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沖永良部島におけるサトウキビ圃場での有機資材を利用した土づくりの取り組みと課題について

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最終更新日:2019年3月11日

沖永良部島におけるサトウキビ圃場での有機資材を利用した土づくりの取り組みと課題について

2019年3月

鹿児島事務所 海老沼 一出

【要約】

 鹿児島県南西諸島は亜熱帯気候に属し、温暖な気候であることから、土壌中の有機物の分解速度が高く、保水性に乏しい土壌が多い。厳しい土壌環境を改善するため、各島では堆肥などの有機物の投入が行われているが、コストや堆肥原料の確保などの課題もあり、これら対策が十分にできているサトウキビ生産者は少ない現況である。本稿では、沖永良部島における堆肥利用の現状と課題を報告するとともに、畜産との複合経営を行いながら堆肥をサトウキビ()(じょう)へ施用することにより、好成績を収めている三原利昭氏の事例を紹介する。

1.沖永良部島の概要

 沖永良部島は奄美群島の南西部、九州本土から南南西約550キロメートルに位置し、面積約94平方キロメートル、年間平均気温約22度、年間平均降水量約1850ミリメートルの亜熱帯気候の島である(図1)。行政区画は島の東側が和泊町、西側が知名町の2町で構成されている。平成30年12月1日現在の推計人口は約1万2500人である。島は隆起サンゴ礁で形成され石灰岩が広く分布している。東洋一の鍾乳洞と言われる昇竜洞をはじめ数多くの鍾乳洞の存在が確認されており、近年ではケイビングに訪れる観光客も増えている。

 島の西側には大山と呼ばれる標高245メートルの山があるものの、他の地域は平坦地が多く農耕地に恵まれている。サトウキビをはじめ、キク、ユリなどの花卉(かき)やばれいしょ、さといも、豆類などの野菜が作付けされており、肉用牛を中心とした畜産も行われている。純白のユリとして人気が高く、輸出も盛んに行われていたエラブユリは100年以上の栽培の歴史を持ち、沖永良部島の特産品として広く知られている。 これらの特徴から沖永良部島は「花と鍾乳洞の島」とも呼ばれる一方で、サトウキビは島の農業産出額の19%、耕地面積の46%を占めており、重要な基幹作物であることが読み取れる(図2)。

図1 沖永良部島の位置

図2 平成29年度品目別耕地面積および農業算出額(沖永良部島)

2.沖永良部島のサトウキビ生産の課題と取り組み

(1)沖永良部島のサトウキビ生産の推移

 サトウキビ生産の状況は、平成の中ごろまでは干ばつや台風などの天候の影響や病害虫による萌芽率の低下などの影響により、収穫面積・生産量ともに低迷し、平成17年には過去最低の生産量となったものの、近年は新農薬や株出し多収性新品種(農林22号)の普及により、収穫面積・生産量ともに持ち直し、増産傾向となっている(図34)。

図3 さとうきび生産量の推移(沖永良部島)

図4 サトウキビ品種構成割合の推移(沖永良部島)

(2)沖永良部島の土壌および気候とサトウキビ生産の課題について

 沖永良部島は隆起サンゴ礁で形成されており、圃場には本州で一般的な黒ボク土(注)とは異なる、赤味を帯びた土壌が広がっている。これは琉球石灰岩および国頭(くにがみ)れき層の風化土壌で暗赤色土と言われている。この土壌は粘性が高い特徴を持ち、作土層が浅いことから、保水性に乏しいことに加え、乾燥するとレンガ状に固着し、耕転作業が困難となる特徴があり、土づくりを行う上で生産者の課題の一つとなっている。

 年間を通して温暖で、比較的降雨の多い気候であるものの、夏場の降水量は少ない傾向にある(図5)。特に梅雨明け後は、台風による降雨以外にほとんど雨は降らず、土壌が保水性に乏しいことも相まって干ばつに見舞われることが多い。鹿児島県農業開発総合センター徳之島支場によると、梅雨明け後の少雨時にサトウキビの生長速度は著しく低下することが明らかとなっている(図6)。

 このような厳しい環境下で土壌の保水性を確保し、夏場の少雨時においてもサトウキビの生長速度を維持するためには、土壌物理性の改善を目的とした有機資材の施用が重要と考えられており、堆肥などの施用が積極的に行われている。製糖会社などにより助成事業も組まれ、生産者の経営負担を少なくする取り組みも実施されている。また、年間を通して温暖であることから、土壌中の有機物分解が早く、腐植に乏しいと予測されることからも有機資材の施用は重要であると考えられている。

