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さとうきびスマート農業の課題と普及に向けた対応策

ウフスマ・プロジェクトで見えてきた
さとうきびスマート農業の課題と普及に向けた対応策

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最終更新日:2021年9月10日

ウフスマ・プロジェクトで見えてきた
さとうきびスマート農業の課題と普及に向けた対応策

2021年9月

南大東スマート農業実証コンソーシアム
亜熱帯バイオマス利用研究センター 上野 正実
琉球大学 農学部 川満 芳信、渡邉 健太

【要約】

 ウフスマ・プロジェクトによって、さとうきびのスマート農業に関する新知見や新技術を取得し、南大東島だけでなく他地域への普及にも道を開くことができた。「スマート農業は農家だけではできない」との現地からの声も含めて、スマート農業技術を分類し、普及に向けた課題と対策を技術区分別に整理した。これらに基づいて、さまざまな形態の実践と農家の創意工夫の積み重ねが、スマート農業普及の近道であることを述べる。

はじめに

 農林水産省および国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構によるスマート農業技術の開発・実証プロジェクト(課題番号:畑H06)「さとうきびの生育情報に基づく精密栽培管理によるスマート農業体系の実証」(以下「ウフスマ」という)を南大東島で令和元年度より2年間実施した。これによってさとうきびのスマート農業技術に関する大きな知見や新技術を得て、南大東島だけでなく他地域への普及にも道を開くことができた。その概要は本誌2021年7月号「ウフスマ・プロジェクトの終了とさとうきびスマート農業時代の幕開け」(以下「前報」という)で述べた通りである。

 一方、現地から「スマート農業は農家だけでは実現できないので、外部の支援サービスが不可欠」との指摘が寄せられている。図1は南大東島の生産者が作成した図で、農家と企業(サービス体)でできることとできないことを的確に整理している。これも含めて、スマート農業の技術区分とそれぞれの普及における課題も見えてきた。スマート農業の社会実装に向けた沖縄県内の関係者による検討会でも同様の議論があり、これらの課題は関係者間では共通認識として定着しつつある。2年という短期間のプロジェクトで明らかになったことに限りはあるが、スマート農業の円滑な導入に向けて整理できた課題と対策を報告したい。なお、本文だけを読めば「スマート農業は課題山積」という印象を持たれるかもしれないが、導入の効果は非常に大きいことを強調しておく。導入効果を一層高めるための処方箋と考えていただきたい。 
 

1.スマート農業技術の分類

(1)ウフスマ実証課題の分類

 スマート農業の技術は幅が広く、導入する内容によって現場の取り組みの難易が決まる。ウフスマの実証課題の中で使用・開発した技術を整理すると次のように分類できる(表1)。
 

(2)さとうきびスマート農業の技術区分

 スマート農業と言っても何も特別なことをするわけではなく、これまで営々と継続してきた農業技術の最新版である。極論すればロボットやIoT(注)などのツールが新しくなっただけであるが、これらのツールは従来とは大きく異なる効果を発揮する。導入に当たっては、ツールに目を奪われることなく、その本質を把握して取り組むことが肝要である。

 ここで、現時点で利用可能なスマート農業技術をさとうきび作に合わせて分類すると表2が得られる。情報系の分類には議論の余地があるが、ここでは、センサやIoTを駆使して生育やその環境・圃場(ほじょう)などの情報を扱う分野を情報系T、経営や政策に関する分野を情報系Uに区分した。この区分は表1のウフスマの課題分類とほぼ重なっている。課題設定時に特に意識したわけではないが、バランスの良い配置になっていることがわかる。なお、ここで扱う技術は分蜜糖を対象とし、さとうきびの出荷までの範囲に限定してある。黒糖や他の作物では、情報系Uに市場情報が加わり、加工、6次産業化なども入る。

(注)「Internet of Things」の略称。従来インターネットに接続されていなかったさまざまなモノが、インターネットに接続され、相互に情報交換をする仕組み。
 

2.技術区分別課題と対応策

 これらの技術の普及を図るには、それぞれの課題を把握して事前にできるだけ対処しておくことが望まれる。そこで、各技術区分についてウフスマで明らかになった課題を中心に整理した。

