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アジア地域における砂糖・エタノール生産

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最終更新日:2022年12月9日

アジア地域における砂糖・エタノール生産
〜第15回アジア砂糖・エタノール年次会議参加報告とタイのサトウキビ栽培の現況〜

2022年12月

調査情報部 水野 崇、山ア 博之

【要約】

 タイ・バンコクで開催された第15回アジア砂糖・エタノール年次会議では、世界やアジア地域における砂糖の需給見通しや、砂糖産業における持続可能な開発目標(SDGs)への取り組みのほか、エネルギー価格が高騰している中で、各国が推進するバイオエタノールに関する政策や技術革新について報告された。また併せて、開催地タイにおいて、サトウキビ栽培の現況などについて現地調査を行った。サトウキビ栽培においては、サトウキビの買い上げ価格の減額やハーベスタの導入が進んだことなどから、焼き畑によるサトウキビ収穫が減少しており、政府による対策の効果が確認できた。

はじめに

 2022年9月20〜22日にタイ・バンコクで第15回アジア砂糖・エタノール年次会議が開催された(写真1)。

 会議では、アジア地域を取り巻く情勢として世界市場を見渡すため、砂糖原料作物の主産地であるブラジルやEUなど、他地域の状況について報告が行われた。

 この中で、サトウキビ生産量が世界第1位のブラジルでは、天候に恵まれたことから2022/23年度のサトウキビ生産量は前年度をやや上回ると見込まれている。また、大統領選最中(注1)の政治的な背景もあり、ブラジル国営石油会社によるガソリン価格の引き下げがバイオエタノール需要の減少につながったことから、砂糖生産に仕向けられるサトウキビの割合が大きくなり、砂糖生産量が増加すると見込まれている。

 さらに、てん菜糖生産が主流となるEUでは、夏季の記録的な熱波や干ばつがてん菜の生育に影響を与えたことなどから、てん菜生産量は前年度からかなりの程度減少することが見込まれている。一方で、ロシアによるウクライナ侵攻の影響により、ロシアへの経済制裁の一環として、ヨーロッパ諸国がロシアから輸入していた天然ガスなどのエネルギー資源を他国から賄うため、エネルギー価格の高騰も懸念されている。

 続けて、アジア地域における砂糖およびエタノールをめぐる最新の状況が報告され、インドやインドネシアなどを中心に砂糖消費量が堅調に推移しており、需要が拡大しているとされた。一方で、近年、原油価格の高騰や、持続可能な開発目標(SDGs)への取り組みから、サトウキビやてん菜などを原料とするバイオエタノールの生産も増加傾向にあるとしている。

 本稿では、これら同会議で発表されたアジア地域における砂糖およびエタノール情勢を中心に、開催地であるタイのサトウキビ栽培の現況のほか、同国における砂糖やバイオプラスチックの流通状況、バイオエタノールの利用実態として、フレックス燃料車(注2)大国であるタイの自動車の利用状況、タイ産バイオエタノールにおいて、もう一つの主原料であり、サトウキビやトウモロコシの競合作物であるキャッサバ生産の状況などについて報告する。

 なお、本稿中、特に断りのない限り砂糖年度は10月〜翌9月とする。

 また、本稿中の為替レートは、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の10月末TTS相場である1米ドル=149.26円、1タイバーツ=3.97円を使用した。

(注1)同国の大統領選は2022年10月30日に決選投票が行われた。
(注2)フレックス燃料車とは、ガソリンだけでなくガソホール(ガソリンとバイオエタノールの混合燃料)でも走行ができる車両をいう。

 

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1 アジア砂糖・エタノール年次会議報告

(1)アジアにおける砂糖の需給動向

 会議においては、開催地であるタイを始め、アジア諸国の情勢について報告があった。本稿ではタイのほか、主要国であるインド、パキスタンおよびインドネシアの状況について紹介する。

ア タイ

 2022/23年度のタイの砂糖生産量は、02/03年度と比較して64%増加、輸出量は68%増加すると見込まれ、タイの砂糖産業はこの20年間で大幅な成長を遂げた。生産された砂糖のうち、約8割は輸出されており、主な輸出先はインドネシア、カンボジア、ベトナムといったアジア地域である。

