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〜第31 回国際砂糖機関(ISO)セミナーと欧州の砂糖生産事情〜

砂糖でつくる持続可能な世界へ
〜第31 回国際砂糖機関(ISO)セミナーと欧州の砂糖生産事情〜

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最終更新日:2023年3月10日

砂糖でつくる持続可能な世界へ
〜第31 回国際砂糖機関(ISO)セミナーと欧州の砂糖生産事情〜

2023年3月

調査情報部 峯岸 啓之、水野 崇

【要約】

 2022年11月22〜23日に開催された第31回国際砂糖機関(ISO)セミナーでは、世界の砂糖需給の見通しのほか、主産国における砂糖産業の多様性や脱炭素化への取り組みについて報告された。

 また、ISOセミナーへの参加に併せ、開催地である英国とベルギーに所在するEUの砂糖関連団体を訪問し、気候変動やロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー供給問題をはじめ、環境政策による農薬規制など、英国およびEUともに課題が山積する中、解決に向けて検討を重ねる状況を確認することができた。

はじめに

 国際砂糖機関(ISO:International Sugar Organization)は2022年11月22〜23日、「カーボン・シュガー・エナジー:持続可能な世界への移行(CARBON SUGAR ENERGY: transition to a sustainable world)」をテーマとしたセミナーを英国ロンドンで開催し、世界55カ国から総勢281人が参加した(写真1)。同セミナーは1991年から開催され、今回で31回目の開催となった。前回は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により対面およびオンラインでの開催であったが、今回はCOVID-19の発生状況を踏まえ、現地での対面のみの開催となった。

 本稿では、同セミナーで発表された国際的な砂糖情勢などの概要に加え、英国の全国農業者組合(NFU:National Farmers Union)およびEUの欧州砂糖製造者協会(CEFS:Comité Européen des Fabricants de Sucre)から入手した、近年の英国および欧州の砂糖事情について併せて報告する。

 なお、本稿中、特に断りの無い限り砂糖年度は10月〜翌9月とし、砂糖の重量は実数(tel quel:粗糖換算前の重量)で示すものとする。
 

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I 第31回国際砂糖機関(ISO)セミナー報告

1 世界の砂糖需給などの短期見通し

 ISOが発表した2022年11月現在の需給予測に基づく、2022/23年度までの世界の砂糖需給の見通しは以下の通りである。

(1)世界の砂糖需給の概況

 世界の砂糖生産量は、2017/18年度に過去11年間で最多となる1億7983万トンを記録したものの、その後はEUでの乾燥気候の影響や()黄病(おうびょう)の流行、ブラジルでの干ばつや霜害などの影響を受けて、下降基調で推移してきた(表1)。しかし、22/23年度は、サトウキビ主産地であるブラジルやタイの生産量の増加により1億8214万トン(前年度比5.2%増)と17/18年度を上回り、過去10年間で最多となると見込まれている。

 一方、砂糖消費量は、17/18年度以降、減少傾向で推移し、19/20年度は世界規模で実施されたCOVID-19の拡大抑制策による経済活動の低迷から一段と減少した。しかし、その後は、世界的な経済活動の復調を受けて増加基調となり、22/23年度は1億7596万トン(同0.9%増)とわずかな増加が見込まれている。

 なお、19/20年度以降、消費量が生産量を上回ってきたが、主産地での生産が良好であるため、22/23年度は逆転し、619万トンの砂糖余剰が発生するとの予測から、期末在庫量も1億トンを超過することが見込まれている(図1)。
 

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(2)主産国の状況

 砂糖生産量について、2022/23年度の主産国(生産量上位10カ国および日本(注1))の状況を見ると、世界最大の生産国であるブラジルは、サトウキビの収穫面積は他の作物との激しい競争により減少が見込まれるものの、サトウキビの生育に適した良好な気候が続いたことから3990万トン(前年度比24.4%増)と大幅な増加が見込まれている(図2)。また、第2位のインドは3550万トン(同1.2%減)、第3位のEUも1443万トン(同6.3%減)と、干ばつや熱波などの天候不順などを理由に減少した。一方で第4位のタイは、天候に恵まれたことから1200万トン(同18.4%増)と大幅な増加が、第5位の中国も比較的天候が安定していたことなどから1000万トン(同4.6%増)とやや増加が、それぞれ見込まれる。

