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あんこを通じて世界平和の実現を目指す

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最終更新日:2021年6月10日

あんこを通じて世界平和の実現を目指す
〜あんこの魅力と可能性〜

2021年6月

日本あんこ協会 会長 にしい あんこ

1.ご存じですか?つぶあんと小倉あんの違い

 突然ですが、皆さんは「つぶあん」と「小倉あん」の違いをご存じでしょうか?

 初対面の方とあんこの話題になったとき、私はよくこの質問をします。これに対して正しく答えられた人は、まだ一人もいません。

 小豆を主体とするあんこには、おおよそ以下の表の通り四つの名前のあんこが存在しますが、近年解釈が紛らわしくなっているところもあり、ここに改めて各種あんこの説明をしておきたいと思います。
 

2.あんこの種類と和菓子の関係

 さて、四つのあんこの違いが分かったところで、次に、私が普段よく聞かれる質問を紹介したいと思います。それは、「つぶあん派ですか?こしあん派ですか?」という質問です。初対面の方とあんこの話になると、10人中9人の方からこのような質問を受けます。私のあんこの好みに興味を持っていただけることはとてもありがたく、喜ばしいことなのですが、先述の四つのあんこの違いを既にご存じの皆さんでしたら、この質問は少し“足りない”ということが、お分かりいただけるかと思います。

 一般につぶあんと解釈されてしまっているものが、実は、つぶあん、つぶしあん、小倉あんと3種類あり、つぶあん好きかこしあん好きかの2択にはできないということなのです。

 さらに申し上げると、私ども日本あんこ協会は、あんこに派閥が存在することを認めておりません。派閥があれば争いになりかねないからです。私どものミッションは「あんこを通じて世界平和を実現する」ことです。なぜあんこで世界平和なのかは後述したいと思います。

 さて、それでも、「どっちのあんこが好きですか?」と聞かれることがよくあります。私個人の好みを申し上げますと、すべて好きとお答えすることになります。それは、あんこにはそれぞれTPOがあるからです。

 例えば、皆さんはこしあんのたい焼きを見たことはありますか?おそらくほとんどの人が「ない」と答えるかと思います。実際はないわけではないのですが、極めて少ないです。なぜかというと、和菓子には本来、素材の食感を合わせるという考え方があります。口当たりのハッキリしたたい焼きの生地には、滑らかなこしあんよりも、小豆のつぶや外皮の食感がしっかりしたつぶあん、あるいはつぶしあんのほうが合うわけです。どら焼きにも、ほぼこしあんは見かけません。逆に、水ようかんにはこしあんがよく使われます。大福などの餅菓子になると、つぶあん、つぶしあん、こしあんなど、いろいろなパターンをよく見かけますが、つまりあんこに対する餅は、中立的なポジションをとると解釈することができます。ですので、つぶあんの方が好き、こしあんの方が好きというのは結構なことなのですが、できれば、今一歩踏み込んで、「このどら焼きのつぶあんの使い方が素晴らしい!」「この大福の餅生地と、中のこしあんの滑らかさが絶妙にマッチしておいしい!」「やっぱり夏にはつるっとしたこしあんの水ようかんがいい!」といった風に、TPOを意識してあんこのことを見ていただけると、もっとあんこの味わい方、楽しみ方が広がってくると思います。

3.なぜ、あんこで世界平和なのか?
〜日本あんこ協会のミッションについて〜

 私が2018年に創設し、現在会長を務める日本あんこ協会とは、あんこの愛好家だけで構成されるあんこ好きのための、あんこの普及振興をする協会団体です。「あんこを通じて世界平和を実現する」ことをミッションに掲げて活動しております。「え?どうやってあんこで世界平和?」と思われる方のために、少し説明したいと思います。
 
 日本あんこ協会では、「あんこ」の意味を、物性的視点と感性的視点の二つの視点から定義付けしています。物性的視点から定義したあんこの意味は、皆さんがよく知る食材としてのあんこです。感性的視点から定義したあんこの意味は、物性的定義と同等に重要なのですが、あんことは「家族や身近な人からの無条件かつ無限の愛を感じられる象徴である」というものです。これはどういうことかというと、これまであんこの普及振興活動をしてきた中で、実に多くのあんこ好きの方と出会ってきました。もちろん、私どもと接することであんこ好きになった方もたくさんいらっしゃいます。そんなたくさんのあんこファンの方々と接する中で気付いたことがあります。それは、皆さんのあんこの思い出の中に、実に多くの「ぬくもり」あるエピソードが存在するということです。

 例えば、当協会のあんこ食べ比べイベントでは、参加者に自分が気に入ったあんこを一人ずつ語っていただく機会があります(写真1)。その際に、なぜ気に入ったのかその理由まで深掘りすると、非常に多くの参加者が、「小さい頃におばあちゃんが炊いてくれた味に近いから」「昔家族でよく食べていた地元の和菓子屋さんの味を思い出した」など、何かしらその人の原体験に根差した理由を挙げられるのです。そこには、人のぬくもりが確かに存在し、個人個人のあんこにまつわるハートフルストーリーが広がっています。これほど皆さんが一様に感性的に関わることのできる食べ物は珍しいのではないでしょうか。

 かくいう私も、小さい頃に、今は亡き母があん巻きを作ってくれたことがきっかけで、あんこが大好きになりました。母が自分であんこを炊き、ホットケーキミックスで薄めに焼いた生地に巻いて、私に食べさせてくれました。今でも、あんこを食べるとその時のことを思い出し、何とも言えない和やかな気持ちになります。そして、「あぁ、私にも愛してくれる人がいる」という自信と「餡心」(=安心)を取り戻すことができるのです。

