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移動式除土積込機によるてん菜輸送の作業効率の調査と経済性の算定

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最終更新日:2021年8月10日

移動式除土積込機によるてん菜輸送の作業効率の調査と経済性の算定

2021年8月

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 北海道農業研究センター
寒地畑作研究領域 スマート畑作グループ 上級研究員 藤田 直聡

【要約】

 てん菜を製糖工場内に搬入するにあたり付着する土砂を除土しているが、輸送効率および病害虫の伝播といった課題がある。これらの対策として、てん菜のトラックへの積込作業について、新技術である移動式除土積込機の効果を、慣行のショベルローダとの比較により検証した。本稿では、移動式除土積込機活用の効果と問題点について報告する。

1.背景と調査目的

 てん菜を製糖工場内に搬入するにあたり、付着する土砂を除去する必要がある。現状では、てん菜の除土は生産者の圃場(ほじょう)で行われず、運搬先の製糖工場のパイラーで行われている。除去された土砂は生産者の圃場へ返還している。こうした方法は、多量の土砂の移動を伴うため、トラック1台当たりのてん菜輸送量が減り、その効率が低下する。同時に、土壌病害およびセンチュウなどの害虫の伝播が懸念される。これらの対策として、ドイツなどの欧米で実施しているように、圃場での土砂の除去を検討する必要がある。

 本調査では、その手段として、移動式除土積込機の試験を行い、圃場における普及の可能性について検討した。調査方法は、次の通りである。生産者2戸(Kファーム、T農場)を実証農場とし、第一にてん菜の堆積場の長さ、高さ、幅、移動式除土積込機の作業時間を計測した。同時に、積込作業の作業者数、作業状況を調査した。第二に、堆積しているてん菜に混入している土砂の重量を、圃場と製糖工場にて計測した。第三に、上記の調査結果に基づき、慣行と移動式除土積込機の稼働費用をそれぞれ試算し、比較を行った。

 なお、調査時の条件は以下の通りである。第一に、本試験ではてん菜の堆積場は圃場とし、堆積専用ストックポイント(堆積土場)は用いない。第二に、てん菜は圃場に堆積しているが、11月8〜10日に10.5ミリメートル程度の降雨があったため、積込作業時(11月11〜12日)において、堆積周辺の土壌は、水分が多く軟らかくなっていた。第三に、T農場については、収穫日(10月30日)前日である10月28〜29日に降雨があったため、通常より多く土砂が付着していた。第四に、本試験では比較のためにショベルローダでの積み込みを実施しているが、てん菜の損傷をできるだけ防ぐため、堆積場の土砂もてん菜と一緒に(すく)っている。また、本調査は独立行政法人農畜産業振興機構の令和2年度砂糖関係研究委託調査により実施したものである。

2.移動式除土積込機の概要と慣行との相違点

 本試験では、移動式除土積込機として、ドイツ・ブレッドマイスター社製の「ミニマウス」を用いた(写真1)。ミニマウスの概略は、以下の通りである。

 この作業機は、重量が5.3トン、寸法が道路交通時で縦8.2メートル、横2.3メートル、高さ3.2メートルのけん引式である。当作業機の動力として、250馬力以上のトラクターを必要とする。オペレータはバックしながら作業するため、積み込みの監視を行う作業者1人を必要とする。積込作業時の車速は時速0.2〜0.4キロメートル程度であり、取得(小売)価額は2700万円である(表1)。

 作業機の構成については、図1のように、掻き込み板、ガイド板、走行輪、第1コンベア、第2コンベア、出口アーム、ギヤボックスからなり、掻き込み板の下には9本のローラーがある。取り入れ口は幅が5.3メートルであるが、まず、ここからのみ込みローラー(1)で飲み込んだてん菜を、スクレップローラー(2)で土砂をはがし、除土ローラー(3〜5)で土砂を機械外へ落とす。次に、搬送ローラー(6〜8)→繰り出しローラー(9)で、コンベアへ送り出し、第1コンベア→第2コンベアへと運搬して、出口アームからトラックの荷台へ落とす仕組みになっている。路上走行時は、装着位置を変えてトラクターのけん引で行うが、コンベアを折りたたみ、走行輪を出すことで移動ができる。

 一方、慣行で行われている積み込みは、ショベルローダ(写真2)でトラックに積み込んで製糖工場へ運搬し、製糖工場のパイラー(写真3)に搬入して、てん菜と土砂に振り分ける方法で行われている(写真4)。

