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【トップインタビュー】料理を通じて人が生きるための楽しさを見つける〜高齢化社会に向けて健康に過ごすためのアドバイス〜

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最終更新日:2018年9月5日

江上料理学院 院長 江上 栄子 氏 に聞く

わが国が高齢化社会を迎える中、私たちが健康的に過ごすための食との関わりや料理の楽しさ、和食の魅力について、東京・新宿区市ヶ谷にある家庭料理専門の学校「江上料理学院」の江上栄子院長にお話を伺いました。
正面

江上料理学院の歴史と教育理念。

えがみ
 義母の故郷である熊本県の芦北(あしきた)町には畑や野山などに自然の産物がたくさんありました。その自然の産物を生かした食事を作り、お客様に振る舞っていたのが元々の始まりですね。義父は仕事柄、海外に長期間滞在していた時がありました。帰国後、同僚の方々が家を訪問された際、義母は自分の覚えた外国の手料理を振る舞うのが楽しみでもありました。その方々の間で、江上君の所に行くと、いつも面白い料理が出てくるよとうわさになり、それでは皆で教わりながら一緒に作ったらどうだっていう案が出たんです。その後、月日がたち義母は料理学校を小倉で始め福岡、それから1955年(昭和30 年) には上京して市ヶ谷に料理学校を構えました。
 食べるということは生活の基盤であり、生きていく楽しさをささえる生きがいだと思います。ですから、「家庭の幸せと健康は心を込めた食卓から」。このことを学校のコンセプトにしています。それはいつも変わりません。
 

時代によって変わる食生活。現代の食生活に対してのお考え。

えがみ
 インスタント食品は、時と場合によっては必要になることもあるでしょう。ただし、それを使いこなす食に対する知識が大事だと思います。また、自分で考えて作ったものを人と一緒に分かち合って喜ぶ。その行程で生まれる色々なメリットを忘れないで欲しいと思います。例えば季節感について考えるとか、身体の弱い方にはそのための配慮をするとか、あるいは元気が足りない人には元気を出す献立を組み合わせるとか、簡単に思えますが、この実行には知識や計画性も必要ですしエネルギーも必要です。そのエネルギーはその人の活力になると私は信じてます。お年を召したから上げ膳据え膳が良いということではないわけで、お料理することを苦にするのではなく、何を作ろうかなって考えながら買物をしたり、物を刻んだり自分の頭の体操だと思って行うと大変良い結果を導きます。
 

普段の食事で心掛けていること。

 バランスの良い食事をするよう心がけています。夏は涼しくて体をクールダウンさせてくれる材料、反対に冬は体を温める材料を使用して作る工夫をしながら食を楽しむことを基本にしています。普段はパンとチーズをよくいただきますが、講演を控えている朝は、肉やハム、うなぎの卵とじなどで元気の出る材料を朝からいただきます。私は昔からカフェオレが好きで、ゴマのペースト、ゴマのパウダーをコーヒーに入れるんです。植物性脂肪も摂取できるし、お肌にも良いんです。
 
子豚

高齢化高齢化社会において、高齢者の方が健康に過ごすため、食に関して気を付ける点。

えがみ
 日本人は、「もう私は年だからそんなにたくさんは要らないよ」とか、あんまり食べなくなる傾向があるようですが、統計によりますと、どんなに年を取ってもバランスの取れた食というのは必要なんです。タンパク質や炭水化物、脂肪にビタミンそしてミネラルは必要ですね。その中でも忘れがちなのはカルシウムです。カルシウムは大切です。老人が入院したりして体力を弱めるのは骨折とか捻挫が多い。日本人女性の摂取量が標準値に達していないのはカルシウムなんです。そのカルシウムは吸収率が低いのですが、レモンなどかんきつ類の果汁と一緒に野菜や海草などといただくと吸収率がアップするんですね。これをキレート作用(※)と言います。カルシウムを含む食品をキレート作用を生ずるもの(クエン酸を含むかんきつ果汁など)と一緒に召し上がると、非常に効果的だと思います。
(※) キレート作用とは、吸収されにくい成分を吸収されやすい形に変えて吸収したり、体内の有害物質を排出しやすい形に変えて排出したりする働きのことをいう。
 