 同年度の砂糖消費量は、EU、タイ、米国、ロシアおよび豪州を除いた主産国でいずれも増加が見込まれている。最大の砂糖消費国であるインドは国内需要の増加により2740万トン(同2.3%増)、中国は1590万トン(同3.3%増)とアジア圏の消費が堅調に増加する見通しとなっている。

 同年度の砂糖輸入量は、世界第1位の砂糖輸入国である中国は620万トン(同5.3%減)とやや減少が見込まれるほか、第2位のインドネシアは570万トン(同1.8%減)とわずかに、第3位の米国は271万トン(同5.7%減)とやや減少が見込まれる。

 同年度の砂糖輸出量は、生産量の増加見通しを受けて、最大の砂糖輸出国であるブラジルが2700万トン(同5.7%増)とやや、タイが940万トン(同16.6%増)と大幅な増加が見込まれている。また、近年輸出の増加が著しく、21/22年度には1120万トンの砂糖が輸出されたインドでは、輸出割当の制限政策などから800万トン(同17.1%減)と大幅に減少すると見込まれる。

(注1)22/23年度予測において、日本の生産量は世界第26位。
 

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2 多様性をテーマとした企業独自のアプローチ

 本セミナーでは、砂糖産業の多様性の観点から、各企業のさまざまな取り組みが紹介された。そのうち本稿では2社の取り組みについて紹介する。

(1)Sudzuckerグループの取り組み

 ドイツを拠点とし、欧州最大級の製糖企業であるSüdzuckerグループは「Get the Power of Plants」(植物の力を手に入れる:GROUP STRATEGY 2016 PLUS)という経営戦略を掲げている。これは植物の潜在的な力を引き出し活用することで市場や顧客のニーズに応え、持続可能性を配慮した収益性の高い成長を従業員とともに目指していく取り組みであり、製糖からの多角化を図るものである。

 具体的には、二酸化炭素を吸収し、再生可能な炭素源として利用できるてん菜を掲げ、さまざまな製品の原料として利用することで持続可能な生産プロセスと廃棄物ゼロを達成できるとしている。

 例えば1ヘクタールの()場で収穫されたてん菜から11トンの砂糖が生産された場合、それは560人の人が1年間に必要とする砂糖、またはエタノール100%で走行可能な車(E100)6台分、あるいはE100の車1台が7万3000キロメートル走行するために必要な燃料と同等の価値がある。そして、当該量の砂糖生産の際には12トンのビートパルプ、2トンの糖みつ、3トンのライムケーキが副産物として生成される。12トンのビートパルプは乳用牛2頭が年間に食べる粗飼料、または製紙用の樹木9本に相当する。また、2トンの糖みつは1.6トンのパン酵母の生産原料または70平方メートルの住居を2カ月間温めることのできる熱源と同等である。さらに、3トンのライムケーキはそれらを肥料として使用することで、農作物の生産に必要な化学肥料の使用を3割程度抑制できると試算されている。

 さらに同グループでは、てん菜利用のバリューチェーンを拡大し、今後は包装資材やバイオプラスチックなどわれわれの日用品につながることを目標として掲げており、生成された副産物を廃棄物ではなく資源として利用し、グループとして持続可能な農業に取り組んでいくことについても言及した。

(2)Pfeifer & Langen社の取り組み

 同じくドイツに拠点を持つPfeifer & Langen社は、ロシアのウクライナ侵攻によって突き付けられたエネルギー不足への課題とこれからのエネルギー使用について、多様なエネルギー源確保の取り組みについて発表した。

 製糖時に必要なエネルギーの多様化は、温室効果ガス削減の重要な要素であり、同社はエネルギー消費の効率化と新たなエネルギー源の確保について模索を続けている。同社では1990年には石炭が約7割、原油が約3割の化石燃料が主体であった燃料構成を、2040年にはバイオガスが約5割、電力が約3割、残りの2割をバイオマスとし、そのエネルギー消費量も最大約8割削減することを目標としている。

 発表では、エネルギー多様化のための最適な方法についても紹介し、水素は高額で入手困難であること、風力や太陽光は天候などに左右されることなどを理由に安定的な確保が難しいとした。一方でビートパルプは、他の飼料穀物などと異なり競合がないことから、供給が不足せず十分な量を入手することができるとした。しかし、今後、ビートパルプ利用の促進にあたっては、行政の支援と公平な競争環境が必要となると述べている。