 19/20年度と20/21年度は、干ばつの影響により砂糖生産量が大きく落ち込んだが、年間の降水量とサトウキビの収量は相関があり、異常気象による降水量の減少が、タイの砂糖生産量に大きな影響を及ぼす傾向があることが明らかとなっている(表1)。そのため、タイの砂糖産業では、頻繁に発生する異常気象への対応や環境への配慮、砂糖生産以外の事業の多角化が近年直面する課題として挙げられる。

 タイ政府は、22/23年度のサトウキビ生産量のうち、焼き畑により収穫されるサトウキビの割合を5%以下にする目標を掲げている。焼き畑は元来、(しょう)(とう)部や枯葉などの不要な部分を焼くことで、収穫の手間を省くことを目的として一般的に行われていたが、収穫時期にはタイの至る所で黒煙が上がり、PM2.5の数値が異常に高くなるなど、大気汚染が深刻な問題となっていた。そこで政府は、サトウキビをそのまま収穫する方法であるグリーンハーベストを普及するため、19/20年度より、焼き畑により収穫したサトウキビには1トン当たり30バーツ(119円)の罰金を厳格に課す一方で、ハーベスタの導入に対して融資制度を導入している。製糖工場側では、焼き畑により収穫したサトウキビの受け入れ数量に上限を設けるほか、焼かずに収穫した高品質のサトウキビに対し、1トン当たり120バーツ(476円)を追加で支払うなど、焼き畑の減少に向けた取り組みを行っている。また、焼き畑によらない収穫を推進するため、サトウキビの梢頭部や枯葉などの不要部を1トン当たり800〜1000バーツ(3176〜3970円)で買い取ることで、さらなる焼き畑の抑制が図られた。この取り組みにより、ハーベスタの導入が推進されるとともに、焼き畑の抑制に大きな効果があったとされている。

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イ その他のアジア諸国

(ア)インド
 インドの砂糖生産量は2021/22年度にサトウキビの豊作により増加し、砂糖の先物価格が高値で推移したことから輸出が大幅に伸びた(表2)。一方、22/23年度の生産量は前年度並みと見込まれるものの、前年度の期末在庫と合わせると、余剰があると予測されている。製糖会社は砂糖の先物価格が一定の基準未満である場合には、輸出を控えるとみられている。今年度の輸出量の上限は、同国政府によって2回に分けて設定されるとされ、合計700万〜800万トン程度と見込まれている。これより、期末在庫量は750万トン程度と推計され、このうち450万トンが、エタノール生産に転用される可能性がある。


(イ)パキスタン
 2022年6月から8月にかけて、例年の10倍以上の降雨や深刻な熱波に伴う氷河の融解が大洪水を引き起こした。この数十年で最悪とされる記録的な洪水により、日本の約2倍ある国土の3分の1が水没したとされ、被害と経済的損失は149億米ドル(2兆2240億円)を超えるとの報道もある。3300万人に影響を及ぼし、1730人以上が命を落とした大洪水は、サトウキビ生産量にも甚大な被害が生じたと考えられるが、現時点では正確な被害把握はできておらず、今年度の生産量の予測は困難な状況にある(表3)。


(ウ)インドネシア
 この10年間、インドネシアの砂糖生産量は200万トン程度と、横ばいで推移している。一方で、人口の増加により砂糖需要は増加傾向にあり、輸入量は400万トンから600万トンへと堅調に推移し、世界最大の砂糖輸入国となった(表4)。これまで主な輸入先はタイや豪州であったが、インドやブラジルからの輸入も増加しており、特に2020年からの輸入粗糖規格の変更に伴い、インド産砂糖の輸入関税もタイや豪州と同等の5%まで引き下げられている。同国では、サトウキビの栽培を促進する計画を打ち出し、砂糖の自給自足を目指しているものの、サトウキビの生産コスト上昇や国営製糖工場の老朽化など、供給面の課題が山積している状況にある。

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コラム1 タイにおける砂糖およびバイオプラスチックの流通状況


 タイのスーパーマーケットには、日本でもなじみ深いグラニュー糖のようなさらさらとした白色の砂糖のほか、消費者のニーズに合わせ、やや茶色がかったオーガニックシュガーやブラウンシュガー、ボトル容器に充填された商品なども取り揃えられている(コラム−写真1)。


