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沖縄本島におけるさとうきび生産の維持・拡大に向けた取り組み

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最終更新日:2022年2月10日

沖縄本島におけるさとうきび生産の維持・拡大に向けた取り組み

2022年2月

那覇事務所 河西 真帆
小木曽 貴季(現 酪農乳業部乳製品課)

【要約】

 沖縄本島地域ではさとうきびの収穫面積の維持に向けて、市町村などの行政や製糖事業者などが官民の枠を超えて連携し、遊休農地の解消や担い手への農地移転、さとうきびへの転作支援などのさまざまな取り組みを行うことで持続的な生産体制の構築を目指している。

はじめに

 令和2年産の沖縄県のさとうきび生産量は、台風や病害虫の被害が少なかったことから、平成28年産以来4年ぶりに80万トンを超え、単収も前年産比20.7%増の10アール当たり6323キログラムとなった。

 一方で、沖縄本島地域におけるさとうきびの収穫面積は生産者の高齢化による離農などにより減少傾向で推移している。こうした現状に対して、沖縄本島地域の製糖事業者であるゆがふ製糖株式会社(以下「ゆがふ製糖」という)とその子会社である農業生産法人ゆがふ農場株式会社(以下「ゆがふ農場」という)をはじめとした関係機関では、遊休農地の解消や担い手への農地移転、さとうきびへの転作支援などに取り組んでいる。本稿ではゆがふ農場における遊休農地の解消に向けた取り組みと国頭(くにがみ)村、北中城(きたなかぐすく)村、うるま市との連携による農地移転、転作支援などの取り組みについて紹介する(図1)。

図1

1 沖縄県のさとうきび生産概況

 沖縄県は、北緯24度から28度、東経122度から132度に位置し、大小160の島々からなる。年間の平均気温が23度前後で東京や大阪と比べ6度から7度ほど高く、1年を通じて温暖な気候が特徴で、さとうきび、畜産、野菜、花き、果樹など、幅広く農業生産が行われている。

 特にさとうきびは、台風の常襲地帯である沖縄県の厳しい自然条件下でも栽培可能なことから、県内の農業経営体の約50%が栽培しており、農業産出額の約20%を占める基幹作物である(図2)。

 令和2年産のさとうきびは、収穫面積が1万2871ヘクタール(前年産比0.2%減)で、台風や病害虫の被害が少なかったため生育状況も良好で、10アール当たりの単収が6323キログラム(同20.7%増)となり、生産量は81万3853トン(同20.4%増)と、平成28年産以来4年ぶりに80万トンを超えた(図3)。

図2

図3

2 沖縄本島地域におけるさとうきび生産の課題

 沖縄本島地域におけるさとうきび生産者数は年々減少している。また、1戸当たりの収穫面積は増加傾向にあるものの、令和2年産時点では1戸当たり51アールにとどまっており、さとうきびの収穫面積は年々減少傾向にある(図4)。

 当機構が交付する甘味資源作物交付金の対象甘味資源作物生産者(要件審査時点)から同地域のさとうきび生産者の年齢構成を見ると、令和2年産における同地域の生産者数4937人のうち、60歳以上が3867人と全体の78%を占め、さらに70歳以上では2273人と全体の46%を占めており、生産者の高齢化が進んでいることが分かる。

 年齢別の収穫面積で見ると、70歳以上の生産者は1080ヘクタールと全体の41%を占めている。このように生産者全体に占める高齢者の割合が高く、これらの世代の離農が急速に進むと同地域のさとうきび収穫面積の維持が困難となることが見込まれる。収穫面積を維持し、安定的な生産体制の構築を行っていくためには各地域の担い手への農地移転が求められており、特に70歳以上の生産者の農地移転は急務であると言える。