 このように、あんこを食べて原体験を思い出したとき、私たちは応援してくれる人がいる「餡心して帰ることのできる場所」があると自覚します。これは非常に重要なことで、何かにつまずいた時、うまく行かずに落ち込んでいる時、人はどうしても「自分のことなんて誰も分かってくれない」という孤独に陥ってしまいがちです。しかし、あんこを食べて自らの原体験に思いをはせ、心が和むことで、「よし、もう一度やってみよう!」という挑戦する勇気が湧いてくるのです。

 日本あんこ協会は、このように人のぬくもりあるエピソードを思い出すことができ、食べた人を勇気づける存在としてあんこを掲げ、あんこを通して、皆さんが餡心できる社会の実現を目指しています。混迷極まる不安定な現代社会においても、あんこによって人々が餡心し笑顔が生まれ、きっと大丈夫だと思えることで未来に希望が持てます。世界中の人たちがそんな気持ちでいられる状態こそ、世界平和そのものだと私たちは考えているのです。
 

4.あんこへの意識を高める日本あんこ協会の活動

 現在、私どもはこの壮大なミッションを達成するための第一フェーズにあると考えています。それは日本の皆さんに、まず「あんこへの意識」を高めてもらうことです。あんこへの意識を高めるとは、あんこの存在に改めて向き合い、より深く知ろうとすることです。

 そのために協会として行う活動は、大きく四つの分野に分かれます。

 一つめは、「あんこの発掘」です。わが国には、まだまだ地方に眠る絶品あんこスイーツがたくさんあります。それらは、特定の地域だけで食べられ、残念ながら、全国的に知られる機会が少ないものもあります。そこで、当協会の協会員(2021年4月時点で約6500名)のネットワークを生かし、そのような地域で愛されるあんこスイーツの情報を発掘し、広く一般の皆さんに紹介することで、あんこへの興味を高めてもらうというものです。具体的には地元のあんこ銘菓の食べ比べイベントを開催したり、全国の百貨店やショッピングモールなどの商業施設におけるあんこの催事の監修、協力などをしています(写真2)。
 

 
 二つめは、「あんこの歴史」です。日本の食文化の代表格と言ってもよいあんこですが、その歴史はあまり深く知られていません。例えば、あんこはもともと塩味が主流であったことや、最中には初めあんこが入っておらず、皮の部分だけで、せんべいのような餅菓子として食べられていたこと、ようかんは、中国大陸から伝わった時には羊肉のスープであったこと、他にも、まんじゅうは奈良と福岡の二つのルートで日本に伝わったこと(諸説あり)など、非常に興味深いトピックがたくさんあります。このようなあんこにまつわる歴史を古文書や文献などを紐解き、皆さんに分かりやすく伝えていくことも私どもの仕事です。

 三つめは、「あんこの健康」です。あんこにはサポニンやポリフェノール、食物繊維など健康に良いとされる成分が豊富に含まれています。また、あんこは脂質が少なく、エネルギー補給に向くことから、トレーニング中の補助食としてスポーツようかんが発売されるなど、アスリートやボディビルダーの間でも注目を集めています。これは小豆に含まれるビタミンB1が糖質の代謝に関わる補酵素として働き、糖質のエネルギー転換を助けるからです。ちなみに、私自身も筋トレ前には必ず大福を食べます。生涯現役であんこを食べるためには、いかに健康的にあんこと付き合うかが極めて重要です。あんこと健康に関する情報を伝えていくのも当協会の活動の一環です。

 四つめの活動領域として「あんこの可能性」があります。これは、あんこと他の食べ物や飲み物の組み合わせを、レシピ開発などを通じて研究し、新しいあんこの食べ方や楽しみ方について、世の中に提案するという活動です(写真3)。最近ではアロマ分子レベルでのペアリング研究や、世界の伝統菓子や郷土菓子にあんこを組み合わせ、グローバルなコラボレーションあんこスイーツを考案するなど、より斬新であんこの可能性を広げるチャレンジを進めています(写真4)。
 
 

5.和菓子の日にあんこスイーツを

 さて、来る6月16日は「和菓子の日」とされています。あんこと和菓子は切っても切り離せない関係です。和菓子の日の由来は、時を遡ること、平安時代にあります。848年、(にん)(みょう)天皇がご神託を受けられ、6月16日に「1」と「6」の数にちなんだお菓子や餅などを神前にお供えされました。そして世の中から疫病をはらい、無病息災、除災招福を神仏に祈られたと伝えられています。その時、元号は「承和」から「()(じょう)」に改元され、以後、明治時代まで6月16日は「嘉祥の儀式」の日として、和菓子を食べて疫病を払い、健康を祈願する日となりました(写真5)。

 ご存じの通り、今社会では世界規模で新型コロナウイルス感染症(COVID–19)という疫病と闘っています。日本あんこ協会の理念は「あんこを通じて世界平和を実現する」ことです。世界平和が危機的状況にある今、和菓子の日に、笑顔であんこスイーツを食べることは、世界の「餡定」(=安定)と健康を願うことに通じると考えています。

 ぜひ6月16日の和菓子の日には、皆さんにあんこスイーツを食べていただけることを心より願っております。LOVE ANKO PEACE!
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272