(1)ロボット系

ア.RTK-GPSの不安定さ

(ア)移動局
 作業中に自動操舵(写真1、以下「RTK」という)モードが突然、解除されて走行が乱れることがある。これはオペレーターに強いストレスを与え、修正その他で作業能率の低下要因となる。この現象が生じやすいのは、防風林付近、幕上(島の周囲の高台)と幕下(内部の低平地)を分ける幕(崖状の斜面)の直下付近などである。RTKモードの解除は、システムにもよるが移動局すなわち農機に設置したアンテナの補足衛星数がある数以下になると生じる。GNSS衛星は全天に満遍なく分布する軌道を飛行するので、衛星の配置は時々刻々と変化する。衛星からの電波は直進性が強いので途中に障害物があれば不達となる。このような場所は衛星と移動局の相対的な位置関係によって決まる。衛星の配置状態によって同じ場所でも補足数は変化するので、RTKモードがいつも不安定になるとは限らない。




(イ)固定基地局と補正信号
 一方、固定基地局からの補正信号が到達しにくい場所ではRTKモードにならない。南大東島では、固定基地局は高い構造物の上に設置したので、補足衛星数の問題は生じにくいと思われる(写真2)。固定基地局が目視できない圃場で作業する移動局が問題になる。圃場に起伏や(くぼ)みがあれば局所的に電波が届きにくい。固定基地局は4カ所あって、移動局はどの局の補正信号でも使用できる。このため南大東島全域で電波の届きにくい圃場はほぼ無くなったと思われる。しかしながら、十分なチェックはできておらず、今後の確認を待つことになる。さらに、補正信号の電波が弱いことも届きにくさの原因となる。なお、可搬式の基地局を圃場付近に設置して作業する場合にも補足衛星数の問題が起こる。
 
(ウ)RTK-GPSの課題に関する対策
 固定基地局の問題は、アンテナ数を増やす、アンテナの設置位置を高くする、さらには、強い電波の利用が解決策として考えられる。移動局に関しては、準天頂衛星「みちびき」の併用が効果的と考えられる。この衛星は常に頭上にあるので、GNSSを補完して安定的な測位が可能になる。残念ながらまだ試験的な要素が強く、ウフスマで使用中のシステムは対応できていない。

(エ)土壌と車輪の相互作用
 通信に関係のない問題として、けん引作業時などで前輪が浮いて自動操舵が効きにくい現象が生じる(写真3)。自動操舵システムが前輪の向きを正常に変えても、地面との摩擦抵抗が不十分であれば期待通りに向きは変わらない。ウフスマで生産者として参加したアグリサポート南大東株式会社(以下「アグリ」という)では、植え付け前に自動操舵で圃場に直線を引いている(以下「線引き」という)。自動操舵植え付けを直接行えばこの線引きは不要とも言えるが、膨軟な圃場面をタイヤで鎮圧することによって操舵を安定化させる効果がある。けん引作業以外でも傾斜地や高水分圃場では自動操舵に追随しない現象が生じる。土壌と車輪の相互作用に起因する問題の解決には本格的な研究を要する。フィードバック制御に加えてAIも利用した予測制御すなわち手動操作に相当する技術が必要となろう。


イ.ABラインデータの後続作業での再利用

 前報でも述べたように、さとうきびは、植え付け時もしくは線引き時の自動操舵基準データ(以下「初期ABラインデータ」という)を次期株出し更新までの各作業で再利用する点に特徴がある。直線植え付けができたら、その後の中耕・培土、防除などは自動操舵でなくても作業しやすくなる。しかし、倒伏圃場の収穫や、被覆トラッシュで株元の確認が困難な株出し管理作業でも初期ABラインデータがあればオペレータに負担をかけることなく作業できる。作業のたびにABラインを再度、設定することもできるが、最初のものとのずれは避けられない。後続作業が収穫機のような専用機や別のトラクターを使用する場合は、初期ABラインデータの移植が必要である。これには、自動操舵コンソールからデータを抜き出してUSBメモリやパソコンに保管して、作業前に移植する。これによって再設定の手間やずれを省けるが、このデータの管理が重要である。圃場数が少ない場合はともかく数が増えるとデータ管理が煩雑になってトラブルの原因となる。最も良い方法は営農支援システムで圃場地図と一緒にGISで管理することである。