図4

3 ゆがふ農場における農地維持に向けた取り組み

(1)ゆがふ農場の設立

 ゆがふ農場は「さとうきびのある風景を次世代に」をスローガンに、平成30年6月、沖縄本島地域の製糖事業者であるゆがふ製糖などの出資により設立された。主にさとうきび生産などを行っている。

(2)遊休農地を利用したさとうきび生産

 ア 遊休農地の借り入れ

 ゆがふ農場では沖縄本島内の遊休農地などの借り入れを行っている。借地面積の推移を見ると、令和2年度の面積は14.2ヘクタールで、設立時の平成30年度の4.4ヘクタールから3倍以上増加している(図5)。

 農地は、農地中間管理機構または市町村の農業委員会を通じて借り受けている。農地の借り入れに当たっては、市町村などからの紹介が多く、紹介があった場合は、条件が悪い農地であっても、農地の維持のためにできる限り借り受けている。借り受ける際には、将来的に地域の担い手への農地の引き継ぎも想定し、転貸の条件を設定している。農地の所在地は本島全域に点在しており、令和3年10月時点で本島北端の国頭村から南部の南城市まで7市町村に及んでいる。

図5

イ 種苗用さとうきびの生産

 ゆがふ農場では主に種苗用さとうきびを生産している。これは種苗を生産者に提供し、各地域で植え付けてもらうことが沖縄本島全域のさとうきび生産の維持につながるとの考えによるものである。

 ゆがふ農場は、新植時のさとうきびを種苗用として、ゆがふ製糖を通じて地域の新植植え付けや補植用の苗として提供している。新植後、2回から3回程度株出し栽培を行い、製糖原料用さとうきびを生産し、新植時には再び種苗用さとうきびを生産して地域に提供している。

 令和3年10月時点のゆがふ農場の従業員は6人で、そのうち5人はゆがふ製糖農務部の職員との兼務である。また、ゆがふ製糖農務部は本社(うるま市)の他、北部(名護市)と南部(八重瀬町)にそれぞれ事務所を設置し、職員を配置しているが、圃場(ほじょう)の管理作業にはこれらの農務部の職員も加わっており、労働力の多くをゆがふ製糖に頼っているのが現状である。

 ゆがふ農場の所有する農業機械はトラクター1台、ロータリー培土機1台、中耕ロータリー1台、小型ビレットプランター1台である。これらは国の補助事業を利用して令和2年11月にリースにより導入したものである。この他、ゆがふ製糖がトラクターや耕運機、貨物車などを所有している。

(3)今後の展望と課題

 ゆがふ農場では、自社で生産した種苗を活用し、さとうきびの生産量をさらに拡大するため、植え付け作業の受託を行いたいと考えていることから、今後借地面積を20ヘクタールまで増やす計画である。また、ゆがふ農場以外にも、植え付け作業の受託を行う者の中には、種苗用さとうきびを生産するなど意欲の高い者もおり、ゆがふ農場としてはこうした者への支援も進めていきたいと考えている。

 一方で、課題となるのが作業体制の構築である。前述の通り労働力の大半をゆがふ製糖農務部の職員に頼っているのが現状である。農務部の職員はゆがふ製糖の業務と掛け持ちとなることから、作業時間が限られ、適期に作業を行うことが難しい状況にあるため、労働力の確保とさらなる作業の効率化が求められる。

 労働力の確保については、新たに従業員を雇用する計画を立てている。新たに雇用する従業員には、ゆがふ農場でさとうきび栽培のノウハウを習得し、将来的に独立して、地域の担い手としてさとうきび生産を担ってほしいと考えており、こうした意思を持った者を雇用する意向である。一方、作業の効率化についてはさらなる機械化を進めるため、集積可能な農地を借り入れていきたいと考えている。

4 ゆがふ農場と関係機関が連携した三つの取り組み

(1)国頭村の有休農地解消に向けた取り組み

ア サトスマプロジェクトの始動

 令和2年7月、沖縄県農業協同組合中央会(以下「JA沖縄中央会」という)および沖縄県農業協同組合(以下「JAおきなわ」という)が中心となり、さとうきびにおけるスマート農業を推し進めるため「サトウキビスマートプロジェクト(以下「サトスマプロジェクト」という)」を開始した。

