悪の場合には作物自体が枯れてしまうことから、収穫量が大幅に減少する。タイのほか近隣国のベトナムやカンボジアの一部でも確認されている。


 また、品目別でん粉生産量を国別に見ると、前年から最も生産量が増加したタピオカでん粉について、ベトナムの生産量が268万トン(前年比39.9%増)と大幅に増加し前年の世界第3位から2位となった。中国はタピオカでん粉生産量では世界第6位となったものの、それ以外はいずれも上位2位以内に入り、でん粉の主要生産国である(表2)。



 

 でん粉は、従来、需要に応じて生産・供給が行われるとされ、また、その価格は需給バランスよりも原料価格変動の影響を受ける傾向が強いとされている。22年の各種でん粉の輸出単価(世界平均:米ドル換算)を見ると、すべての品目で価格が上昇し、特にコーンスターチは前年比38.8%高、小麦でん粉は同51.5%高と大幅に上昇した(図2)。これは、ロシアによるウクライナ侵攻によって穀物価格や燃料価格が上昇したことで、トウモロコシや小麦といった穀物を原材料としたでん粉を中心に生産コストが上昇したためと考えられる。
 
1

2 天然でん粉および化工でん粉の動向

(1)コーンスターチ

 コーンスターチの生産量は、アジアが世界全体の7割強を占め、北米と欧州がそれぞれ同1割強と続いている(表3)。2022年の地域別生産量は、北米や欧州、アフリカで前年を下回ったものの、アジアおよび南米で前年を上回り、世界全体としては前年並みとなった。

 世界最大のコーンスターチ生産国である中国の生産量は、960万トン(前年比1.6%増)と前年からわずかに増加した。原料価格の高騰により、同国のコーンスターチ価格が上昇し、国内の消費量はわずかな増加にとどまったが、輸出量は22万トン(同47.5%増)と前年から大幅に増加した。特に、コーンスターチの消費量が近年増加傾向にあるインドネシアの需要増加を受けて、インドネシア向け輸出量は前年から4.7倍に拡大したほか、マレーシア向けなどが増加した。

 一方で、世界第3位の生産を誇るインドの生産量は、129万5000トン(同0.8%減)と前年からわずかに減少した。21年に過去最大の輸出量を記録したが、生産量の減少に伴い22年の輸出量は約48万トン(同7.4%減)と前年から減少した。近年、インド国内のトウモロコシの増産などを受けて同国産コーンスターチの価格競争力が高まっていたが、22年はインドネシア向けの一部が中国に奪われ、ベトナムの需要減少なども重なったことも輸出減に影響したとみられている。

 生産量と同様に消費量もアジアが主要地域となっている。しかし、後述の通りコーンスターチはタピオカでん粉の代替として利用されることも多いため、22年のアジアの消費量は前年比0.7%増とわずかな増加にとどまった。一方で、欧州ではコーンスターチは主に生活必需品である食品向けに利用されており、「生活費危機」の影響は比較的軽微であったとみられることから、消費量は同3.4%増とやや増加し、世界全体としては前年並みとなった。
 
2

(2)タピオカでん粉

 タピオカでん粉の生産量は、アジアが世界全体の9割弱を占めている(表4)。2022年のアジアの生産量は979万トン(前年比6.2%増)とかなりの程度増加し、世界のタピオカでん粉生産量の増加に大きく貢献した。

ア タイ
 
世界最大のタピオカでん粉の生産・輸出国であるタイでは、原料作物であるキャッサバが干ばつやキャッサバモザイク病の被害により減産傾向にあったが、近年は、同国政府が実施する防除対策などが奏功し、22年の同国のタピオカでん粉生産量は世界全体の4割近くを占める400万トン超と、過去10年で最大の生産量を記録した。生産量の増加に伴い、同年の輸出量も374万トン(前年比5.0%増)と前年からやや増加した。タイの輸出先を見ると、輸出量全体の60%以上を中国向けが占めており、前年から減少したものの、依然として中国は、最大の輸出先である(236万トン:同9.1%減)。このほか、インドネシア向けは29万トン(同5.5倍)と前年から大幅に増加している。背景として昨年に引き続き、トウモロコシ価格の上昇から中国などを中心としたタピオカでん粉への代替需要が、輸出を後押ししたことが一因と考えられる。

イ インドネシア
 インドネシアでは、21年にキャッサバの豊作からタピオカでん粉の生産量が大幅に増加したが、22年は176万5000トン(前年比20.5%減)と平年並みになった。このため、国内需要が引き続き高い中で、前年比の生産量減少を補うため、タイからの輸入が増加した。

