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でん粉の不思議と魅力

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最終更新日:2010年3月6日

でん粉情報

[2009年5月]

【話題】

鹿児島大学名誉教授 放送大学鹿児島学習センター所長 竹田 靖史


〔はじめに〕

 早春、桜の開花が聞かれるころになると、和菓子屋にさくら餅が並ぶ。塩漬けした桜の葉にくるまれている。ほのかに香りが漂うなかで、お抹茶と一緒にいただくと、何かゆったりとした気持ちになる。さくら餅は、見た目にもやわらかく、しっとりとして美しく、落ち着きがある。10年ほど前であるが、NHKテレビの子供番組「お母さんといっしょ」で、大ヒットした「だんご3兄弟」という歌がある。その詞に、最近では珍しくなった3兄弟のことが歌われている。長男、二男、三男のいつの間にかできた性質や役割の違いが面白い。そして、その詞に「・・・・3人そろって ひるね ひるね うっかりねすごし 朝がきて かたくなりました」とある。買ったCDのおまけに、3兄弟そろって憧れのひとが、「さくらもちよ」さん、とある。わかるような気がする。みずみずしいさくら餅も硬くなるだんごもお米が材料である。なぜ、こんなにも違うのか。

 赤飯や“おはぎ”は、ゆっくりと硬くなる。これらの材料であるもち米を使って、鏡餅や“のし餅”にすると、硬くなるまでに形が崩れる。早く硬くなるもち米もほしい。そんなもち米の品種もある。どこがどう違うのだろうか。平成5年に発生した冷害でお米の大不作があったとき、タイ産米が緊急輸入された。それを、国産米と抱き合わせで買うことになったことを思い出す。


〔お米のでん粉〕

 インディカ種のタイ産米はパサパサして硬い。私たちが好むジャポニカ種の国産米は、適度な粘りがあってやわらかく、大きく違う。インディカ種のお米は白ご飯として食べるには不向きであるが、カレーやピラフにはいい。インディカ種とジャポニカ種のお米の違いはどこにあるのか。粘りとパサパサの素はなんだろうか。

 お米のことだけで不思議がいろいろとある。お米の主成分はでん粉であるから、その不思議さの素を訊ねると、でん粉に突き当たる。でん粉の基礎研究を進めるうちに、おいしさの秘密やでん粉の不思議が解き明かされてきた。

 さくら餅のみずみずしさと粘りは、もち米のアミロペクチンに起因する。もち米には、アミロースは含まれていない。蒸したもち米のアミロペクチンはのりになって、水を抱き込み放さない。だんごは、うるち米の粉でつくる。この米粉には、アミロースとアミロペクチンが含まれる。だんごが硬くなるのは、米粉のアミロースが老化するためである。冷えたご飯がまずくなるのも、一緒である。老化は、アミロースが寄り集まったり、アミロペクチンと絡み合ったりしておこる。そのアミロースの構造を知るために、でん粉に含まれるアミロースを純粋な状態で取り出すことに挑戦した。でん粉粒を完全なのりにすることと超遠心分離機を用いることで、アミロペクチンを含まない純粋なアミロースを取り出すことができた。開発した方法で分析してみると、米のアミロースはぶどう糖が平均1000個ぐらいつながった(α-1,4結合)大きな分子である。穀類やいも類の起源を問わず、ごくわずかに分岐した(α-1,6結合)アミロースと分岐をもたないアミロースが存在することがわかった(図1)。分岐が多いほど、それが障害となってアミロースが絡み難くなって老化し難い。分岐をもつアミロースはアミロースの30から70%を占め、枝の鎖は短く、分岐の数は4から16である。