 なお、同社は欧州10カ国に工場を有し、その中にはドイツやフランスなどビートベルトと呼ばれるてん菜栽培に適した地域も含まれており、各国の工場では将来を担う未来のエネルギー源について独自の取り組みを実施している。例えばウクライナの工場では19年から木材やひまわりペレットなどのエネルギー源を使用している。また、ハンガリーの工場では14年から工場施設の屋根に太陽光パネルを設置した太陽光発電を実施しており、そこから得られるエネルギーは当該工場のエネルギー需要の最大30%をカバーしている。

 発表の最後には、多様化はビジネスアプローチに重要な要素であることを述べるとともに、ビートパルプを主軸に多様な燃料供給の組み合わせが必要であるとまとめていた。

3 脱炭素化に向けた各国の取り組み

 本セミナーでは脱炭素化(カーボンニュートラル)についても国や企業の取り組みが紹介された。その概要は以下の通りである。

(1)ブラジルの取り組み

 ブラジル農務省は「国家バイオ燃料政策(RenovaBio) - 新しいブラジルのバイオ燃料政策」と題して講演した(注2)。RenovaBioとは、同国がパリ協定に基づいて制定した政策であり、バイオ燃料の使用を拡大し、化石燃料による温室効果ガスの排出を相殺するための市場を創出することにより、同国の炭素強度(carbon Intensity)の低減を目標に掲げている。

 RenovaBioは、脱炭素化目標、バイオ燃料生産認証、CBIO(注3)の三つの軸で構成されている(図3)。一つ目の軸は、温室効果ガス(GHG)排出量の削減目標の決定である。毎年政府が国として向こう10年間のGHG排出量の削減目標を決定し、それを基に燃料販売業者にも10年間の個別目標を設定させている。現在、同国政府は10年間の目標として、GHGの9.23%削減を目標に掲げている(図4)。二つ目の軸は、バイオ燃料の生産者がEnergy-environmental efficiency scoresと呼ばれる得点を受け取ることである。生産者はこの得点を取得するために自発的にバイオ燃料の生産認証に取り組む必要がある。この得点はバイオ燃料の起源を含む生産プロセスなどの審査と製品ライフサイクルに基づき採点され、生産がより効率的で持続可能であるほど得点は高くなる。そして、三つ目の軸がCBIOである。バイオ燃料の生産認証により得られた得点をバイオ燃料の販売量に乗じた量が、特定の生産者が排出し、市場で販売できるCBIOの量となる。

 RenovaBioはバイオ燃料消費量の増加とその拡大、バイオ燃料生産者の増産へのインセンティブの提供など多くの利点がある。また、市場原理を取り入れたCBIOの仕組みは画期的であり、CBIOは国際的に取引され、世界中の低炭素代替エネルギーの開発を促進するのに役立つ最良のソリューションの一つであると述べている。

(注2)詳細については『砂糖・でん粉情報』2022年7月号「ブラジルの砂糖・エタノール産業におけるICTの活用状況と持続可能性に関する取り組み」https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_002747.htmlを参照されたい。
(注3)CBIOは、バイオ燃料の生産認証により得られた得点をバイオ燃料の販売量に乗じて算出したものであり、化石燃料の排出量と比較して、1トンの二酸化炭素換算の削減に相当する。

 

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(2)インドの取り組み

 インドで最大の統合バイオリファイナリー(再生可能資源であるバイオマスを原料にバイオ燃料や樹脂などを生産する技術や産業)を有し、同国最大級のエタノール製造企業の一つであるGodavari社は、近年同国で増産傾向にあるバイオエタノールについて発表した。同国は世界第二位の砂糖生産国であるが、国内消費の余剰砂糖の活用としてエタノールへの転用が注目され、エタノールの生産量は年々増加している(図5)。

 エタノールへの転用が盛んな理由として、2021年6月に同国政府が発表したロードマップ「Roadmap for Ethanol Blending in India 2020-25」を挙げ、25年までに同国全土で使用されるガソリンの混合率20%(エタノール混合率20%のガソリン)を達成する目標が掲げられている。このロードマップの中では、中間目標として22年11月までに10%を達成することを目標としているが、同国石油・天然ガス省によれば、22年6月にすでに達成されたと公表している。

