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【第一線から】アスパラガスの長期どりについて〜佐賀県の取組み〜

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最終更新日:2013年5月8日

◆アスパラガスはどのようにして栽培されるのか?

 
 
 みなさんは、アスパラガスの栽培方法を知っていますか。アスパラガスは、ユリ科の多年草で、地上に伸びた若芽を収穫しますが、その栽培には様々な方法があります。主な産地での栽培方法は大きく分けて2種類あり、一つは、出荷量4,470tで全国1位の北海道や2,660tで全国2位の長野県等で採用されている「露地栽培」と呼ばれている方法で、アスパラガスを露
地で栽培し、春芽のみを収穫するものです。
 収穫は春季のみで、単収は10アール当たり300kg程度です。もう一つの栽培方法は、2,640tで全国3位の佐賀県や2,210tで全国4位の長崎県等で行われている「半促成長期どり」と呼ばれている方法で、雨よけハウス(簡易なパイプハウス)の中でアスパラガスを栽培し、2月から3月にかけて春芽を収穫した後、一部を収穫せずに成長させ(立茎)、その後に出てくる夏芽を10月まで収穫する方法です。早春から晩秋まで長期にわたって収穫できることから、単収は露地栽培の約8〜10倍にもなり、10アール当たり4トン以上を収穫する生産者もいます。

◆半促成長期どりの技術は、まさに「コロンブスの卵」

 アスパラガスは、南欧からロシア南部にかけてが原産地で、雨が少なく冷涼な気候を好むことから、温暖な西日本では病気にかかりやすく、栽培が困難な作物でした。佐賀県も例外ではなく、水田転作作物として昭和46年頃に導入したものの、茎枯病が蔓延し、収穫が安定しませんでした。その後、病気予防に雨よけハウスが効果的であることがわかり、雨よけ栽培が始まりましたが、設備投資が必要なことから、普及は一部に留まっていました。
 雨よけ栽培では、アスパラガスの茎が夏に過繁茂になる傾向があり、これが病気を助長しているとの指摘があり、経験の浅い若手技術者が、「過繁茂になるなら、いっそ収穫すれば良いかも・・」と単純に考えたことが半促成長期どりが確立するきっかけとなりました。もっとも、当時は「夏芽は収穫してはいけない」ということが常識であり、常識を逸脱した発想だったことから、当初は誰にも相手にされなかったそうです。
 しかし、これが後に「コロンブスの卵」となりました。

◆半促成長期どり栽培技術が成功した秘訣

アスパラガスの共同選別施設
アスパラガスの共同選別施設
 生産者に相手にされなかった半促成長期どりは、現在では、温暖な西日本で多く普及していますが、専門の本も出版され、東日本でも普及しはじめています。その結果、国産アスパラガスが出回る時期が長くなり、輸入品の一部を代替するようになっています。この技術が広く普及したのには、次の5つのポイントがありました。

(1)生産者を納得させる具体的なデータの蓄積
 アスパラガスの雨よけ栽培は、病気予防が目的だったため、この技術を普及させるには、夏芽を収穫しても株が疲れないことを証明する必要がありました。そこで、佐賀県の技術者が、根の糖度を測定して生産者に紹介したところ、久富さんという篤農家が興味を示し、自ら長期どりの栽培にチャレンジし、成功したことが普及のきっかけとなりました。

(2)長期どりに見合った栽培体系の確立
 久富さんは、夏芽を収穫するのは初めての試みで、試行錯誤の連続だったようです。春芽の収穫後にアスパラガスの茎を育てる方法について、久富さん独自の工夫と、佐賀県の技術者の努力により、現在の栽培体系が確立されました。

(3)長期どりに適した品種の選定
 アスパラガスは、単収の高い品種は病気に弱く、病気に強い品種は単収が低い傾向がありま す。そんな中で、佐賀県では病気に強い品種の普及を考えました。しかし、生産者から病気に弱いが単収の高い品種(ウエルカム)を希望する声が多くあがり、議論の結果、ウエルカムを選定し、現在の高単収が実現しました。

(4)共同選別による省力化
 アスパラガスは、収穫後に選別・結束作業を行い、出荷する必要があります。また、鮮度を保つため、出荷前に予冷する必要もあります。従来は、こうした作業を生産者自ら行っていたので、朝から夜まで作業が続き大変でした。佐賀県では、早くから共同選別施設を導入し、生産者が選別せずに栽培に専念できる環境を作りました。これにより、品質の良いものを多く収穫することが可能となりました。

(5)生産者のヨコの連携強化
 野菜は、価格変動が大きく、生産が集中すると「豊作貧乏」になりやすいことから、栽培技術を他に教えない傾向があります。そのような中で、アスパラガスは、輸入品に代替することが可能だったことから、生産量が増えても安定した価格で取引されています。このため、佐賀県では、農協が早くからアスパラガス部会を設立し、情報交換を密に行っています。また、共同選別が、高い技術を維持する要因にもなっています。なお、農協では、毎年、優秀な生産者を表彰しています。

◆アスパラガス栽培の現状

若手生産者の陣内さん
若手生産者の陣内さん
 現在、佐賀県では、アスパラガスが、いちご、たまねぎに次ぐ第3位の野菜に成長し、さらなる拡大を目指しています。具体的には、農業試験研究センターと普及センターが一体となり、連作障害の回避等に向けた試験が行われています。
 佐賀県内では、多くの品目で生産が減少傾向にある中で、アスパラガスについては、新規参入者も一定数確保されており、離農者を新規参入者が補う形で、栽培面積及び生産者数が、近年横ばいで推移しています。

◆4地域で価格の低落をカバー

 アスパラガスは、特定野菜等供給産地育成価格差補給事業の対象となっています。この事業は、都道府県の野菜価格安定法人(県法人)が実施主体となって、平均販売価額が一定の水準より下がったときに、その差額の一部を交付金として交付することで、生産者の経営が安定化する事業です。交付金の財源は、国と県と生産者が拠出し、生産者の負担は1/3ですので、生産者のメリットは大きいものがあり、佐賀県では、鳥栖・三養基地区、佐賀中部地区、西松浦地区及び白石地区の4地域のアスパラガスが対象となっています。
図 特定野菜等供給産地育成価格差補給事業の概要
図 特定野菜等供給産地育成価格差補給事業の概要

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