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南北大東島における持続的なサトウキビ収穫・運搬作業体系

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最終更新日:2022年6月10日

南北大東島における持続的なサトウキビ収穫・運搬作業体系
〜ダウンサイジングの可能性は?〜

2022年6月

NPO法人亜熱帯総合研究センター 赤地 徹

【要約】

 南北大東島におけるサトウキビ収穫・運搬作業体系の9類型について効率性、経済性、生産性に配慮しながら、それぞれの有効性についてシミュレーションの手法を用いて検証した。その結果、大型収穫機および中型収穫機をベースとした類型が有効であり、現行の作業料金を維持できる可能性があること、単収や作業能率の向上は作業経費の低減につながること、また、製糖工場のプラント処理量をコントロールする技術や仕組みがあれば、より自由で多様な収穫・運搬作業体系の構築が可能であることが考えられる。

はじめに

 沖縄県南北大東島はサトウキビ作機械化の先進地として知られている。1885年の開拓開始から一企業独占のプランテーション経営が続いていたが、先の大戦後、土地所有権が認められ現在の農家経営の基礎が形成された。1960年代後半から始まった機械化は、1990年代に現行の作業体系の基本となる本格的な機械化へと進展した。いくつかの変遷を経て外国製の大型収穫機を中心に、工場の運搬トラックが収穫機の伴走車を兼ねるという日本では独特の収穫・運搬体系が定着した。機械化が両島のサトウキビの生産振興に大きな役割を果たしてきたことは疑う余地がない。

 初期の導入から20年以上が経過した2010年前後から、収穫機や運搬トラックを順次更新する時期を迎えた。単収が減少傾向にあったことなども引き金となり、これまでの大型機械化によるデメリットについて議論が再び高まり、機械類を従来のものより小型化するダウンサイジングを念頭にした更新計画が模索された。

 筆者は2014年から4年間、南北大東島の収穫・運搬作業体系のダウンサイジングをテーマに調査・研究を行ってきた1)、2)。本稿では、南北大東島において持続的にサトウキビ生産を続けていくために有効な収穫・運搬体系について効率性、経済性、生産性に配慮しながらシミュレーションの手法により検証を試みたので、その結果について紹介する。

1 南北大東島におけるサトウキビ収穫・運搬体系の類型

(1)現行の主要な収穫・運搬作業の類型化

 サトウキビ作における機械収穫・運搬作業は、収穫作業が「刈り取り・細断」「集茎」「()(じょう)外への搬出」、運搬作業が「運搬トラックなどへの積み込み」「工場への運搬」の五つの作業に細分される。これらの作業を担う作業機の形態に着目し、南北大東島で稼働している作業体系を大型収穫機ベースの2類型、中型収穫機ベースで6類型、小型収穫機ベースで1類型の合計9類型に分類した(図1)。
 
 大型収穫機ベースの類型である大型(1)は、伴走車方式の車輪タイプ大型収穫機1台に工場への運搬トラック2台を組み合わせた類型であり、運搬トラックが収穫機の伴走車を兼ねている。現行の運用では最も多い類型である(写真1)。




 大型(2)は、大型(1)のトラックの代わりにトラクタでけん引するトレーラを用いる類型である(写真2)。



 中型(1)は、大型(1)と同様の類型であり大型収穫機を同じタイプの中型収穫機に置き換えたものである(写真3)。



 中型(2)は、中型収穫機の伴走と圃場外への搬出をハイダンプ式のクローラ(キャタピラー)タイプ伴走・搬出機が担うもので、2台の運搬専用のトラックが組み合わされた類型である(写真4)。



 中型(3)は、運搬トラックの荷台が着脱式のコンテナとなっており、伴走・搬出機からコンテナに収穫物を積み替える。コンテナの数が充分にあれば収穫機と伴走・搬出機による圃場での収穫作業は運搬トラックの動きの影響を受けず、完全に切り離された作業となる(写真5)。



