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かんしょでん粉の現状と今後の展開に向けて

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最終更新日:2010年3月6日

でん粉情報

[2007年12月]

【話 題】

鹿児島大学農学部 准教授 北 原 兼 文
         教 授 菅 沼 俊 彦


はじめに

 日本のかんしょ生産量は、約100万トンで、そのうちの20%程度がでん粉用として消費されている。かんしょでん粉の用途は、ほとんどが糖化用で、残りの5%が食品用である。これまで、糖化用へのかんしょでん粉の利用は、“抱合せ制度”という国内農業保護政策の下で維持されてきたが、本年度から品目別経営安定対策という新しい制度の下で、市場の需給事情に応じた取引が行われるなどその政策も大きく見直しされた。また、食品利用においては、春雨やわらび餅・葛餅などの和菓子として固有特性を生かした利用がなされているものの、現状では消費も横ばい状態にある。
 このように、かんしょでん粉を取り巻く状況には厳しいものがあり、従って、新たな用途開発により産業基盤を高める努力が求められている。かんしょでん粉の利用拡大を図るとき、本来の固有特性を活かすことは重要であるが、一方で糊化特性などの特徴に乏しいことが用途開発の制約にもなっている。我々はこのような観点のもと、近年育種開発された特異なかんしょでん粉に着目して、その秘めたる可能性の用途開発を模索している。


1.かんしょでん粉の一般特性

 でん粉はエネルギー源として植物体に蓄えられる貯蔵多糖であるが、とうもろこし、小麦のような地上でん粉とばれいしょ、タピオカのような地下でん粉とは異なる性質をもっている。一般に、種子として地上にできるでん粉は粒径が小さく、糊化温度が高く、糊化したあとの粘度が高くならない。一方、塊根または塊茎として地下部にできるでん粉は粒径が大きく、比較的低温で糊化し、糊化後の粘度が大きいという特徴をもつ。しかし、かんしょでん粉は地下でん粉であるが、中間的な性質を示すといわれている。元鹿児島大学助教授(現フジモト食品研究所所長)の藤本らは本邦に自生する植物66種からでん粉を抽出し、それらの性質を明らかにした1)。それらを統計的に処理し、糊化特性などの性質により5つのグループに分類すると、かんしょを含むグループは8項目のいずれもが平均的な性質を示すことが明らかとなった2)(図1)。



 かんしょでん粉が最盛期であった昭和38年ごろには、食品用の水産錬製品などへの添加だけでなく、工業用の段ボール・合板の接着剤としても広く用いられていた3)。しかし、特徴的な性質を持たないかんしょでん粉は、次第に価格の安いコーンスターチやタピオカでん粉に置き換わっていった。糖化用以外には、春雨用の緑豆粉、和菓子用の葛粉やわらび粉代替え品などに6千トン、工業用に3千トン程度が消費されているようだが、これといった固有用途が見出されずに今日に至っている。


2.新しいかんしょでん粉

 九州沖縄農業研究センターのさつまいも育種研究室との共同で、かんしょでん粉の多様性に関する研究を始めた。当初、主要な栽培品種のでん粉を調べたが、その特性は多様性に乏しいものであった4)。そこで、目的別育種が進むなかに育成途中の系統まで幅広く検索した結果、低アミロース性のでん粉を有する系統5)や、一般のかんしょでん粉より糊化温度の低いでん粉を有する系統(九州127号)が見出された6)。その後、つくばの作物研究所の片山ら7)は、九州127号よりもさらに低温糊化性でん粉を持つ青果用系統(関東116号、現品種名:クイックスイート)を報告した。これらの発見により、かんしょでん粉にも特殊な性質を示すものが存在することが明らかになった。
 低温糊化性のかんしょでん粉は、一般のかんしょでん粉に比べて、アミロペクチンを構成するブドウ糖の枝が短いものが多く、でん粉に結合しているリン酸基が約3分の1と少ないことが構造上の特徴である。また、(1)50℃付近の低温かつ低エネルギーで糊化する(図2)、(2)耐老化性を示す(図3)、(3)酸や酵素に対して高い感受性(分解性)を示す、などの優れた利用特性を合わせ持っている8)。(1)については、でん粉を食品用または、工業用に利用する前には、ほとんど糊化して利用するので、省エネで糊化できる性質をもつことはとてもメリットがある。(2)については、でん粉ゲルの物性の劣化、すなわち時間経過とともに白濁し堅くて脆くなる、いわゆる老化が遅いという性質はごま豆腐など食品として利用する場合、非常に期待される性質である。(3)については、糖化酵素による生でん粉の分解性が高いといわれているコーンスターチよりもさらに分解性が高い。
 このように、新しい性質を持つかんしょでん粉は、“高機能”“天然”“国産”をキーワードに新しい場面での用途開発を模索している。