 大手コンビニエンスストアでも、さまざまな種類の砂糖が販売されており、日本の一般的なコンビニエンスストアの店舗と大差ない面積ながら、陳列されていた砂糖の商品数は10種類以上に及び、砂糖の消費が盛んな国ならではの品揃えである。複数メーカーの商品が並ぶほか、形態が液状のものや代替品(カロリーオフ)もある(コラム−写真2)。
 

 また、同国では、豊富な生産量を誇るサトウキビおよびサトウキビ由来原料、キャッサバを原料としたバイオエタノールの生産や消費が盛んであり、それら原料の利用拡大・多様化の観点から、バイオプラスチックへの活用について研究が進められてきた。しかし、現状では、これらの流通は都心部に限られ、今回の調査時には郊外の小売店舗での取り扱いは確認できなかった。訪問した都心部のスーパーマーケットでは、バイオプラスチックが豊富に取り扱われており、通常のプラスチック商品が存在しないものもあった。価格も通常のプラスチック商品と同程度から1〜2割程度の割増価格での設定となっており、流通小売における品揃えにおいて、都市住民に対し、環境意識の高さをアピールする戦略を垣間見ることができた(コラム−写真3)。
 

 

(2)バイオエタノールを巡る情勢

 また会議においては、バイオエタノールの情勢として、バイオエタノール大国である米国およびブラジルの情勢について報告が行われ、その後、アジアにおけるバイオエタノールに関する政策などが紹介された。そのほか、関連情報として、次世代における生産に関する技術的な情報提供も併せて行われた。

ア 世界におけるバイオエタノール政策

 世界のバイオエタノール生産量は、2022年に1130億リットルを超える見込みである。ここまで生産が伸びているのは、各国の政策が生産拡大を後押ししたことによる。バイオエタノールは約5割が米国、約3割がブラジルで生産されており、上位2カ国で全体の8割強を占めている。

 米国では、一般的なガソリンにバイオエタノールを10%混合した燃料(E10)(注3)が主流であるが、混合率をさらに上げたE15を通年で販売することとなった。一方、ブラジルでは、E25が義務化されており、バイオエタノールの消費拡大が図られている。

 バイオ燃料を政策として推進する主な要因は、(1)国として農業生産者に原料生産を推進していること(2)輸送燃料の脱炭素化などの環境に利点があること(3)大気中の有害物質の排出量削減による健康への恩恵があること(4)農村地域への経済的利益がもたらされるとともに(5)外貨の節約(6)エネルギーの安全保障−といったことが挙げられる。

 なお、米国のトウモロコシ消費は、エタノール向けと飼料向けが拮抗する状況とされ、この二つで同国内消費の大半を占める状況にある。同国はエネルギー消費大国であると同時に、主要な畜産物の生産大国でもあり、かつ、トウモロコシの輸出大国でもある。同国のトウモロコシ生産やその利用状況は、世界的なバイオエタノール需給に影響を及ぼすのみならず、世界的な砂糖需給や畜産物需給、また、日本の主要トウモロコシ輸入先国であることから、日本国内の畜産物需給にも大きな影響を及ぼすものである。このため、砂糖やバイオエタノールをはじめとした各種商品の国際需給については、原料作物であるトウモロコシなどに直接的に影響する同国の農畜産物政策だけではなく、エネルギー政策や環境政策といった諸政策に対し、複眼的な視点で状況を把握することが重要となる。

 また、ブラジルも米国と同様の状況にあり、同国はトウモロコシや大豆といった飼料穀物の生産および輸出大国であるとともに、甘しゃ糖、サトウキビおよびサトウキビ由来のバイオエタノールの生産大国である。近時のウクライナ侵攻に端を発したエネルギー危機に対処するため、EU各国では比較的安価となるブラジル産エタノールが注目され、調達が加速している。

 両国のバイオエタノールの需給動向は、SDGsの観点からも注目が集まっており、日本の農業関係者などにおいても注視すべき事項となっている。

(注3)Eの後ろに付く数値は、バイオエタノールの混合率を表す。

イ アジアにおけるエタノール政策

 中国では、政府の方針としてバイオエタノールの増産を打ち出し、2020年までに中国全土でのE10利用の標準化を目指していた。しかし目標の達成には、同国内のエタノール生産工場の稼働状況や生産能力の現況では困難であることから、現状のエタノール混合率(計算上、4〜5%程度)を維持する方向になるとの報道も出ている。

