[本文へジャンプ]

文字サイズ
  • 標準
  • 大きく
お問い合わせ
検索
alic 独立行政法人農畜産業振興機構
砂糖 砂糖分野の各種業務の情報、情報誌「砂糖類情報」の記事、統計資料など

ホーム > 砂糖 > 調査報告 > さとうきび > 南西諸島におけるサトウキビ省力的安定多収生産の要点

南西諸島におけるサトウキビ省力的安定多収生産の要点

印刷ページ

最終更新日:2021年11月10日

南西諸島におけるサトウキビ省力的安定多収生産の要点
―産業の持続的発展に向けて―(後編)

2021年11月

サトウキビコンサルタント 杉本 明

【要約】

 南西諸島においてサトウキビ産業が持続的に発展するために必要な技術の基本的な方向を10月号と11月号の2回に分けて掲載する。前号では南西諸島が現在の苦境を脱するための基本的な方向が株出し多収性を備える品種およびケーンハーベスタ、ビレットプランタの利用による省力的な多回株出し安定多収生産であると述べた。後編の今号では、農業機械、()(じょう、労働力の高度利用、IoTを利用した可視化システムがその実現に有用であることを述べる。また、工場稼働性向上に向けたトラッシュの問題と操業期間拡張検討の基本的要点を述べる。そして、南西諸島各地の自然環境の特徴、サトウキビ生産の現状、問題点、問題克服の基本的方向について概観する。さらに、ケーンハーベスタ・ビレットプランタによる植え付け体系を実現するための技術上の基本的要点(機械の改良、苗生産圃場の設置、株出し多収性品種の利用など)について述べ、ケーンハーベスタ・ビレットプランタを中心とする原料生産について種苗生産用圃場として植え付けを行い、種苗の収穫後に原料生産用圃場として栽培を継続するモデルケースの概要を示す。

第1章 南西諸島のサトウキビ生産の現状と目指す姿―後編―

6.サトウキビ産業の一層の発展に必要な事項〜今日から明日へ〜

(1)農業機械、圃場、労働力高度利用の実現に向けて

 いずれの地域でも共通の事項であるが、資金を投入して農業機械を導入するためには、投資を上回る効果を得ることが必須の事項である。機械導入の目的は、(1)機械の強い力を用いることによって、人力や畜力のみではできなかった圃場の土壌条件を改善することによって作物の安定多収化、すなわち土地生産性の向上を図ること(2)労働強度の高い作業を機械で実施することで軽労化を図り、従事者の健康維持と労働の快適性向上を図ること(3)作業効率を高め、労働生産性を向上させること(4)それらのことにより次世代の参入を促進すること−である。(1)〜(4)を目的とする機械の導入は、経営としてのサトウキビ作の効率性(収益性向上)が保証されて初めて定着する。そのために必要な事項は、(ア)サトウキビの単位収量の向上(イ)機械自体の高い稼働性の実現(ウ)機械導入によって可能になる圃場の高度な利用および(エ)労働力の高度な活用−である。(ア)〜(エ)の実現には、第一に現状の解析と、解析に基づく利用高度化に向けたシナリオの構築が必要である。構築に向けては、IoTの利用による実態の可視化と関係者間での共有、問題点の摘出と解析が効果的である。

 すでに開発されているIoTを使用したシステムの実例としては、現在社会実装への道を歩んでいる「収穫機稼働管理システム」が挙げられる。「収穫機稼働管理システム」は、ケーンハーベスタの稼働状況やトラクタによる作業の進捗状況などを可視化できるシステムで、今後の利用が期待される(図1)。
 

