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【第一線から】町内で手を取り合い規模拡大に取り組む繁殖農家 〜山形県真室川町・真室川町農業協同組合〜

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最終更新日:2016年7月8日

真室川町
 山形県内の最北端に位置する真室川町は、県内でも有数の豪雪地帯であるとともに、耕地面積1872haのうち94%が水田という稲作地帯です。畜産業は、稲作や園芸との複合経営が主体で、地域内の農業産出額に占める畜産の割合は20%(残りは米60%、園芸20%)となっています。このうち畜産業の大半を占めるのはめす牛を飼って子牛を生産・販売する農家(繁殖農家)です。現在42戸の繁殖農家がいますが、いずれも稲作や園芸との兼業であり、繁殖めす牛の平均飼養頭数は1戸当たり約15頭となっています。繁殖経営の主な収入源である肉用子牛(黒毛和種)の平成28年4月の取引価格(全国平均)は1頭当たり過去最高水準の79・7万円でした。これら子牛は、将来牛肉になるよう育てられたり、次の世代の母牛となったりします。

◆真室川町における公共牧場の利活用

 真室川町は、畜産振興の充実を目的として、平成7年度から公共牧場として秋山牧場を運営しています。公共牧場に牛を預けることで、生産者は牛の飼養管理時間の削減や自給飼料不足の緩和といった経営上のメリットがあります。また、真室川町では、繁殖農家の意識の高まりに応えるとともに、年配の方にも長く繁殖経営を継続してもらうため、24年度から秋山牧場の周年預託施設の運用が開始されました。
 真室川町農業協同組合(JA真室川)によると、繁殖農家は、秋山牧場に牛の一部を預けることで、自身が所有する牛舎の1・5倍程度まで飼養規模を拡大することができるようになったとのことです。また、粗飼料生産の負担が軽減されるため、牛の育成に専念できるようになり、少頭飼いであった繁殖農家にも増頭の意欲が出てきました。このことから、同町の子牛の販売頭数は増加傾向となっています(表)。
預託施設

◆JA真室川におけるモミ米サイレージ(SGS)の取り組み

サイレージ
 県内でも有数の水田地帯である真室川町では、全国的にも珍しいモミ米サイレージ(ソフトグレーンサイレージ、以下「SGS」という。)の導入がJA真室川町により積極的に進められています。SGSとは、収穫した飼料用米を乾燥させずに細かく砕いて、袋に密閉して乳酸発酵させた飼料のことです。牛の嗜好性に優れ、長期保存(1年)ができます。一般的な飼料用米を使う場合、県外の飼料会社で乾燥調製などを行った後、生産者へ供給されます。一方で、SGSは、乾燥やモミすりなどの工程が不要のため、町内で生産から加工まで完結できます。加工費や輸送費がかからずに生産者に供給されるため、生産者は飼料費を軽減できます。
 繁殖農家は、SGSを低コスト濃厚飼料として配合飼料の代わりに利用し、家畜から排出されるふん尿を、たい肥として耕種農家に供給することで町内での耕畜連携が図られています。このように、真室川町では、行政、JAおよび農家が手を取り合い、公共牧場や低コスト飼料を活用することで、繁殖めす牛の増頭に取り組んでいます。

◆親子で規模拡大

 その真室川町で、黒毛和種の繁殖経営を営んでいるのが遠田茂一・晃広さん親子です。遠田家は代々水稲の栽培を行ってきましたが、茂一さんの父親の代に繁殖めす牛(黒毛和種)10頭を導入して、水稲と繁殖経営の複合経営となりました。その後、茂一さんが経営継承し、長男の晃広さんが就農を決意したことをきっかけに、繁殖めす牛の増頭を決断しました。晃広さんは県立農業大学校で畜産を学んだ後、就農しました。在学中から、真室川町やJAと新牛舎のレイアウトや設備について相談を重ね、平成22年度に50頭規模の多頭飼育型の牛舎が完成しました。平成27年11月時点で、繁殖めす牛と子牛を合わせて72頭飼養しています。

◆公共牧場などを活用した経営規模の拡大

遠田さん
 経営規模の拡大を行う決め手となったのは、秋山牧場の存在が大きかったとのことです。分娩間近の牛や6カ月齢未満の子牛など飼養管理に注意を払う牛を牛舎において、その他の牛は秋山牧場に預託しています。例年20頭程度、労働力が必要な稲の収穫時期はさらに多くの牛を預託しています。
 こうして生まれた労働力は、こまめな観察の実施や衛生環境の強化に充てられます。日頃の観察で発情時期を見逃すことが少なくなったことから、子牛を生産する間隔は375日となり、県平均値418日を1カ月以上短縮することにつながりました。また、SGSを利用することによって、配合飼料の利用を減らしコスト低減にもつながりました。農協など、周囲の支援体制もしっかりしていること、公共牧場やSGSをうまく活用したことが、経営の規模拡大につながったとのことです。
 現在経営は軌道に乗っているものの、肉用子牛価格の変動に備えて、試験的に肥育(2〜3頭)を取り入れ、将来は、子牛生産から肥育までの一貫経営に移行していくことも視野に入れているとのことです。今後も、遠田さん親子が真室川町の肉用牛生産を盛り上げてくれることが期待されます。
(畜産経営対策部)

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