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【トップインタビュー】離島・亜熱帯など条件不利地域の石垣島での酪農経営、6次産業化にかける想い 〜平成28年度農林水産祭の畜産部門で天皇杯受賞〜

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最終更新日:2017年9月6日

農業生産法人 有限会社伊盛牧場 代表取締役社長 伊盛米俊 氏に聞く

正面
亜熱帯気候の石垣島で暑さが苦手なホルスタインを上手に飼養し良質な生乳を生産。地元特産物を使った多彩なジェラートを商品化するなど6次産業化の取り組みで天皇杯を受賞された、農業生産法人有限会社伊盛牧場の伊盛代表取締役社長にお話を伺いました。

天皇杯を受賞された感想は。

 天皇杯をいただいたのは大変光栄なことで、受賞後は従業員の意識がさらに高まりました。経営面では、事業を進める中で金融機関や取引先からの信用度が高まったと実感しています。
 ただ、受賞は6次化の事業を含めて、総合的に判断いただいたと思っていますが、私たちの酪農の技術はまだまだ上を目指して頑張っている途中で、天皇杯だから一番頂点だなんて、間違っても錯覚しないよう従業員とも話をしています。

酪農を始めたきっかけについて教えてください。

 実家が漁業だったので、天候に影響を受けにくい仕事がしたいと思い、石垣島で盛んな和牛の子牛を販売する繁殖経営を始めました。畜産業も天候に左右されますが、石垣島で一番向いている農業は畜産だと思います。台風の影響を一番受けにくいのは、牧草です。
  子牛の販売価格はセリで決まり、交渉の余地がないため、私の性格に合わないと思い、平成2年に酪農に転換しました。酪農は、月毎に収入があり、乳価は乳業メーカーと交渉できると思ったのがきっかけです。また、当時は沖縄県内の学校給食用の生乳は足りておらず、脱脂粉乳を使った加工乳が供給されていましたから、生乳で100%供給したいと思いました。
 酪農は、1頭の乳牛から始めたのですが、1カ月目の売上げはわずか9700円でした。朝の5時から搾乳して、自分の人件費どころか燃料代も出なかった。さすがに、その時はちょっと参りました。でも、1頭だからそうなりますが、乳牛の頭数を増やして、1頭ごとの乳量を増やせば収入も増えると思って続けてきました。今では、学校給食用の牛乳は、生乳100%となっています。

有限会社伊盛牧場の経営概況は。

 粗飼料(牧草)生産を基盤とした酪農経営と農畜産物の加工販売を行っています。
 酪農部門では、約60頭の乳牛(ホルスタイン)を飼養しています。生乳の年間生産量は約430tで、大部分の生乳は島内の乳業メーカーに出荷しています。乳牛に与える餌のうち、とうもろこしなどの濃厚飼料は購入していますが、粗飼料は約970aある牧草地で年に5〜6回刈り取り、全て自給することでコストを抑えています。
 加工販売部門では、生産した生乳を原料に使ったジェラートや自社で加工したハンバーガーなどを、通称おっぱい山にあるミルミル本舗と石垣空港店の2店舗で販売しています。

ホルスタインは暑さが苦手と聞きますが、どのような対策をしているのですか。

 当初は、ホルスタインを沖縄本島や北海道から購入していました。沖縄本島と比べても気温が2℃位高い石垣島の暑さに慣れず、乳量は多くありませんでした。北海道から購入した牛は、移送中に死んでしまうものも多かったです。
 最近では、雌雄判別精液の技術が進んで、非常に高い確率で雌牛を産ませることができるようになりました。私たちにとって「良い牛」とは、故障せず、南国の暑さにも負けないでたくさん乳を出し、受胎率の良い牛です。そこで、そのような乳牛を選抜して、雌雄判別で後継の雌牛を産ませることにしています。選抜から外れた乳牛は、和牛を種付けして交雑種を産ませて肉用牛として販売しています。こうすることで、暑さに強い石垣島生まれの乳牛が育ちつつあります。
 また、乳牛が暑さに負けないよう、牛舎は西日が差し込まないような配置にし、風通しの良い場所に建設しました。風通しを良くするため、屋根だけの壁がない造りとして、送風機やミスト噴霧装置を設置しています。

離島・亜熱帯での酪農はどうですか。

 各種資材は、島までの輸送経費が掛かるため割高です。石垣島は小さな島ですから、酪農の機械・機器をメンテナンスする代理店がないので、予備の装置や部品を準備しています。それでも、予備などで賄えない故障は、修理まで何日か待たなきゃいけないというような、ハンディが離島にはあります。
 また、石垣島は台風も多く、よく停電するので、自家発電機の備えも必要です。台風では、乳牛が直接雨風にさらされてストレスを抱えたり、従業員が出勤できず搾乳や給餌の時間がずれて、乳牛が体調を崩したりします。そんな時は、乳牛の体調に合わせて餌の配合を調整しています。

