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EUにおける最近の砂糖需給動向

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最終更新日:2011年6月10日

EUにおける最近の砂糖需給動向 〜需給ひっ迫傾向は2011/12年度も続く見通し〜

2011年6月

調査情報部

 EUの砂糖需給は、近年、主要輸入先のACP諸国(EUの旧植民地であるアフリカ、カリブ、太平洋諸国)およびLDC諸国(後発開発途上国)からの輸入減少によりひっ迫した状況が続いている。この背景には、2006年に開始された砂糖制度改革のなかで、域内砂糖価格の水準が引き下げられ、さらに2009年以降、国際価格が上昇し、EUの水準を上回ったことがある。輸入の減少は、制度改革による域内生産の縮小に伴う供給減に拍車をかけることになった。

 制度改革以降、EUの砂糖生産、輸出規模は大幅に縮小したものの、インドに次ぐ消費地域、また世界最大の輸入地域として依然、国際需給に大きな影響力を持ち、域内需給の安定へ向けた取り組みが注目される。本レポートでは、EUにおける最近の砂糖需給動向と2011/12年度の見通しについて報告する。

注:本レポートの数量は、断りがない限り粗糖換算である。
 
 
 
 

制度改革により域内価格水準引き下げ

 制度改革以前のEUは、毎年2000万トン前後の砂糖を生産し、このうち約600万トンを世界市場に輸出してきた。2006年の制度改革以降、各加盟国に対する生産割当数量は2009/10砂糖年度(10月〜翌9月)までに1330万トン(白糖換算)に削減された。生産割当を超える分(割当外糖)については、域内の食用向けに販売することができず、エタノール製造など産業用途へ販売、WTOによる制限範囲内(年間137.4万トン、白糖換算)で輸出、あるいは翌年度の生産割当に繰り越すこととなっている(なお、制度改革の詳細については、砂糖類情報2009年5月号「EUの糖業事情(1)〜砂糖制度改革とその影響について〜」を参照されたい)。

 また、国際価格の約3倍の水準にあった域内価格を是正し、砂糖分野もほかの農産物と同様、共通農業政策(CAP)に移行すべきとの声が高まっていたことを受け、介入価格制度(いわゆる最低価格保証制度)に代わり、市場価格の基準となる参考価格制度が新たに導入され、域内価格が引き下げられることとなった。参考価格は、2007/08年度の1トン当たり631.9ユーロ(7万7894円、1ユーロ=123.27円注)から2段階に分けて引き下げられ、2009/10年度以降2014/15年度までは、同404.4ユーロ(4万9850円)と設定されている。

注:TTS相場4月最終日

国際価格高騰で域内需給のひっ迫傾向続く

 2010/11年度におけるEUの砂糖需給は、前年度に引き続きひっ迫した状況にある。加盟国の中でも、制度改革により砂糖生産から撤退した国(アイルランド、ポルトガルなど)や生産規模を大幅に縮小した国(イタリア、ハンガリーなど)で砂糖不足が深刻化し、ポルトガルやハンガリーのスーパーマーケットでは砂糖の購入が制限される事態となった。また、英国やルーマニアなどの精製糖工場(stand-alone refiner)は、原料となる粗糖の調達で困難に直面しているとされる。このような需給ひっ迫の原因として、主要輸入先のACP/LDC諸国からの輸入が減少していることが挙げられる。

 前述の通り、制度改革以前の域内価格は国際価格の約3倍の水準にあり、このことがACP/LDC諸国にとってEU向けに砂糖を輸出するメリットとなっていた。域内価格が低下した上、2009年以降、国際価格が域内価格を上回る水準まで上昇したため、これらの国からの輸入は低調となっている。2010/11年度におけるACP/LDC諸国からの砂糖輸入枠は350万トンと設定されているが、欧州委員会によれば、4月22日までに割り当てられた数量は108万トンにとどまっており、最終的な輸入量も計画を大きく下回るとみられている。
 