ウ ベトナム
 
22年の生産量世界第2位のベトナムも、中国向け輸出量を増加させている。同国でも、タイと同様にキャッサバモザイク病などの影響を受けて生産量が伸び悩んでいたが、被害が比較的軽微であったことなどから、同年の生産量は268万トン(前年比39.9%増)、輸出量は208万トン(同61.9%増)といずれも大幅に増加した。そのうち中国向けは188万トン(同53.5%増)と輸出量全体の約90%を占めている。一方で、ベトナムでは販売先の一極化のリスクを回避するため、中国以外への販路開拓も重要と認識されている。中国に次ぐ輸出先である台湾、フィリピン、マレーシアの消費量は、今後5年間でそれぞれ20%以上の増加が見込まれており、今後のベトナムのタピオカでん粉の輸出動向も注目される。

 タピオカでん粉の消費量は、生産量と同様にアジアが世界全体の9割弱を占めている。また、上述の通り、生産量上位2カ国(タイ、ベトナム)の最大の輸出先である中国の消費量は、22年に475万トン(同8.0%増)となり、世界の消費量全体の44%を占めた。同年の消費量は、主要消費地域である中国を含むアジアで増加し、全体としても増加したものの、欧州や北米などで減少した。23年は、エルニーニョ現象による少雨でタイのキャッサバが減産見込みであり、タピオカでん粉の生産への影響も懸念されるが、タピオカでん粉の価格優位性などからコーンスターチの代替でん粉として中国などを中心に需要が期待されており、世界的にも消費量は増加傾向で推移するとみられる。
 

3

コラム1 ベトナムのキャッサバ・タピオカでん粉料理

 ベトナムでは、キャッサバはでん粉に加工されるだけではなく、生産地域では各家庭でも栽培され、家庭の味として親しまれている。しかし、ハノイなどの都市部では、都市化が進んだことでキャッサバは入手しにくい食材になっており、ハノイ在住の同国北部のフート省出身者は、里帰りのたびに同僚たちが持ち帰ってくるキャッサバの土産を楽しみにしていると話していた。

  同国では、でん粉が取れるキャッサバ塊根(イモ)とともに、葉も食されている。2023年2月に中部地域のザライ省を訪問した際には、同省の飲食店でキャッサバの葉の炒め物を食した(コラム1−写真1)。食感はほうれん草など青菜の炒め物に近かったが、程よく苦みがあり、ご飯のおかずにもお酒のお供にもなるように感じた。上記のフート省出身者によると、北部地域のキャッサバの葉の炒め物とは味が異なっているとのことで、各地域で調理に特色があるようである。



 また、ハノイやホーチミンといった都市部では、スーパーマーケットなどでキャッサバの販売は確認できなかったが、菓子や調味料、即席麺、バインセオの原材料としてタピオカでん粉が販売されている(コラム1−写真2)。バインセオとは、水で溶いたでん粉をパリパリに焼き、その生地の間に具材が挟まれた日本のお好み焼きのような料理である。ホーチミンのショッピングセンター内の飲食店でも手軽に食べることができる(コラム1−写真3)。






 さらに、世界ラーメン協会によると、同国は、即席麺の消費量が世界第3位1)であり、都市部のスーパーマーケットでも棚一面に即席麺が並べられていたのが印象的だった(コラム1−写真4)。麺類に対するでん粉の役割は食感(つるみ・テクスチャー)改良、透明化の向上などとされており、特にタピオカでん粉は粘り・もちもち感の付与に利用されている2)。即席麺は日本円で1個20円〜60円程度で販売されており、地元客の中には、段ボール箱ごと購入していた人もいたほか、海外旅行客のお土産にも人気とのことである。




【出典】
1)世界ラーメン協会(WINA)
2)一般社団法人日本即席食品認定協会 理事長 任田 耕一(2011)「即席めんとでん粉」『砂糖類・でん粉情報』(2011年8月号)独立行政法人農畜産業振興機構<https://www.alic.go.jp/joho-d/joho08_000094.html
 

(3)小麦でん粉

 小麦でん粉の生産量は、欧州が世界全体の5割弱を占め、アジアが同3割強、北米が同2割弱と続いている(表5)。2022年の地域別生産量は、アジアが前年からやや増加した。

 主要生産地である欧州では、過去10年間では天然でん粉の生産量のうち、小麦でん粉のみが毎年増加を続けていたものの、22年の生産量は158万6000トン(同0.1%減)と前年並みとなった。

 小麦でん粉はグルテン(注2)を含むため、食品向けでは小麦を使っている商品で利用する傾向があり、工業向けでは主に包装資材や印刷用紙など、製紙の原料として使用されている。しかし、22年は「生活費危機」などの影響を受けて生活必需品以外の品目、特に包装資材の需要が低迷したことで、工業用でん粉の販売に影響を及ぼしたとみられている。