ウ.走行軌跡データの活用

 自動操舵システムは走行軌跡の緯経度データを記録する機能を持っている。このデータから、作業面積、作業時間、作業能率、作業効率などを高精度に算出できる。ウフスマでは、自動操舵システムから走行軌跡データを取り出してこのような分析を行った。手作業で大きな手間を要したが、これをある程度自動化すれば、非常に有用な情報源となる。自動操舵の付加価値を大幅に高めるスマート農業の真髄とも言える存在になり得る。ウフスマで使用したシステムでは、煩雑なデータ保存操作がオペレータの負担になって、操作を忘れる場合も生じた。メーカによってスマートッチのような算出機能を付与しているシステムもあるが、機能のチェックが必要である(写真4)。
 
エ.GNSSインフラの整備と運用

 上述のように、RTK-GPSは移動局と補正信号を出す基地局がセットになっている。補正信号を基地局から直接送信するタイプとインターネットを介して携帯の無線局から送信するタイプがある。前者は電波が弱いので作業現場の近くに可搬式の基地局を運んで設置する。作業中に何らかの事情でその場所を変えると位置データが狂ってしまい、ABラインの再設定が必要となる。高価なこの一対のセットをすべてのトラクターでそろえると、例えば南大東島では莫大な導入コストが必要となる。幸い、1台の基地局の補正信号は複数の移動局で利用できるので、ウフスマでは基地局4局の共同利用体制を構築してコスト節減を図った。一方、ネット方式は地域に1台の基地局アンテナ(ラジオステーション)とパソコンを置けば補正信号はほぼ全域に送信可能である。現在、株式会社くみき(以下「くみき」という)がこの方式を試行中で、これについては後述する。いずれの方式にせよ、インフラ整備を誰がどのように行い、どうメンテナンスするかが課題となる。

オ.移動局の効率的運用とメンテナンス

 移動局の自動操舵システムは、衛星からの電波と補正信号を受信する各アンテナ、コンソール、操舵装置から構成される。これらを既存のトラクタなどに後付けするケースとメーカーが装着した新商品を出荷するケースがある。当面は前者が多いと思われる。いずれもインフラが整備されていない状態では農家に大きな出費を強いる。経営規模の大きな農家は複数のトラクター、ハーベスタなどを装備している。この場合、1台のシステムでは経営に効果が出にくいので複数を必要とする。また、ハーベスタなどの専用機は使用期間が短く、その他の期間、自動操舵システムは機内に放置状態になり、機器類が高温や湿度で劣化する懸念がある。ウフスマではケーブルがネズミにかじられる被害もあった。収穫期以外は別の農機に移設して利用すれば、稼働率向上に加え、メンテナンス上のメリットもでる。この場合、対象農機にあらかじめケーブルとハーネスを装着しておけば移設は容易である。

カ.クローラ型(中・小型)ハーベスタ

 わが国では多数の小型および中型ハーベスタが利用されている。これらは大半が国産機で走行装置としてクローラを装備している。車輪タイプであれば自動操舵システムを容易に装着できるが、クローラにはそのまま取り付けることはできない。現状で自動操舵システムを利用するには、コンソールに表示された進路に合わせて手動で操舵するガイダンス利用が第一歩である。走行装置の自動化には本格的な改造が必要となろう。

(2)自動化・リモート化施設系

 さとうきび作ではかん水施設がこれに相当する。散水にはスプリンクラー、ホースあるいは点滴チューブが使用される。さとうきび栽培地はいずれも水資源に限りがあるので、水をかけ流す畦間かんがいは行われない。散水には自然流下およびエンジンもしくは電動モータによるポンプが利用される。南大東島はポンプ加圧による点滴かん水が多く、自然流下式は一部に限られている。

 点滴かん水ではチューブ類の敷設と撤去、さらにポンプのオン・オフ操作の作業が必要となる。新植では通常、植え付け時にチューブを敷設するが、その後の培土や中耕の邪魔になるので、一旦撤去もしくは位置を動かして作業を行う。また、撤去時はさとうきびが倒伏してチューブに作用する摩擦抵抗が増え、作業が難航する。ポンプの運転操作は重労働ではないが、圃場への往復などに時間を要する。その省力化のためにウフスマではエンジンポンプの遠隔オン・オフシステムを開発した(写真5)。スイッチング情報として土壌水分(pF値)を使用した。これは正確であるが、センサをすべての圃場につけるのは難しい。直接的なセンサに代替して広域のかん水判定に使える情報の取得法について検討中である。
 