(注)主に火山灰に由来する土壌で、有機物が集積して黒い色をしていることが多く、保水性や透水性が良い。耕起が容易であることから、比較的物理性は良好である。主に北海道南部、東北北部、関東、九州に分布している。

図5 沖永良部島における旬別年間降水量

図6 多収であった2016年の徳之島における夏季の降水とサトウキビ茎伸長およびかん水効果

(3) 沖永良部島におけるサトウキビ圃場への堆肥施用の取り組み

ア.公益財団法人沖永良部農業開発組合 (堆肥センター)について
 沖永良部島においては、公益財団法人沖永良部農業開発組合(以下「沖永良部農業開発組合」という)が一括して堆肥製造、散布を受け持っている。同組合により、沖永良部島でのサトウキビ作付面積1934ヘクタールのうち、84.2ヘクタールに堆肥の施用が行われている(平成28年度さとうきび生産振興事業実績より。ただし、生産者独自で散布した面積を含まず)。

 沖永良部農業開発組合は、昭和46年に日本で最初の農業公社として設立、平成24年に公益財団法人へと移行された。沖永良部島における農業の振興と農村の活性化に関する事業を行い、農業者の経済的・社会的地位の向上と活力ある地域社会の維持・発展に寄与することを目的に、和泊町、知名町、あまみ農業協同組合和泊事業本部、同知名事業本部、南栄糖業株式会社、和泊町および知名町商工会、永良部百合生産出荷組合の出資により設立された。以前はサトウキビのほか、野菜などさまざまな作物の農作業を受託していたが、サトウキビへの転作が進み圃場が増えたことから、現在ではサトウキビの基幹作業受託が主な事業となっている。現在の沖永良部農業開発組合の事業内容は表1の通り。

表1 沖永良部農業開発組合の事業内容

 沖永良部農業開発組合は、南栄糖業株式会社の敷地内に事務所のほか、堆肥センターおよび集中脱葉施設を所有している。堆肥センターは9年に設立され、現在生産している堆肥は、牛ふん堆肥、ハカ マ(注)堆肥、エコ肥料の3種類である(表2)。

(注)製糖する際に不要となるサトウキビの葉の部分

表2 沖永良部農業開発組合において製造されている堆肥の種類と特性

 原料は全て島内で調達しており、製糖工場においてサトウキビの脱葉過程で発生するハカマ、原料糖製造時の副産物であるフィルターケーキやバガス、島内畜産農家で発生する畜ふんのほか、近年は下水汚泥も堆肥原料として受け入れている。「牛ふん堆肥」はサトウキビ生産者からの需要が大きく、増産傾向にある。原料の牛ふんは島内畜産農家からの買取で年間1500〜2000トンほど計画的に仕入れを行っている。21年から製造を始めた「エコ肥料」は、両町で発生する下水汚泥にハカマやバガスを混合して堆肥化している。現段階では原料の下水汚泥の水分量の調整に苦労していることから、製造工程の改善に取り組んでいるところである。堆肥の原料が限られる島の環境では、下水汚泥の利用は原料の確保という課題において一つの解決策になるかもしれない。

 また、以前は「えらぶ有機」という堆肥も製造販売していたが、花卉・園芸用の堆肥でサトウキビ農家からは需要が低く、29年に生産を終了した。 現在製造している3種類の堆肥は原料の割合が異なることから、炭素と窒素の比率(以下「C/N比」という)が異なる。一般にC/N比が大きい堆肥は植物性原料の割合が高く、繊維質が多いことから、土壌物理性の改善などの土壌改良効果が大きいと言われている。一方、C/N比の小さい堆肥は動物性原料の割合が高く、窒素含量が多いことから、養分供給効果が大きいと言われている。以前製造されていた「えらぶ有機」は畜ふんの割合が高く、製造されていた堆肥の中でC/N比が最も小さいことから、土壌改良効果よりも養分供給に重点を置かれた堆肥で、花卉類などの園芸作物向けに製造されていた。「えらぶ有機」に比べて、現在でも製造されている「牛ふん堆肥」、「ハカマ堆肥」はC/N比が高く、土壌改良効果に重点を置かれた堆肥である。なお、サトウキビ生産者は「えらぶ有機」よりも「牛ふん堆肥」、「ハカマ堆肥」を選ぶ傾向にあったことから、生産者は堆肥に化成肥料の代替としての養分供給源の役割よりも、保水性に乏しく、耕転作業がしにくい圃場の土壌改良効果を求めている傾向があるようである。