 

 

 

 

 

 

3.試験結果

(1)てん菜の堆積状況

 実証圃場におけるてん菜の堆積状況は、写真5の通り、縦長になっていた。移動式除土積込機を用いて、トラックへ積み込む場合、堆積場の短辺部分(三角形の底辺)である足幅を取り入れ口に合わせて5メートル以内にする必要があるため、高さ2メートル以上積み上げることは難しい。実際のてん菜の堆積を計測すると、Kファームでは足幅5.0メートル×高さ1.7メートル×長さ75メートル、T農場では足幅4.0メートル×高さ1.6メートル×長さ102メートルと、縦長になっていた。これより、堆積場の面積、てん菜の体積について、Kファームはそれぞれ384平方メートル、323.9立方メートル、T農場はそれぞれ414.4平方メートル、329.8立方メートルと推定される。

 従来の積込方法では一般的な足幅13メートル、天場7メートル、高さ2メートルの場合について試算すると、長さと面積については、Kファームの場合18.9メートル、245.7平方メートル、T農場の場合19.5メートル、249.6平方メートルと試算され、移動式除土積込機を用いた積み込みの方が、慣行よりも大きくなることが明らかになった。

 また、自走式多畦収穫機で収穫を行う場合、ホッパーの容量は30立方メートルであることから1回の荷下ろしでは、Kファームのようにてん菜の堆積を足幅5メートルとすると8.2メートル、T農場のように足幅4メートルとすると10.4メートルの移動が必要となる。一方、足幅を13メートル、天場7メートル、高さ2メートルとすると、ともに1.5メートル程度で済む。すなわち、移動式除土積込機を利用する場合、自走式多畦収穫機の排出作業が、慣行より難しくなることが示唆される(表2)。

 

 

(2)移動式除土積込機における作業時間

 まず、てん菜積込作業における作業者数について見ると、慣行では、トラックオペレータ1人、ショベルローダのオペレータ1人の合計2人であるが、移動式除土積込機では、トラクタオペレーター、除土機オペレータ1人のみならず、オペレータに指示を行う監視役1人、合計3人が必要となる。監視役は、オペレータに出口アームの位置を指示するため、トラックの頭に乗らなければならないが、転落などの危険が懸念され、本格的な導入を行う際には、カメラなどによる監視に置き換える必要がある。

 次に、10トントラック1台へのてん菜積込作業に要する時間についての試験結果は、表3の通りであった。収穫日前日に降雨がなかったKファームでは、慣行区(従来のショベルローダを用いた積み込み)の作業時間は3分50秒であったのに対し、試験区(移動式除土積込機利用)では平均で13分59秒を要していた。一方、収穫日の前日に降雨のあったT農場では、慣行区の作業時間は平均7分39秒で、Kファームより長時間を要するのに対し(注1)、試験区は平均10分42秒と、やや短時間であった(注2)。以上より、移動式除土積込機による除土作業時間については、収穫日前日の天候による影響は見られなかった。

 作業機の洗浄作業については、高圧温水洗浄機を用いて、作業員1〜2人が交代しながら行っていた。所要時間は2時間程度と、比較的長時間であった。

(注1)T農場の慣行区の作業時間が、Kファームを大きく上回っているが、これは、T農場において、トラックを堆積場から比較的遠いところに位置させたことによる。
(注2)本試験は、第1日目にKファーム、第2日目にT農場で行った。Kファームの作業時間がT農場より長くなっている理由として、オペレータの積込作業に対する熟練度、慣れの違いの他、作業時間帯の差もあるものと考えられる。Kファームは地盤が緩くなる午後1〜3時、T農場は地盤が凍結により固くなる午前8時〜10時に、試験を実施している。

 

(3)てん菜に付着している土砂の重量計測

 移動式除土積込機による除土量に関して、圃場で計測した結果は、表4の通りである。Kファームについては、平均444.7キログラム、最大で454.8キログラム、T農場については、平均910.1キログラム、最大1011.4キログラムであった。後者については、自走式多畦収穫機で収穫する前日、前々日に降雨があったため、前者より500キログラム程度重くなっていると推察される。

 製糖工場における試験結果は、表5の通りになった。工場搬入量は、両農場ともに慣行区が試験区を上回っている。パイラーによる除土が行われるが、その処理時間は慣行区と試験区に大きな差はなかった。だが、通過後の搬入量を見ると、試験区が慣行区を上回っている。パイラーによる除土量を見ると、試験区が慣行区を大きく下回っており、特に、収穫日前日に降雨があったT農場は、1000キログラム以上の差があった。