 中型(4)は収穫機がクローラタイプであること以外は中型(1)と同じである(写真6)。



 中型(5)と中型(6)の類型では収穫機自身が集茎と圃場外への搬出までを行う。伴走車を従えない自走搬出方式の収穫機であり、日本国内で稼働している収穫機のほとんどがこの方式である。収穫物は圃場外に集積され、クレーンで運搬トラックに積み替えられ工場へ運ばれる。中型(5)の収穫機は車輪タイプ、中型(6)の収穫機はクローラタイプであり大型(1)に次いで多い類型となっている(写真7、8)。






 小型(1)の類型は北大東島で試験的に運用されているもので、小型化により(うね)幅の縮小と土壌踏圧の最小化による増収効果を狙っている(写真9)。収納袋式のクローラタイプ小型収穫機とクレーン付搬出機を組み合わせた体系である。収穫機は満載になった収納袋を圃場内に降ろしながら収穫作業を続ける。クレーン付搬出機が収納袋を回収し圃場外へ運び出し1カ所に集積する。集積された収穫物はクレーン付運搬トラックに積み替えられ工場まで運ばれる。収納袋式収穫機をベースにした類型では、運搬作業と収穫作業が完全に切り離されるため、収穫機はトラックの動きに影響されることなく収穫作業を継続できる。



 なお、収穫機とトラックの組み合わせはシーズンを通して一つのグループとして作業が継続され、操作するオペレータもシーズン中はそれぞれの作業機に固定されるのが原則となっている。

(2)各類型の作業性能(実作業量)の分析

 農業機械の導入計画や運用計画を策定するためには、各作業機(ここでは収穫・運搬の各作業類型)の1日の作業量が重要なデータであり、一般的に実作業量と呼ばれている。本研究では、現行の収穫・運搬作業の実作業量について以下の二つの方法で調査、分析・標準化しその結果をシミュレーションの基本データとした(表1)。
 
ア ドライブレコーダおよびGPSロガー(注1)を使用したタイムスタディ(注2)による作業分析

 収穫機や運搬トラックにドライブレコーダとGPSロガーを設置し、作業中の画像やGPSによる位置情報をもとに実作業量を解析した。

(注1)GPSによる位置情報を連続的に記録する装置。
(注2)作業者が作業を行うためにどれだけ時間を要しているかを測定する分析手法。


イ 工場搬入データをもとにした実作業量の分析

 製糖工場では、運搬トラックが工場に到着するごとに種々の情報が記録され、到着時刻、収穫圃場、収穫機、収穫面積や収穫量などを特定することができる。運搬トラックが収穫機の伴走車を兼ねる類型や伴走・搬出機から直接運搬トラックに収穫物を積み替える類型では、運搬トラックの動きと圃場での収穫機の作業が密接につながっている。そこで、工場データからトラックの到着時間と運搬量を分析し、その収穫・運搬グループの実作業量を推定した。

 

3 シミュレーションによる各類型の有効性の検討

(1)ダウンサイジングに関する考え方

 機器類のダウンサイジングとは、文字通りサイズを小さくすることによりコストや作業効率を改善することであり、1990年代に大型化した汎用コンピュータを小型化、分散化する中で生まれた概念である。南北大東島でのダウンサイジングを念頭にした作業機の更新計画では、小型軽量化により、土壌踏圧やサトウキビ株の踏み潰し、引き抜きなどサトウキビ生産力への悪影響を最小化することが一義的な目的であった。しかし、サイズの縮小や軽量化だけでは本質を見失う恐れがあり、表2に示したようにいくつかの視点と前提に基づいて検討を進める必要がある。本研究では広い視点からダウンサイジングを捉え、その効率性、経済性、生産性に配慮しながらシミュレーションを行った。
 