(2)製糖工場の稼働性向上に向けて

 製糖工場の稼働性向上は(1)一日当たり価値創出量の増大と(2)稼働期間の長期化によってもたらされる。(1)一日当たり価値創出量の増大は原料となるサトウキビの糖度を中心とする高価値物質含有率の高低、工場設備・操業技術の優劣によって決まる。(2)稼働期間の長期化は収穫期間の長期化と連動する。原料の成熟に季節性が高く、製糖工場は多くの場合、作物成熟後の限られた稼働期間に多くの原料を処理することで多量の製品を生産する必要があるために、原料総量の割には設備が大きく、設備過剰となることが多いが、操業期間を長期化し得れば設備の縮小が可能になり、設備過剰の回避につながる。原料生産の面では、ケーンハーベスタの稼働率が向上するために、導入台数を節約でき、イニシャルコスト(初期費用)の縮減につながる。また、労働の平準化が可能になることによって、職能集団の養成、生活の安定化につながり、経営規模拡大の技術的基礎ともなる。一方で、工場稼働期間の長期化は、工場操業に携わる季節雇用労働の雇用期間拡張により製糖会社に賃金支出の増加を強いることになる。しかしこのことは、地域経済の視点では、雇用労働の一層の安定化(究極的には常勤労働化)につながる。

 (1)一日当たり価値創出量の増大を図るために、第一に考えられるのが工場の製品歩留まりを下げる要因の排除である。そのためには第一に、原料と共に持ち込まれる土砂や非原料部位であるトラッシュの最小化が求められる(写真1)。

 一方、製品歩留まりを上げるためのサトウキビ側の要因である成分特性の向上は、品種改良と栽培法、とりわけ施肥の内容によってもたらされる。具体的には、高糖性品種を用いて窒素施肥を早い段階で終了させることで、サトウキビ個体の増体が鈍化しその分の光合成産物がショ糖として茎中に蓄積され、ショ糖含有率が高まる。

 ただ良好な(ほう)(にはエネルギー源となるショ糖とともに、それを成長に転化させるための窒素分が必要である。同一品種の場合、糖度と株出しの萌芽との間には基本的に弱い反比例の関係が認められるため、高糖に隔たり過ぎると萌芽が悪くなる。糖度の高い原料の供給と株出し多収の基礎となる適切な萌芽の維持には、蓄積されたショ糖と還元糖(注)・窒素分などのバランスが取れていることが重要である。ちなみに萌芽の良否は体内養分のほか、温度、土壌水分の影響も受けるため、総合的な選択を要するところである。

 ケーンハーベスタ稼働期間の長期化は原料サトウキビの糖蓄積の早期化と晩期化が基本条件となる。また、南西諸島のように降雨日の多い季節に収穫を実施している地域では、土壌水分の高い圃場でも稼働可能でかつ作物を損傷しない収穫・運搬機械の利用が必要である。糖蓄積の早期化・晩期化は品種特性の改変と窒素施肥の工夫によって達成される。生産者は製糖操業期間・収穫期間の長期化に伴って、収穫計画を立てることが必要であり、実施しようとする収穫時期に適した複数の品種を用いることが必要である。

(注)還元糖はショ糖の晶析阻害物質であるとともに成長のために必要な物質である。


(3)作物の高度利用に向けて  

 サトウキビ産業の持続的な発展は、地球環境の保全に沿った形での人類に必要な物資(食料・エネルギー・繊維質製品など)の継続的な安定供給の確保、および他産業と比べて遜色のない収益性・快適性の確保によって安堵される。それを満足するために必要な事項は、これまでに述べたように、高度な機械化一貫サトウキビ生産体系の確立である。

 地球環境保全の目標に沿った物資の継続的な供給に向けてはこれまで述べてきたことに加え、作物の高度利用が必要である。作物の高度利用に向けて考えられることは、砂糖生産および(バガスを用いた)蒸気・電力生産、加工燃料生産に加え、茎中に蓄積された還元糖を中心とする未利用成分を原料としたエタノール生産、繊維質を利用した繊維質製品(バイオプラスティック、布製品、紙製品)、糖蜜やワックス成分を用いた化学製品(薬品を含む)の生産である。また、梢頭部など、非原料部位の利用も重要である。究極の施設・機械・作物の高度利用は周年収穫・周年操業に基づくサトウキビの多段階利用である。  

