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ブラジルの砂糖・エタノール産業における ICTの活用状況と持続可能性に関する取り組み

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最終更新日:2022年7月11日

ブラジルの砂糖・エタノール産業における ICTの活用状況と持続可能性に関する取り組み

2022年7月

調査情報部

【要約】

 砂糖生産量世界第1位のブラジルでは、中南部地域を中心にサトウキビの大規模生産が展開されており、サトウキビを原料に砂糖とバイオエタノールが生産されている。同国では、さらなる生産コスト削減に向け、大手製糖企業を中心に情報通信技術(ICT)の導入を進めているが、通信インフラ(インターネット接続網)の整備が課題となっている。また、持続可能性に関連する取り組みとして、環境に配慮した原料調達、オーガニックシュガーの生産、国家バイオ燃料政策(RenovaBio)による二酸化炭素(CO2)排出量の削減などが官民挙げて実施されている。

はじめに

 ブラジルは世界最大の砂糖生産国であり、世界の砂糖輸出量の約4割を担う世界最大の砂糖輸出国でもある。同国の特徴として、大規模生産者や製糖企業などによる広大な圃場(ほじょう)でのサトウキビの大規模生産が挙げられる。近年では、生産コスト削減のため、ICTの利用が進むとともに、持続可能性に配慮した原料調達の取り組みやCO2排出量の削減を目指す制度なども展開されている。

 本稿では、今後の動向が注目されている同国の砂糖およびエタノール産業の概況のほか、サトウキビ生産におけるICTの導入状況や持続可能性に関連する取り組みについて紹介する。

 なお、断りが無い限り、本稿中の年度はブラジルの砂糖年度(4月〜翌3月)である。また、為替レートは、1ブラジルレアル=4.73円(注1)を使用した。

(注1)ブラジル中央銀行の2022年5月末TTS相場。

1 サトウキビ生産の概要

(1)主要生産地域

 ブラジルのサトウキビ主産地は、サンパウロ州をはじめとする中南部地域であり、大規模生産者のほか、製糖業者やエタノール精製業者もサトウキビの生産を行うなど、国内生産量の約9割を占めている(図1、2)。また、残りの1割を占める北東部地域は、ポルトガル植民地時代からの伝統的なサトウキビ生産地であり、この地域では小規模生産者が主体となっている。





 州別のサトウキビ生産量を見ると、首位のサンパウロ州で国内生産量の約5割を占め、続くゴイアス州とミナスジェライス州を合わせると、これら3州で全体の約7割を占めている(図3)。製糖工場やエタノール精製工場は、輸送コストの削減や収穫後の時間経過に伴うサトウキビの劣化(糖度低下)を避けるため、圃場の近くに建設されることが多く、砂糖やエタノールの生産分布も同様の傾向を示している。


 

(2)生産者の経営形態

 ブラジル地理統計院が2017年に実施した農畜産センサスによると、サトウキビ生産者の約80%が家族経営であり、残りが非家族経営となっている。また、生産者の9割弱が耕地面積5ヘクタール未満であり、この大部分が家族経営とみられるが、生産量に占める割合はわずか0.5%に過ぎない。一方、生産量の9割弱は500ヘクタール以上の圃場を有する生産者によるもので、中規模および大規模生産者がサトウキビ生産の中心となっている(表1)。



 なお、ブラジルサトウキビ生産者協会連合(ORPLANA)のデータ(注2)を見ると、1300ヘクタール以上の圃場を有する生産者は、サトウキビ生産量に占める割合が41.2%となっている(表2)。これらは主に製糖業者やエタノール精製業者が中心とされており、大規模生産者による寡占化が進んでいると考えられる。

(注2)ORPLANAとは、各地方のサトウキビ生産者協会が集まって組織されている団体で、全国のサトウキビ生産量の約20%を担っている。本稿で紹介しているデータは、CONSECANA-SP(サンパウロ州サトウキビ、砂糖、エタノール審議会(注3))に登録されている1万2857戸の生産者データをまとめたもの。
(注3)生産者団体のORPLANAと製糖業者およびエタノール精製業者の団体UNICAで構成された組織で、サトウキビ価格の指標を毎月発表している。



 

