サトウキビスマート灌水システムの普及に向けた実証試験と農家の意識調査
最終更新日:2026年2月10日
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サトウキビスマート灌水システムの普及に向けた実証試験と農家の意識調査
2026年2月
【要約】
灌水は、サトウキビ生産において最も重要な作業の一つだが、今なお感覚的な管理を実施している農家が多い。筆者は、これまで南大東島を対象として、島内の貴重な水資源を無駄使いすることなく効率的に増収を達成できるスマート灌水システムの構築に取り組んできた。本稿では、実証試験と農家の意識調査から生産現場における本システムの普及可能性について検討した。
はじめに
南西諸島の基幹作物であるサトウキビは、1年〜1年半という長い成育期間において多量の水を消費する。特にサトウキビの成育が旺盛となる梅雨明けから数カ月の水分要求量が高く、7〜9月の3カ月間に全成育期間の吸水量の50%を消費するというデータもある。このように、水はサトウキビの成育や収量に最も強く影響を与える要因の一つであるが、南西諸島は台風の常襲地帯である一方で、しばしば干ばつにも見舞われる。そのため、高単収実現には、夏場の灌水が最も重要な管理作業の一つとなる。
筆者は、令和元年度より全国各地でスタートしたスマート農業実証プロジェクトにおいて、沖縄県南大東島を対象としたサトウキビ生産のスマート化に関する研究開発・実証(通称UFSMAプロジェクト)を行ってきた。詳しくは既報1)に譲るが、本プロジェクトは、自動操舵システムの導入による農業機械オペレーターの確保、データに基づいた営農活動による収益性の向上・生産の安定化などを目的としている。その中で筆者は灌水作業のスマート化を主に担当しており、島内の貴重な水資源を無駄にすることなくサトウキビの増収を効率的に達成するスマート灌水システムの構築に携わった。プロジェクト期間中には、技術の開発だけでなく現地試験も行い、システムの有用性をある程度実証することもできた。一方、本システムを生産現場に導入し、実際に利用してもらうためには、技術的・制度的課題の解決もさることながら、まずは現地農家の方々に本システムの効果やメリットを認知してもらった上で、「このシステムを導入したい」という興味・関心を抱いてもらえるかに関する意識調査を行う必要がある。
本稿では、これまで南大東島を対象に継続的に行ってきたスマート灌水システムの実証試験結果を紹介するとともに、現地生産者を対象に実施したアンケート・ヒアリング調査から、本システムの現場への普及可能性について検討したので報告する。
なお、本調査は、独立行政法人農畜産業振興機構の令和6年度砂糖類及びでん粉関係学術研究委託調査により実施したものである。
1 スマート灌水システムの概要
上述したように、夏季のサトウキビの成長維持に灌水は必要不可欠な管理作業であり、干ばつ時に灌水を行えば収量が増加することは明白である。農家もその重要性は十分に認識している一方で、自らの経験や勘だけで適切な灌水の量やタイミングを把握するのは容易ではない。また、兼業農家や複数の圃場を所持する農家の中には、圃場への移動が負担となり、必要なタイミングで圃場に出向くことができずに灌水を実施できないものもいる。さらに南大東島のような離島地域では利用可能な水資源が限られており、干ばつ年には、貯水池の水不足や池沼水・地下水の塩水化のために灌水を実施できない場合もある。このような問題を解決するべく、いつどこにいても必要時に必要最低限の水を与えられるスマート灌水システムを考案した。本システムを構成する(1)微気象データに基づく灌水、(2)遠隔灌水、(3)地中灌水−という三つの技術について以下で詳しく解説する。
(1)微気象データに基づく灌水
比較的地表面に近い局所的な大気現象を微気象と呼ぶが、南大東島プロジェクトの主な取り組みの一つに、微気象観測ポストの設置および微気象情報配信システムの運用がある。島内7カ所ほどに設置した観測ポストから微気象データ、土壌データ、画像データを10分間隔で取得し、リアルタイムで配信するものである(詳しくは参考文献2)参照)。本システムから得られた情報は、単なる気象観測にとどまらず灌水や各種管理作業の計画にも利用されており、多い時には1日200回以上のアクセスが確認されている。島民の中でも普及した有用な技術である一方、本システムからはどの地域にどれだけの雨が降ったかという情報しか得ることができず、具体的にその後の灌水管理にどう利用するかは農家判断となっている。そこで、この微気象データを灌水管理に活用する方法を考案した。