(3)ドローン系

 ドローンと言えば真っ先に農薬散布が思い浮かぶ。水田の防除では有人ヘリから無人ヘリの利用に進んできた経緯があるので、操作が容易なドローンへの移行はスムーズであったと思われる。無人ヘリによるさとうきびの防除も何回か検討されたが、実現しないまま今日に至っている。このためドローン防除も検討段階で止まっている。当初、使用可能な農薬が少ないことも普及の阻害要因であったが、令和3年4月時点では増えて条件が整いつつある。飛行時間が短く積載量も少ないので頻繁な電池交換や補給が必要であり、農薬飛散(ドリフト)の問題もある。ドローンの操縦には免許が必要で、機種ごとに免許が異なることは大きな問題である。多くの車種に使える自動車の免許のような制度が実現すれば大きなメリットが生まれ、普及促進のきっかけとなろう。さとうきびだけでは稼働時間に限りがあるので他作物への利用も有効である。前報で述べたハリガネムシ・フェロモンチューブの散布や尿素の葉面散布のような用途開発も必要である(写真6)。ドローンの普及には当面JAのような組織や民間会社によるサービスが有効と思われる。なお、ドローンのモニタリング利用については次項の情報系Tで述べる。
 

(4)情報系T

ア.微気象観測システム

 さとうきびに限らず農業には微気象(注)が決定的な影響を与える。前報で紹介したが、ある時期の不足水量(=降水量−蒸発散量)は単収、甘しゃ糖度、産糖量に大きな影響を与える。ウフスマで設置した微気象観測システム(写真7)は、かん水のスイッチングや農作業の可否判断などに利用されている。小さな島でも場所によって降雨の多寡があるので、それを確認してその日の作業の可否や可能な場所を判断している。さらに有用性が高いのは長期データである。気象台のように安定して長期データを収集できれば、生産実績や収量データ、病害虫発生データなどとの関連性の分析が可能になる。そのためには微気象観測システムの安定・連続稼働が求められる。

 微気象観測システムは設置したら終わりではなく、観測ポストとセンサ、制御システム、配信システムなどの普段のメンテナンスが重要である。最もトラブルが多いのは雨量計で、センサの種類にもよるがゴミ、粉塵、鳥の糞などによる異常値の検出が想像以上に発生した。鳥除けのバードストライクの装着によって糞によるトラブルはかなり減ったが、それでもたまに発生する。台風や強い季節風による飛塩の付着も原因となる。また、制御ボックス内へのアリのような小さな虫の侵入に加え、湿気や浸水も問題となる。ボックス内のコンピュータ類は放熱する必要があるので完全密閉しにくく、また、ケーブルを外部と接続するために最小限の穴は必要である。対策としてはまめなチェックと清掃が最も効果がある。そのためのメンテナンス要員やコストをどう賄うかが問題になる。ネットワークの維持や通信、電源の問題も無視できない。

(注)地表面から2メートルくらいまでの大気現象。


イ.土壌水分、ガス、土壌栄養素など

 さとうきびでは微気象の周年観測が原則である。それに付随して土壌環境の計測を実施できる。土壌水分センサなどは株間や畦間への設置が望ましいが、機械作業によってセンサの破損などを招きやすい。この場合、商用電源は使いにくいので太陽光パネルやバッテリを使用する。データロガー(注)にデータを記録保存するだけなら電源の問題はほとんどないが、リアルタイム観測では電源が枯渇する場合もある。また、Wi-Fiを使用する場合は、電波が弱いのでさとうきびの成長によって通信不良を招きやすい。これらの対策はケース・バイ・ケースで検討するのが現実的であろう。土壌の化学成分の測定には従来の土壌分析が必要であるが、モバイルNIRなどによる葉の栄養診断などと組み合わせることによって、情報収集の効率化が可能になろう。
 
(注)データロガーとは、各種センサで計測した温度、湿度などの計測結果をデータ保存する電子計測器。
 
ウ.生理・光合成、個体、群落情報

(ア)光合成分析
 さとうきびの生育は光合成に左右され、関連して蒸散も重要な生理現象である。このため研究報告も多いが、大半は実験室のような特定環境下での測定データである。海外には光合成速度や蒸散速度を組み込んださとうきびの成長モデルもあるが、わが国では類似モデルは開発されていない。まずは、実環境下における経時的なデータ蓄積が望まれる。しかしながら、光合成分析装置(写真8)は高価で、測定には専門技術を必要とする。光合成や蒸散を簡便に測定する方法の開発が望まれる。


 