(3)栽培方法

ア 栽培歴

 ブラジル農牧研究公社(EMBRAPA)によると、ブラジルでは、主に以下の三つのパターンでサトウキビが栽培されている。

(1)1年半生産(夏植え):湿度があり高温になる1〜3月に植え付け、16〜18カ月で収穫。

(2)1年生産(春植え):10〜11月に植え付け、12カ月で収穫。夏植えと植え付け時期がずれているので、機械や労働力を効率的に使えるが、(1)との比較では生育期が短く、生産性は低い。

(3)冬植え:5〜9月に植え付け、12〜18カ月後に収穫。70〜80%の水分を含むフィルターケーキ(注4)を植溝に施用することで、乾季も植え付けが可能。

 収穫時期には地域差があり、一般的には中南部地域が4〜11月、北東部地域が11月〜翌4月とされている。

(注4)サトウキビの搾り汁からバガスを取り除いた糖液に熱処理などを施し沈殿させると清浄な糖液と沈殿残滓(ざんし)に分かれる。沈殿残滓をフィルターにかけ、さらに糖液を取り出した残り(水分、サトウキビの繊維、土など)をフィルターケーキと呼ぶ。


イ 植え付け

 中南部地域では機械定植が普及しており、2013/14年度には普及率が7割に達したが、18/19年度以降は下落基調にある(図4)。これは、MEIOSI(Método inter-rotacional ocorrendo simultaneamente)と呼ばれる、輪作で落花生などを作付けする際に苗用のサトウキビを同時に栽培することで苗の運搬費用などを削減する方法が普及したためである。輪作作物の収穫後、苗用サトウキビを収穫し、そのまま苗を圃場に手植えするケースが多いとされている(図5)。





ウ 収穫

 同国では、サトウキビ収穫の機械化は1970年代から始まり、中南部地域では2017/18年度以降は95%以上を維持している(図6、写真1)。これはサンパウロ州が州令によって、段階的に手作業の収穫を減らし2021年までに完全に禁止するとした措置をとった結果である(注5)

 一方、北東部地域の機械化は21/22年度時点で28.8%と進んでいない。この地域は小規模生産者が多く、サンパウロ州のように機械の入りやすい平坦な農地が少ないことが理由となっている。

(注5)同令では2011年の段階で機械収穫を50%以上、2021年には完全に禁止にすると定めている。なお、2021/22年度の時点において機械化の割合が100%となっていないのは、例外規定として12%以上の勾配のある土地または150ヘクタール以下の農地の場合、完全達成は2031年に設定されていることによるものである。






 

(4)生産動向および今後の見通し

 サトウキビの収穫面積は、2014/15年度までは増加傾向だったものの、それ以降は横ばいまたは微減で推移している(図7)。一方で、単収はおおむね横ばいで推移している。なお、21/22年度は中南部地域での干ばつや寒波の影響などから単収が前年度から減少したことで、ブラジル全体の生産量も減少した(注6)

(注6)同年度の生産実績の詳細は、2022年5月13日付け海外情報「2021/22年度の砂糖生産量、輸出量は共に減少(ブラジル)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003248.html)を参照されたい。




 ブラジル鉱山エネルギー省に付属するエネルギー研究所(EPE)が2020年に発表した燃料関係の将来予想によると、サトウキビ由来のバイオエタノールの生産増が見込まれることにより、30年のサトウキビ作付面積は21年比で9.9%増、生産量は同21.9%増と見込まれており、大幅な単収の向上が期待されている(図8)。





 

2 砂糖およびエタノール産業の動向

 ブラジルの製糖業者の多くは、砂糖とエタノールの両方の製造が可能な「フレックス工場」と呼ばれる工場を有し、その時々の需要や相場に応じた生産調整を行っている。ブラジル農牧食糧供給省(MAPA)によると、製糖工場やエタノール精製工場の6割がフレックス工場であり、製糖専用とエタノール精製専用の工場数を比較した場合ではエタノール精製工場の方が多い状況にある(図9)。





 2020年は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による行動自粛や経済活動の停滞からエタノール需要の減少が予想されたため、フレックス工場の多くがエタノールから砂糖へと生産を切り替えた。そのため、2020/21年度の砂糖の生産割合は前年度の34.9%から45.9%へと急増し、過去10年(10/11〜19/20年度)の平均水準(43.9%)を超過した(図10)。




