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地域に根差した徳之島高校の「サトウキビ学」

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最終更新日:2014年1月10日

地域に根差した徳之島高校の「サトウキビ学」
〜生徒たちによる一芽苗づくり〜

2014年1月

調査情報部 前田 絵梨

【要約】

 鹿児島県立徳之島高等学校は、全国で唯一、選択科目「サトウキビ学」を設置している。生徒たちは、生産者と多くの交流を持ち、生産者の活気、地域の活性化につなげたいという思いの下、サトウキビ学や課題研究に取り組んでいる。同校では、実習の一環として、サトウキビの欠株対策を目的とした一芽苗づくりを行い、島内サトウキビ生産者に提供している。また、課題研究を生産振興大会で発表するなど、地域に根差した取り組みを実践している。

はじめに

 鹿児島市の南南西約450キロメートルの洋上、奄美群島のほぼ中心に位置する徳之島は、徳之島町、天城町、伊仙町の3町からなる、人口2万4566人(注1)の島である。耕地面積は、群島最大の6,880ヘクタール(注2)。サトウキビの栽培面積は、3,781ヘクタール(注3)と島内の耕地面積の半分以上を占める。

 サトウキビ生産が盛んな徳之島には、サトウキビについて学べる高校がある。徳之島町にある、鹿児島県立徳之島高等学校(以下「徳之島高校」という。)である。同校は、鹿児島県立徳之島農業高等学校との統合・再編を経て、平成18年4月に開校した高校である。普通科と総合学科を設置し、総合学科では、地域の文化・歴史・風土を生かした幅広い体験学習を行っている。

 この総合学科では、2年次から、情報ビジネス系列・生物生産系列・生活学科系列の3系列の中から主体的に科目を選択して学習するスタイルが採用されている。このうち、生物生産系列では、全国で唯一、選択科目「サトウキビ学」を設置しており、開校以来、約60名の生徒たちがサトウキビ学を学んできた。本稿では、サトウキビ学を中心に、徳之島のサトウキビ生産に密着した同校の取り組みを紹介する。

(注1)鹿児島県「毎月推計人口」(平成25年11月1日現在)
(注2)農林水産省「面積調査」(平成24年)
(注3)鹿児島県農政部農産園芸課「平成24年産さとうきび及び甘しゃ糖生産実績」(平成24/25年期)
 

1. 全国で唯一の「サトウキビ学」

 サトウキビ学は、総合学科の生物生産系列における専門教科の中で、2年次の選択科目として設置されており、選択した生徒たちは、週に2時間、サトウキビに関する事柄を学んでいる。

 サトウキビ学の目指すところ、それは、徳之島の基幹産業を学習し、地域と密に連携活動することにより、将来、島興しのできるような人材を育成することである。このため、サトウキビ学を選択した生徒たちは、サトウキビとはどの様な作物であるか、から始まり、徳之島におけるサトウキビ生産の歴史やサトウキビ生産の経済的な波及効果、世界のサトウキビ生産やサトウキビ由来のバイオエタノール生産の現状など、サトウキビを取り巻くさまざまな内容について学ぶ。そして、作型や品種、機械化による作業体系など、サトウキビ生産に関する技術的な知識を習得していく。

 サトウキビ学の実習は、伊仙町にある農場で行われている。実習では、サトウキビの植え付けや収穫時の手かさぎ(手作業によるサトウキビの刈り入れ)の他、中耕や培土など農業機械を使った管理作業などを行う。植え付けを行う前には、鹿児島県農業開発総合センター徳之島支場や南西糖業株式会社の協力の下、各種品種ほ場を見学するなど、サトウキビ関係者と密に関係を持ちながら実習が行われている。また、9月の徳之島高校体育大会では、同校伝統の「キビ担ぎレース」が行われる。この種目では、生徒たちが栽培したサトウキビが利用され、実習の成果がお披露目されることになる。
 

2. 一芽苗づくりの取り組み

 サトウキビ学では、実習の一環として、平成23年度から、一芽苗づくりに取り組んでいる。通常、新植でサトウキビを生産する場合は、サトウキビの茎を2節ずつ含む形に切断した「二芽苗」をほ場に植え付ける。「一芽苗」とは、1節を含む形に切断したものである。ハーベスタ収穫による欠株や新植での発芽不良を補う補植が推奨されており、この補植に用いられるのが一芽苗である。