 
 域内需給のひっ迫を受け、欧州委員会は相次いで対策を打ち出している。

・2010年12月〜翌8月におけるCXL糖注の輸入関税の撤廃(2010年11月)
・割当外糖50万トンの域内食用向け販売の許可(2011年3月)
・粗糖・白糖の無税輸入枠30万トンの新設(同)

注:フィンランドの粗糖輸入割当に基づき、低関税 (1トン当たり98ユーロ ※通常は339ユーロ) で輸入される粗糖、および2007年に加盟したブルガリアとルーマニアの関税割当制度に基づく無税輸入のブラジル産粗糖のこと。  割当外糖の食用向け供給は今回が初めてであり、また、粗糖・白糖の無税輸入枠30万トンに対しては、受付開始から1週間で1660万トンもの申し込みがあった。これらのことからも、EUで砂糖が深刻な供給不足となっていることがうかがえる。欧州委員会は域内の需給動向を引き続き注視し、必要であれば、さらなる対策を打ち出すとしている。

2011/12年度も需給ひっ迫続く可能性

 域内需給のひっ迫が影響し、2010/11年度の期末在庫は110万トン(前年度比22.0%減)と記録的な低水準に落ち込む見通しである。在庫の減少により、2011/12年度におけるEUの砂糖需給は前年度に引き続きひっ迫し易い状況にあるとみられている。

 米国農務省(USDA/FAS)によると、2011/12年度におけるEUの砂糖需給は以下の通り予測されている。

・生産量:1530万トン(前年度比1.4%増)
・輸入量:370万トン(同19.4%増)
・消費量:1750万トン(前年度並み)
・輸出量:100万トン(前年度並み)
・てん菜収穫面積:162万ヘクタール(同6.0%増)

 輸入量は370万トン(前年度比19.4%増)と予測されているが、3月中旬以降に軟化している国際価格が再び上昇すれば、2010/11年度と同様に輸入が低調となる可能性もある。

 製糖企業のなかには、2011/12年度においても、前年度と同様に需給ひっ迫により割当外糖の域内食用向け販売が許可されるとの期待から、てん菜生産者に対し作付面積を前年度から10〜15%増やすよう求めるなど、増産を図る動きがあるとされる。しかしながら、作付け増加が実現されるかは不透明である。これは主に、穀物価格の高騰によりてん菜と穀物の競合が強まっていることによるが、このほかにも、製糖期間の長期化によるてん菜生産のリスクの高まりも潜在的な要因としては無視できない。制度改革による製糖工場の閉鎖、統合の結果、製糖期間は制度改革前の約90日間から105日間に延びた。

 製糖期間の長期化は、てん菜がほ場に残される期間も長くなり、悪天候などの影響を受ける可能性が高まることを意味する。実際、2010/11年度においては12月の大寒波と翌月の気温上昇で多くのてん菜が被害を受けた。特に被害が深刻であった英国では、約200万トンのてん菜が腐敗し、砂糖生産に利用できない状況となった。てん菜生産者は、このようなリスクに対し、十分な補償が示されていないと不満を抱いている。仮に製糖企業の要望に従い生産者が作付けを10〜15%増やせば、製糖期間はさらに110日間〜120日間に延びることが予測され、長期化によるリスクの高まりが懸念される中、生産者が増産に応じるかどうかは疑問が残る。

 砂糖制度改革により純輸入地域に転じたEUは、2009/10年度以降、国際価格高騰の影響で主要輸入先のACP/LDC諸国からの輸入が減少し、域内需給がひっ迫する状況となっており、2011/12年度においても同様のことが起こり得る。また、増産による製糖期間の長期化はてん菜生産者の増産をためらわせる面もあり、域内需給の安定へ向けた対策が求められるところである。世界有数の砂糖消費・輸入地域であるEUの動向は、引き続き注視が必要とされている。

資料:LMC “Monthly Sugar Report, April 2011” USDA “GAIN Report, EU-27 Sugar Annual” 2011/4/8

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