 

(1)砂糖産業

 ブラジルの砂糖生産量は、おおむね3000万〜4000万トン程度で推移している(図11)。2018/19年度と19/20年度は、世界の砂糖需給の緩和や原油価格の上昇からエタノールの生産が優先された結果、砂糖生産量は減少したが、21/22年度はサトウキビの減産により砂糖生産量も減少した。





 また、上述のEPEの予想によると、砂糖の生産量、輸出量、国内消費および在庫量の成長率は、それぞれ2021年から30年までに16.3%、20.2%、6.5%と予想されている(図12)。この中で輸出量の伸びがもっとも大きく、国内消費および在庫量は微増である。



 

(2)エタノール産業

 サトウキビを原料とするエタノール生産量は、近年、2500万〜3000万キロリットルの間で推移している(図13)。2018/19年度と19/20年度は、先述の通り、エタノールの生産が優先されたため生産量は増加したが、20/21年度は、COVID-19の影響により2975万キロリットル(前年度比12.5%減)と前年度からかなり大きく減少した。





 一方、トウモロコシを原料とするエタノールの生産量は、トウモロコシの主産地であるマットグロッソ州を中心に急増傾向にある。この理由として、原料となるトウモロコシはサトウキビと異なり一定期間の貯蔵が可能で、また、副産物は飼料用のDDG(トウモロコシ蒸留かす)として販売できるなどの利点が挙げられる(注7)。現在、サンパウロ、パラナ、ゴイアス、マットグロッソの各州で14工場(うち7カ所はサトウキビ由来エタノールの生産も可能な工場)が稼働している。

(注7)トウモロコシ由来エタノール生産の詳細については、『畜産の情報』2020年8月号「ブラジルの大豆・トウモロコシをめぐる最近の情勢(前編)〜生産はマットグロッソ州を中心に今後も拡大の見込み〜」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_001275.html)を参照されたい。
 

3 サトウキビ栽培におけるICTの活用状況

 ブラジルでは、2000年頃から精密農業(注8)の導入が始まり、その後、GPS、衛星画像、ドローン、センサーによるデータ収集、ビッグデータ(注9)の分析、そしてIoT(Internet of Things)の時代に入った(図14)。さらに、高精度な農業やインターネットによるデータの即時利用がより求められる中で、現地ではICT(情報通信技術)の活用が進められている。しかしICTは導入コストが高く、国土が広大なブラジルは農地でのインターネット接続網が整備されていない(MAPAによると可耕地の5%のみ電波が届く状態)ことから、この導入が進んでいるのは自らのインフラ整備が可能な大規模生産者が中心となっている。そこで最近では、製糖企業各社は携帯電話会社と提携し、ネット接続のためのインフラの整備に力を入れている。一般の電波に頼らず自前で中継塔を建設することで導入コストは高くなるが、ブラジル国立社会経済開発銀行(BNDES)の調査によると、1ヘクタール当たりのインフラ整備コストは、50ヘクタール未満の農場の場合4万6033レアル(21万7736円)であるのに対し、1万ヘクタール規模の農場の場合は24レアル(114円)まで下がると試算され、大手の製糖企業にとっては合理的な投資であると考えられている。

 以下では、同国の主要製糖企業のICT活用状況を紹介する。

(注8)複雑で多様なバラツキのある農地・農作物の状態をよく観察し、きめ細かく制御し、収量・品質の向上および環境負荷低減を総合的に達成しようとする農業管理手法。
(注9)ビッグデータとは、デジタル化の更なる進展やネットワークの高度化、また、スマートフォンやセンサーなどIoT関連機器の小型化・低コスト化によるIoTの進展により、スマートフォンなどを通じた位置情報や行動履歴、インターネットやテレビでの視聴・消費行動などに関する情報、また小型化したセンサーなどから得られる膨大なデータ(総務省ウェブサイトより)。




 

(1)Raízen社

 製糖・エタノール業界第2位のRaízen社は、80万ヘクタールの自社圃場と26の製糖・エタノール工場を所有している。同社でのICT導入は、AgTech(注10)スタートアップ企業(AgTech Garage社)の支援のもと進められている。両社は課題ごとに状況を整理し、定期的にスタートアップ企業を募集して農場での試験や経営指導、資金提供などにより技術開発を支援しており、この取り組みを通じ、同国のAgTechを代表する企業が生まれるという好循環が構築されている。