(イ)モバイルNIR
 ウフスマでは茎の糖度などを立毛状態で計測するモバイルNIRを開発した。製糖期に原料の甘しゃ糖度を測定しているNIRを小型化して可搬式にしたもので、圃場内で茎に当てて測定する。茎を傷つけないので、同じ部位の繰り返し計測や茎内の糖度分布も測定できる。測定と同時に位置データ付きでサーバに転送・保存される。この機能を効果的に活用すれば圃場全体や地域の糖度推定も可能である。さらに、葉の栄養状態や水分などの計測も試行中で今後の展開が期待される。価格面の問題はあるが、手持ちブリックス計並みに普及すれば新たな可能性が生じる(写真9)。


 
(ウ)ドローンモニタリング
 計測機器による群落や圃場全体のデータ取得にはかなりの手間を要し、現場で求められる迅速なデータ提供は難しい。そこで期待されるのがリモートセンシングである。人工衛星、各種有人航空機、定置カメラなどによる画像が利用されるが、昨今では小型ドローンによる空撮が注目されている。これは他の画像取得法に比べると取り扱い性やコスト面で大きなメリットがある。RGBカメラだけでなくNDVI(正規化植生指数:植物の活性などを表す指標)や熱画像取得も可能なカメラを搭載した農業用ドローンも市販され、利用範囲は拡大しつつある。ドローンには高度制限があるので圃場の全体画像を得るには数十枚〜数百枚の画像を取得し、長時間を要して1枚の画像編集を行っている。ウフスマでは月一回のペースで撮像したが、解析が追いつかない状態である。高度な画像処理技術も必要で、農家が簡単に使いこなせるレベルには至っていない。ドローン用画像処理ソフトはNDVIや温度の分布を表示できるが、現時点では数値データを出力できない難点がある。また、晴天でも雲が多いと画像にまだら状に影が映ってしまう。曇天でも使えるが、想像以上に風に弱い問題がある。風が強いとドローンが流され、また、さとうきびの葉や茎が揺れて空撮も困難になる。ドローン利用は今後の技術開発を待つところが大きい。

 ドローンモニタリングでは画像処理によらないもう少し簡単な利用法の開発も望まれる。ドローンから送られてくる動画をモニターで見ながら、雑草の繁茂、欠株、病虫害、台風後の倒伏・折損、干ばつ被害をリアルタイムで把握して、適切な対策を検討する方法である。現状ではドローンを飛ばす圃場でこのような作業を行うが、ローカル5Gのような通信環境が整備されれば、自宅あるいは事務所でモニターして圃場地図へのマッピングもリアルタイムに近い状態で行える。

(エ)群落情報の取得
 このような画像解析データと、光合成データ、個体データ、生育調査データを総合的に解析することが重要である。これができれば、ドローン画像から必要な情報の迅速取得が期待できる。このような研究開発は内外で試みられているが、実用には至っていない。ウフスマでは水ストレスによる葉温上昇現象をドローンによって群落単位で把握できないか検討を行った。光合成に影響する葉面積指数(LAI)の推定や収量予測などでは上空からさとうきびがどのように見えるか、地道で基本的な研究が不可欠である。スマート農業で使用されるツールの華やかさとは無縁の生育調査が決め手となる。
 

(5)情報系U

 情報系Uは主として経営や栽培管理、さらには地域、経済、政策などに関する情報を扱う分野とする。ここでは農家に係る経営情報や栽培管理情報に絞って、データ収集や分析、および、計画・実行・評価・改善という一連の流れ(PDCAサイクル)に関して述べる。

ア.作業日報によるデータ化

 データ収集では作業日報の記帳が基本である。日々の作業内容、作業圃場、投入資材、使用農機などを記録し、これらを電子データ化してさまざまな活用を図る。ウフスマで問題になったのは、同じ作業や圃場であってもオペレータや従業員によって呼び方が統一されていなかったことである。これでは電子化しても集計に大きな齟齬(そご)を生じるため、アグリではプロジェクト期間中に名称の統一を行った。さとうきび作は細かい作業が多いので、どこまで扱うかも検討事項である。地域あるいは県全体で主要作業名とコードを統一できれば、今後のスマート農業の展開に大きなメリットが得られよう。また、同日・同一圃場・同作業であれば問題ないが、複数の作業を細切れにこなす場合には記帳が煩雑になり、作業者の負担増と精度低下を招く。圃場への移動あるいは圃場間移動の取り扱いも問題になる。