イ.堆肥化工程について
 堆肥化とは、堆肥原料を適切な条件下で微生物により分解・発酵させることで、悪臭を抑制し、衛生的に土壌還元できる状態にするとともに、水分量を調整して扱いやすい状態にすることである。堆肥化の不十分な状態では、悪臭など周囲の衛生に悪影響を及ぼすだけでなく、急激な有機物の分解により土壌中の酸素を消費し、酸素欠乏状態を引き起こす懸念がある。

 堆肥化には、関与する微生物にとって適切な環境を作り出すことが重要であり、主に水分量、通気性、温度、pH、炭素と窒素の比率の五つの要素を適切にコントロールすることが必要である。

 沖永良部農業開発組合では、製糖終了後の5月ごろから堆肥の仕込み作業を開始する。畜産農家や製糖会社などから調達した原料を製品ごとの割合で混合し、天日乾燥により水分量の調節を行う(写真1)。堆肥化は、主に好気性微生物により行われるため、通気性および水分量を適切に保つことが重要であり、約70%が適切な水分量の目安と言われている。梅雨時期の降雨の影響については、現状では初期工程が多少遅れる程度で大きな問題にはならないとのことである。

写真1 原料の混合および天日乾燥が行われる原料ヤード

 原料の混合および水分量の調節が終了した堆肥は発酵槽へ移され、2カ月半〜3カ月くらいかけて切り返しを行いながら完熟発酵まで行う(写真2)。発酵の進行状況は堆肥内部の温度や堆肥の色味、水分量などを見ながら確認している(写真3)。沖永良部開発組合で製造される堆肥の約9割が散布車による圃場への全面散布であり、ほとんどの堆肥は握りしめると固まるものの、指で触ると崩れる状態(水分量40〜60%ほど)で散布される。これ以上、乾燥が進んでしまうと散布時に風によって飛散してしまうため、逆に取り扱いにくい堆肥となる。

 一方で残りの1割については園芸作物用に、主に手作業で筋()きをする場合に向けてさらに2カ月半〜 3カ月かけて熟成槽にて粉状の堆肥まで水分量を減少させる(図7)。

写真2 発酵槽での堆肥の切り返し

写真3 温度や堆肥の色味、水分量などを見ながら発酵

図7 沖永良部農業開発組合の堆肥製造フロー

 牛ふん堆肥製造時には水分の調整のため、おがくずや稲わらなどを副資材として混合することがあるが、沖永良部農業開発組合では島内で調達が容易なサトウキビのハカマやバガス、フィルターケーキなどを副資材として混合している。この他、水分調整および通気性の確保のため仕込み作業時に天日干しを行っている。また、堆肥センター事業を始めた当初は発酵促進剤などを使うこともあったが、長年の経験により適切な発酵条件を見出し、現在では特に発酵促進剤を使用せずとも品質の良い堆肥を製造できているという。

ウ.堆肥施用の課題と対策
 堆肥施用時の課題として、熟成の不十分な堆肥の施用より発生したアンモニアによる作物への悪影響、雑草の繁茂、糖度上昇の遅延などがある。

 堆肥の熟成度合いおよび雑草の繁茂については、沖永良部開発組合においても堆肥センター事業を始めた当初は生産者からのクレームの多い事項であった。しかし、現在は堆肥をしっかり完熟させ、カラーサンプルと比較し熟成度合いを確認すること(熟成が進むにつれて褐色から黒色に変化する)で未熟な堆肥を散布しないようにしている。雑草種子の混入についても、好気性微生物による発酵をしっかりと行い、堆肥の温度を上げることで雑草種子の不活化に努めている。この結果、現在ではこのようなクレームはほとんど聞かなくなった。

 糖度上昇の遅延については堆肥により窒素成分が長期にわたって供給される状態が続くことから肥料切れが起きにくく、登熟期および糖度上昇の遅れにつながる可能性があるのではないかと思われる。現在のところ、沖永良部開発組合ではそのような話は聞かれないようだが、後に記述する三原氏の圃場ではやや見られるようだ。確かに生育後期の追肥などによる土壌中の窒素成分の増加は、当代の糖度上昇が遅れる傾向にあるという負の要素もあるが、同時に後代の株出しの萌芽性は良くなる傾向にあるという正の要素もあるため、必ずしも欠点になるということではないだろう。