 また、Raízen社では生物防除材の投入にドローンを活用している。まず衛星や無人飛行装置(ドローン、Vant〈UAV〉(注11)など)で害虫の検出や害虫分布状況を把握し、散布計画を立てる。そして生物資材のスタートアップ企業(Agribela社)が開発した資材を、ドローン、Vantの専門企業が作成した運航計画に従って投入していくという運用を確立している。また、農地内で稼働する多数の機械をインターネットで結び、各種センサーのデータを収集するとともに、稼働を最適化することで燃料の削減を実現している。さらには気象データも観測データをクラウドで一元管理して即時に利用している。

 これらの取り組みに加え、AgTechスタートアップ企業のARPAC社と提携し、局所的に除草剤を散布する試験を2019年から行っている。試験結果では、運用コストの47%、資材コストの82%が削減できたとされ、大規模に使った場合でもそれぞれ3割、6割のコスト削減効果が見込まれている。上記試験は200ヘクタールの規模で行われたが、20年には2300ヘクタールの規模で実施されており、今後はコスト削減の効果を踏まえ、自社農場にとどまらず、契約栽培を行っている農家にも普及させていく計画である。

(注10)Agtechとは、 Agriculture(農業)とTechnology(技術)を掛け合わせた技術。人工知能や画像解析、ドローンなどを駆使して農業の作業負担を減らしたり、高収量へと結び付けたり、生産ノウハウなどの「知見」を客観的なデータとして収集・蓄積することで、より適切な経営判断のサポートが期待されている(豪州貿易投資促進庁ウェブサイトより)。
(注11)Vantとは、プロペラを飛行手段としない無人飛行装置の総称で、厳密にはドローンもこれに含まれる。英語ではUAV。

(2)São Martinho社

 業界第3位のSão Martinho社は、35万ヘクタールの農場を管理し、2019/20年度はサトウキビ処理量が2260万トン、砂糖生産量が111万トン、エタノール生産量が117万キロリットルとなっている。同社はサンパウロ州Pradópolisの農場に自社のアンテナ塔6基を設置し、農地13万ヘクタールを4Gのインターネットで網羅し、農地内で稼働する700台の車両が収集するデータを一貫管理するシステムを構築した。今後はほかの農場にも同様の基盤を広げていくという。なお、同社はBNDESと研究プロジェクト融資事業体(Finep)(注12)から融資を受けている。

(注12)Finepとは、ブラジルの企業や研究機関の科学技術に関する研究や開発に対し、補助金の給付や融資などの支援を行う公的機関。

(3)Tereos社

 Tereos社は、30万ヘクタールの農場(うち自社は16万、契約農家分が14万)を管理している。同社は1ヘクタール当たりの単収を83トンから100トンに引き上げることを目標に「100以上(Mais que 100)」プログラムに取り組み、ICTの活用をその中心に据えている。そのためRaízen社と同様に、スタートアップ企業との提携を重視し、精密農業、ビッグデータ、廃棄物管理などへの効果が期待できるAgTechと組んでいる。具体的には、Vant、収穫モニタリング、衛星画像分析、気象観測、農薬散布、害虫モニタリング、機械運行のほか、データレイク(注13)などの分野でそれぞれの専門企業と提携している。例えば、Vantが自社農場の100%を網羅することで、農地内の欠株の発見に貢献したり、現場のスタッフ用に300台のタブレットを用意し、データ収集に活用するとともに、クラウドに蓄積されているデータを現場で閲覧できるようにしている。

 それらのうち、同社が現在もっとも注力しているのはビッグデータの蓄積と、データレイクの構築および活用であり、蓄積されるデジタルデータ(1ヘクタールの写真は1000枚にもなるという)を処理してより簡単に利用することを目指している。