 発表の中では、20%の目標達成のために、今後150億リットルのエタノールを生産する能力とガソリンとの混合に100億リットル以上を供給することが必要であると述べた。また同国は現在ブラジルに続くエタノール混合率を誇り、25年までに米国とブラジルに次ぐ世界第3位のエタノール生産国になるだろうと述べた。
 

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U 欧州砂糖業界の現状と課題

 今般のISOセミナー参加に併せて英国の全国農業者組合(NFU)とEUの欧州砂糖製造者協会(CEFS)を訪問し、欧州砂糖産業の現状と課題について調査した。

1 全国農業者組合(NFU)

 NFUは英国の農業と園芸を支える生産者団体で、4万6000を超える農業者および企業の成長を支えている(写真2)。砂糖部門では同国のてん菜生産者(3000戸以上)の半分程度が所属している。

(1)英国の砂糖生産の近況

 気候変動や新しい病虫害の流行、ネオニコチノイド系農薬の使用禁止(注4)など、さまざまな要因により、近年のてん菜生産量は減少傾向にある(表2)。特にネオニコチノイド系農薬が規制された翌年の2020/21年度については、てん菜生産量は610万トン(前年度比19.0%減)と大幅に減少し、生産量が前年度比で8割減少した生産者もあったという。しかし、中長期的に見れば、てん菜の遺伝的形質の向上などにより単収の増加は見込めるとし、近年被害の多い病虫害である萎黄病とBeet moth(Scrobipalpa ocellatella)についても防除法の検討が進んでいるとしている。
 

(注4)2023年1月19日に欧州司法裁判所(CJEU)は、EUで使用が原則禁止されているネオニコチノイド系農薬の緊急的使用を認める例外規定を否認する判決を下したことから、欧州の砂糖供給への懸念が高まり、22/23年度の砂糖需給予測は大幅に修正された。詳細については2023年2月7日付海外情報「ネオニコチノイド系農薬の緊急使用に否認の判決(EU)」https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003455.htmlを参照されたい。
 

 


 

コラム1 英国てん菜栽培における高温障害と病虫害


 2022年の夏、欧州では記録的な猛暑となり、英国では史上初の40度を超える気温を観測するなど、気候に関するニュースが多く報道されたことも記憶に新しい。この猛暑は欧州のてん菜生産にも大きな影響を及ぼし、熱波による高温障害や干ばつによる水不足を引き起こしたことで、てん菜生産者は被害に悩まされた(コラム1−写真1)。
 

 また、近年は英国をはじめ、欧州のてん菜は萎黄病と呼ばれる病気にも悩まされている(コラム1―写真2)。この病気はVirus Yellowsと称されるウイルスによって引き起こされるが、ウイルスはアブラムシを媒介して感染する。感染したてん菜の葉身は萎黄症状を呈し、病気が進行すると他の葉にも黄化と萎凋(いちょう)(しおれて衰える)が広がり、最終的には落葉し、枯死に至るものである。

 

 さらに、昨年英国では、Beet mothと呼ばれるガにより甚大な被害を受けた(コラム1―写真3)。Beet mothは北アフリカやヨーロッパ南部などに分布し、温暖で乾燥した気候を好むガである。これまで英国でも存在が確認されてきたものの、西岸海洋性気候であり多湿な英国では害虫化することはなく、主に地中海地域での被害が報告されてきた。しかし、昨年は猛暑や干ばつの影響により、英国でもこのガの生育に適した条件が整ったことから大発生し、害虫化につながったと考えられている。発生当初はこれまで見たことのない害虫とその大発生を目の当たりにしたてん菜生産者や関係者はこの被害の対処法が分からず困惑したという。なお、株元に潜むBeet mothの幼虫は水に弱いことから、大量の水をてん菜の株元に施すことで幼虫を溺死させる方法が、最も効率的な防除法と考えられている。
 
 

(2)ウクライナ侵攻による影響

  EUでは基本的に砂糖は自給できているため、ウクライナ情勢により直ちに影響が出てくる状況にはない。しかし、エネルギー調達や製造コストの高騰による影響は顕在化しており、EU諸国は大きな危機感を抱いている。例えばある企業では、従来ロシア産の天然ガスに依存してきたが、ウクライナ侵攻を受けてロシアからの輸入が激減し、ノルウェー産に切り替えることとした。このように代替先を確保できたことで、操業は維持できたものの、現状、ノルウェー産への依存度が100%に近い状態となり、加えて調達コストも上昇したことで、引き続きエネルギー調達の不安定性は解消できていない状況にあるとしている。

