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生育情報を利用した可変施肥によるてん菜およびでん粉原料用ばれいしょの増収効果

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最終更新日:2019年9月10日

生育情報を利用した可変施肥によるてん菜およびでん粉原料用ばれいしょの増収効果

2019年9月

地方独立行政法人北海道立総合研究機構 農業研究本部 十勝農業試験場

研究部 生産システムグループ 主査(スマート農業) 原 圭祐

【要約】

 小麦可変追肥時などに生育センサで取得・蓄積されたデータを利用して翌年以降に作付けする作物の基肥可変施肥に活用できるソフトウエアを開発した。本ソフトウエアにより作成した施肥マップに基づいた可変施肥により、てん菜では糖量が平均7.1%増加し、でん粉原料用ばれいしょでは過剰な施肥の抑制とともにでん粉収量が平均3.2%増加した。

はじめに

 国内農業は農畜産物生産の効率化や高品質化などにより、競争力強化を図ることが求められているが、原料作物である畑作物については、果樹や野菜に比較して高品質化による競争力強化は難しく、増収技術や低コスト技術の検討が重要である。畑作物の増収や資材費の適正化に向けて、土壌分析や作物生育診断を活用した施肥が普及している。しかし、慣行の分析・施肥は()(じょう)一筆単位で行われており、診断技術も手分析であるため、大規模化や地形要因などにより生じる土壌ムラや生育ムラに対応しておらず、大規模な圃場において効率的に正確な診断を行うのは容易ではない。このため、さらなる施肥量の削減や生産安定化を図るためには土壌や生育ムラにも対応した可変施肥技術が必要である。
 

 生育や土壌の状況に応じた施肥技術として可変施肥がある。生育センサを活用した可変施肥技術は北海道において小麦の追肥を対象にした試験研究がなされ、2012年に初めて国産機種として市販化された1)。生育センサによる可変施肥技術は、現在、道東を中心に9001000ヘクタールで利用されており、収量の安定化や品質の平準化効果が認められているが、当初から小麦以外での作物への適用が期待されてきた。秋まき小麦は総施肥量の7〜8割が追肥で施用されるが、他の畑作物は基肥で施用される割合が大きい。このため、小麦以外の畑作物で可変施肥を実施するためには地力ムラを反映し、基肥で利用する必要がある。地力ムラを把握する手法としては、ラジコンヘリコプタなどに搭載したセンサと手分析値との相関関係から作土の熱水抽出性窒素を把握する方法2)や、土中にスペクトロメータを通過させて各種成分を把握する手法3)が実用化されているが、機器が高価で操作も難しく、個人での利用は困難である。そこで、本研究では、利用者の新たな投資を最小限にするため、既に普及している生育センサによる可変施肥システムを基肥にも対応可能なシステムへ発展させ、てん菜、でん粉原料用ばれいしょでの効果を検証した。

1.センシングによる生育情報から土壌のバラツキを推定

 基肥の可変施肥を実施するためには、地力ムラを推定する必要がある。土壌分析を伴う地力マップの作成は生産者自身では労力的に難しいため、簡易に取得できる生育のセンシング情報の利用を検討した。利用した生育センサは小麦の可変追肥で使用されているトプコン社製のレーザー式生育センサCropSpec(写真1)で、可変追肥を実施したとき、あるいは別途圃場内走行時に測定すると1秒おきにデータが記録される。なお、センサ出力値(S1)は時期を問わず秋まき小麦の窒素吸収量と高い相関関係にある(図1)。

 図2は秋まき小麦連作圃場において、CropSpec
のデータより作成した生育マップの推移である。図より毎年生育の良い箇所と悪い箇所がほぼ同じであることが分かる。図3は輪作圃場における生育マップの推移である。秋まき小麦後のばれいしょや大豆でも同様に生育の良い箇所、悪い箇所がほぼ一致した。このことから、畑作物で測定される生育ムラは土壌の地力ムラを反映しており、数年は生育良否の関係が継続されると推察される。

 

 

 