(2)シミュレーションによる有効な類型の検討結果

 シミュレーション結果を表3、図2に示した(一部データ省略)。作業能率や効率性から目標量を収穫するためには、大型収穫機をベースにした類型の場合、北大東島で7組、南大東島では16組、中型の場合、北大東島で10〜15組、南大東島で24〜39組、小型の類型にすると北大東島で18組の作業グループが必要になる。
 
 
 
 収穫・運搬のコストを10アールおよびトン当たりで見ると、中型(5)の類型が最も高く、補助事業を前提とした圧縮計算(注3)をしても北大東島の場合でそれぞれ10アール当たり3万7529円、1トン当たり7318円となる。中型(5)および中型(6)の類型は、収納袋方式であることから作業能率が低いことや、運搬にクレーン付トラックを使用していることなどがコストアップの要因となっている。

 コストが低い大型(1)の類型では、伴走・運搬トラックの経費を除いた収穫機のみの1トン当たり経費は、圧縮計算で北大東島2858円、南大東島1927円となり、現行の収穫作業料金(北大東島3000円、南大東島2500円)よりも低い。製糖工場の運搬トラックが収穫機の伴走を兼ね、圃場外への搬出を担う大型(1)、中型(1)、中型(4)の類型の場合、伴走・搬出作業にかかる1トン当たりのコストは、北大東島が685〜901円、南大東島で534〜751円となる。全体的に北大東島より南大東島の方がコストは低い。南大東島は北大東島よりも生産規模が大きいことや単収が高いこと、製糖日数や作業グループの稼働日数も長いことから、各作業グループの1シーズンの処理量が北大東島より多くなっていることが要因である。

 以上の結果から、北大東島では大型(1)、中型(1)、中型(4)のモデルを、南大東島では大型(1)、大型(2)、中型(1)、中型(4)および中型(2)のモデルを中心に代替を進めることが有利と考えられる。なお、両島に共通することだが、作業機のオペレータの確保が年々厳しくなっているという社会的状況がある。一定の技術レベルを求められる収穫機や伴走・搬出機のオペレータがシーズンごとに変わるのは好ましくないことから、これまで可能な限り島内在住者で確保するという努力が続けられてきた。しかし、高齢化の影響も相まって小規模な離島の中では限界がある。この点からも、作業グループの要員が少なくなる大型を中心にしたモデルは有利であると言えるだろう。

(注3)圧縮計算とは機材の導入に補助金を活用した場合、実際の購入価格から補助金を差し引いた上で、減価償却などの経費の計算を行うことを指す。

(3)単収、作業能率、工場日圧搾量、補助率と経費の関係

 単収および作業グループの作業能率の向上は、収穫・運搬作業の経費の縮減につながる。作業能率向上による経費の縮減効果は小型になるほど大きい。作業機のダウンサイジングを考える場合においては、一定の作業性能を維持しながらサイズダウンを図ることが重要であり、今後作業機を開発・改良する上で留意すべき重要なポイントである。

 製糖工場のプラント処理量(日圧搾量)と収穫作業経費の関係は正の相関があり、日圧搾量が多くなると収穫作業における圃場内経費も増大する。日圧搾量が増えることに伴い収穫・運搬作業を担う作業機の台数を増やす必要が出てくるためである。逆に日圧搾量が減少すると作業機の必要台数が減り、圧搾日数や稼働日数が増えるため、結果として1シーズン当たりの作業グループの処理量が増えることから作業経費の低減につながる。

 行政事業前提の補助率と収穫・搬出作業コストの関係を見ると、作業機の導入を自力で行った場合、現状の技術水準では現行作業料金を維持することは難しい。作業機の導入には当分の間行政的な支援が必要と言わざるを得ない(図3)。
 
 上記の結果から、収穫・運搬作業体系モデルの経費を削減するためには、単収を向上させること、作業グループの作業能率を高めることなどが重要となる。また、製糖工場の日圧搾量をコントロールできる技術や仕組みがあれば、もっと自由で多様な収穫・運搬作業体系の構築が可能となると考えられ、収穫・運搬作業のコスト低減にもつながる。トラックの台数の増減をはじめコンテナや収納袋の数を調整するなど各作業機のアイドリング時間を最小化し、シーズンを通して各作業グループの処理量を増やす方向で種々の対策を講ずることが重要である。