図1はサトウキビ圃場の水収支を簡単に示したものである。土壌面からの蒸発量とサトウキビ葉面からの蒸散量を合わせた蒸発散量(すなわちサトウキビの消費水量ともいえる)は、気象データから算出可能である。蒸発散量と自然の降水量とのバランスが取れていれば問題ないわけだが、降雨が少なく、そのバランスが崩れるとサトウキビに水ストレスが生じることとなる。結果、成長が抑制され、収量が減少するため、その前に灌水によって不足した分の水を補ってやる必要がある。本システムでは、蒸発散量と降水量の差し引きによって算出した土壌水分が一定値を下回る前に、圃場容水量を超えない範囲で灌水を行うよう定めている。このような灌水管理を行えば、理論上、水収支の点からはサトウキビ収量を最大化することが可能となる。
(2)遠隔灌水
上述の方法により、微気象データから必要灌水情報を得ることができるようになったが、この情報を最大限に利用するためには、遠隔で灌水を制御するシステムが必要である。南大東島では、ドリップチューブと灌水ポンプを用いた点滴灌水が広く採用されており、ポンプを駆動するエンジンを、無線通信などによる信号を通じて遠隔で起動または停止する機構を追加することで遠隔灌水が可能となる。ただし、このような機構が搭載されているエンジンユニットは現時点では製造されていないため、本プロジェクトでは、既成エンジンユニットに独自の回路を付加することで遠隔制御を実現した(写真1、詳しくは参考文献2)参照)。これにより、農家本人が圃場に出向かずとも、自宅や職場から昼夜問わずいつでも灌水を行える体制を確立した。
(3)地中灌水
ドリップチューブを用いた点滴灌水には、1)サトウキビ根群域を対象に1時間当たり水量の小さな灌水を行えるので、水分の損失が少ない、2)チューブ周辺の湿潤域外は晴天時乾燥しているため、灌水直後の降雨も有効利用できる−などの利点があり、節水を求められている南大東島では広く採用されている。一方で、1圃場当たりの面積が大きい南大東島では、チューブ管理にかかる手間は小さくない。特に灌水期間終了後に行うチューブの回収作業は、大人数人が1日がかりで行う非常に重労働な作業となる。また、台風が襲来するとサトウキビが倒伏し、群落からのチューブ抜き出しが非常に困難になるため、台風襲来前にチューブの回収を行う必要がある。さらに、サトウキビ倒伏後はチューブの再設置が不可能となるため、早期に大型台風が襲来した場合、その後の灌水管理は行えなくなってしまうという問題もある。加えて、サトウキビの場合、チューブを株元ではなく畝間中央部に設置するため、一部の水は根に吸収されることなく地表面から蒸発してしまい、非効率的である。これらの問題の解決策として、新植前にドリップチューブを地中30〜40センチメートルの位置に埋設し、その上から苗を植え付ける地中灌水法に着目した。一度設置すれば、劣化や破損があるまでチューブを回収することなく、長期間継続して使用することが可能であり、また、根に直接給水を行えるため、通常の点滴灌水と比べて水分の損失も抑えられる有用な灌水法である。海外の大規模生産国ではそれほど珍しい技術ではないが、国内でサトウキビを対象に利用する農家はごく少数に限られており、また、研究例もほとんど見られない。
2 南大東島で実施したスマート灌水システム実証試験
上述の1の(1)〜(3)の技術により構成されるスマート灌水システムの効果を実証する試験を、2022〜24年度にかけて現地南大東島で行った。なお、(1)微気象データに基づく節水灌水と(2)灌水制御ポストを用いた遠隔灌水に関しては、21年度に同じく南大東島で行った試験により、その効果をすでに実証しているため
3)、今回は(3)ドリップチューブ埋設による地中点滴灌水に着目した試験設計となっている。およそ1.5ヘクタールの圃場をA〜Cの3ブロックに分割し、そのうちA・Bブロックに無灌水区、通常の点滴灌水を行った地表灌水区、チューブを埋設した地中灌水区を設けた(図2)。これらの灌水区は、圃場横に設置した微気象観測ポストのデータを用いて、筆者自身が灌水管理を行った。一方、Cブロックはすべて地中灌水だが、圃場所有者である農家によって灌水管理が行われた。これによって、無灌水と灌水の比較、地表灌水と地中灌水の比較、農家による慣行灌水とスマート灌水の比較などが行える。なお、試験は21年に春植えを行った農林26号の株出し栽培圃場を用いて、22〜24年度にかけて行われた。