 図4に圃場内で選定した任意の点における前作の生育と後作の生育の関係を示す。図より、生育の良い箇所は翌年の作物でも同じように良く、悪い箇所は同じように悪いことが分かる。また、毎年の生育良否の関係(1:1の直線)から外れる点や毎年悪い箇所は、低pH、砕土不足による出芽不良、排水不良、砂質、石礫(せきれき)など施肥による改善が困難な箇所であることが分かった。図4に示す施肥による改善が困難な箇所を除いた点において圃場内の生育差(S1相対値の差)と土壌成分との関係を見たのが表1である。表より、毎年の生育良否の関係は土壌の窒素成分、とりわけ熱水抽出性窒素との相関が高いことが認められた。熱水抽出性窒素は表2に示すように土壌診断による施肥量決定に使用される項目である。このため、生育のセンシングにより取得された圃場内における各地点の生育差から土壌熱水抽出性窒素の差が推定できるとともに、これに対する窒素施肥量の増減量を求めることができる。

 

2.施肥マップを作成するソフトウエア

 前述した生育のセンシングデータを基に、基肥可変施肥が実行可能な施肥マップを作成するソフトウエアを開発・市販化した。本ソフトウエアでは生育センシングデータを読み込むと図5に示すように生育マップが表示される。複数年のセンシングデータがある場合は選択した年のデータを平均したマップが表示可能である。次に、処方箋とあるアイコンをクリックすると先に述べた生育と土壌、施肥量の関係から自動的に生育マップが施肥マップに変換され表示される。なお、本ソフトウエアで計算される施肥量は圃場内の場所ごとの地力差に応じた施肥量であり、絶対量を求めることはできない。そのため、過去の実績や地域の慣行施肥量などを基に圃場ごとに平均施肥量をユーザーが入力する必要がある。これにより、設定された平均施肥量に対して各箇所でどの程度施肥量を増減したら良いかを示すことができる。
 

 また、複数年のセンシングデータがある場合は図4に示す関係から、毎年生育が悪い箇所、年次により生育良否の関係が異なる箇所として抽出することが可能である。この機能により抽出した箇所は施肥量の増減による生育改善が難しいと推測され、無駄な増肥を避けるために自動的に平均施肥量が設定される(任意量に変更することも可能である)。抽出された施肥による改善が困難と推測された箇所を(ちょく)(はん)てん菜圃場で確認したところ、図6に示すように排水不良土壌(桃色箇所)や砂質土壌で栽植本数が確保できない箇所(青色)であることが確認された。

 本ソフトウエアでは、車載型の生育センサ以外にも人工衛星のデータなど、緯度経度とその属性データが取得できれば利用可能である。
 

 

3.てん菜、でん粉原料用ばれいしょに対する可変施肥の実行と効果

 図7に生育データの取得から基肥可変施肥実行までの流れを示す。作成された施肥マップは、北海道内では普及が進んでいるトラクタの自動操舵で使用される端末などに読み込ませることが可能である。このような端末と可変施肥が実行可能な施肥機をつなぐと、走行するだけで施肥マップ上の位置をGPS(全地球測位システム)で認識し、その位置の施肥量を自動的に施肥することが可能である。写真2に示すようにGPSガイダンスシステムに組み込まれているため、基肥可変施肥時は何も目印が無い状況でも等間隔の走行と施肥ができる。

 本技術による実証試験を直播種てん菜6圃場、でん粉原料用ばれいしょ2圃場で実施した。実証試験は同じ圃場内に可変施肥区と定量施肥区を設け、収量調査は各区同じような地力の箇所を地力が良い箇所から悪い箇所まで5カ所程度選定して実施した。なお、試験に使用した機材はいずれも入手可能な市販品である。
 

