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最終更新日:2013年7月3日

株式会社人形町今半 代表取締役社長 岡慎一郎氏に聞く 「国産牛と農業振興について」

 創業以来118年の歴史を持ち、和牛の香、柔らかさにこだわった「すき焼・しゃぶしゃぶ」のほか、惣菜やお弁当販売など販売チャネルの多角化を進める人形町今半五代目社長の岡慎一郎氏に国産牛と農業振興についてお話を伺いました。

■この数年、厳しい状況が― 経営の状況や、最近の経営環境は?

人形町今半本店 外観
人形町今半本店 外観
 「今半」の歴史は118年になります。本所吾妻橋で創業し浅草へ移りましたがその浅草から分かれたのが「人形町今半」の始まりです。創業時から今まで景気の影響はありますが、牛肉は景気が悪いときでも少し景気付けに食べようかということもあります。そういう意味では時代の流れにうまく乗りながら商売できたのかなと思っています。
 ここ数年ではリーマンショックの影響が大きかったですね、徐々に戻ってはきましたが、その後の東日本大震災ではずっと牛肉業界は非常に厳しい状況でした。ただ、それを過ぎたころから急激<に戻ってきまして、アベノミクスの効果でしょうか(笑)、今、そういった意味で良い状況になってきていますね。

■「人形町今半に合う牛肉」を直接仕入れ―和牛などを安定的に仕入れることの難しさは?

岡氏
 我々は黒毛和牛のメス牛を中心に扱っています。人形町今半は牛肉には徹底的にこだわり、すべて国産を使用するようになりました。その理由の一つは、日本の黒毛和牛には、独特の和牛の香、とろける様な舌触り、コクのある旨味等、他を寄せつけない美味しさがあるからです。美味しいものを提供するのは我々の責務です。そして、世界中から憧れられている食材を生産している日本の農業がさらに誇りをもって生産して欲しいという思いもあります。
 当店をご利用になられるお客様は、晴れの日にお食事をされる方が多くいらっしゃいます。ですから、牛肉の品質は重要で仕入れにはこだわっております。当社の場合は、仕入れ担当者が、積極的に現地に出向き購買を行っております。牛肉の仲買だけでなく、市場に行くのはもちろん、全国の生産地に赴き、畜産農家の方々から牛づくりの話を聞かせてもらい、自らの責任でしっかりと人形町今半に合う牛を選びます。その為に、自社でも牛の目利きを育てております。都内では5本の指に入るような目利きの仕入担当者によってお客様にとられて最高の牛の仕入れをしております。霜降りが良いとか、脂が良いではなく、人形町今半のお客様に喜んで頂ける仕入を大切にしているんです。

■新規参入や輸出による農業活性化―日本農業は多くの課題を抱えていますが?

 農家の方も本当に良いものだけを作ろうとする方と、大量生産する方に二極化されると思います。そうやって特化することによって、日本の農業は発展すると思います。今、TPPへ参加するのに補助金で保護しようと言う動きがあるようです。農家の方々にとられては、短期的には良いと思いますが、補助金で支えられている産業は長期的には発展が少ないと思います。やはり、世界での競争原理が働いて価値がある物は良い価格で、価値がなければ価格が落ちる仕組みが必要と思います。
 ただ、農業は守らなくてはいけませんから、働きやすい仕組みをもっと作るようなこと、税制面、土地の確保の問題などを優遇できる形、そういう形で色々な人が参入しやすい環境を整えてあげることが大事だと思います。企業が参入して株式会社化するのも一つの方法でしょうし、良いものを作ると利益が上がる仕組みをつくれば、農業自体がもっと魅力的になるのかなと思います。
 輸出は大賛成です。このままだと、どんどん日本の農家の方が衰退していくイメージがあります。世界中から憧れられて、支持されている事が分かれば、やる気につながりますし、もっと良いものを作ろうという意欲がわいてくると思います。日本の畜産業がどんどん輸出して、市場を広げることによって活性化し、我々にもいい食材が入ってくるようなサイクルになれば良いと思います。

■外食産業の原点を見直す時―外食産業の将来の役割は?