 また、T農場の工場搬入量に占める土砂混入割合、パイラー通過後の個体付着土砂率は、収穫日前日に降雨がなかったKファームとほぼ同じであった。以上の調査結果より、トラック1台当たりの土砂を除いたてん菜重量を試算すると、両農場ともに試験区が慣行区を上回っていることより、移動式除土積込機は、除土効率が高く、てん菜の輸送効率を上昇させることが明らかになった。

 

 

(4)稼働費用の試算

 ここでは、慣行区と試験区の稼働費用を、試験結果に基づいてそれぞれ試算し、比較を行った。試算にあたって、前提条件を表6のように設定した。移動式除土積込機の動力として用いるトラクターに関しては、1シーズン1台、1日5万円で借り上げるものとした(注3)。慣行区の洗浄作業時間について、計測を行っていないが、ショベルローダの全長が、トラクターと移動式除土積込機を合わせた長さの45%程度であったので、試験区(2時間)に45%を乗じた値である0.9時間とした。慣行で用いるショベルローダの取得価額を1585万円、試験区については、積込作業に用いる機械は移動式除土積込機の取得価額を2700万円とした。また、労賃単価については、農林水産省発行の工芸作物生産費調査結果に基づき、1時間当たり1700円とした。てん菜の10アール当たり収量については、実証農場の実績に基づき6.8〜6.9トンとした。積み込みに用いる作業機について、多数の生産者の圃場で利用することを想定し、てん菜積込量を面積換算した値を100〜400ヘクタールとした。輸送するトラックについては、積載量を10トン前後とし、1日6往復を上限とする。トラックの使用料は、運転手の労働費を含めて、1日1台当たり5万円とした(注4)

 上記の前提条件に基づいて、稼働費用を試算した結果は、図2、3の通りとなった。まず、作業機の取得の際に補助がない場合についてみると、収穫日前日に降雨がなかったKファーム、降雨があったT農場ともに、試験区の稼働費用は常に慣行区を上回り、作業面積が大きくなるにつれて、双方の差は縮まることが明らかになった。次に、作業機の取得の際に取得価額の2分の1を負担する補助がある場合についてみると、両農場ともに、補助がない場合と同様に、試験区の稼働費用が慣行区を上回っていた。

 以上により、移動式除土積込機の導入にあたって、取得の際における補助の有無にかかわらず、慣行のショベルローダでの積み込みよりも、稼働費用が高くなることが明らかになった。この移動式積込機を生産現場で普及させるにあたり、「てん菜の土砂を圃場で除去することによる輸送の効率化」のみでは、稼働費用の高さにより、生産者、農作業支援組織、国、地方公共団体および行政の理解を得ることは困難である。むしろ、これらの関係者が、土を移動させることによる病害虫まん延のリスクに関して、危機感および対応の重要性への理解が重要となると考えられる。

(注3)実際には、生産者が個別で借り上げる場合、共同で借り上げる場合など、さまざまな方法が想定されるが、ここでは議論を単純化するため、トラクターを1シーズン1台で借り上げ、共同で利用することを前提とした。
(注4)実際には、往復回数、稼働状況(1日か半日、稼働時間による料金支払いの可否)など、輸送トラックの編成により、使用料が業者によって異なる。ここでは、議論を単純化するために、編成を考慮に入れず、1日当たり輸送量とトラック使用料より輸送費を算出した。

 

 

 

5.むすび

 本試験は、てん菜のトラックへの積込作業について、新技術である移動式除土積込機の効果を検討した。その結果、次のことが明らかになった。

 第一に、移動式除土積込機の作業幅が5メートル程度と狭いため、堆積場の設置が通常より広くなる。それゆえ、自走式多畦収穫機で排出作業を行う場合、通常より煩雑になる。同時に、かつ道路のそば、しかも3メートル離れていなければならないなど限定される。第二に、慣行のショベルローダの積み込みに比べて、作業者数が1人増加し、作業時間も長くなる。さらに洗浄時間も長時間を要し、監視作業も安全とはいえない。第三に、移動式除土積込機で取り除かれる土砂の量は、トラック1台当たり400〜900キログラムであった。また、移動式除土積込機を通したてん菜は、収穫日の天候にかかわらず、製糖工場での土砂混入量は200キログラム程度であることより、収穫日前日の降雨により土砂が多量に付着しても、降雨がなく土砂の付着量が少ないてん菜とほぼ同じ水準まで、除去できることが明らかになった。第四に、稼働費用については、作業機の取得において補助の有無にかかわらず、移動式除土積込機を利用した方が高くなることが明らかになった。