表1は、各処理区における降水量、灌水量および実蒸発散量の積算値を示している。22年度および24年度は平年並みだが、記録的少雨に見舞われた23年度の降水量は極めて少なく、他の年度の半分にも満たなかった。22年度は、筆者の管理する地表灌水区および地中灌水区の灌水量は200ミリメートル前後であったが、農家管理区の灌水量は300ミリメートルと大幅に上回った。一方、水収支から算出した実蒸発散量積算値は農家管理区の方が低く、灌水量を増やしても実蒸発散量の増加につながらず、一部の水が無駄となっていることが分かる。この結果を受け、当農家は節水を心掛けるようになったため、23年度および24年度の農家管理区の灌水量は、筆者の地中灌水区と大きく変わらない値となっているが、それでもなお灌水量は農家管理区で高いにもかかわらず、実蒸発散量は地中灌水区で高い。なお、22年度および23年度に地表灌水区と地中灌水区で灌水量が微妙に異なっているのは、地表灌水区のチューブ設置作業が遅れたために、初期の干ばつ時に灌水が行えなかったためである。また、24年度は、9月中旬の台風襲来に合わせてチューブを撤去し、その後再設置ができなかった。そのため、10月以降の灌水が実施できなかったことから、地表灌水区のみ灌水量が他の灌水区の半分程度となっている。このように、植え付けや株出し管理直後など時期を問わず、また、台風の有無にかかわらず灌水が行えることは、地中灌水の大きなメリットの一つである。

試験期間中は定期的に調査を行い、灌水処理によるサトウキビ成育への影響を調査した。いずれの年度においても灌水の効果が認められたが、特に23年度は、灌水区の仮茎長が無灌水区を大きく上回った(図3)。また、いずれの年度においても地中灌水区が最も高い値となり、次いで農家管理区、地表灌水区、無灌水区の順となった。無灌水区と地中灌水区の仮茎長差は、22年度、23年度、24年度において、それぞれ36センチメートル、53センチメートル、37センチメートルであった。
生産実績に基づく各処理区の単収、甘蔗糖度および農家手取り額を表2に示す。生育調査結果同様、いずれの年度においても灌水を行うことによって単収が向上したが、最も単収が高かったのは、いずれの年度においても地中灌水区であった。特に大干ばつ年度であった23年度は、無灌水区の単収を10アール当たり1.5トン以上、上回る増収となった。地中灌水区は、地表灌水区と灌水量に多少の差はあるものの、同0.3〜0.7トン高い単収を記録したことから、チューブの移動に関わる労働力削減効果だけでなく、灌水による増収効果もより高いことが明らかとなった。また、農家管理区との比較から、同じ地中灌水であっても、微気象データに基づく精密な灌水管理を行うことで、灌水量は少なくともより高い単収を得られることが分かった。甘蔗糖度に関しては、灌水区でやや低くなる傾向が見られ、地表灌水区および農家管理区の手取り額は無灌水区と大きく変わらない年度も見られた。一方、地中灌水区は、常に無灌水区よりも10アール当たり2万円以上高い手取り額を産出しており、収益性も最も高い灌水方法であったと考えられる。なお、試験圃場を所有する農家は、島内でも篤農家(熱心で研究心旺盛な農家)として知られており、そもそも無灌水区の単収が島平均を大きく上回っていることから、一般的な単収を記録する圃場を対象に試験を行っていれば、灌水処理の効果がより顕著に表れていた可能性があることを補足させていただきたい。
図4は、各灌水処理区が無灌水区と比べてどの程度単収が向上したかを示す図である。上述の説明と一部重複するが、いずれの年度においても、地中灌水区が最も増収効果が高かった。大干ばつであった23年度は、いずれの灌水方法においても増収程度は約20%と高かったが、適度な降雨の見られた22、24年度においても、地中灌水区は他の灌水区よりも明らかに増収効果が高いのがよく分かる。地中灌水区における3年間の平均増収程度は16%であった。また、3年間の平均増収程度は、農家管理区よりも地表灌水区の方が高いことから、微気象データに基づく灌水管理の重要性についても改めて確認できた。以上より、スマート灌水システムは、生産現場においても有用であることを本試験によって実証した。

3 スマート灌水システム導入に関するアンケート・ヒアリング調査