 一年を通して温暖で比較的雨量が多く、かつ生産規模が比較的小規模な南西諸島のような生産地域では、土壌水分の多い圃場での円滑な稼働を保証しうる農業機械が導入されれば、品種の改良は可能であると思われるため、究極の高付加価値生産である周年収穫・多段階利用によるサトウキビ総合産業が創出される可能性が高い。これについてはまた、別の機会に述べようと思う。

7.南西諸島におけるサトウキビ生産の現状と問題点

(1)サトウキビ生産に関係の深い南西諸島の気象の特徴

 南西諸島のサトウキビ生産は、製糖工場の置かれている地域で言うと、北から、鹿児島県が種子島、奄美大島、喜界島、徳之島、沖永良部島、与論島、沖縄県が伊平屋島(含蜜糖を生産している。以下「含」と記載)、伊是名島、伊江島(含)、沖縄本島、久米島、粟国島(含)、北大東島、南大東島、宮古島、伊良部島、多良間島(含)、石垣島、西表島(含)、小浜島(含)、与那国島(含)、波照間島(含)などの島々で各地域の基幹的産業活動として行われている(図2)。ケッペンの気候区分では温帯湿潤地帯にあるが、島嶼(とうしょ)であり、海流の影響で低温になり難く、一般的には、霜の降りる種子島を除き、亜熱帯性の気候であると言われる。種子島と奄美大島の間に生物相で温帯と亜熱帯を分けている渡瀬線(注)が引かれていることを知っておきたい。降雨には季節性が認められ、基本的には夏に雨が多いが7月は晴天が続くことが多く、干ばつ被害が頻発する。また、各地に梅雨と言われる雨季が存在する。南西諸島南部八重山諸島の梅雨は早く(5月9日〜6月29日)、最北の種子島(5月31日〜7月14日)との間には20日ほどの差異が認められる。この気象上の差異は陽光の豊かな夏場における土壌水分の多寡を示唆しており、サトウキビの生育への影響が大きい。梅雨時期の差異は土壌の特性と共に、最北の種子島の単位収量が他のどの地域より多いことの主因であると筆者は考えている。この梅雨の雨を上手く利用することは南西諸島におけるサトウキビの安定多収栽培の要点の一つであることを覚えておきたい。いずれの地域も、冬は低温で、降雨量は少ないが雨天日または曇天日が多い。

(注)屋久島、種子島と奄美群島の間に東西に引かれる動物および植物の区境界線。
 

(2)サトウキビ生産の現状と問題点

 (ア)南西諸島におけるサトウキビ生産の現状

 データは省略するが、南西諸島各地で栽培面積、生産量、生産従事者がそろって減少している。どの作型も単位収量は低い。ハーベスタ収穫が80%を越えており、世界的にも機械化が進んだ地域であり、機械化一貫栽培体系を通じた高収量・高収益経営が世界のどこよりも強く求められる地域である。表1に令和元年期の南西諸島各地における生産状況を示す。
 

 
 台風・干ばつに比較的強いために安定多収を期待して実施されることの多い夏植えの収量が全体的に低いことが大きな問題である。春植えも株出しも少収である。

 令和元年期の島別作型別の単位収量を表2に示した。夏植えの単位収量は10アール当たり8トン、9トンを期待するところから見ると極めて低い。春植えは干ばつや台風被害を受け易く、より少収である。株出しは低温期に高糖度のサトウキビを収穫することもあって萌芽が悪く低調で、春植えと同程度である。


 
 どの地域も、春植えは1月〜4月、夏植えは8月〜10月に行われる。栽植密度は2芽苗で10アール当たり3000本程度、世界の多数例に比べると疎植である。収穫は、低温期に当たる12月〜翌4月までのおよそ100日間程度で行う例が多い。製糖工場の操業開始は早い工場で12月から、操業終了は遅い工場で4月末頃である。令和元年期の操業開始は一番早かったのが南大東島で12月3日、操業終了が最も遅かったのは伊良部島の4月24日であった。操業期間はいずれの工場も短く100日程度という季節産業である。甘蔗糖度は南大東島(13.89%)や種子島(13.03%)で低く、中央部に近い奄美大島(15.19%)や久米島(15.13%)では比較的高い。収穫後の品質劣化は、集荷管理が良く収穫から搾汁までの時間が短いこともあって深刻な問題にはなっていない。適切な収穫時期については株出しの萌芽のこととも合わせ、より深い検討が必要である。