図1 アミロースの分子構造モデル

 もち米の品種で、硬くなる速さの違いは、アミロペクチンの分子構造にある(図2)。アミロペクチンは、たくさんのクラスター(房)がつながってできた巨大分子(ぶどう糖が1万個以上)である。クラスターは短い鎖(ぶどう糖が20個ぐらい)と長い鎖(40個くらい)が結合してできている。短い鎖はクラスターをつくり、長い鎖はクラスターとクラスターをつなぐ。短い鎖と長い鎖の数の比は1つのクラスターをつくる鎖の数に相当する。ゆっくりと硬くなるもち米のアミロペクチンは、クラスターをつくる鎖の数が少なく、鎖も少し短いことがわかってきた。鎖が少なくて短いと、たがいに絡み難くなり、もちが硬くなるのが遅くなる。


図2 アミロペクチンの分子構造モデル

 インディカ種のお米のアミロース含量は、ジャポニカ種のお米より、多いと信じられていたが、ほぼ同じ含量である。違いは、アミロペクチンの分子構造にあった。そこに、アミロースのような長い鎖が付いたちょっと変わったアミロペクチンを見つけた。この長い鎖が多いほど、パサパサとした食感を与え、ご飯を硬くするのである。


〔穀類のでん粉〕

 天ぷらは、海老などの具はジューシーで衣はサクサクした食感がいい。サクサク感は、衣になる小麦粉のたんぱく質である、グルテンにあると理解されているが、それだけではない。小麦粉の主成分であるでん粉が大きくかかわっている。小麦のグルテンと植物起源の異なるでん粉をミックスして、衣をつくった。驚くことに、でん粉の種類でサクサク感が大きく異なった。とうもろこしなど穀類のでん粉はサクサク感がよく、じゃがいもなどいも類のでん粉ではサクサク感が劣っていた。よく観察すると、サクサク感のよい衣のでん粉は、粒の形が残っている。サクサク感のない衣のでん粉は、粒が崩れ、形がなくなっている。でん粉粒の崩壊はアミロースののり化にある。穀類のアミロースは、じゃがいもなどのいも類に比べてのりになりにくい。これが、サクサク感の発現の要因である。


〔じゃがいものでん粉〕

 じゃがいもでん粉は天ぷらの衣には向かないが、穀類に劣っているわけではない。のりになりやすいことは、食感をソフトにもできる。湿熱処理して粒の中に強い結合をいれると衣の中の粒は形が保持され、衣にサクサク感が生じた。このように、じゃがいもでん粉は、利用特性が広い。また、透明なのりが得られる。穀類のように脂質を含まないためである。さらに、老化しにくい。老化を主動するのはアミロースである。じゃがいものアミロースには大きさの異なる3つの分子種があり、小さい分子種だけの米と比べて4倍と大きい。分子が大きいことが障害となり、絡み合いの接点が少なくなり、老化が抑制されるようだ。アミロペクチンにも同じように3種の分子種があるが、枝の鎖の分布は同じである。小さい分子種は未熟なアミロペクチンであろう。枝の鎖は平均24個のぶどう糖が結合し、米(平均20個)に比べて長い。クラスターを構成する鎖の数は米に比べて少ないが、この長い枝が植物種の中でじゃがいもが老化しやすい要因である。じゃがいもでん粉には、500〜1000ppmの結合リン酸が存在する。アミロペクチンに局在し、その75%がぶどう糖のC-6位に結合し、アミロペクチンの分岐結合の外側に約70%が存在する。アミラーゼが作用すると、結合リン酸が分解を阻止し、リン酸化オリゴ糖をつくる。このオリゴ糖に抗う蝕性などの新しい機能が見つけられている。


〔おわりに〕

 でん粉は、謎を秘めた素晴らしい素材である。新しい分析法によって、でん粉の分子構造を分子の数(モル)の視点で研究を進めることが可能になり、化学として議論ができるようになった。でん粉の機能性と構造、構造と生合成酵素、酵素と遺伝子、それぞれの関係もわかってきた。さらにこれらの関係を積み上げることによって、近い将来に、私たちが欲しい機能をもったでん粉を創製することができそうだ。そこに、でん粉の大きな魅力がある。




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