まず、そもそもプラスチックとは何か、ということを確認しておきましょう。おそらく多くの方は「石油からできていて、自然界で分解しないもの」と思っているはずです。しかしそれは特徴の説明であって定義ではありません。プラスチック(plastic)は英語で「
可塑性を有する」という意味です。さらに詳しく言うとサーマルプラスチック(thermal plastic)「熱可塑性を有する」という意味であり、熱をかけると柔らかくなって変形できる素材のことを指しています。それ以上でも以下でもありません。多くの方が漠然と「プラスチックは地球環境に悪い」と考えているかもしれませんが、プラスチックの定義を踏まえると、論理的に成立しないのです。
では、なぜプラスチックは地球環境に悪いと言われているのでしょうか。
一つ目に、石油由来のプラスチックの生成過程で排出される、温室効果ガスの一つと言われる二酸化炭素の排出の問題が挙げられます。
多くの方がご存じのとおり、プラスチックは化石資源とも呼ばれる石油由来のものが製品の多くを占めます。つまりは億年の歳月をかけて地中深くに沈んでいた炭素を掘り起こして燃やしたら、新たにその分の二酸化炭素が発生することになります。
二つ目に、プラスチックの海洋廃棄など、ごみ問題が挙げられます。海亀の鼻からストローが出てきた動画が大変話題になった時期がありました。私はストローが海亀の鼻に刺さるなんてあり得ないだろうと、あの騒ぎには今でも懐疑的なのですが、海にプラスチックごみが大量に廃棄され、海中を漂っていることは紛れもなく事実であり、大問題です。しかしながら、ほとんどのプラスチックが自然界で分解されないことが悪いのではなく、モラルなきポイ捨てが悪だと正論を説いて見せたところで、世間における「プラスチックが悪い」という潮流は、なかなか変えられないものです。
業界では、これらの課題解決に向けた取り組みが進められていました。
まず先ほど一つ目に述べた二酸化炭素の排出の問題については、石油ではなく「植物由来のプラスチック」を使用することで一定の解決が可能と言えるでしょう。図1の右側をご参照下さい。
地表付近で循環している二酸化炭素を吸収して育った植物由来のプラスチックを使うことにより、新たな二酸化炭素の発生を抑制できる、というとわかりやすいでしょうか。植物由来のプラスチックは、少し前まで空気中にあった二酸化炭素を光合成で固めて作っています。そのため燃やすと二酸化炭素は出ますが、それは元々空気中にあったものであると言えるわけです。
次に、二つ目のごみ問題について、これは先ほども申し上げた通り、悪いのはプラスチックではなく不法投棄などのモラルの問題ですが、一定の側面においては、「生分解性プラスチック」の使用が課題解決の一助となり得ます。図1の左側をご参照下さい。「生分解性プラスチック」は、その原料が石油であるか植物であるかを問わず、一定条件の下で微生物に生分解されるプラスチックを指します。農業分野においては微生物の働きにより最終的には水と二酸化炭素に分解するマルチフィルム(写真1)や育苗ポット(写真2)など、圃場における回収の労力の削減に資する用途、漁業分野においては荒天などによりやむを得ず海へ流出する可能性がある海洋資材などの用途にそれぞれ役立てられており、生分解性プラスチックの使用がごみ問題のみならず、労働力の削減など他の課題解決にもなり得ることをご理解いただけると思います。
ここまで述べてお気付きかと思いますが、バイオプラスチックとは、従来のプラスチックの持つ、大きく二つの課題解決のために生まれた「植物由来プラスチック」と「生分解性プラスチック」を合わせたものの総称なのです。
図2において、青と緑の網掛けがしてある部分がバイオプラスチックです。こちらを見ていただくとわかりやすいかと思いますが、植物由来かつ生分解性の特性を持つバイオプラスチックもあるのですが、その代表例、ポリ乳酸(図2では、PLAが該当)について見ていきましょう。