エ.さらなる堆肥施用の普及に向けて
 島内のサトウキビ圃場への堆肥施用の現状としては、まだ十分に普及が進んでいないところであるが、一度堆肥を施用した生産者は特に土壌の保水性の改善に効果を感じ、継続して施用する事が多く、いかにして生産者の方に一度試してもらえるかが普及に向けた大きな鍵となっているという。そのため、沖永良部農業開発組合は、堆肥施用のパンフレットを作成し、各地域の集会などで配布したり、島全体に配る配布物に同封したりして島内全戸に周知できるよう普及・宣伝活動に力を入れている。また、堆肥施用の効果は、化成肥料とは異なり、即効性のあるものではなく、すぐに目に見えて変化があるわけではない。このため、沖永良部農業開発組合では、圃場比較試験などで堆肥施用の効果を実証し、数値化することによって宣伝・普及活動に活用することを検討している。

3.牛ふん堆肥施用により高単収をおさめるサトウキビ生産者三原利昭氏の取り組み

〜平成30年度さとうきび生産改善共励会で独立行政法人農畜産業振興機構理事長賞を受賞〜
 三原利昭氏は、沖永良部島知名町(くろ)(ぬき)地区で家族4人(三原氏夫婦、息子さん夫婦)でサトウキビと肉用牛生産の複合経営を行っている(写真4)。
 

 

 生産規模は、サトウキビは4.5ヘクタールを作付けし、肉用牛は繁殖雌牛61頭を飼養している(図8)。黒貫地区は、知名町の中心部から東へ2キロメートルほどに位置しており、太平洋に面した緩やかな傾斜地に主にサトウキビ畑が広がる地域である。サトウキビの他、サトイモ、実エンドウ、ばれいしょ、花卉などの園芸や畜産なども行われている。

 三原氏は、肉用牛経営で発生する牛ふんを利用した自家堆肥を、サトウキビ圃場に通常より多い10アール当たり6〜8トン施用し、土づくりを徹底することで、特に直近の3カ年は地域平均の約2倍の高単収を収めている(図9)。その取り組みが認められ、公益社団法人鹿児島県糖業振興協会が主催する平成30年度さとうきび生産改善共励会において、独立行政法人農畜産業振興機構理事長賞を受賞した。

図8

図9

(1)三原氏の経歴

 三原氏は就農当初、ユリの球根を生産していたものの、次第に球根の供給が過剰になっていったため、ばれいしょなど他の作物への転作を模索し、さまざまな作物を作付けしていたところ、今から20年ほど前に現在の形であるサトウキビ生産と肉用牛の複合経営に落ち着いた。現在では、三原氏夫婦がサトウキビの管理作業を主に行い、肉用牛の飼養管理は息子さん夫婦が主に行っている。基本的には分業制であるが、それぞれの分野で繁忙期にはお互いに手伝っており、特にサトウキビで人手が必要となる収穫作業は息子さんが手伝いに来てくれるとのことである。

(2)堆肥製造について

 堆肥の原料は、牛ふんと敷料に使ったバガスおよびハカマ、ローズグラスやソルゴーなどの飼料の残渣である。バガスは製糖会社から購入し、自家のハカマと混合して大量に用いている。特に出産時の敷料にはハカマが良いクッションとなり、子牛の敷料にはバガスが良い滑り止めとなる(写真5)。

写真5 牛舎に敷料として敷かれたバガス

 牛舎の清掃時に敷料とともに牛舎の隣にある堆肥舎へ運搬され、堆肥化が行われる。牛ふんには大量の敷料が混合されているため、通常は副資材などの混合はしていないが、降水量の多い時期で発酵に時間がかかってしまうような場合はハカマやバガスを追加で混合し、水分調整をして発酵を促すよう取り組んでいる。

 そして、5槽に分かれる堆肥舎にて2〜3カ月に1度切り返しを行いながら、3〜4回切り返しを行った堆肥を新植前の圃場や株出し管理直後の圃場に散布する。発酵初期の堆肥については、混合された植物片などの繊維質がはっきりと分かるような状態であるが、散布目前の堆肥は繊維様の植物片などは目立たなくなっており、全体的に粒子が細かくなっていることから、十分に発酵が進んでいることが一目で分かる。