 サトウキビの単収向上には、まず、栽培茎数の確保が基本となる。しかしながら、ハーベスタ収穫により、株を引き抜いてしまったり、株を踏みつぶすことにより、欠株する場合がある。徳之島のハーベスタ収穫率は90パーセントを超えており、株出し栽培に当たり、単収低下の原因の一つになっている欠株への対応が課題の一つになっていた。行政機関、JA、製糖事業者など糖業関係者で組織する徳之島さとうきび生産対策本部は、生産量の向上を目指し、欠株による単収低下への対策として、一芽苗で補植する取り組みを始めることになった。この取り組みに、これまで、生物生産系列の生徒全員で「さとうきび増やし隊」を組織し、サトウキビの単収向上のための研究発表や普及活動を行うなど、サトウキビに関する地域活動を行ってきた徳之島高校も加わり、同校が一芽苗づくりに取り組むことになった。
 
 平成25年度については、10月中旬から下旬にかけ、サトウキビ学を選択している2年次の生徒を中心に、3年次の生徒や教職員、伊仙町糖業部会など関係者も加わり、約2万本の一芽苗が植え付けられた。水やりや草取りなどの管理作業全般は、徳之島高校の生徒が行い、半年間程度の育苗を経て、植え付け翌年の4〜5月頃に生産者に提供される。生徒たちによる一芽苗づくりは、地域のサトウキビ生産において、大きな役割を担っていると言える。取材した3年次の生徒たちは、「一芽苗が農家のためになると嬉しい」「良い苗をつくって、地域の農家のために役に立ちたい」と熱い思いを語ってくれた。
 
 なお、一芽苗は、伊仙町糖業部会を通じて、一苗20円で生産者に販売され、販売収益は、翌年度の一芽苗生産に利用される。一芽苗は、主に株出しの補植に用いられる他、新植ほ場での補植にも用いられる。
 

3. 課題研究への取り組み

 生徒たちは、2年次では、サトウキビ学を学ぶことに加え課題研究に取り組み、3年次では、サトウキビ学で学んだ知識を基に、より発展的な課題研究に取り組んでいく。

 課題研究のテーマは、サトウキビ生産者への聞き取りや、徳之島さとうきび生産振興大会およびさとうきび感謝デー(以下「生産振興大会」という。)において、アンケートを行うなどして得られた生産者の声や、伊仙町糖業部会など関係者からのアドバイスを参考に検討を重ね、決められる。課題研究の成果は、毎年、課題研究報告書「南風の輝き」にまとめられる。
 
 これまで、サトウキビの生産性向上に関する研究の他、サトウキビ栽培の障害になるイノシシやハブなどの駆除に関する研究を行ってきた。一芽苗については、単収向上のための効率的な欠株の補植方法、用土の違いによる発芽比較、サトウキビ上部の節と下部の節の発芽比較などの研究に取り組んできた。

 3年目となった一芽苗づくりにも、これまでの研究が生かされている。平成24年度の一芽苗づくりには用土に山の土を使ったところ、雑草の発生が多く見られたという。平成25年度は、この経験とこれまでの課題研究の成果を踏まえ、用土にサトウキビ搾汁後の残渣であるバガスを加えるなど工夫したところ、雑草の発生を抑制することができたという。

 現在、気温と発芽率・発芽時期の関係、収穫後に苗として植え付けるまでの期間の違いによる発芽率の差などに関する研究や、川の砂、山の土、赤土など、土の種類によるサトウキビの生育状況の差について研究が行われている。また、今後は、ハカマ(サトウキビの枯葉)の用土への利用など、未利用資源の活用に関する研究も検討しているという。

 写真は、課題研究を行っている一芽苗のサンプルである。黒丸のサンプルは、用土の乾燥が苗の生育に与える影響を研究している。実は、当該サンプルは、室外機の近くで栽培されていたものであり、もともと研究用に栽培されていたものではなかった。室外機の影響で用土の乾燥が引き起こされたのだが、この様なアクシデントも研究のきっかけになる。サトウキビの生産現場でも、想定していない状況によりさまざまな事象が起こる。いろいろなきっかけを見逃さず、研究テーマにする柔軟性や発想力が、生徒たちの研究の強みと思われる。

 赤丸のサンプルは、一芽苗を植え付ける適期を探るため、植え付け時期を変え、苗の生育速度の研究をしている。生産者が補植を行う時期は決まっているため、その時期に補植苗として最適な生育度合いの一芽苗を提供できるようにするためである。より良い苗を生産者に提供したいという思いが込められた研究である。
 

