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薬味にみる、和食の魅力〜香味野菜を受け継ぐ京都の人々〜

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最終更新日:2014年11月5日

薬味のルール

「子どものうちから薬味を通じて繊細な舌を育むことが大切」(成瀬氏)
「子どものうちから薬味を通じて繊細な舌を育むことが大切」(成瀬氏)

鰻に山椒、鰹に生姜、鮪に山葵。
高級料亭でも、町の居酒屋でも必ず守られる薬味のルールが日本にはありますが、脈々と受け継が
れてきただけの魅力と効能があると鎌倉女子大学名誉教授の成瀬宇平氏は語ります。

薬味とはなにか

関東の濃厚な出し汁にも合う九条ねぎの収穫風景
関東の濃厚な出し汁にも合う九条ねぎの収穫風景

成瀬氏は、「しっかり味付けをする調味料、獣臭を消すハーブ、薬効を目的とした薬膳。
そのどれとも似ていて、異なる点。それは、決して素材の味を消さない、奥ゆかしい存在であること、また、新鮮な野菜や柑橘類で料理に深みを増し、箸を使って自分好みの味に調節する、どちらも日本人の繊細な感性なくしては発達しえなかったものです。」と言います。

さらに、薬味の発展において忘れてはならないものに、日本の水と出し汁の存在があると成瀬氏は語ります。
「関西の軟水で作る出し汁は昆布の風味がふわりと香る優しい印象であるのに対し、関東の硬水を使った出し汁は昆布をぐつぐつ煮詰めたしっかりした味になります。この出し汁の違いが東西の薬味にも大きな影響を与えている。」とのことです。

京都は香味野菜の宝庫

「コストではなく、美味しいものを追求した結果が今のかたち」(山田氏)
「コストではなく、美味しいものを追求した結果が今のかたち」(山田氏)

しょうが、ねぎ、みょうが、唐辛子、にんにく等々。
薬味の多くは香味野菜と呼ばれるものです。
特に、東西で品種の違いが明確なのがねぎです。
関東では辛くて刺激のある白ねぎ、関西では甘みと香りのある青ねぎが好まれます。
青ねぎのなかでも、特に有名なのが、千三百年前から栽培されている京野菜のひとつ「九条ねぎ」です。
この九条ねぎの全国展開に取り組んでいるのが、農業生産法人の代表取締役の山田敏之氏です。
生産から加工まで一貫して行う山田氏のもと、カット野菜やドレッシングなど香味野菜を使った新しい商品は注目を集めており、関東でも九条ねぎの加工品をスーパー等で目にすることが増えています。

「通常よりも収穫時期が早いので味を乗せるのが大変ですが、最近、京野菜のミニ版が人気」(石割氏)
「通常よりも収穫時期が早いので味を乗せるのが大変ですが、最近、京野菜のミニ版が人気」(石割氏)

一方、京野菜を中心に年間70種を超える野菜を料理人からの注文に応じて自ら栽培し、納品する「オーダーメイド野菜」という新しい分野に取り組んでいるのが、京都市内で江戸時代から続く農家の十代目である石割照久氏です。
小規模であることを強みに、きめ細かい注文に応えるビジネスモデルは、多品目少量栽培が中心となる薬味の生産のみならず、地域の食を支えるという意味でも存在感を増していくものと思われます。

行事食や季節食など伝統的な京の食を支える存在として忘れてはならないのが市場の存在です。
昭和2年に我が国で最初の中央卸売市場として開設された京都市中央卸売市場の卸売業者には他の地域には類のない「季節・つま物部」という専門の部署があり、取扱品目は200種を超え、取引額、数量ともにかなりのボリュームとなっています。
中山間地域で栽培されている独自の香味野菜などは、作り手の高齢化により生産の維持が危ぶまれており、この卸売会社では「京野菜を育てる会」の事務局として、消えゆく品種の育成に取り組むとともに、新しい食べ方の提案などを通して、薬味の存続価値の高まりに貢献しています。

「七味」の配合は職人技

「存在感を残しつつ“出すぎず、ひっこまず”が京都の七味」(福嶌氏)
「存在感を残しつつ“出すぎず、ひっこまず”が京都の七味」(福嶌氏)

京都には寺院が多く、古くから参拝者が途絶えません。唐辛子やしょうがなどの薬味は漢方薬としても知られています。かつては、滝行などで冷えた身体を温めたり、日頃の心身の不調改善のために、参道で七味を購入することがお参りの目的のひとつでもありました。
清水寺(京都)、善光寺(長野)、浅草寺(東京)といえば、いずれもその近くに江戸時代から続く七
味屋があり、名物として知られています。
清水寺参詣道で明暦年間(十七世紀中盤)より暖簾を守り続けている老舗の副社長である福嶌良典氏は、「七味の主成分である唐辛子は土壌や栽培環境によって風味が変化しやすいため、京都府内で契約栽培することでこだわりの品種を現代に伝えている」と語ります。

七味

もともと、ひとりひとりの体調や気候に合わせて職人がブレンドするものであったため「七味」といってもその配合は店によって異なります。
地域の気候風土そして食文化の影響を受け、独自の発展をしてきたという意味で、七味は非常に興味深い薬味といえるでしょう。
昨年、京都市は外国人が働きながら日本料理を学ぶことができる全国唯一の特区として認定され、既に、フランス人シェフが調理場に入り修行を始めています。
ユネスコの世界無形文化遺産として登録を受け、和食への注目が高まるなか、薬味は日本人の強みである繊細な感性を、海外へ発信できる可能性を秘めています。
ねぎは指定野菜価格安定対策事業、にんにくやしょうが、みょうがは特定野菜等供給産地育成価格差補給事業の対象作物となっており、alicでは、これらの事業により香味野菜の産地を支えています。また、ホームページでレシピ等各種情報を提供しておりますので季節の折々にご参考いただければ幸いです。

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