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【レポート】米国を襲った干ばつの米国畜産への影響と生産者の対応

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最終更新日:2013年6月25日

調査情報部 小林 誠
調査情報部 前田 絵梨

はじめに

 米国は2012年、深刻な干ばつに襲われました。トウモロコシなど飼料穀物の生産量は当初の見込みを大きく下回ったことから、価格は史上最高値を記録しました。飼料穀物価格の高騰や干ばつによる草地の傷みは、米国畜産に大きな影響を及ぼしています。

干ばつの影響と生産者の対応

1.肉牛生産では
 米国の肉牛生産は、放牧主体の繁殖経営とフィードロットと呼ばれる肥育経営に大きく分かれます。
 干ばつの影響を見るに当たり注目すべきは、テキサス州など米国最大の肉牛繁殖地域が2年連続の干ばつに見舞われた点にあります。
 2011年に南部を襲った干ばつは、放牧地の牧草生産量を減少させました。
 このため、南部の繁殖経営は、粗飼料の購入や干ばつの影響が小さい北部へ雌牛を移動させました。2012年は干ばつが全土に拡大したため、この様な動きが全米の繁殖経営に広がりましたが、コストの増加などにより子牛の早期出荷や雌牛のとう汰などが行われています。
 一方、肥育経営は、トウモロコシや大豆かすの代替となる高栄養価のDDGS(トウモロコシから燃料用エタノールを生産する際に生じる蒸留かす)給与割合の拡大やトウモロコシの茎の利用などにより、飼料コストを抑える努力が続けられています。
かんばつ
ネブラスカ州
2.酪農経営では
米国の酪農経営は、家族経営を中心としたウィスコンシン州などコーンベルト地帯や北部・東北部と、企業経営を中心とした西部のカリフォルニア州に大別されます。 ウィスコンシン州などでは飼料のほとんどを自給できますが、降水量の少ないカリフォルニア州では飼料の大半を購入しなければなりません。カリフォルニア州は飼料穀物価格高騰の影響を大きく受け、既に1頭当たり生乳生産量は前年を下回っています。
 これは、飼料コストを抑えるため、配合飼料をより安価なものに変更したことによる影響と考えられます。
3.養豚経営では
 米国の養豚はコーンベルト地帯を中心に営まれています。養豚経営の多くは穀物生産も行っています。
 このため、飼料穀物価格高騰の影響をある程度吸収でき、穀物生産の収益で養豚経営の赤字補填を行うなど柔軟な資金運用も可能です。
 繁殖経営では、飼料穀物価格急騰時には雌豚のとう汰が増えましたが、主に繁殖効率の悪い雌豚が対象となっており、繁殖基盤の縮小は起こりませんでした。
 肥育経営では、飼料の一部を購入している場合も少なくありません。このため、DDGSの給与割合の拡大や食品残さなどの利用、肥育期間の短縮など飼料コスト抑制の動きがみられています。
4.ブロイラー生産では
 米国のブロイラー生産は、コーンベルト地帯とは離れた東部から南東部で行われています。トウモロコシ購入には輸送経費(トン当たり1,400〜1,700円程度(1米j=88円))が追加され、価格が割高になってしまいます。
 ブロイラー用飼料はトウモロコシが6割、大豆かすが3割を占めるため、ブロイラー生産への穀物価格高騰の影響は畜産の中で最も深刻であるとみられています。
 この様な中、生産者は、(1)種鶏維持にかかる飼料の削減、(2)ブロイラー価格が上昇するまでの生産量抑制という2つの目的のため、種鶏の飼養羽数を減らすことで、飼料穀物価格の高騰に対応しています。
政府の対応
 深刻な干ばつ被害を受け、政府も干ばつによる畜産業への影響を緩和するためにいくつかの支援策を講じています。
 代表的なものには、(1)繁殖段階で放牧を行う肉牛経営や酪農経営への粗飼料確保支援として、環境保全地域などでの放牧や採草を許可する、(2)干ばつによる畜産物生産量の減少や物理的損失からの回復を支援するために緊急融資を行う、(3)家畜のとう汰などが進み食肉生産量が増加すれば市場価格が著しく下落する可能性があるため、これを防ぐために食肉調製品(豚肉調製品は1億j(88億円)上限、鶏肉調製品は5千万j(44億円)上限)を買い上げるなどがあります。
生産者は努力と工夫で経営を維持
 70年に一度とも言われる深刻干ばつは、米国畜産に大きな影響を及ぼしています。
 しかしながら、政府の畜産生産者に対する支援には、補助金など直接交付や価格支持政策(酪農を除く)は無く、干ばつに関する支援策も一部融資はあるものの多くが規制緩和にとどまるため、生産者は自らの努力と工夫で生産を続けています。
 なお、機構のホームページに「米国を襲った干ばつへの畜産の対応〜干ばつの影響と米国における畜産の動向〜」と題したレポートを載せておりますので、こちらもぜひご覧ください。

URL:米国を襲った干ばつへの畜産の対応〜干ばつの影響と米国における畜産の動向〜
http://lin.alic.go.jp/alic/month/domefore/2013/feb/wrepo01.htm

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