 サトスマプロジェクトは、さとうきび生産の管理作業において植え付けから収穫までの一連の作業を機械化し、効率化・省力化を目指すものである。具体的には(1)全地球測位システム(GPS)を利用した自動操舵システムの既存の農機などへの搭載による運転操作の補助(2)ドローンを利用した農薬散布(3)ハーベスターの自動操舵および刈り取り自動化―の三つである。

 トラクターやハーベスターの操作は本来簡単にはできないが、農機に自動操舵システムを搭載することにより、GPSの位置情報によって農機を自動で動かすことができる。自動化により誰もが熟練したオペレーター並みの農機操作を実現可能とすることで、作業の効率化だけでなく後継者の育成や受託組織の育成強化にもつながるものである。

 自動操舵システムは、大規模農地の多い南大東島などの一部地域では導入されているが、小規模農地の多い沖縄本島地域では普及が遅れている。そのためサトスマプロジェクトでは、国頭村安波(あは)地区の遊休農地を利用し、自動操舵システムを活用したさとうきびの植え付けを行うこととした(写真1)。

写真1

イ 国頭村安波地区での取り組み

 国頭村安波地区は農地の集約化が進んでおり、機械化を行いやすいというメリットがあったため選定されたが、遊休農地であったことから関係機関が連携し土壌改良を行った(表)。
 

 ゆがふ農場は農地中間管理機構、国頭村を通じて同村の8区画からなる総面積5.5ヘクタールの農地を借り受けた。当該農地は酸性土壌でさとうきびの栽培には不向きだったことから、沖縄県農業研究センター名護支所が土壌分析を行い、土壌のpHをさとうきび向けのpH6.0に調整し、琉球肥料株式会社による土壌の肥沃(ひよく)度回復作業や合同会社輝喜(てるよし)重機による土壌の硬化改善、排水性および保水性の向上を目指した土壌改良が行われた(写真2)。これにより、当初は荒廃していた農地も整地が進み、現在ではさとうきびが一直線に並ぶ圃場となっている(写真3)。

 当該圃場のさとうきびは種苗用として栽培されており、後述する宮城(みやぎ)島の植え付けにも利用された。当面はゆがふ農場がさとうきびを栽培する予定だが、将来的には国頭村の協力を得ながら後継者を探し、地域の担い手へ圃場を引き継ぎたいと考えている。
 

写真2

写真3

ウ サトスマプロジェクトの実演会の様子

 令和2年10月、サトスマプロジェクトの一環として自動操舵システムを搭載した全茎式プランターとビレットプランターによる植え付け実演会が行われた(写真4、5)。主に農機の開発を担う株式会社くみきが自動操舵システムやビレットプランターの説明を行った。

 同社の説明によると、自動操舵システムは人工衛星とGPSを用いて位置を正確に把握し、手動の操作より早く正確に植え付けを行うことができるという。ビレットプランターの場合、植え付け速度は従来の時速約1.5キロメートルから約3倍まで上がり、10分から15分で約10アールの農地に植え付け作業が可能とのことである。
 

写真4

写真5

(2)北中城村における担い手への農地移転の取り組み

ア 経緯

 北中城村で野菜の生産を行っていた生産者がさとうきびを新たに生産するため、同村内の遊休農地を借り受けたが、約70アールに及ぶ農地には岩や木があり、生産者個人による整地は経済的、資材的に難しかった。

 こうした中、令和2年12月に北中城村からゆがふ製糖に協力の要請があり、遊休農地の解消に向けて動き出した。ゆがふ製糖による遊休農地解消のための補助金の利用やゆがふ農場による資材投入、村職員の協力もあり、3年7月ごろには整地が完了し、同月中にはゆがふ農場によりさとうきびの植え付け作業が行われた(写真6〜8)。