介護が必要な方の食事のサポートとして良い調理法など。

 隠し包丁という言葉があるように、食べやすいように切ったり、切り目を入れたりすることは大事だと思います。食材をある程度つぶすことも効果があります。白身の魚でも、少しつぶすと食べやすくなりますね。それから、カサカサに乾いた状態ではなく、焼き魚であってもほぐして、そこに少々汁をかけると、しっとりするので、食べやすいと思います。それから、むせないよう、滑らかに喉を通っていく工夫としてとろみを付ける方法がありますが、とろみ調製品が市販されています。食べる人の身になって考えることが大事ですね。
 

和食の魅力。

環境
 和食の良いところは季節感があることだと思います。季節の野菜をサラダにすると、とてもおいしくなります。初夏だったら、そら豆とクリームチーズをサラダにする。食材に幅があるというのが日本の特色です。葉ものでもホウレンソウ、小松菜、キャベツ、モロヘイヤ、レタス等々。でも外国はそれほどではありません。
 また、キャベツでも外側の部分は煮て使いましょう、芯の柔らかい所は生でこのように使いましょうというように配慮しながら作るのも和食の魅力ですね。細やかに季節を感じながら食事を楽しむことが出来るのは、諸外国にはあまりない。これは世界に誇れるデリケートな楽しみ方ですよね。日本のお料理は、食を楽しむということを評価されたんです。それを日本人は誇りをもって次の世代に伝えなければならないと思います。
 

国産チーズの特徴を生かした使い方とは。

 たくさんあると思います。卵豆腐風にしてチーズ豆腐とすれば、そのまま食べられますよ。それを濃厚にして、パンに付けるという食べ方もありますね。ご飯に混ぜるのであれば日本のチーズのほうがいいかもしれないですね。硬いチーズであればおろして和え物にも良いと思います。国産のチーズには期待しています。
 また、私は以前からホエイ(乳清・にゅうせい)(※)を有効に使いましょうという話をしています。汁物にしたり、ホエイでご飯を炊いたりするのもおいしいです。
(※) ホエイとは、チーズを作る過程で得られる液体。
 

今後の抱負。

 高齢化社会を迎えていますが、お料理を作ることはひとえに頭を使うこと、身体を使うことにつながりますから、皆様どうぞ、お料理をお作りになられて、それを元気のもととして頑張っていただきたいと思います。そして日本の食卓を通じての家庭の団らんが、今はあまりにもないがしろにされているのが寂しいので、それを取り戻したいですね。そのために親子、隣人、グループ、どなたでも良いのですが、皆が寄り添って、心のこもったお腹の底に染みるようなお料理を作り、食を通じてのコミュニケーションを強めたいと思っています。
 
江上先生

江上料理学院 院長 江上 栄子氏

昭和10年   佐賀県有田焼の窯元「香蘭社」の深川家出身
昭和34年   青山学院大学英米文学科を卒業後、江上料理学院に入る
昭和35年   フランスのパリ「コルドンブルー料理学校」の最終課程修了証書を取得
昭和38年   江上料理学院副院長就任
昭和55年   江上料理学院院長就任
平成14年   フランス政府より農事功労賞を受勲
平成16年   NHK放送文化賞受賞

院長以外の「主な役職」:フランスチーズ鑑評騎士の会理事長、(一社)全国料理学校協会理事、
東日本料理学校 協会名誉会長、(一社)日本漆工協会理事、(一社)日本乳業協会「食と健康を考える会」委員、佐賀女子短期大学客員教授ほか

※ 平成30年6月現在の江上料理学院生徒数
  約200人
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
Tel:03-3583-8196