6次産業化を始めたきっかけは。

 乳業メーカーと交渉しても乳価は変わりませんでした。そこで、生乳を使って付加価値のあるジェラートを販売しようと、平成22年にミルミル本舗を始めました。地元の人たちにも喜んでもらえればと、最初はミルク味をメインでやるつもりでしたが、石垣島は果物が豊富ですし、バリエーションがないとお客さまが飽きてしまいます。そこで、地元特産物を原料に活用するなど、12種類のジェラートから始め、女性従業員のアイディアも取り入れて今でも種類は増え続けています。
 また、ジェラート以外の新商品を作ろうと、家内と相談して、乳牛の肉を活用した商品を開発しています。今では、ハンバーガーの他に、牛丼やビーフカレーなどメニューも増えました。市場から購入するより低コストで牛肉を調達できるので、味はもちろんですがボリュームも売りにしています。

地元農家との連携は。

 ジェラートの原料は、規格外で市場に出荷できない果実などを地域の農家から購入しています。現金で買い取ることで農家の経営の助けになればと思っています。高く売れる一級品は、ぜひ高く売ってもらいたいと思うのですが、ご高齢で選別作業も大変という農家は一級品も二級品も関係なく持ってくる人がいます。私たちは、加工用として仕入れ価格を決めていますから、その値段でしか買い取れないのですが、程度の良いものはジェラートの原料にする前に生果のまま市場より安い価格で販売します。
 私は、価格破壊しようとは思いませんが、観光で来られた方は産地に来たら安いだろうからいっぱい食べようと思っているはずで、少しでも喜んで納得していただければと考えています。私たちも、在庫リスクを抱えるわけですが、仮に売れ残っても加工に回すことが出来るのが、加工場を持っている強みです。これからも、地元農家や地域社会との連携を心掛けていきたいと考えています。

6次産業化の成功の秘訣は何でしょうか。

 農家が、3次の販売部門まで自分たちで取り組むことが重要です。1次の農業生産部門、ここは苦しいです。2次の加工部門もコストが掛かります。私たちの、ジェラートの製造機も大きなコストが掛かりましたが、それに見合うだけの利益はありません。
 食品の販売では、仕入れ値が大体6割、販売部門で4割を持っていきます。農家が、手間とコストを掛けて、加工した商品を販売店に卸して終わるよりも、自ら値段を決めて販売まで手掛けるべきです。
 ただ、ジェラートの販売を牧場の隣でやっても成功しなかったと思います。今は観光が好調で多くの島外の皆さんにご来店いただいてますが、私たちは、お客さまがまた来たいと思っていただけるよう、お店から海が一望できる眺望をジェラートと合わせて提供しています。商品に話題や付加価値を加える工夫も大切です。

農業法人化についての考えは。

 うちは、早くから自分たちの月給を決めて、経理を別にしていました。仕事のお金も家計も一緒だと、公私のけじめがつかななるのでやっぱり駄目だと思います。
 生き物を相手にする酪農経営は、どうしても休みや労働時間が不規則になりがちです。しかし、私は経営者として、従業員が働きやすい環境づくりに努めています。女性従業員は子供の病気などで急に休まないといけなくなりますが、その場合でも対応できるように人員を確保しています。夜中のお産とかは、私たち夫婦で全部面倒を見ています。結果として、それが人手の確保につながっているのではないかと考えています。

今後の課題などを教えてください。

 今後は、ホルスタインと和牛を掛け合わせた交雑種を肥育して出荷したいと思っています。交雑種は、和牛より体が大きく、肉質は和牛には及ばないもののホルスタインよりも優れたものになります。自給している牧草を中心に給餌して、最近は需要が増えている赤身の牛肉を作りたい。そうなると、牛の頭数が増えるので、牧草の収量をさらに上げていく必要があります。私たちは農家ですから畑を耕し、管理するのが仕事です。
 加工部門では、常温で配送できる商品を開発したいと思っています。島内での販売には限界があるため、島外に向けたネット販売も始めています。しかし、ジェラートやハンバーグは冷凍で配送するため輸送コストが高くなります。常温で配送が可能なレトルト食品の開発に興味を持ち、小型のレトルト製造機の導入を進めています。
 最近、歳月の経つのが案外早いことに驚くことがあります。牧場の入口に植えた島バナナが、いつの間にか実を付けているのです。以前は、果実などは買って食べればよいと思っていたので、もっと早くからやっておけばと後悔しています。うちの家内は、「生活費で一番掛かるのは、食費」ってよく言うのだけど、そうやって出来た果実とか自分たちで作ったものを食べればいい。食品を自前で賄えたら、これも一つの収入なのかなって、自給自足は農家の一つの特権かなって思います。

農業生産法人 有限会社伊盛牧場 代表取締役社長 伊盛 米俊(いもり よねとし)

昭和37年  石垣島生まれ
昭和55年  畜産(和牛の繁殖経営)を始める
平成 2年  酪農に転換
平成 5年  農業生産法人有限会社伊盛牧場設立
平成22年  ジェラートやハンバーガーなどの加工販売所「ミルミル本舗」を開店
平成25年  新石垣空港の開港に合せて石垣空港店を開店
平成28年  第65回全国農業コンクールでクランプリの毎日農業大賞、第55回農林水産祭天皇杯
       (畜産部門 経営(酪農・加工))を受賞
プロフィール
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農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
Tel:03-3583-8196