 植え付けから収穫までの肥培管理などについては公的機関によって栽培指針が作られ、生産農家はそれに沿う意識の下で栽培を実施している。80〜90馬力程度のトラクタとけん引型のプラウ、サブソイラ(写真2、3)などによる心土破砕、深耕(土の反転は避けた方が良い場合も多い)および耕起をし、ロータリー型の砕土機(写真4)で砕土した後に全茎式のプランタ(写真5)で植える(ハーベスタを用いた苗生産が可能で省力効果の高いビレット型のプランタが導入・普及され始めている)。あるいはリッジャーで植え溝を掘り、人力で植える。深植えは行われず実質的には10〜20センチメートル程度の浅植えである。その分高い培土で補っている点が特徴であるが、この習慣は株上がりが生じる原因の一つでもある。収穫はケーンハーベスタによることが多い。

 

 (イ)南西諸島におけるサトウキビ生産の問題点克服の方向

 南西諸島のサトウキビ生産には機械化一貫作業を基本とする栽培体系が必須であると述べた。同時に島嶼地域であることが特徴の南西諸島の圃場は狭小で大部分が海に向かって傾斜しているとも述べた。圃場が狭小で傾斜地が多いことは機械化一貫栽培体系の観点では不利なことを意味する。また、地域総体として、観光が重要な産業であり、島がサンゴ礁に囲まれていることは、土砂流出が海浜汚染として地域経済上の問題になり易いことを意味している。その中で基本的に世界標準より遥かに単位収量が低く、その向上が当面の課題であるとも述べた。この節ではその具体的な姿を述べようと思う。

 まず前提としたいのが、土砂流出の最小化である。サトウキビを作ることによって他の大きな収入源に傷をつけたのでは元も子もない。そして飛躍的な省力化・軽労化である。人は労苦を避けたいものであるし、重労働や多忙な作業の連続では担い手は他産業に流出する。不安定な雇用は社会の安定的発展を損なう。さらに、経営の向上・収益の向上が必要である。豊かな生活が望めなければ経営の存続は困難である。上記のいずれにも有効なのが株出しの多収化・長期間連続化である。

 それを省力化・軽労化への影響が高い、高度な機械化で実現するのがその基礎である。経営向上のためには高度な機械化を最小限のコストで実現することが必要であり、それを可能にするのがIoTの活用である。さらには収穫期間の長期化に基づく、作業・圃場利用の周年化もそれに貢献する。製糖工場の稼働高度化への効果も大きく、それは収穫・操業期間の拡張から始まる。収穫期間を前進的に拡張すれば、ハーベスタなどの高額な機械の稼働性が確実に高まるし、オペレータなどの専門性が高まり職業としての安定性が向上する。また、比較的暖かい時期に収穫できるので株出しの萌芽および初期生育が向上するため、多回株出し安定多収化にも適している。

 しかし、何よりも南西諸島における持続的なサトウキビ生産の必須事項である機械化栽培体系下での多回株出し多収栽培には、それに適する品種の利用が必要である。すでに、茎が細く、トラッシュ率・繊維分は高いが高糖性の「はるのおうぎ」、また、糖度上昇時期は遅いものの株出し多収性が優れる「RK10−29」などの品種、および有望系統が開発されている。太茎で高糖・低繊維・トラッシュの少ない既存の品種に機械化栽培体系下での多回株出し多収性が望み難いとしたら、その特性に多少の不足感はあってもそれを許容することが必要かもしれない。そのことを直面する問題として検討すべき時期に来ている。そして、それを総合的に実現するために必要なのが、ケーンハーベスタによる優良種苗の収穫・調製、ビレットプランタによる植え付けの機械化一貫栽培体系である。