 消費量は、欧州とアジアが多く、これらが主要消費地域となっており、22年はアジアで前年並み、欧州はわずかに増加し、全体としてもわずかな増加にとどまった。欧州委員会の推計によると、現状や将来的な景況感を表すとされる消費者信頼感指数は、22年の第3四半期以降改善傾向にあるが、長期平均は下回ったままであることから、23年以降も欧州の小麦でん粉消費が伸び悩むと見込まれ、全体としても微増と予測されている。


(注2)グルテンとは小麦などに含まれるタンパク質の一種で、自己免疫疾患(セリアック病)の発症の引き金となるほか、小麦アレルギー患者のアレルゲン(アレルギー誘発物質)の一つでもある。
 
4

(4)ばれいしょでん粉

 ばれいしょでん粉の生産量は、欧州が世界全体の7割弱を占め、アジアが同3割弱と続いている(表6)。2022年の地域別生産量は、アジアなどが前年を上回った一方で、主産地である欧州は123万9000トン(前年比7.3%減)と前年を下回った。また、そのうち、ドイツ、オランダ、デンマークおよびフランスの4カ国でEU全体の7割を占める88万トンを生産した。オランダは20万トン(同17.6%増)と前年から大幅に増加し、ドイツの生産量も前年並みだったものの、デンマークやフランスでは前年から減少し、特にフランスは15万トン(同26.7%減)と大幅な減少となった。フランスでは、ばれいしょでん粉を生産する2社(2工場)のうちの1社が工場の売却を表明しており、でん粉製造から撤退する可能性もあるため、今後の同国での生産について懸念されている。

 欧州ばれいしょでん粉製造者連盟委員会(CESPU)は、22年の上記4カ国のでん粉原料用ばれいしょの作付面積が15万9000ヘクタール(同2.7%減)と前年から減少したと報告している。欧州では、燃料や肥料などの価格上昇により、ばれいしょ生産コストが高騰したことで、他の作物への転作や、ばれいしょの中でも需要が増加し価格が上昇した加工用ばれいしょを生産する生産者が多数いたためと考えられている。また、干ばつの影響で収量が減少した地域も多数あったが、でん粉含有量が多く品質が良好となったことで、でん粉原料用ばれいしょの減産分を一部補えたと言われている。CESPUによると、23年のでん粉原料用ばれいしょの作付面積は、22年を下回ると推定されており、一部で疫病(注3)などが報告されている地域もあるため、品質面への影響も懸念されている。

 一方、消費量は、最大の消費地域のアジアが世界全体の5割弱を占めて、欧州も同3割強と主要な消費地域となっている。22年の地域別消費量は、欧州などで前年を上回った。上記の通り、供給面には不安要素があるものの、23年以降の消費量はすべての地域で前年を上回ると見込まれている。

(注3)糸状菌(カビ)によるもので、葉に水浸状の(油が浸みたような)暗褐色の病斑を生じる。いもの表面には暗褐色の不規則な浅いくぼみを生じ、その内部はレンガ色を呈する。
 
5

コラム2 その他のでん粉の貿易動向について

 日本では、かんしょでん粉が一般的とされるように、コーンスターチなどの主要なでん粉以外にも世界ではさまざまなでん粉が利用されている。本コラムでは、その他のでん粉として、米でん粉、かんしょでん粉、サゴでん粉、大麦でん粉などをまとめて整理するが、2022年の品目別でん粉生産量を見ると、その他のでん粉は世界全体の生産量の約4%を占めており、ばれいしょでん粉と同程度の生産割合にある(図1〈本文参照〉)。ここでは、一定の需要があるその他のでん粉の貿易動向について触れてみたい。

 直近10年間のその他のでん粉の貿易量(注1)を見ると、年間25万〜30万トンで推移しており、13年を除くすべての年で米でん粉がその他のでん粉の半数以上を占めている(コラム2−図1)。米でん粉は他のでん粉よりも粒子が非常に小さいという特徴を生かして化粧品などに多く使用されているが、でん粉の抽出コストが比較的高いことから、主要なでん粉ほどの流通量はない状況にある。

(注1)世界の輸出量または輸入量を指し、世界の輸出量と世界の輸入量は等しいと整理し、輸出中の損失などは考慮しない。




 
 地域別に見ると、米でん粉は約30%がベルギーから輸出されており、輸出量上位3カ国はすべて欧州が占め、特にベルギーの輸出量は10年前と比べ倍増している(コラム2−表1)。同国の主要な米でん粉製造業者であるBENEO社は、欧米を中心にクリーンラベル(注2)の対応が求められる中で、今後、これに対応した食品向け米でん粉の需要増が想定されるとしてクリーンラベルに適応する米でん粉の生産規模拡大を図っており、23年には生産能力の増強に600万ユーロ(9億7800万円:1ユーロ=163.01円(注3))を投じると発表するなど、ベルギーにおける今後の輸出量増加が期待されている。