 スマホなどによる作業日報入力アプリも提供されているが、現場での利用には時期尚早の感がぬぐえない。ウフスマでは紙ベースの作業日報と手入力をベースとしたが、アンドロイドアプリも準備して試行してもらった。オペレーターの不慣れも大きな制約要因になるので、音声入力や自動操舵システムからの自動入力などの機能開発を期待したい。大手による汎用性の高いアプリの場合、さとうきびに合わせた変更が可能かどうかが問題となる。

イ.圃場管理のデータ化とGISの利用

 作業日報は属人的なデータ収集システムで、個人の活動履歴をデータ化する重要な役割を果たす。これに圃場名・コードを加えることによって地理情報システム(GIS)の利用が可能になり、圃場単位の作業履歴、生産実績などがデータ化できる。GISは地図付きデータベースで、アグリではウフスマ以前から活用している。大区画圃場が多いため、同一圃場での作型や品種の混在、さらには同じ作型でも長期にわたる同一作業もあるので、データ管理が難しい。ウフスマでは、圃場に属する作業データ、実績データ(作型、品種、単収、甘しゃ糖度、収穫日など)の他に、ドローン空撮画像(写真10)、GNSS自動操舵データ、モバイルNIRデータ、生育調査データなどの統合を図った。モバイルNIRや生育調査のデータはアプリから自動入力される。これによって作業者の負担が軽減され、データの正確性は向上する。
 

ウ.データ分析と活用

 営農支援システムは、データベースを作成して作業計画や営農計画の検討・策定のような各種の意思決定に利用する。データの分析や活用法は多種多様で、農家によって利用法も異なるので、農家と営農支援システムとの協同作業になる。今はやりのAIを利用する場合でも、機械任せでなく、農家との協同が容易で、判断・意思決定などをサポートできるシステムが望ましい。これによって、文字通り「スマートな」農業が実現する。まずは経営の「見える化」が重要である。簡単なケースとして、アグリでは作業指示書を圃場地図付きで発行して、間違いの予防と現場での確認を容易にした。発行記録も残るのでさまざまなメリットが生まれる。作業者がスマホで作業指示を受け、現場で過去の作業履歴などを確認できるシステムもある。しかし、これは汗や泥に弱く、日光の下では見えにくいので、紙ベースの情報伝達のメリットは今でも変わらない。営農支援システムの利用は緒に就いたばかりで、データベースの充実や利用経験の蓄積が重要である。PDCAサイクルは動き始めたばかりである。これらの情報処理サービスを行う会社などの育成も求められる。

3.生産者から見たスマート農業導入上の課題

 46ページの図1および上述の技術区分と課題に基づいて、農家にとって取り組みの難易を表3のように整理した。この中で農家が苦手とするのは情報系に関する分野に多い。さらに、技術だけでなく農家がスマート農業の導入をためらう理由と対策を表4に示す。これらは、農家の経営形態その他を加味して、より詳細に具体的に記述する必要があるが、ここでは大枠を示すにとどめる。いずれにしても、これらを解消もしくは軽減する支援サービスが効果的である。

(1)導入の判断およびコスト

 農家が導入に踏み切るかどうかの判断材料のひとつは、高額な機器類やシステムを導入するだけの効果・メリットの有無である。スマート農業を頭で理解できてもこれらの確証が得られないと導入に踏み切れない。自分でもこのような新技術を使いこなせるかという不安もある。これは初期段階のハーベスタでも同じ問題があった。最も効果的な方法は身近な導入例や体験である。技術の内容と効果を確認できたら、現在の経営および将来の経営計画に合わせたコスト試算を実施する。導入コストは機器やシステムの減価償却費およびランニングコストで容易に計算できる。一方、収入増の計算はさとうきびの増収が主な項目である。省力化は、それで可能となる受託の増加や雇用コスト減などが見込まれる場合に有効である。

 なお、スマート農業に求める効果やメリットは農家や地域によって異なる。これは小さいようで、普及上の重要な検討事項である。また、機器やシステムの利用者が明確な場合には問題ないが、地域全体で使用する微気象観測システムなどは誰がどのように導入するかが問題になる。いずれにしてもスマート農業の導入は農家にとって大きな負担となる。そのインフラは稲作における用水路のようなものである。農家だけでなく行政も含めて地域全体で導入促進策を検討することが望まれる。
 