(3)EUからの離脱とFTAの締結による影響

 EU離脱の影響も非常に大きく貿易や国内政策、規制などが顕著である。具体的には、EU離脱による手続きの増加やそのコストの上昇を問題視している。また、対EU以外でも、スピード重視で決まった豪州とのFTAは、英国砂糖産業にとって得られるものは少ないうえに、競争激化の要因が増え、製糖業界としては頭を抱えている。

(4)生産者の高齢化と世代交代  

 日本ほどではないが、英国でも農業従事者の高齢 化と後継者問題が顕在化しつつあるようだ。具体的には、同国のてん菜生産者は家族経営が主流である中、後継者自体は確保されているものの、先代が高齢になっても現場から身を引かないケースが多く見られるという。NFUは、このように経営主体の移行が停滞することで、技術などの導入が円滑に進まず、効率の悪い古い形態での生産活動が持続されることを問題視している。そのため、新規参入者がなかなか入ってこられない状況を打開すべく、同国政府は政策として大学などで営農に必要なスキルを習得できる「Sugar Industry Program」を導入するなど、改善を図っている。

(5)脱炭素化への取り組み 

 英国政府は、2050年までにGHGの純排出量をゼロとする目標を打ち立てているものの、現時点では具体的な道筋が見えていないとしている。このような中、NFUではてん菜の栄養吸収構造の研究や肥料効率の最適化を推し進めることなどにより、より少ない化学肥料で単収を増加させることを目指している。また、てん菜の定植や収穫作業が機械化さ れ省力化が進む中、製糖企業は、ディーゼル規制の厳格化も背景に代替燃料や動力の電力化などの検討を行うなどの対応が、製造コストの増加要因の一つとなっているという(写真3)

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2 欧州砂糖製造者協会(CEFS)

 CEFSは、EU、英国およびスイスの製糖企業を会員とし、砂糖に関する知識と技術的専門知識の共有を図る組織である。同会はEUの関係諸機関への意見具申や情報交換などを正式に認められている国際的な非営利団体であり、欧州製糖業界における調整機関としての役割も果たしている。

(1)EUにおける砂糖生産の近況

 2022/23年度は、干ばつや熱波など気候変動による生産量の減少とともに政策や規制がトレンドとなった。EUでは環境を守るため、比較的規制が厳しい状況にあるが、特に農薬に対し厳しい制限が課されている。英国と同様にネオニコチノイド系農薬が規制された翌年の20/21年度については、EU最大の砂糖生産国であるフランスでてん菜の生産量が落ち込んだことから、EU全体のてん菜生産量は9852万トン(前年度比10.5%減)と大幅に減少した(表3)。当該規制により、有効性の高い農薬の多くが使用できなくなり、萎黄病などの被害と相まって生産者の中には収穫量が7割減少した生産者もあった。現在、この困難を新しい技術でどう乗り越えるかEUの砂糖業界は模索を続けており、現況では、近年注目の集まる遺伝子工学について、情報収集を進めている。
 
 
(2)ウクライナ侵攻による影響
 
 EUでは基本的に砂糖は自給できているため、ウクライナ情勢により直ちに影響が出てくる状況にはない。しかし、エネルギー調達や製造コストの高騰による影響は顕在化しており、EU諸国は大きな危機感を抱いている。例えばある企業では、従来ロシア産の天然ガスに依存してきたが、ウクライナ侵攻を受けてロシアからの輸入が激減し、ノルウェー産に切り替えることとした。このように代替先を確保できたことで、操業は維持できたものの、現状、ノルウェー産への依存度が100%に近い状態となり、加えて調達コストも上昇したことで、引き続きエネルギー調達の不安定性は解消できていない状況にあるとしている。

(3)EUからの英国の離脱とFTAの締結による影響
 
 CEFSは、EUの砂糖産業にとって、英国のEU離脱の一番の勝者は英国でもEUでもなくブラジルであると考えている。もともとEUではACP諸国(EUの旧植民地であるアフリカ、カリブ、太平洋諸国)から砂糖を制限なく輸入することが可能であった。しかし、英国が自由貿易志向にシフトしEUから離脱したことで、英国の砂糖輸入は自国で独自に調整できることが可能となった結果、ACP諸国との競合相手として、ブラジルに参入する余地が生じたためであるとしている。