続いて、本システムの生産現場における普及可能性を探るべく、現地農家を対象としたアンケート・ヒアリング調査を行った。アンケート調査は、2024年6月14日に南大東村多目的交流センターで開かれた「さとうきびの日」のイベント内で行った。アンケートに先立ち、「令和元〜5年度UFSMAプロジェクト活動報告 −気象データに基づくサトウキビのスマート・地中灌水技術の実証−」という題で講演を実施し、その中で上述したスマート灌水システムの概要や実証試験結果の報告を行った(写真2)。アンケートは、(1)基本情報・灌水の実施状況、(2)UFSMA微気象観測装置・微気象情報配信システム、(3)スマート灌水技術の導入−という3部から構成されている。なお、会場にはサトウキビ生産農家のほか、製糖関係者、役場職員など92人の参加者がおり、約半数となる47人から回答が得られたが、ここでは農家33人の回答に絞って紹介する。また、アンケート回答者の中から数人を抽出し、後日、ヒアリング調査にも協力してもらった。
(1)基本情報・灌水の実施状況
アンケート回答者の多くが、干ばつ時の成長促進のために継続的に灌水を実施している意識の高い農家であると思われた。これらの灌水を実施している農家のうち、60%が気象情報を利用した灌水を行っているため、これら農家のスマート灌水への移行可能性は高いと考えられる。一方、残りの40%は畑で実際に観察したサトウキビや土壌の状態のみを灌水の判断基準としており、気象情報を利用していないため、このような農家に対してスマート灌水の有用性を理解してもらう必要がある。ただし、灌水の判断基準に気象情報を利用している農家と、していない農家との間に「微気象データに基づく灌水」の導入興味に対する明確な差は見られなかった。また、天気や土壌の状態によって灌水量を変えていると回答した割合は灌水に気象情報を利用していない農家の方が高く、観察のみを判断基準としている農家であっても圃場の状態によって灌水量を変更する傾向があることも分かった。
また、灌水を実施している農家の多くが、これまで灌水を行おうとしたにもかかわらず、できなかった経験を有しており、その半数以上が「水源の水量が不足していた」と回答している。前述した通り、2023年度は南大東島を大干ばつが襲い、島内でも大型の貯水池が枯渇したことから、これが本回答の割合の高さに関与していると思われる。この問題に関して、「微気象データに基づく灌水」によって慣行法と比較し節水を行えれば、水不足の緩和につながることが期待される。また、次に多かった回答が「チューブを設置する時間がなかった」であり、他にも「早期の台風によりチューブを設置できなかった」、「チューブの回収作業が重労働」という意見の農家もいたため、「地中灌水」の推進によりこれらの問題が解消できると考えられた。
(2)UFSMA微気象観測装置・微気象情報配信システム
島内に設置した微気象観測装置は多くの農家に認知されているものの、微気象情報配信システムの利用経験者は予想に反して半数にも満たなかった。本イベントに参加している比較的意識の高い農家でこの結果ということは、末端農家にはほぼ利用されていないと推測できるため、システムの利用方法や効果の宣伝をより積極的に行う必要がある。また、システム利用経験のある農家であっても、利用頻度が月1回以上の固定ユーザーは半数程度であった。さらに、利用経験のある農家で気象データを管理作業に利用する方は半数程度いるが、これらの農家は固定ユーザーではなく、台風や干ばつ時など不定期に利用する農家であった。以上より、スマート灌水を普及させるためには、末端農家への本システムの利用推進だけでなく、管理作業へ気象データを利用する固定ユーザーの増加が必要であると考えられた。
(3)スマート灌水技術の導入
本節では「微気象データに基づく灌水」、「遠隔灌水」、「地中灌水」の各技術の導入への興味を「導入したい(5点)」、「どちらかといえば導入したい(4点)」、「どちらともいえない(3点)」、「どちらかといえば導入したくない(2点)」、「導入したくない(1点)」の5段階で評価し、その回答理由を記述してもらった。また、各技術の導入興味に対する平均点を計算した。
概してどの技術も「導入したい」が20%弱、「どちらともいえない」が35%程度であったが、「どちらかといえば導入したい」の割合は微気象データに基づく灌水>遠隔灌水>地中灌水の順に高かった(図5)。また、遠隔灌水、地中灌水については「導入したくない」がそれぞれ15%程度見られた。各技術の導入興味に対する平均点は、微気象データに基づく灌水が3.8点、遠隔灌水が3.4点、地中灌水が3.3点となった。アンケート調査には島の中でも比較的意識の高い農家が参加していたこともあり、いずれの技術に対しても一定数が導入に対して興味をもっていることが分かった。一方、「他の農家の導入効果を見てから判断したい」という意見のように、現時点では様子見状態の農家も多かったため、島内でも中核的な役割を担う農家や生産法人が率先して技術を導入しその効果を示すことで、他の農家への普及も加速するものと期待される。また、遠隔灌水や地中灌水など農家側の経済的負担が生じる技術の方が、導入がためらわれやすい傾向がある。