(注13)データレイクとは、さまざまな種類のデータをそのままの形式で保管することのできるシステム。
コラム ブラジルにおける砂糖と落花生の関係
 ブラジルでのサトウキビ栽培は、土壌流出を防ぐとともに圃場の地力回復(窒素固定)のために輪作が行われる。具体的にはサトウキビを約6年間栽培した後、9〜10月に施肥などの圃場準備を行ったうえで、緑肥としてマメ科の作物を植え付けるのが一般的で、翌2〜3月の収穫後、サトウキビの新植が行われている。輪作に用いられる作物は主に落花生のほか、サンヘンプ、大豆、クロタラリアなどがある。ブラジルの落花生の90%はサンパウロ州で生産されるが、この多くがサトウキビの輪作としての生産である。

 同国では、砂糖と落花生で作る菓子が親しまれており、有名なものの一つにパソッカ・ジ・アメンドイン(Paçoca de Amendoim)がある(コラム−写真1)。砕いた落花生と砂糖を四角形や円柱形に押し固めた菓子で、ほろほろとした食感ときなこに似た風味が特徴である。毎年6月ごろに開催される、豊穣やキリスト教の聖人を祝う同国の祭りフェスタ・ジュニーナでは、トウモロコシの粉を使ったケーキやポップコーンなどのほかに、パソッカ・ジ・アメンドインも定番の郷土菓子として広く食されている(コラム−写真2)。

      

      
   

4 砂糖、エタノール産業の持続可能性に関する取り組み

(1)サトウキビの調達

 業界2位のRaízen社では、サトウキビの約半数を外部生産者から調達しているが、同社では生産農家に対し「ELOプログラム」(注14)という社内プロジェクトを2014年から実施している。これは同社の指導チームが各生産農家を訪問し、持続可能な生産について個別に指導を行うというもので、約2000戸の農家を対象とし、2017/18〜19/20年度の3年間で1650万レアル(7805万円)の経費を投入したとされている。またBonsucro(注15)の取得にも積極的に取り組んでおり、同社の23製糖工場のうち22工場が取得している。

(注14)Eloとは、ポルトガル語で輪、環、リンクという意味を指す。
(注15)サトウキビ生産に関して生物多様性の保全、人権、労働安全に配慮していることを認証する国際規格。


 また、業界3位のSão Martinho社では、サトウキビ圃場の土壌保全に当たり以下の取り組みを行っている。

 (1)製糖またはエタノール製造の副産物である搾りかすによる、有機物の補給。

 (2)各生育サイクルに合わせた施肥による、土壌の物理的、化学的、生物学的特性の向上。

 (3)地形(等高、段丘、斜面など)をうまく利用して斜面の長さを短くし、土壌への水の浸透性を向上させる。また、雨滴から土壌を保護し、有機物の含有量を増加させるため、枯葉によるマルチング(圃場被覆)を維持する。

 (4)必要最小限の耕起による栽培(圃場環境の維持)。

 (5)発芽苗(MPB:mudas pré-brotadas、写真2)の利用(屋内栽培のため、通常の苗と比較して衛生的で、病気にかかりにくい)とMEIOSIの採用(輪作による窒素固定など)。

 (6)バガスの集中的散布による土壌栄養の確保により、環境負荷の軽減を図る。
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(2)オーガニックシュガーの生産

 オーガニックシュガーとは、各国の認証基準に多少の違いがあるものの、共通するのは、原料となるサトウキビが有機栽培であることはもちろんのこと、化学的に合成された添加物や薬剤を使用せず加工・精製したものを指す。MAPAの統計によると、2021/22年度の同国のオーガニックシュガー生産量は18万5340トンとなった。生産量は19/20年度をピークに減少しているものの、依然として13/14年度よりも高い生産量を維持している(図15)。



 オーガニックシュガーの生産量は、砂糖全体の生産量の0.5%に過ぎず、まだニッチな市場規模にとどまっているが、世界の生産量は40万7000トン(17/18年度)であるため、その半数がブラジル産であるといえる。生産量が最も多いのは、州別のサトウキビ栽培面積で第2位であるゴイアス州が61.5%、続いてサンパウロ州が36.3%、ミナスジェライス州が2.2%となっている。また、国内メーカー3社で、同国のオーガニックシュガーの約9割を生産している状況にある。
 

(3)国家バイオ燃料政策(RenovaBio)による温室効果ガスの削減

ア 概要

 2015年のパリ協定で、各国の温室効果ガス削減の目標設定や対策の実施が義務化されたことを受けて、ブラジル政府は2030年までに温室効果ガス排出量を05年比で43%削減(注16)するという目標を定めた。その後、17年には主要施策として国家バイオ燃料政策(RenovaBio)を発表し、20年から運用が始まった。