 かんしょでん粉は、ほぼ全量が中国から輸出され、韓国、タイおよびミャンマーといったアジア地域で80%以上を輸入していることから、主にアジア地域内で取引されているでん粉である(コラム2−表2、コラム2−写真)。

  サゴでん粉は、原料であるサゴヤシが東南アジアの湿地で生育することから、マレーシア、インドネシア、タイなどが一大供給地域であり、全輸入量の過半を日本が輸入している。日本では、主要なでん粉を含めてもタピオカでん粉、小麦でん粉に次ぐ低価格帯であるサゴでん粉を、麺類の打ち粉として多く利用しており、ゆで汁がサゴでん粉では、にごりにくいといった特徴を生かして重宝されている状況にある。

(注2)添加物を含まず、消費者に分かりやすい食品成分表示をすること。
(注3)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2023年11月末TTS相場。











 
 輸出単価(世界平均:米ドル換算)を見ると、主要なでん粉と同様に、その他のでん粉の中で最も貿易量の多い米でん粉のほか、低価格帯のサゴでん粉も近年上昇していることが分かる(コラム2−図2)。一方で、米でん粉は生産量の拡大も期待されているほか、クリーンラベルといった観点からもその他のでん粉は今後も需要の伸びが期待されていることから、引き続き今後の動向に注視したい。



 

 

(5)化工でん粉

 化工でん粉の生産量は、アジアが世界全体の5割弱を占め、北米が同3割弱、欧州が同2割強と続いている(表7)。2022年の地域別生産量は、主産地であるアジアで前年を上回ったが、北米や欧州は前年を下回った。

 生産量世界第1位の米国は213万トン(前年比3.2%減)と前年を下回った一方、同第3位のタイでは、主にキャッサバを原料に化工でん粉を製造しており、タピオカでん粉同様、133万トン(同3.5%増)と前年を上回った。

 消費量は、生産量と同様にアジア、北米、欧州が主要消費地域となっており、22年はアジアなどで前年を上回ったが、欧州や北米などは前年を下回った。

 化工でん粉は、物理的・化学的なプロセスによりでん粉本来の特性の改良などが行われたでん粉であり、天然でん粉よりも品質が安定しているなどの特性を持っている。工業用から特殊な食品素材まで幅広い製品が含まれ、コーンスターチとタピオカでん粉に次いで大きな市場を形成している。欧米では、政府によって安全性が確認されているものであっても、化学的な添加物を避ける消費者が増加傾向にあり、食品製造企業はクリーンラベルへの対応が求められている(注4)。このような状況で、特に化工でん粉の中でも薬品で処理することにより化学的な変性を加えたものではなく、加熱や加圧などの物理的な変性を加えたものは、機能性を保ちつつも自然な食品原料とみなされ、近年、需要が高まっている。

(注4)化工でん粉は食品添加物の一つであり、日本では、食品の原材料表示欄において、食品が列記された後に、食品添加物の境を示す「/」の後に「加工でん粉」などと表記される。
 
6

おわりに

 2022年はタピオカでん粉生産量の増加が目立つ年となったが、23年は主産国であるタイで干ばつなどの影響により、キャッサバの減産が予測されている。欧州のでん粉原料用ばれいしょも、23年は干ばつ被害のほか、湿潤気候による病虫害が懸念されている地域もあり、天候上の課題が継続すると考えられている。このように、今後のでん粉原料用作物の生産動向も不安定であることなどから、世界のでん粉生産への影響も懸念される。

 一方で、世界のでん粉消費量は、今後の世界人口や所得の増加などを考慮すると、23年以降、毎年1.5〜1.9%の割合で増加し、27年には5031万トン(22年比8.7%増)と、5000万トンの大台に達すると予測されている(図3)。

 品目別の増加率では、コーンスターチの代替品需要が続くとされるタピオカでん粉が同12.5%増と最も高く、小麦でん粉が同10.4%増、化工でん粉が同8.1%増と続く。化工でん粉は、経済情勢の影響を受けやすいとされるため正確な見通しが立てづらいものの、他のでん粉と同様に23年以降の消費量は堅調に推移すると見込まれる。また、天然でん粉は互いに代替性を有することから、原材料の入手のしやすさなどによって個々の需要は変動する可能性があるほか、原材料の生産動向の影響を受けることも考えられるため、今後の需給動向について注視する必要がある。
 
7
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272