4 スマート灌水システム導入における課題と今後の展開
上述のアンケート・ヒアリング調査で得られた農家からの意見も踏まえ、ここでは各スマート灌水技術の導入における課題について述べる。
(1)微気象データに基づく灌水
現在運用しているUFSMA微気象情報配信システムは、単純な気象パラメータの提供しか行っておらず、蒸発散量は表示されていない。蒸発散量の計算には専門知識が必要で、一般農家には困難であることから、微気象データから自動で蒸発散量を算出し、灌水情報を提示するアプリなどの開発が必要である。
(2)遠隔灌水
灌水制御ポストは、大型の太陽光パネルやむき出しのケーブルから構成されており、農家には扱いづらい(写真1参照)。また、ポストは試作品段階であるため、販売には小型化・製品化が必要である。10万〜20万円程度であれば購入を検討するという農家もいたので、ポスト価格をどれだけ下げられるかが課題となる。また、灌水ポンプの遠隔操作は、微気象情報や灌水情報を閲覧しながら(1)のアプリ上で行えることが望ましい。
(3)地中灌水
本実証試験では地中灌水に必要なコストを正確に把握できていないが、追加の資材やチューブ埋設の工事にかなりのコストがかかると予想される。そのため、今後は費用対効果などの計算を行い、コストを考慮しても本技術が有用であることを示す必要がある。また、補助事業を利用することで、なるべく農家の負担を減らすような取り組みも行っていきたい。他にも、チューブの詰まりや回収方法への懸念が拭い切れず、導入上の大きなハードルとなっているため、試験や研究を継続し、何らかの対策を講ずる必要がある。
本稿で紹介したスマート灌水システムは、上記の三つの技術から構成されるが、必ずしもすべての技術を取り入れる必要はない。微気象データに基づく灌水(〜数千円)<遠隔灌水(〜20万円)<地中灌水(〜100万円)の順に導入コストおよびリスクが高まるので、あまり費用をかけたくないのであれば、微気象データに基づく灌水のみ導入することも可能である。すでに南大東島には微気象観測ポストが設置されているため、そこから蒸発散量および圃場水収支を算出できるシステムを構築できれば、農家側はほとんど費用を負担することなく、筆者が実証試験で行ったような灌水管理が可能となる。また、今後は微気象データまたは土壌水分データに基づく完全自動灌水技術や灌水専用アプリの開発にも着手する計画をしている。これらの技術を組み合わせることで、利用者は各々の経営状況や生産規模に合わせたさまざまな灌水形態を設定できるようになるため(図6)、汎用性の高いシステムになるものと期待している。
おわりに
スマート農業が国の方針として打ち出されてから数年が経過し、スマート農業という言葉も、今では農業部門に限らずさまざまな場面で聞かれるようになった。この間に、今では当たり前となり現場で広く使われるようになった技術もある一方で、開発や実証は済んだものの、なかなか実装へと進まない技術があるのも実状である。本稿で紹介したスマート灌水システムについても、これまでに構築したシステムを実用できる段階まであと一歩というところで、2023年度をもってスマート農業実証プロジェクトが終了してしまった。本件を担当した身としては、「何としてもこの技術を形にしたい」という気持ちで、今なお足しげく南大東島を訪れ、奮闘している日々である。プロジェクトの終了が島からの撤退とならぬよう、今後も研究・普及活動に邁進していきたい。
最後になるが、実証試験およびアンケート・ヒアリング調査に協力してくださった有限会社サザンドリーム金川均様、大東糖業株式会社、南大東村役場、同村サトウキビ生産農家にこの場を借りて感謝申し上げる。
【参考文献】
1)南大東スマート農業実証コンソーシアム(2019)「ウフスマ・プロジェクトが始動〜南大東村におけるスマート農業技術の開発・実証に向けて〜」『砂糖類・でん粉情報』(2019年9月号)pp.2-5. 独立行政法人農畜産業振興機構
2)池田剛(2022)「IoT技術を活用した微気象・土壌環境情報の多目的リアルタイムセンサーデータ処理システム」『熱帯農業研究』pp.33-40. 日本熱帯農業学会
3)渡邉健太・川満芳信・上野正実・池田剛(2022)「気象データに基づくサトウキビスマート灌漑システムの構築」『砂糖類・でん粉情報』(2022年10月号)pp.47-55. 独立行政法人農畜産業振興機構
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8678