4.徳之島高校とサトウキビ産業の関わり

 サトウキビ学を教える西山教諭は、「サトウキビ学は地域密着型の授業。他の教科とは違い、学校独自の薄い教科書と参考資料などしかないため、関係者と連携し、生産者とコミュニケーションを取りながら一緒に進めていくことが重要。サトウキビ学の特徴は、地域が生きた教材であること。また、地域貢献できること」と言う。また、新保農場長は、「教師の入れ替わりはあるが、生産者の方々と触れ合いながら、リレー形式で関係を構築してきた。今後も変わらず関係を構築していきたい」と話す。サトウキビ学は、地域との関わりが非常に大きく、地域のサトウキビ生産の変化や取り巻く状況の移り変わりに応じ、変化していく。まさに、「生きた学問」という面白さがある。

 また、課題研究を校内での研究にとどめぬよう、毎年、その成果を、生産振興大会で発表している。生産振興大会は、製糖期が終了した5月に行われ、徳之島3町のサトウキビ生産者、糖業関係者、JAおよび行政機関など、サトウキビ産業に関わる多くの人々が参加する、徳之島で最も大きなサトウキビの大会である。平成25年度については、約750名が参加し、生徒たちは、多くのサトウキビ関係者を前に、「サトウキビ一芽苗の欠損株補植による単収増加と地域の活性化」について発表した(参考)。

 遺伝子レベルの研究や生産技術に関する最新の研究は、県の試験研究機関や大学などでも行われている。徳之島高校が行うのは、より生産者に近く、生産現場ですぐに応用しやすい、身近で実践的な研究である。生徒たちの研究は、生産現場の助けとなっていることはもちろん、生徒たちが研究成果を発表し、地域産業に関わっていくことで、生産現場を活気づけることにもつながっているという。取材した生徒からは、「生産振興大会で、一芽苗の良さを農家に知ってもらいたい」という声が聞かれ、自分たちの研究を地域に還元したい、という思いを感じた。

(参考)地域だより「徳之島さとうきび生産振興大会およびさとうきび感謝デーの開催」2013年5月
 
 また、サトウキビ学は、生産者をはじめ徳之島の人々に、サトウキビについて理解を深めてもらう機会を提供する、という役割も担っている。徳之島は、島内の耕地面積の半分以上をサトウキビが占めるサトウキビ産地であり、島の人々は、子供のころからサトウキビに親しんできた。しかし、サトウキビそのものについて、また、サトウキビがなぜ徳之島で生産されているのかなど、改めて考える機会はあまりないのではないだろうか。徳之島でのサトウキビ生産の歴史は古い。江戸時代には、徳之島で栽培されたサトウキビが黒糖に加工され、薩摩藩の財政を支える大きな役目を担っていたと言われている。また、サトウキビの生産額は約50億円であるが、それに関連するサトウキビ産業全体の経済波及効果は約4倍と言われており、サトウキビは徳之島の経済にとって極めて重要なものとなっている。徳之島高校農場祭では、この様な歴史や経済波及効果をはじめ、サトウキビに関するさまざまな事を来場者に知ってもらうため、学習パネルを展示している。

 この他、小学生とその保護者を対象に、黒糖づくりの出前教室を行うなど、文化の伝承という役割も担っている。
 

おわりに

 徳之島高校では、地域に根差した「サトウキビ学」というユニークな科目を設置している。生徒たちは、生産者と多くの交流を持ち、生産者の活気、地域の活性化につなげたいという思いの下、サトウキビ学や課題研究に取り組んでいる。サトウキビ学は、地域の協力があってこそ成り立つものであるが、生徒たちの取り組みは生産現場の活気づけにもなっており、生産現場と徳之島高校の間に良い関係が築かれている。また、地域一体で基幹産業に取り組むことは、特に離島にとって、大変重要なことであると改めて感じた。

 取材した生徒が、将来、「僕は、サトウキビを栽培します!」とハツラツと答えてくれたのが印象的だった。一芽苗づくりは、地域への還元はもちろんのこと、サトウキビ関係者と目的を共有するという経験ができることは、将来を担う若者たちにとっても大変意味があることだと思う。今後も、地域に根差した同校の取り組みが注目される。

 最後に、取材に対し、お忙しい中ご協力いただいた徳之島高校ならびに関係者の皆さまに深く感謝いたします。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713