8.ケーンハーベスタ・ビレットプランタによる栽培体系を実現するために必要な技術上の要点

(1)機械の開発と改良

 ビレットプランタ(写真6)の活用のためには、機械の開発と改良が必要である。その要点は以下の通りである。まずは、現状の作溝・植え付け体系での発芽率向上、そして30センチメートル程度の深植えを可能にする「深植え型ビレットプランタ」の開発である(写真7)。深植えの場合、ともすると大雨に遭遇して苗が土に埋まって窒息してしまう危険があるため、作溝・植え付けと共に排水溝の機能を備えていることが必要であることは、前編で述べた。また、現状では苗の置床の確実性(注)が低いので向上することが必要である。

 一方、ハーベスタによる種苗の収穫・調製であるが、裁断長が短いと芽子の損傷が多いため、多節苗を前提とした長めの種苗の方が良い。しかし、苗が長いとかさが増え、運搬距離が長い場合は問題である。苗とするサトウキビの生育に対応しうる苗長の可変化が必要である。

 さらに、ビレットプランタによる植え付けに際して現時点での欠点は、ハーベスタでの種苗採取・調製からビレットプランタによる植え付けまでの間に、人力による作業が挟まることである。採苗から植え付けまでのすべての工程で手数のかかる人力作業を最小化することが普及の鍵となるであろう。具体的には、(ハーベスタでの種苗採取・調製とビレットプランタによる植え付けは1〜2人で作業可能であるが)苗運搬に、距離や運搬数量に応じた時間、人員、トラック数、ドライバー、クレーン要員が必要となり、植え付け規模で変化する苗量と苗生産圃場と原料生産圃場の距離、保有機器により、必要人数や所用時間が異なり、効率的作業遂行が制限されることが問題である。原料生産圃場への距離を短くする苗生産用圃場の分散設置や、1日の植え付け規模や作業量を定型化するなどで解消が可能であろう。全般にクレーンが必要なことも含め製糖期のハーベスタ原料の集荷方法を応用するなど、採苗したビレット苗をいかに迅速簡便にビレットプランタに搭載するかが普及の鍵である。

(注)苗が植溝に着実に落ちること。

 

(2)苗畑の設置とその高度利用

 健全種苗の低コスト生産には種苗採取後の原料茎圃場としての利用を前提として苗生産用圃場を設置すると効率性が高い(写真8)。春に収穫する春植え用、夏に収穫する夏植え用、ともに発芽勢の高い若い茎を収穫することを前提としたい。茎数は多い方が良い。節間長は短くありたい。

 種苗に適した若い茎を収穫した後の萌芽は原料茎を収穫した後の萌芽と比べ萌芽数、その勢いともに遥かに高いのが普通である。株出しの多収・多回化による植え付け面積の節約により、実質的な種苗生産コストは大きく縮減することができる。


 
(3)採苗から植え付けまでのシステム化

 ビレットプランタによる植え付けの場合、ハーベスタによる採苗から植え付けに至る工程から、人力作業を排除することが肝要であると述べた。ハーベスタの改良と操作技術の向上、ビレットプランタの改良と共に、その間をつなぐ機械の開発、そして全体工程の一貫機械化が必要である。

(4)ケーンハーベスタの長期間利用

 高額な機械を必要とするケーンハーベスタ・ビレットプランタによる植え付け体系の普及には機械整備コストの低減が重要であるが、そのためには整備する機械の台数を節約することにつながる作業期間の長期化すなわち作業分散が有効である。このことは同時に作業に当たる人員の収入安定にもつながり、専門性の強化による技能の向上も期待される。収穫期と植え付け期が重なる場合、円滑な作業の実施には多数のケーンハーベスタが必要となり機械整備コストの上昇に直結する。ケーンハーベスタの効率的な稼働には、収穫期を避けた植え付け時期、すなわち現行の収穫期を前提にした場合は夏植えの振興が有効である。夏植えによる多回株出し安定多収栽培が求められるゆえんである。品種の選定などに際して留意すべき事項である。