 RenovaBioとは、バイオ燃料製造におけるCO2の排出権取引に係る国家プロブラムであり、具体的には、バイオ燃料(注17)の原料生産段階以降、削減されるCO2排出量をバイオ燃料製造業者ごとに計算し、それをCBIOs(注18)という単位で取りまとめ、排出権の証券として販売が可能となる。一方で、化石燃料販売業者はCO2排出量の削減が求められるとともに、化石燃料の販売量に応じたCBIOsの購入が義務付けられるという仕組みである。なお、CBIOsの相場は需給で決まり、燃料販売業者以外(外国の企業を含む)でも購入が可能で、20年4月28日からサンパウロ証券取引市場で取引が開始された。UNICAによると 、21年3月段階で国内211工場が排出権証券化の認証を受け、9社が手続中とされている。

(注16)2022年3月21日付けの同国のNDC(Nationally Determined Contribution:国が決定する貢献)に、削減割合を05年比で50%減まで引き上げることが明記された。しかし、現地報道によると、2020年に基準年である2005年の排出量(比較対象となる排出量)が、15年当時から上方修正されたことから、実際には、以前の目標(43%削減)の方が厳しい内容であるとしている。
(注17)エタノール、バイオディーゼル、バイオガス。
(注18)1CBIOはCO21トンに相当する。


イ RenovaBioが砂糖生産に与える影響

 砂糖の生産量はその時々の国際相場、在庫、そしてサトウキビを原料とするエタノールの需要と相関性のある原油価格の影響を受ける。2020年の場合は、COVID-19による原油価格の低迷と燃料の需要減により、製糖業者はエタノールを減産して砂糖を増産、輸出を優先させたことでバイオ燃料の政策であるRenovaBioの取引開始による砂糖の減産は起こらなかったとみられている。なお、スペイン最大手の商業銀行であるサンタンダール銀行のアナリストによると、CBIOsの価格がエタノールの販売価格の1割を占める状況になると、砂糖からエタノールへのスイッチ(エタノールの増産)が検討されるとしている。

ウ CBIOsの売買状況

 RenovaBioが開始された2020年は、COVID-19の流行を受けて3〜4月に経済活動が制限されたことから、燃料需要が下がり化石燃料販売業者の経営状態が悪化した。そこでブラジル石油・天然ガス・バイオ燃料監督庁(ANP)は、同年の化石燃料販売業者のCBIOs購入義務量を2870万から1490万に引き下げることを承認した。ANPによると、このような状況の中、20年に排出権を販売した製糖業者およびエタノール精製業者は全体の65%に達し、1CBIOの平均価格は42.10レアル(199円)となり、化石燃料販売業者によって1453万CBIOsが取得された。また、21年は平均価格が39.31レアル(186円)と前年比で下落したが、取引量は3000万CBIOs超と倍増した。

おわりに

 世界第1位の砂糖生産国であるブラジルでは、中南部地域を中心にサトウキビ生産の機械化が浸透している。広大な農地を有する同国では、インターネット接続網の整備が課題となっているものの、製糖企業などによる大規模生産を生かしてICT導入の動きが進むとともに、AgTechの発展も同時に進んでいる。

 一方で、持続可能な取り組みとしては、製糖業者による個別の取り組みに加え、国家政策であるRenovaBioに基づくCO2排出権取引が実施されているが、化石燃料販売業者からは負担が大きすぎるとして制度の見直しを求める声が強い。このため、今後の本政策の在り方やCBIOs取引がサトウキビや砂糖、エタノールの生産にどのように影響を及ぼすかは不透明な状況にある。

 先進国を中心に砂糖の消費は減少傾向とされつつも、世界的には引き続き需要増が見込まれる一方、燃料価格の上昇や為替相場の変動など、世界的な状況の変化もますます大きくなっている。世界最大の砂糖輸出国であるブラジルの動向が国際市場に与える影響が大きい中で、RenovaBioの見直しが進められるのか、本政策が砂糖とエタノールの生産比率にどのような影響を及ぼすかが注目されている。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8678



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