 一方インドでは、30年までにE20の普及を目標に掲げていたが、22年3月には、E10のほぼ全土的な普及を達成したとして、今後は、目標を5年前倒し、25年までにE20の普及を目指している。

 タイでは、バイオエタノールの利用を促進するため、ガソリン混合率に応じた補助金を出し、E20やE85の価格を引き下げている。また、E20やE85に適合するフレックス燃料車の普及拡大のため、同車の購入時に課税される物品税を減税している。

 このように、アジア各地では政策によるバイオエタノールの普及が進んでおり、生産の拡大が続いている。バイオ燃料は、エネルギー転換に不可欠な要素であり、脱炭素化の目標を達成するためには、さらなる生産拡大の機会創出が望まれる。昨今のエネルギー危機の影響などによるガソリン価格の高騰は、バイオ燃料の利用を促進させる動機となり得るが、現状、バイオエタノールの安定的な供給は課題の一つであり、そのためには、開かれた市場と低関税であることが求められる。

ウ 大規模な第2世代バイオエタノールプラント開発の課題

 第2世代バイオエタノールとは、サトウキビの搾り汁を原料とする従来のバイオエタノール生産ではなく、バガス(セルロース系原料)などの食料と競合しない非食用のバイオマスを原料として製造されたバイオエタノールである。従来のサトウキビの仕向け先であった砂糖生産とエタノール生産との競合を回避でき、砂糖生産の副産物であるバガスを有効利用できるという利点がある。

 砂糖生産の副産物を利用したバイオエタノール生産は理想的だが、課題も多い。まず、原料調達の課題として、安定した生産には原料の安定供給が求められるが、現状では不足や余剰は避けられない。また、異物の混入や原料として使用できないリスクもある。さらに、かさばる葉の保管場所の確保や乾燥した枯れ葉が引火し、火災となるリスクにも注意が必要である。

 そのほか、技術的な課題としては、サトウキビの葉などは、収穫した地域や時期により、成分組成が少しずつ異なるため、処理工程は同じでも、最終的な仕上がりにばらつきが出てしまう。また、サトウキビの葉以外にも、キャッサバの繊維や副産物も原料となり得るため、さまざまな原料が異なる割合で混在しても、最終生成物を均一化する技術が求められる。

コラム2 フレックス燃料車の普及と新時代自動車の投入


 タイでは、自動車の燃料として主に植物油を原料としたバイオディーゼル(軽油代替燃料:脂肪酸メチルエステル)と、ガソリンにバイオエタノールを混合したガソホールが広く流通している(コラム2−写真1)。同国ではガソホールの普及促進のための補助制度があり、補助金により一般的なガソリンよりも安価になることで、利用促進が図られている。また、エタノールの混合率が高くなるほど、安価となるよう設定されている(コラム2−写真2)。
 



 同国では、ガソホールでも走行可能なフレックス燃料車が広く普及しており、通常のフレックス燃料車は、通常のガソリンからE20までであれば給油可能であるが、混合比の高いE85は、適合したフレックス燃料車での利用に限定される。

 今回の現地調査では、フレックス燃料車を多く取り扱うタイ・カーレンタル協会(TCRA)を訪問した。同協会によると、利用者はレンタカーを返却する際に給油を行うが、その際は適合するものであれば、どの混合率のものを給油しても構わないという。そのため、利用者は個々の判断で、異なる混合率の燃料を給油している。利用者からは、E85適合車両の貸し出しを希望するといった要望は特段聞かれず、レンタカーの種類にE85適合車を率先して導入するという動きは見られないとしている。また併せて、同協会に所属するレンタカー会社を訪問したところ、同社では利用者が混同しないよう、サービスの一環として、燃油タンクのふたの部分に、推奨燃料を示すステッカーを貼り付けし、適合しない燃料を給油しないよう注意喚起を促していた(コラム2−写真3)。
 
 
 一方、タイ政府は、電気自動車の普及を目的とする奨励政策にも取り組んでいる。同国が電気自動車とバッテリー製造のハブとなるために、あらゆる種類の電気自動車を奨励している。製造面では、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)といったガソリンとの併用車のほかに、バッテリー電気自動車(BEV)、燃料電池車(FCEV)といったガソリンを使わない自動車の製造にも投資を呼び掛けている。また、バッテリー電動バイクやバッテリー電動三輪車といった車種も対象としており、それぞれの製造事業者には、法人所得税の免税措置などを行っている。加えて、販売面では、1台当たりの購入金額に対する補助金の支給や、物品税の減税などの税制上の優遇措置も行っている。