9.南西諸島における多回株出し安定多収栽培〜目標とする機械化一貫栽培体系のモデルケースの概要〜

 多回株出し安定多収生産の要点は株出し多収性品種を利用することを前提に、(1)深く植え付けて根圏土壌容量を多く確保すること(2)株上がりを最小化するために培土高を低く抑えること−である。土壌の肥沃度が高ければその効果は一層高まる。その上に(3)良質苗を使えるよう苗生産圃場を設置できればなお良い。

 以下は南西諸島が目指すべき望ましい姿として深植え用のビレットプランタによる植え付けを前提とする機械化一貫多回株出し多収栽培の工程概要のモデルである(図3)。ここで示す工程概要の要は、苗生産用の圃場を設置し、苗の採取後にそれを株出しに移行して原料用サトウキビの生産圃場にしようとするところである。実際にはこの内容を肝に、経営の実状に合わせてできることから始めることになる。

≪苗生産用圃場≫

(1)圃場の準備

 苗収穫後に多回株出し(株出しからは原料生産用圃場として4回程度継続するために)での原料生産を実施することを前提として、株上がりの抑制に有用な深植えを行うために圃場の深耕が必要である。圃場の深耕には、心土破砕が可能なサブソイラ・リーパー、プラウの利用が有効である(写真2、3)。土壌の保全に不耕起型栽培の有用性が高いと思われることから、リーパー・パワーハロー(またはロータリー)一体型の部分深耕機による部分深耕の有用性が高いと思われる(写真3)。元沖縄県農業試験場宮古島支所長の大城正市氏の提唱以来途絶えている減耕起栽培を部分耕起による省力的多回株出多収生産と置き換えて検討したい。

(2)種苗生産用圃場の植え付け

 種苗採取後は原料生産用株出し圃場となることから、株上がりの抑制に有効な深植えが必要である。深植えでは、発芽前の降雨による湛水害、クラストの形成による発芽不良が危惧されることから、排水溝作製機能を備える深植え型のビレットプランタの開発と普及が必要である。採苗は黒穂病などの病害発生がなく生育の良い新植圃場を対象とすることが重要である。

(3)施肥・培土

 種苗となる茎の発芽勢を向上するために必要な窒素施肥の充実を前提とした通常の肥培管理(平均培土)を実施する。

(4)種苗の採取と調製

 ショ糖の蓄積が不十分な(発芽勢を向上するために必要な還元糖や窒素分が多い)うちに種苗として収穫するため、植え付け後9〜10カ月で収穫することが必要である(採苗時期から逆算して種苗生産圃場の植え付け時期を決める)。種苗の採取はケーンハーベスタで行う(写真8)。種苗採取後は原料生産用の株出し栽培に移行するために、刈り取りは地際で行い、全節を種苗とする。採取した種苗は原料生産用圃場に深植え型のビレットプランタによって植え付ける。

(5)株出し処理

 施肥・中耕など((うね)(の心土破砕ができればより良い)を実施して原料生産用の株出し栽培に移行する。覆土は10センチメートル程度の厚さとする。トラッシュの処理を実施する場合、ハーベスタ収穫により散乱した枯葉、梢頭部などを土壌中にすきこみつつ作業ができる機械、例えばスクープの利用が有効である(写真9、10)。

(6)施肥・培土

 収穫後の適切な時期に施肥・培土(10センチメートル程度厚)を実施する。

(7)収穫

 株出し処理からおよそ1年後に株出しの収穫を実施する。出来る限り速やかに株出し処理を実施して第2回株出しに移行する。これを4回株出し程度まで繰り返し継続する。

 

 

≪原料生産用圃場≫

(8)植え付け

 排水機能を備える深植え型ビレットプランタを用いて良質・健全な種苗を原料生産用サトウキビ圃場に30センチメートル程度の深さで植え付ける。種苗の採取から植え付けまでの作業をすべて機械化することが肝要である。栽植密度(植え付け種苗数)は発芽率などを勘案して高く(多く)する。