(3) 堆肥施用された三原氏のサトウキビ圃場と堆肥施用の効果

 三原氏のサトウキビ圃場は赤味の強い沖永良部島の一般的な土壌と比べ、多少黒色に近い土壌となっており(写真6)、数年前に大学教授が調査に来た際「九州本土並みの土壌だ」と言われたこともあるそうだ。また、多くの生産者が悩まされる梅雨明け後の干ばつについても、三原氏の圃場では大きな問題にはならない。平成29年の不作の原因の一つとされた、梅雨明け後の深刻な干ばつ時にも、かん水条件はほかの生産者とおおむね変わりは無いにもかかわらず、三原氏の圃場では青々としたサトウキビが生育していたとのことで、堆肥施用による圃場の保水性改善効果がしっかり現れているようだ。株出し圃場を含め、少なくとも年に1度は堆肥を施用しているという三原氏の努力の結果であろう。

写真6 三原氏のサトウキビ圃場

 堆肥施用により化成肥料の施用量を削減することも可能で、作型や土壌にもよるが、一般に10アール当たり6〜8袋前後施用されている化成肥料を現在、三原氏は10アール当たり2袋しか施用していない。以前、4袋施用した際に、過剰施用となり、サトウキビに障害が発生したことからも施用量が十分であることは明らかで、確実に化成肥料購入費を削減することができる。

 このように多くの堆肥を施用するようになったのは、大量に生じる堆用を散布するにあたり、牛の硝酸塩中毒を防ぐため、牧草地にはあまり多く施用できないことから、サトウキビ圃場への施用量が自然と多くなってしまったという三原氏の肉用牛部門とサトウキビ生産の経営規模バランスによる副次的なものであった。しかし、その結果は沖永良部島の粘土質で保水性に乏しい暗赤色土壌を九州本土並みにまで改善する効果をもたらし、同島の平均単収の約2倍という成績を収めるにまで至っている。

(4)今後の目標

 今後も現在の施用量は維持しつつも、引き続き近隣農家への堆肥の供給や牧草地として圃場を貸してくれた方へ堆肥を施用した上で圃場を返却するなど柔軟に対応していきたいと考えている。また、基幹作業の機械化により、サトウキビの管理作業に余裕があることから、地域の耕作放棄地の増加を防ぐため、サトウキビ生産を拡大していきたいとも話していた。

 化成肥料は作業が楽で即効性もあり、効果が一目瞭然である。しかし、長い目で見たときに化成肥料のみでは土壌微生物層の損失、土壌物理性の悪化などを招くのは明らかであり、サトウキビ圃場への堆肥散布はとても重要な作業であると三原氏は語る。

おわりに

 本稿では、奄美群島における共通課題である腐植が少なく保水性に乏しい土壌でのサトウキビ生産について沖永良部島を例に現状を取り上げた。

 沖永良部島では沖永良部開発組合が中心となって堆肥の製造および施用を行っているが、サトウキビ生産者全戸に普及はしておらず、堆肥を施用しているサトウキビ圃場面積はまだまだ少ない。一方で生産者の中には三原氏のように自家堆肥を製造し、サトウキビ圃場に施用をすることで土壌改善に取り組み、高い単収を収めている生産者もいるため、堆肥施用が広く普及し、島全体の単収向上に寄与することを期待したい。一度、堆肥を施用した生産者は継続する方が多いということからも、堆肥施用の効果を生産者に訴え、各生産者に試してみていただくことが、普及の第一歩となるだろう。具体的なデータが少ない中でいかにしてサトウキビ生産者に堆肥施用の効果を訴えかけるかが課題のようだ。

 腐植に富んだ土壌は土壌緩衝作用があるため、干ばつなどの天候の変化を含めた環境変化から植物を守る力がある。堆肥施用の普及が進めば、環境変化に強いサトウキビ生産が可能となっていくのではないだろうか。

 末筆になりますが、調査にご協力いただきました、三原利昭様、公益財団法人沖永良部農業開発組合事務局長前田睦也様、総務係長村田大竜様、知名町農林課長上村隆一郎様、糖業係長下田浩治様、ほか関係者の皆様に改めてお礼申し上げます。

(参考文献)
1)佐藤光徳、西原悟(2018)「多収であった2016年の徳之島における夏季の降水とサトウキビ茎伸長およびかん水効果」『日本作物学会九州支部会報』84巻pp.36-38
2)井上健一、橋口健一郎(2011)「サトウキビ春植え時における栽培管理が株出し栽培の生育に及ぼす影響」『日本土壌肥料学雑誌』第82巻第5号pp.375-380
3)井上健一(2018)「品種特性と土壌条件を考慮したサトウキビの栽培管理法に関する研究」『鹿児島県農業開発総合センター研究報告』第12号pp.31-89
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