 以上より、移動式除土積込機は、稼働費用の高さ、堆積場の設置の制約、収穫機の排出作業の煩雑さ、洗浄作業時間の長さ、監視作業の安全性などに課題が存在するものの、てん菜に付着している土砂の大部分を除去できることが明らかになった。この作業機の普及を図るためには、取得の際2分の1補助を得たとしても、稼働費用が慣行より高いため、より手厚い補助が必要となる。稼働費用が従来方法より高額でも、行政が重要性を理解し生産現場に普及させた例として、堆肥舎、スラリータンクなどの家畜ふん尿処理施設がある。これは、生産現場や地域のみならず、行政や一般の住民も、家畜ふん尿に由来する環境汚染などに危機感を持ったため、1999年に家畜排せつ物法が施行され、ふん尿処理施設の設置を5年間のうちに義務づけたものであるが、国が50%、都道府県が25%の補助率であった。移動式除土積込機においても、生産者、輸送業者、農作業支援組織のみならず、関係機関、国、地方公共団体などが、「てん菜の輸送の効率化」のみならず、「土の移動による病害虫の伝播に対する危機感」を認識し、圃場で土砂を除去する重要性を理解することが不可欠である。

 最後に、現時点でわが国に存在しないが、欧米で利用されている自走式除土積込機(写真6)についても、触れておきたい。堆積場の設置の制約はあるものの、取り入れ口が9メートルと大きいため、収穫機の排出作業の煩雑さが解消されると同時に、オペレータが監視を兼ねるため、試験を実施した体系より作業者数が減少する利点を持つ。それゆえ、試験地においても利点として、(1)生産者は、土壌を持ち出さない事による病害虫拡散防止、(2)輸送業者は、正味輸送増による効率化と収益増、(3)製糖工場は、工場搬入土砂減による土砂処理費の削減−を挙げ、導入を検討している。さらには、てん菜の将来構想として、6畦の自走式多畦収穫機で収穫して圃場に堆積し、自走式除土積込機でトラックに積み込み、製糖業者に搬入することとし、こうした一連の収穫から製糖工場搬入まで、営農支援センター(MR)が担うこととしている。とはいえ、この自走式除土積込機を、北海道の生産現場に普及する上において、課題は多い。特に、物理的阻害要因(圃場と道路の落差、明渠(めいきょ)・電柱・電線の存在、てん菜堆積場所に面した道路整備、ストックポイントの増設ほか)の解決、橋梁(きょうりょう)の重量制限、通行計画の警察署への届け出など「道路交通法」上の課題については、インフラストラクチャーの整備、制度上の問題を含んでおり、生産者、農作業支援組織、農協など、当事者のみでは解決が困難である。

 したがって、このような除土積込機を普及させるためには、関係者のみならず、国や地方公共団体などの政府機関もまた、土砂を圃場で落とす重要性、病害虫の伝播に関する危機感の認識はもとより、北海道でてん菜を生産し、砂糖を製造する重要性を理解することが重要である。また、本試験の対象である移動式除土積込機、および自走式除土積込機は、てん菜のみならず、でん粉用ばれいしょの積込作業にも利用可能である。ばれいしょも、従来の輸送方法では、多量の土砂の移動が懸念されるので、今後は、こうした積込機を用いて除去することが求められるであろう。

 

著者一覧
・藤田 直聡(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 北海道農業研究センター 上級研究員)
・有岡 敏也(津別町農業協同組合 審査役)
・澤田 賢(北海道オホーツク総合振興局 産業振興部 網走農業改良普及センター 美幌支所)
・木山 邦樹(日本甜菜製糖株式会社  常務執行役員 札幌支社長)
・奥山 哲夫(日本甜菜製糖株式会社 美幌製糖所副所長)
・今村 城久(サークル機工株式会社 取締役)
・松田 真(サークル機工株式会社 開発部 次長)
・山本 秀清(三星運輸株式会社 専務)
・金一 和美(有限会社木樋桃源ファーム 代表取締役)
・谷 智博(谷農場)
・東山 寛(北海道大学大学院 農学研究院 基盤研究部門 農業経済学分野 准教授)
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272