(9)施肥・中耕・培土

 施肥・中耕、さらに施肥・培土を実施した後、およそ1年後に新植の収穫を実施する。

(10)収穫・株出し処理・施肥

 収穫に際しては地際刈り取りを心掛ける。原料茎として必要な糖度と株出し萌芽との均衡のとれた糖度の茎が収穫できるように留意する。原料サトウキビの収穫後はできるだけ速やかに施肥・株出し処理を実施して第1回株出し栽培に移行する。これを4回株出し(5回目の収穫)程度まで繰り返して継続する。

 

おわりに

第1章を閉じるにあたって

 南西諸島のサトウキビ圃場では干ばつや、台風による被害が頻発する。生育の早い段階で台風に遭えば茎の折損が多発するし、後期に遭えば生葉の傷害で糖度上昇が停滞し、茎の伸長も止まる。生育旺盛な夏期に頻発する干ばつは茎の成長を阻害する。日本の品種は低温を糖度上昇の契機としているものの、収穫期の気温はサトウキビの生育適温と比べてかなり低く、株出し多収のための良好な萌芽と初期の生育を阻害する。いずれも少収の要因である。萌芽期の低温と生育旺盛期の干ばつ、そして台風、サトウキビからみた南西諸島は、世界的にも不良な環境であると言わざるを得ない。

 そのような中、収量の向上と安定に向け、適切な肥培管理、すなわち適期・適管理が言われて久しいが、その実施は容易ではなく、単位収量が低く不安定でかつ株出しの継続回数が少ないという苦境に改善は見られない。さらに昨今、後継者が育たず、生産者の高齢化もあって担い手が減少し、その結果として収穫面積も生産量も減少を続けている。この苦境を克服して産業を持続的な発展に向けるため、後継者を育てるためには、豊かな明日を展望できるサトウキビの今日を創ることが必要であろう。今日を明日につなぐことのできる適切な管理とはどんなものだろうか?老若男女が実施しやすいもの、しかもそこに産業史の最前線があるはずのものであろう。省力的で効果的な肥培管理のあり方に向け、もう一度サトウキビの特性の深部から考えなおす必要があると思われる。

 こうした中、ハーベスタの普及が8割を越えて収穫の軽労化が進み、作業への従事時間は飛躍的に短縮している。また、省力化の切り札ともいえる多回株出しの実現に向け、画期的な株出し多収性を備える品種「はるのおうぎ」が育成され、株出し多収が特徴の有望系統「RK10-29」が開発されている。そのような、いわば闇の中の光明とも言える状況を受け、この稿では苦境からの脱却に始まり、後継者の確保、未来への持続的な発展に向けた道筋を描いてみた。

 具体的な、骨太の方針を立てるためには、ともすると経験に頼りすぎ、帰納法的結果に依拠し過ぎる中、物事の始まり、産業のそもそも、すなわちサトウキビの特性の深部、地域の自然環境・社会的環境の特徴についての深い理解が必要である。本稿がいささか理屈に過ぎ、遠回りとも思える思考を続けてきたのはそれ故である。お許し願いたいと思う。

 次の稿である第2章では、本提案の主目的である島ごと・地域ごとの取るべき行動について、できる限り具体的で実行可能性の高い方法を「南西諸島各地における省力的な多回株出し安定多収栽培の要点」として提案する予定である。不足や分かり難い点、異論については生産の現場で、現場の方々と意見を交換できればと願っている。

共著者一覧
・西原 悟(鹿児島県農業開発総合センター 企画情報部普及情報課 農業専門普及指導員)
・内藤 孝(沖縄県農業研究センター 作物班 班長)
・寺島 義文(国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター 熱帯・島嶼研究拠点 熱帯作物資源プロジェクト 主任研究員)
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272



このページのトップへ

Copyright 2016 Agriculture & Livestock Industries Corporation All rights Reserved.