(2)運用とメンテナンス

 GNSS自動操舵農機の操作は農家が行うが、インフラ整備以外にもABラインデータや走行軌跡データの保管や利用にはいろいろな課題がある。同様に、ドローン情報の利用や営農支援システムの活用なども容易ではない。園芸・流通や畜産分野は早い時期から情報化が進んだが、さとうきびは相対的に遅れてきたため、情報系の運用には課題が多い。しかしながら、先端の情報機器であるスマホを農家が使っているところを見ると、単なる杞憂かもしれない。スマホのような簡便なアプリが少ないことが問題と言える。研究開発に従事する者はこのことを肝に銘じて取り組む必要があろう。

 スマート農業のツールはハイテク製品であるので、農家による日々の簡易なメンテナンスの効果がある。問題は農家にできない本格的なチェックや修理である。この場合も共用のシステムは経費をどのように負担するかが問題となる。対象となる機器やシステム、利用者および利用形態によって対策は異なるので個別の検討が必要である。

4.スマート農業普及に向けて

(1)株式会社くみきの試行

 前述のように、南大東スマート農業実証コンソーシアム(以下「コンソーシアム」という)の一員であるくみきは、GNSS自動操舵の普及を目指して、農家にシステムを試供するサービスを実施している。南風原(はえばる)町内の本社に設置したネット対応型基地局(ラジオステーション)で沖縄本島のほぼ全域をカバーできる。宮古島、石垣島、久米島および南大東島にある各営業所にもラジオステーションを設置して運用を開始した。これによって農家は基地局を購入しなくてもよい。令和2年度で25セットの移動局を準備して沖縄各地のリーダー的農家が試験運用を行っている。南大東島でも活動を開始し、北大東島も含めてビレットプランタによる植え付けを中心に利用している。これは体験による導入促進サービスの一例で、ウフスマではGNSSインフラ整備の一角に加えた。

(2)サービス体の育成

 農業に関するサービス体としては、農機メーカ・販売店、肥料会社、農薬会社、施設関連会社のような民間会社がそろっている。さらに、農家の経営その他に深く係るJAおよび製糖会社の存在は大きい。行政面では農業改良普及機関を始め、関連団体がある。また、新技術の研究・開発には大学を始めとする各種研究機関があり、普及教育には農業大学校、農業高校、大学などを利用できる。従って、スマート農業における支援サービスはこれらの活用を第一に検討するのが有効であろう。ただし、これらはスマート農業を目的に作られたものではないので、サービスの内容を新たに取りそろえていく必要がある。くみきの活動のようにコンソーシアムでは同様の取り組みを行った(表5)。

 一方、スマート農業で求められるサービスの中には専門的観点から既存のサービス体では対応しにくいものも存在する。これらについては新たなサービス体の育成が効果的である。ここでは詳細については省略するが、コンソーシアムでも新たなスマート農業サービスの内容や需要に関する検討を始めている。
 

(3)地域特性、経営特性を踏まえたスマート農業の検討

 さとうきびは南西諸島のほぼ全域で栽培されているが、島、地域あるいは農家によって形態は多様である。収穫機械化の進捗と普及形態を見るとこの間の事情がよくわかる。一方、スマート農業の技術は機械化よりはるかに広い範囲を含んでいる。従って、農家や地域はそれぞれの特性に最も適合するスマート農業に取り組むことが効果的であろう。

おわりに

 さとうきびのスマート農業は持続可能性の確保が第一の役割で、いずれの地域でも緊急性の高い事案である。AIやロボットなどの先端技術がクローズアップされるので、農家には手の届きにくいイメージが強い。その中にあって、この2年間のウフスマでスマート農業の輪郭および技術的課題とその対策、普及上の課題を大まかに把握できた。これらを踏まえた上で実践を増やし、農家の創意工夫を重ねていくことが普及の近道と思われる。離島や農村・地域を守り、若者に夢を与えるカッコいい・スマートな農業を育てていく努力が求められる。

 最後になるが、自動操舵の取り組みについては北海道が大先輩である。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で視察に行けなかったが、何とか情報収集したいと考えている。てん菜にもスマート農業が導入されていると思われるので、情報交換を期待したい。

謝辞

 本プロジェクト実施の機会と支援をいただいた農林水産省および国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、また、実証の遂行に的確なアドバイスをもらった九州沖縄農業研究センター研究推進部研究推進室の相原貴之氏に深く感謝申し上げます。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272