 また、CEFSは、EUと豪州の自由貿易協定(FTA)交渉において、EU市場を第三国の砂糖に開放することに対し、強い懸念を表明している(注5)。これについては、EUの砂糖需給の状況や豪州との物理的距離、農薬の使用における不平等な競争などさまざまな理由とともに、EU域内の砂糖産業の重要性についても触れている。近年、EUの砂糖産業従事者は減少傾向にある(図6)。しかし、依然として砂糖産業はEU全域の農村地域に住む数十万世帯の生活を支える農業と工業のハイブリッド産業であり、このような地域では、これほど高報酬で代替の利く産業はなく、砂糖産業の衰退は、農村地域の持続可能性を脅かすものであると主張している。

(注5)詳細については2022年12月2日付海外情報「欧州の製糖業界、EUと豪州の自由貿易協定交渉に対し、砂糖輸入に関する懸念を発表」https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003404.htmlを参照されたい。

 

(4)脱炭素化への取り組み
  
 脱炭素化に向けて、フランスでは法律の整備を国が率先して取り組む一方で、ドイツでは一企業が独自にロードマップを展開するなど、各国で対応が異なる状況にある。欧州委員会では複数の代替エネルギーの調達方針を掲げており、水素燃料やオール電化、ビートパルプによるバイオガスなどが挙げられている。なお、このような取り組み下においてEUの砂糖部門では、1990年と比較して、2018年には51%の二酸化炭素排出量削減が達成されている(図7)。

 

 
 

コラム2 欧州の伝統的な砂糖菓子


 ベルギーのお菓子といえば、ベルギーチョコレートやベルギーワッフルなどを思い浮かべる人が多いのではないだろうか。中でもベルギー王室御用達のチョコレートブランドは世界的にも有名で、日本市場へも数多くの企業が進出している。日本国内でも普段から百貨店や商業施設などでベルギーの商品を目にする機会は多いが、ベルギーの首都ブリュッセルの中心街には、チョコレートのほか、さまざまなスイーツを販売する店が所狭しと並び、甘味に対する嗜好性の強さをうかがうことができた(コラム2−写真1)。
 

 その中で、ベルギーの伝統的なお菓子を紹介したい。キュベルドン(cuberdon)は、ベルギーの砂糖菓子で、高さが3センチ程度の円すい形をしている(コラム2−写真2)。外側は比較的硬く、内側はゼラチン状で、グミのようなもちもちとした食感が特徴である。その形状から、オランダ語では「人間の鼻」、フランス語では「司祭の帽子」とも呼ばれている。砂糖を原料としていて、甘いのが特徴で、りんご、パッションフルーツ、オレンジ、ラズベリーなどさまざまな種類の味が楽しめる。キュベルドンは、時間が経つと内側が結晶化してくることから、あまり日持ちがしないため、包装して流通するのが難しいという。もっぱら、街頭で販売されているのを見かけるが、鮮やかな色合いで、目でも楽しむことができる菓子として、同国で人気を博しているという。

 

 

おわりに

 今回のセミナーでは、COVID-19が砂糖産業に及ぼした影響を主眼とした発表はなく、各講演の中で多少触れる程度と、業界における視点・視線の変化をうかがうことができた。一方で、前回のセミナーで多く取り上げられた砂糖産業における多様性への新たな取り組みや、温室効果ガス排出削減に向けた取り組みが数多く発表された。本稿では割愛したものの、アフリカにおける水資源の有効活用やバイオ燃料への取り組みに関する発表など、世界の砂糖産業が持続可能性を意識し、SDGs達成のために取り組む様子を確認することができた。

 さらに、英国とEUの砂糖関係団体では、昨年欧州を襲った熱波や干ばつ、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー供給問題など、これまで欧州が経験したことのない問題に数多く直面し、これらが欧州の砂糖産業の課題とされていることを直接聞くことができた。一方、脱炭素化や持続可能性への取り組みなど、今まで検討し、取り組みを進めてきたことが、実際に必要とされるフェーズに入ってきたことも実感できた。

 今後、世界的に不確実性の様相が高まりつつある中で、食料やエネルギー資源を支える砂糖産業への関心が一段と高まるとともに、その重要性も一層注目される状況にある。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272