肉
 外食産業と一括りにされてしまいますが、食べるということは一緒ですけど、お客様のご利用されるシーンは全く異なり同じ産業と言えない部分もあります。
 一括りにしてしまった関係で高級店が低価格店の真似をしたり等、ちょっと軸がぶれている店がある気がします。
 レストランに行くというのは、私が子供のころは特別な事でした。家族の記念日とか、何か良いことがあったときに行く、そういう位置付けだったと思います。ファミリーレストランが出始めたとき、きれいで席がゆったりしていて、接客も良いのに、値段は手ごろということで大ブレイクしました。ところが、店舗拡大とか業界一番ということに目が行ってしまい質を磨くことを忘れ、お客様が離れてしまったのではないでしょうか。もう一度、自分たちの原点を見直して、「なぜお客様はレストランに行くのか」というところを考え直すべきかなと思います。
 価格が高ければ良いというものではないと思います。サラリーマンがご飯を食べる時には低価格の牛丼店をよく利用すると聞きます。私もたまに行きますけど、よく280円で牛丼が提供できるなと、いつも感心しちゃうんです。(笑)それぞれのお店が何故お客様がご来店して下さるのかを考えればもっと良い方向が見えてくると思います。

■良い牛肉を扱い続けることが大事―今後の経営戦略は?

 我々の元気、ホスピタリティ力で世界中からお客様を呼びたいと思っています。究極は、「日本に行ったら人形町の今半に行かなきゃ損だよ」と言われるくらいの、そんな店作りが出来る社員を育てるのが一番大事だなと思っています。しかし、目の前の経営戦略として、レストラン事業は、特に東京周辺において飽和状態なので、多店舗を出そうとは思っていません。
 一方で、ニーズがあるのはお届けお弁当です。お弁当事業はまだ成長します。お届けは非常にお客様に喜ばれています。
 例えば、会議室に今日は特別なお客様をお招きする、「じゃあ、人形町今半のお弁当を取ろうか」というようなお客様を開拓しています。精肉販売に関しては、今、良い牛肉を扱うお店が少しています。高級な牛肉を扱うチャネルをどう広げるかというのが今後の課題です。お肉だけは良いものをという量販店もあるので、そういうところとコラボして良いものを提供できるお店を作りたいですね。
 牛肉は、一時期身体に悪いイメージがあったようですが、最近は身体に良いことがわかってきまして、むしろ赤身などはダイエットになると、追い風になっています。
 レストランでは、赤身のすき焼き、しゃぶしゃぶもありますが、ロース等、霜降り系のご注文が多く出るんですね。たまに食べるから、霜降の極上の肉なんか、ふわーと溶けてしまう。それだけ、簡単に口で溶けるということは、お腹にもやさしいんですよね。あの味はなかなか、ご家庭で召し上がれない味ですから。家では赤身、外食で霜降りの旨い肉というお客様もいらっしゃるようです。
 日本では、大衆ブランドのシャツを買う方が同時に高級ブランドのバッグを持つということは、ごく普通にありますよね。
 一人の方が色々なシーンを楽しむ環境がある。だからこそ、特化した専門店が必要なんです。日本は文化度が高いですから、専門店を求めますので、これをやり続けることが大事だと思っています。
(了)

人形町今半 代表取締役社長 岡 慎一郎(たかおか しんいちろう)

岡氏
昭和33年生まれ。玉川大学文学部卒。
コンピュータ会社で営業職を4年間担当。
昭和61年人形町今半入社、営業、購買、飲食店舗店長を歴任。
平成13年6月今半5代目として代表取締役社長就任。
就任直後、BSE騒動で倒産危機に見舞われるが、
そのBSEで多くのことを学び、飛躍的に会社を成長させる。
趣味はジョギング、フルマラソン3回完走。
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農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
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