 


3.遺伝子組換えかんしょでん粉

 かんしょの遺伝子組換え技術は、穀類やばれいしょなどと比べて非常に遅れている。単位面積当たりの熱量生産能が高いかんしょに、効率の良い遺伝子導入技術が確立できれば、かんしょの持つ利点をさらに伸ばす可能性が生まれる。遺伝子組換え作物に関しては、すぐに市場投入とはいかないが、時間のかかる交配育種に先立って改変した性能を評価できることは、今後の育種目標に指針を与えるものとして有意義と考えている。かんしょの遺伝子組換えでは、石川県立大学のグループがパイオニアであり、我々との共同研究でかんしょでん粉が作られる仕組みの解明と創出かんしょでん粉の機能評価を行っている。
 現在では、でん粉が作られる仕組みのアウトラインがほぼ分かり、でん粉の構造改変のための遺伝子組換え設計がある程度はできるようになった。かんしょでん粉のアミロース含量を多様化するために、でん粉の合成に関わる酵素のうち2種類の酵素、粒結合型でん粉合成酵素または枝作り酵素の発現を抑制した遺伝子組換え体9)を作成した。その結果、見かけのアミロース含量が0〜44%の範囲にあるかんしょでん粉を創製することができた(図4)。これらのでん粉は、アミロース含量に加え、アミロペクチンの枝分かれ構造も変化しており、様々な粘度特性を示した10)。かんしょでん粉の多様化が一気に進んだことになる。



 市販されているモチでん粉や高アミロースでん粉は、ほとんどが輸入とうもろこしを原料として作られている。もともといも類と穀類のでん粉の基本構造は大きく異なっているので、かんしょ由来のモチでん粉や高アミロースでん粉には穀類のそれらとは異なる固有の性質が期待される。また、このような研究により進歩しつつある遺伝子組換え技術は、かんしょの更なる高バイオマス化にも応用できるであろう。
おわりに
 かんしょが鹿児島に伝来して300年が過ぎた。その間、かんしょは食料として民を救い、焼酎となって民を癒してきた。今日では数多くの機能性成分が見出され、健康作物としても見直されている。上述の交配育種技術と、遺伝子組換え技術による新しいかんしょでん粉の開発は今なお進行中である。今後は、さらに高機能性のでん粉ができるものと期待している。
 本年度から開始された品目別経営安定対策の下での新たな政策支援は、緩和措置として一定の要件を満たした生産者を対象に、3年間は特例要件が設けられているようだが、南九州のかんしょ農家にとって、大きな転換期を迎えることは確かである。幸い、近年のいも焼酎ブームで、焼酎原料用かんしょの用途拡大がなされている(図5)。特に平成16年度からは、でん粉と焼酎原料用を合わせたかんしょの生産量が上昇に転じている。従って、ここ2、3年は焼酎用を生産することで現状維持できるかもしれない。
 しかし、いも焼酎ブームはそろそろ安定期に入ったといわれている。今後、南九州で現在の生産量を維持するには新たな用途開発が期待される。新たな用途の一つが、ペーストやカットイモなど加工用原料の増産であり、また、その高いバイオマス生産能に着目した、バイオエタノール用の糖質原料としての可能性が考えられる。後者の場合、上述の新しいかんしょでん粉の性質のうち、低温糊化性と酵素による生でん粉分解性が高いことは省エネ発酵として大いにメリットとして働くことになる。そして、かんしょからエタノールを作る技術は、既に確立されているので、今後、でん粉工場をエタノール工場に転換するといった施策も、単なる夢物語でなくなるのかもしれない。



文 献
1)藤本滋生著, 「澱粉と植物−各種植物澱粉の比較」 葦書房(福岡),1994
2)菅沼俊彦・藤本滋生・北原兼文・永浜伴紀, 応用糖質科学,43,525-533,1996
3)永浜伴紀, 「地域資源活用食品加工総覧」第4巻.P.523-532,農文協(東京),1999
4)K. Kitahara et al., Oyo Toshitsu Kagaku, 43, 59-66, 1996
5)K. Kitahara et al., Oyo Toshitsu Kagaku, 43, 551-554, 1996
6)K. Kitahara et al., J. Appl. Glycosci., 46, 391-397, 1999
7)K. Katayama et al., Starch, 54, 51-57, 2002
8)K. Kitahara et al., Starch, 57, 473-479, 2005
9)M. Otani et al., Plant Cell Rep., 26, 1801-1807, 2007
10)K. Kitahara et al., Carbohydrate Polymers, 69, 233-240, 2007

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