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有機(オーガニック)農地の増加は続くも、持続可能目標達成には黄信号か(EU)

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最終更新日:2021年3月4日

<有機農地は増加傾向:シェア8.5%>
 欧州連合(EU)統計局(Eurostat)は2月15日、2019年のEUにおける有機(オーガニック)農業の取組面積(注1)が7年前の2012年と比較して46%増加し、1380万ヘクタールとなったと発表した。また、これによりEUの永年草地、果樹園、家庭菜園を含む総利用農地に占める割合は、前年から0.5ポイント増の8.5%となった。
(注1)有機認証された農地面積と、有機に転換中の農地の合計である。有機と認証されるためには、品目により2〜3年の転換過程を要する。
 同割合を加盟国別にみると、最も大きいのはオーストリアで25.3%、次いでエストニアが22.3%、スウェーデンが20.4%、チェコとイタリアが15.2%となっている(図)。一方、同割合が最も小さいのはマルタで0.5%、次いでアイルランドが1.6%、ブルガリアが2.3%、ルーマニアが2.9%となっており、加盟国間の差は大きい。
図1 2019年の国別有機(オーガニック)農業の取組面積割合(%)
<EUの持続可能目標:シェア25%>
 欧州委員会は、持続可能な社会への移行を最優先政策とし、2020年5月に農業・食品部門に関する「Farm to Fork(農場から食卓まで)」戦略(注2)を発表し、その中で農薬や肥料使用量の削減などのほか、野心的な目標の一つとして「2030年までに有機農業の取組面積を25%以上に拡大すること」を掲げている。
(注2)alicセミナー(2020年12月14日開催)「EUの『Farm to Fork(農場から食卓まで)』戦略について〜2030 年に向けて、持続可能性(サステナビリティ)を最優先課題とするEU農業・食品部門〜」

<目標達成の実現可否について:現地アナリストの指摘>
 そのような中での今回のEurostatの発表となったが、現地の農業専門アナリストは「25%」の達成に十分な成長速度にないと指摘している(図2)。同アナリストは、このままの成長でいけば2030年は15〜18%にとどまるであろうと予測し、今後、加速度的に取組面積を増加させる必要があるとしている。同アナリストは、欧州委員会の一部の関係者が「シェアの低い国の底上げにより必要とされる全体的な成長を実現したい」としているものの、それらの国々の成長度合いは比較的低く、現実的ではないとしている。
 一方、取組面積でみると、最も大きいのはスペイン(EU全体の有機農業取組面積の17.1%)で、フランス(同16.2%)、イタリア(同14.5%)、ドイツ(同9.4%)が続き、この上位4カ国で過半を占めている。これらの国々では、取組面積が継続して増加していることから、さらなる拡大が持続可能目標の達成には現実であろうとみている。ドイツ農務省は現在の増加傾向を維持するため、サプライチェーン全体を対象とした24項目の措置を含む新たな戦略を導入し、2030年までにシェアを20%まで引き上げることを目標としている。
図2 EUの総利用農地に占める有機(オーガニック)農業の取組面積割合の推移
<遅れるEUの推進策>
 一方、欧州委員会は、「25%」の達成に向けて、さまざまな推進策を計画しているものの、対応の遅れなどが生じている。
まず、EU農業政策の中核をなす共通農業政策(CAP)では、有機農業への転換および継続を支援する「エコ・スキーム」(注3)なども含めた次期枠組みについての協議が進められている。しかしながら、本来であれば「次期」は2021年から始まるはずであるところ、協議の遅れがあり、現時点では2023年からの実施とすることで調整が行われている。
(注3)海外情報「欧州委員会、「エコ・スキーム」として有機農業、総合的病害虫・雑草管理(IPM)、アグロ・エコロジー、アニマルウェルフェアなどの取組みを提案(EU)」
 また、消費者需要を高めるため、有機農産物の生産および表示に関するEU規則の改正が検討されたが、新型コロナウイルス感染症(COVID−19)の影響で施行規則の制定が遅れたため、欧州委員会は本規則の実施時期を予定よりも1年遅らせ、2022年1月1日とした。
 さらに、需要喚起のための有機農業などを優先事項とした農産品プロモーションプログラム(注4)を計画しているものの、EU最大の生産者団体をはじめとした農業・食品などの関係9団体から、農業全体に占める有機農産物の市場シェアは約8%であるところ、同プログラム予算では約3割が有機という単一の農法への支援に振り向けられていると批判され、経済的にも環境的にも非効率であり、市場の実態に合っていないとの反発を受けている。
(注4)海外情報「欧州委員会、持続可能性に焦点をおいた2021年農産品プロモーションプログラムに1.8億ユーロ措置も、業界団体らは反発(EU)」

 EUは、最優先課題として持続可能な社会への移行を目指す中、2030年時点での有機農業の取組面積を25%以上にすることを目標に掲げている。この目標達成のための進展がCOVID−19の影響による遅延や業界からの反発などを受ける中、成長を加速する必要から、EUはさまざまな推進策を効果のある形で実施する必要に迫られている。どのような方法で達成に向けて進展していくのか、EUの今後の動向が注目されている。

(参考)「EUにおける有機(オーガニック)農業の現状〜高まる有機志向〜」(「畜産の情報」2019年11月号)

【令和3年3月4日 調査情報部発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-8527