(4)残された課題

 本研究では収穫、搬出、運搬の各作業を担う複数の作業機を一括りにし、一つの作業グループとして捉えている。グループを構成する作業機が、余裕のある場合に他のグループの作業を応援するという状況は想定していない。効率的に作業を行うためには、作業機が他の作業機を待つ時間、いわゆるアイドリング時間を最小化する対策が重要である。本研究では、それぞれ単独の類型についての分析にとどまっているが、今後は複数の類型を組み合わせて最適化を図ることについても検討を進める必要がある。

おわりに

 本稿は2014年から2017年に行った調査・研究の概要を紹介したものである。以後直近までの両島のサトウキビの生産状況は、2017-18製糖年期の南大東島の実績を除けば、筆者がシミュレーションの前提として設定したシーズン収穫量や単収を上回る結果を示している(図4)。特に、ここまで低迷していた単収が両島とも直近の3シーズンでは沖縄県の平均を超えていることは特筆できる。台風の影響が少なかったことや生育旺盛期に適切な降水量があったことなどが要因として考えられる(データ省略)。収穫機の代替えについては、北大東島では大型から中型への移行が進んでいる一方、南大東島では北大東島に先駆けて中型への代替えが行われたもののこの数年は大型に戻りつつある。RK97-14などの高単収品種の普及(2020-21製糖年期の収穫面積率31.8%、沖縄県農林水産部糖業農産課資料)で豊作が続いていることから、収穫の作業性と運営コストの再考による大型への回帰が選択されていると言えよう。なお、南大東島では中型への代替えを進めるにあたり、機材の選択肢を増やす目的で米国製収穫機の導入を検討したが、代理店の問題などで実現していない。また、2012年に北大東島に試験的に導入された小型収穫機は、2020年以降は稼働していない。
 
 紹介したシミュレーション結果は、作業量などの効率性と運用コストなどの経済性に視点が偏り、サトウキビの生産性を含めた検討が不十分だったことは否めない。機械化、特に収穫機がサトウキビの生産力にどう影響するのかについては、引き続き大きなテーマであり現在も分析を進めているところである。この点については改めて機会を得て紹介したいと考えている。

 本調査・研究は筆者が沖縄県農業研究センター在職中に行ったものであり、沖縄振興特別推進交付金を活用した「新たな時代を見据えた糖業の高度化事業」の中で実施した。現地調査では両島の製糖工場、村役場、JAおきなわ各支店、生産法人、駐在の普及指導員など多くの関係者にご協力をいただいた。改めて感謝を申し上げる。

 なお、紹介した内容の詳細については、以下に示した論文2報を参照いただければ幸いである。

【参考文献】
1)赤地徹・吉原徹・前田建二郎・玉城麿・宮平守邦・正田守幸・安仁屋政竜・亀山健太・井上英二(2017)「沖縄県南北大東島におけるサトウキビの収穫・運搬作業体系のダウンサイジングに関する研究 ―現行のサトウキビ収穫・運搬作業の類型化と実作業量の推定―」『農作業研究』52(1)pp.5-14. 日本農作業学会 〈https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsfwr/52/1/52_5/_pdf/-char/ja〉
2)赤地徹・恩田聡・玉城麿・米須勇人・宮平守邦・山田義智・正田守幸・新里良章・井上英二(2020)「沖縄県南北大東島におけるサトウキビの収穫・運搬作業体系のダウンサイジングに関する研究 ―持続的なサトウキビ生産を可能とする有効な収穫・運搬作業体系モデル―」『農作業研究』55(4)pp.231-245.日本農作業学会 〈https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsfwr/55/4/55_231/_pdf/-char/ja
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