 表3に直播てん菜に対する可変施肥試験結果を示す。可変施肥区と定量施肥区の平均施肥量はほぼ同じにして実施した結果、6圃場の平均では糖分の向上効果は小さいが根重の増加が認められ、糖量は約7%増加した。図8に表3の2番圃場で実施した収量調査結果を示す。この圃場では定量施肥区の施肥量が10アール当たり17.5キログラムに対し、可変施肥区の地力が小さい箇所(図ではS1相対値が小さい箇所)では10アール当たり約20キログラムまで増肥した結果、地力が小さい箇所の増肥による増収効果が顕著で、この要因は根重の増加であった。一方、5番の圃場では図9に示すように地力が大きい箇所になるにつれ糖分が低下しているが、可変施肥区ではそれが抑制され糖量の増加につながった。このように、てん菜に対する可変施肥の効果は圃場や年次により異なることが推察され、地力が小さい圃場では圃場内においてもさらに地力が小さい箇所への増肥による根重の底上げ効果が予測される。地力が大きい圃場では窒素過剰による糖分低下の抑制と施肥量の削減効果が期待される。

 表4にでん粉原料用ばれいしょに対する可変追肥試験結果を示す。追肥時期は開花始めで基肥および定量追肥量は農家慣行である。品種「コナフブキ」の可変追肥区の平均追肥量決定に関しては現地普及センターで開花期の草丈とSPAD(葉緑素含有指標)値を基に算出する式を提案・指導しているため、これを参考に設定した。A圃場では平均窒素追肥量を10アール当たり1.9キログラム減らしたが、いも重はやや増加してライマン価は同じであったことから、でん粉収量は5%増加した。B圃場では平均窒素追肥量を10アール当たり1.5キログラム減らした結果、いも重はほぼ同じでライマン価が増加した。図10、図11はB圃場における圃場内の地点ごとの生育といも重およびライマン価の関係である。B圃場におけるいも重は可変追肥区と定量追肥区でほぼ同じであったが、生育の小さい箇所での増肥による底上げ効果は確認された。また、生育の大きい箇所では可変追肥区の窒素追肥量は定量追肥区に対して10アール当たり3.4キログラムほど減っているため、過剰な窒素施肥によるライマン価低下抑制効果も確認された。

おわりに

 本研究では、簡易に測定・取得可能な生育のセンシングデータから地力窒素ムラを推定し、可変施肥を実行するシステムを開発し、てん菜、でん粉原料用ばれいしょでの効果を検証した。その結果、秋まき小麦で実施された結果同様に4)、地力の小さい箇所での収量の底上げと地力の大きい箇所での糖分、ライマン価の低下軽減効果が認められた。これらのことから、てん菜およびばれいしょに対する可変施肥は、特に圃場内の地力にバラツキが生じる大規模畑作地帯では施肥量の適正化と安定多収に有効であると考えられる。ただし、可変施肥技術の適用は現在のところ窒素成分のみであるため、効果を安定的に発揮するためには、pHや微量要素などの過不足がなく、排水対策なども施された圃場で適用することが望ましい。
 

 近年、GPS基地局の整備が急速に進むとともに、トラクタ自動操舵装置の導入が進んでいる。また、可変施肥に対応した電子制御式施肥機の開発や普及も促進している。本研究で開発したマップ施肥機能は既存の自動操舵端末(トプコン社製X25)に組み込んだものであり、既に自動操舵装置を利用しているユーザーは新たな端末を購入する必要がなく利用できる。また、施肥マップを背景画面にした作業経路ガイダンスも可能なため、電子制御式の作業機がない場合においてもトラクタの速度を落とすなどして手動による可変作業もでき、部分的な土改材の施用など効果的な圃場改良への利活用が期待できる。さらに、人工衛星やドローンによる作物生育センシング技術が数多く開発されてきており、今後これらの利活用も期待される。

【参考文献】
1)原圭祐(2012)「センサベースの小麦可変施肥技術」『グリーンテクノ情報』8(2)pp.12-16
2)米山晶、清野伸孝、横堀潤(2009)「産業用無人ヘリコプタ画像を利用した自動可変施肥システム」『写真測量とリモートセンシング』48(5)pp.272-276
3)澁澤栄、平子進一、大友篤、李民賛(1999)「リアルタイム土中光センサーの開発」『農業機械学会誌』61(3)pp.131-133
4)原圭祐、須田達也、渡部敢(2015) 「センサベース可変施肥の小麦生産における評価」『農業食料工学会誌』77(6)pp.485-493

このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272



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