写真6

写真7

写真8

イ 担い手への農地移転

 農地の借地料は生産者が支払っているが、ゆがふ農場が植え付け、管理作業を行い、種苗用として収穫後、株出しの状態で生産者に引き継ぐことが決まっている。

 生産者は株出しの状態から引き継ぐため植え付け作業を行う必要がなく、円滑にさとうきび生産を開始することができる。生産者にとって負担が少ないことも魅力であり、ゆがふ農場としても農地を引き継ぐ相手が決まっているため生産計画を立てやすいこともメリットだ。

 本取り組みにおいては、ゆがふ農場の他に北中城村、北中城村さとうきび生産組合などの協力を得ることで遊休農地が解消され、理想的な形で生産者に引き継ぐことができた。

(3)うるま市における葉タバコからの転作支援

ア 経緯

 もともと宮城島では8戸、伊計(いけい)(じま)では5戸の葉タバコ生産者がおり、総面積30ヘクタールの農地で葉タバコを生産していた。ところが令和3年7月、日本たばこ産業株式会社が生産者に対し、葉タバコの廃作希望を募ることとなった。

 これを受けてゆがふ製糖は同年8月に両島の葉タバコ生産者へさとうきびへの転作に関する説明会を行い、うるま市与那城(よなしろ)さとうきび生産組合とともに栽培講習会を行った(写真9)。これにより宮城島では6戸、伊計島では4戸の生産者がさとうきびへ転作することとなった。

写真9

 イ 説明会から植え付け作業まで

 夏植えに間に合わせるため、廃作に関する方針が出てから説明会や栽培講習会の開催、植え付けまで急ピッチで進められた。宮城島ではゆがふ農場、伊計島では個人の受託者の協力もあり、10月までに約12ヘクタールの圃場に植え付け作業を行うことができた。

 植え付けに当たっては、前述の国頭村の圃場で収穫した苗を宮城島へ運び、自動操舵システムを搭載したビレットプランターを活用した。また、ゆがふ農場が宮城島の一部のさとうきびを買い取り、そのさとうきびを種苗用として収穫し、宮城島、伊計島内の圃場に植え付けを行うことで苗の運搬時間の節約につながるよう工夫しながら作業を行った(写真10)。

 なお、圃場ごとに適した作物に転作するよう営農指導員による指導があり、さとうきびの他にはにんじんやにんにく、ばれいしょなどへの転作も行われたとのことである。
 

写真10

ウ 今後の展望

 生産者は今後もさとうきびを栽培していくが、さとうきびを今まで栽培したことのない生産者にとっては管理作業などで慣れない点も多いため、今後も継続的なサポートが必要だろう。

 また、ゆがふ農場としては、今回は廃作に関する方針が出されてから植え付けまでの期間が短く、すべての転作希望者の要望に応えることができなかったが、今後も関係機関と協力しながら継続的にさとうきびの転作支援を行っていきたいとのことであった。

おわりに

 沖縄県において、製糖事業者とさとうきび生産者は車の両輪の関係で地域経済を支えてきた。さとうきびの生産量の減少は製糖事業者への影響のみならず、地域経済への影響も大きい。こうした中、沖縄本島地域では、高齢化による離農や収穫面積の減少といった課題に対し製糖事業者やJA、市町村などの関係機関が一体となって取り組んでいる。本稿で取り上げたゆがふ農場を中心とした取り組みが実を結び、同社設立時のスローガンである「さとうきびのある風景を次世代に」という言葉通り、さとうきび生産が地域の担い手へと託されていくことを期待したい。

 最後に今回、取材や資料提供にご協力いただきましたゆがふ製糖株式会社祖慶常務取締役、農業生産法人ゆがふ農場株式会社外間代表をはじめ、関係者の皆さまにこの場を借りて深く御礼申し上げます。
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272