 また、電気自動車の普及には、充電ステーションの拡充が重要となる。2022年9月時点で全国に2500基設置されているが、30年までには全国で1万2000基設置する計画である(コラム2−写真4)。実際、今回訪問したバンコク近郊のスワンナプーム国際空港では、電気自動車によるタクシーサービスが展開されており、普及の一端を垣間見ることができた(コラム2−写真5)。

 



 
 なお、これらの動きに対し、TCRAで話を聞いたところ、同国でフレックス燃料車を製造する自動車メーカーに対し優遇税制が導入されたことがフレックス燃料車普及の一因になったとしている。また、上述のようにレギュラーガソリンとのバイオエタノール混合燃料との価格差も普及に寄与したとしている。そのような中で、タイ政府による電気自動車の導入促進は、利用者の理解・判断があって達成できるものであり、その一つが充電ステーションの拡充としている。TCRAは、車両の普及・浸透のためには利用者(購入者)が納得のいくインセンティブをいかに提案できるかに掛かっていると述べた。
 

2 タイにおけるサトウキビ栽培の現況

(1)タイにおけるサトウキビ栽培の概況

 タイは、世界第4位の砂糖生産量を誇り、輸出量では第1位のブラジルに次ぐ第2位である(日本の輸入先国としても第2位)。2019年、20年と立て続けに干ばつが発生したことから、キャッサバやトウモロコシなどの競合作物に転作が進み、作付面積が減少した。しかし直近では、砂糖需要の増加やエネルギー価格の高騰などの影響もあり砂糖先物価格が高値で推移していることから、サトウキビの買取価格は堅調で、生産者の作付け意欲が旺盛とされる。砂糖の先物価格が高騰している一方で、原油価格高騰の影響によって、トラクターやハーベスタなどの燃料費、肥料代などは、軒並み上昇しており、生産者の経営を圧迫している。肥料代を節約し、施肥回数を減らす生産者もあるが、その場合、サトウキビ生産量は減少する。

 今回、バンコク近郊のスパンブリー県とチョンブリー県の生産農家を訪問したので、以下にサトウキビ栽培の現況などについて報告する。
 

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(2)スパンブリー県

 スパンブリー県は、バンコクの北約100キロメートルに位置するサトウキビの一大生産地であり、そのほかにキャッサバ、トウモロコシの生産も行われている。ただし、農業用水が豊富ではないため、水稲は作付けされていない。

 圃( ほ)場の大規模化が進み、サトウキビは大規模農家が多く、ハーベスタによる収穫が全体の8割、手刈りが2割と、タイ国内の平均(約7割:21/22年度時点)よりハーベスタによる収穫が多い(写真2)。

 タイの中小農家の場合、前年の価格動向を見て、翌年に作付けする作物を検討し、作物を変更することも多く見られるほか、近年の病虫害(ツマジロクサヨトウ)の影響でトウモロコシの収穫量が落ち込んだ翌年に、キャッサバへ転作した農家も多く存在した。キャッサバの栽培は比較的手間が掛からないとされ、転作作物としてキャッサバが選ばれる傾向もみられる。一方、サトウキビは、ある程度の設備投資が必要な作物であるため、農機の導入が進んでいる同県では、利用設備や機械などの転流用が限定的であることから、サトウキビからキャッサバへの転作はあまり多くはない状況にある。また、サトウキビの場合は、収穫後に新たに植え付けることなく5回は株出し栽培が可能であるため、投資を回収する意味でも、サトウキビ栽培を続ける農家は多い。このように機械の汎用性が限定的であるとともに、ローンで機器を導入した場合などは、農家が返済を抱えているケースも見受けられ、これが作物転換の硬直性の要因の一つとなっている。このためサトウキビ農家では、現況の改善(作業の効率化と単収増加)を目指す傾向が多く見られる。そのような中で、近時ではドローンを導入し、圃場拡大に併せ、それらを農薬の散布などに活用するなど、積極的な経営を推し進めている農家も現れている(写真3)。

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(3)チョンブリー県

 チョンブリー県は、バンコクの南東約160キロメートルに位置し、同県も農業用水が豊富ではないことから、水源の確保が収益確保のカギの一つとなっている(写真4)。

 サトウキビ生産に関しては、他のサトウキビ主産地と比べると中小規模の生産者が中心となっているという。競合作物としては、トウモロコシ、キャッサバのほか、ゴム、アブラヤシ、パイナップルやドリアンといった果樹などがある。県農業事務所では、生産者に対して営農指導を実施しているが、品種の選定や肥培管理に関しては、別途、製糖工場からも行われている。

 かつて、サトウキビの収穫時期に行われていた焼き畑は、ハーベスタの入らない低くくぼんだ圃場での収穫や、製糖工場の操業末期の受け入れ終了間際に、急いでサトウキビを収穫する必要がある場合などに限定されており、グリーンハーベストの普及を確認できた(写真5)。

 中小規模の生産者は収穫機を所有していないことも多く、収穫作業を受託する組織が存在し、収穫から工場搬入までを行う。原油価格の高騰により収穫機や運搬車両の燃料代が増加しており、作業受託料も値上げされ、サトウキビを収穫する圃場から製糖工場までの距離が一定以上の場合は、割増料金が発生するという(写真6)。

 先進的な生産者の中には、GAP認証を申請している者もいる。GAP認証を取得しても取引価格は変わらないものの、いずれ取引先の顧客などから求められることを想定し、今から農薬の使用記録などを付けている。

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コラム3 タイのキャッサバ生産(チョンブリー県)


 訪問先の圃場では、共同経営者2人と雇用者7人で200ライ(32ヘクタール:1ライ=0.16ヘクタール)で、キャッサバとパイナップルの輪作を行っている。作付けから収穫までの期間は、キャッサバは10〜12カ月、パイナップルは14〜16カ月ほどである(コラム3−写真1)。県の営農指導もあり、訪問先の地域では、キャッサバを軸にパイナップルまたはトウモロコシを輪作する形態が多いという。パイナップルとキャッサバの輪作を行う利点として、(1)キャッサバと作業機械が共通のものが多く転用が容易であること(2)キャッサバとパイナップルは、土壌の適した酸性度(pH)が同じであること(酸性土壌での栽培が可能)(3)キャッサバの仕向け先が中国市場に依存している一方、パイナップルはタイ国内市場向けが中心で、一部加工に回る部分も含め、キャッサバと売り先が異なることなどから、買取価格の下落リスク分散が期待できること−があげられる。

 なお、近時、流行が続くキャッサバモザイク病(注)は訪問先の圃場でも確認されたが、収穫間際の苗であれば問題ないが、植え付け直後のものであれば収量も落ちて、さらに周りの苗に伝染するため、速やかに除去処理(引き抜き)を行っているとしている(コラム3−写真2)。

(注)ウイルスの感染によって葉に黄化斑ができる病気で、光合成が十分に行われず、最悪の場合には作物自体が枯れてしまうことから、収穫量が大幅に減少する。タイのほかに、近隣国のベトナムやカンボジアの一部で流行が確認されている。

 

おわりに

 地球温暖化や気候変動は世界共通の課題となっており、経済・社会・環境問題に対して包括的に取り組むSDGsは、日本をはじめ世界各国で注目されている。大気中の二酸化炭素を吸収し生育するサトウキビは、人類にとって食料やエネルギー源となる砂糖に生まれ変わるほか、バイオエタノールをはじめとした自動車の燃料やバイオプラスチックなどの原料にもなり、副産物の搾りかすは、堆肥などとしてバイオマス利用できるなど、用途は多岐にわたる。

 アジアやアフリカなどを中心として、砂糖消費量は増加しており、サトウキビやてん菜は、食品用途としての需要が増加している。その一方で、環境への配慮やSDGsの取り組みに加えて、世界経済の混乱やエネルギー危機の影響により、バイオマス原料としての需要も増加している。気候変動により、干ばつやラニーニャ現象などの影響を受け、サトウキビやてん菜の収穫量は、大きく変動し、その結果、砂糖の先物価格は大きく値が動いている。持続可能でよりよい世界を目指すため、脱炭素化に向け目標を定めた2030年に向けて、世界各国で取り組みが、さらに進んでいくとみられる。サトウキビやてん菜は、砂糖としての食用用途と、それ以外の用途のそれぞれの分野で、今後、利用価値がますます高まっていくと考えられ、今後もその動向が注目されている。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272