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【トップインタビュー】IT を活用した効率的な加工・業務用国産野菜の提供〜岡山県倉敷市の倉敷青果荷受組合〜

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最終更新日:2019年3月6日

倉敷青果荷受組合 理事長 冨本尚作 氏 に聞く

 青果卸業界では日本初の食品安全マネジメントシステム認証を取得するとともに、I T(情報技術)の活用に力を入れ、青果の卸売に加え加工・業務用需要に対応したカット野菜の生産も行うクラカグループ倉敷青果荷受組合の理事長にお話を伺いました。
 
倉敷青果荷受組合 理事長 冨本尚作 氏
倉敷青果荷受組合 理事長 冨本尚作 氏

はじめにクラカグループの概況を教えてください。

 昭和21 年に青果の卸売を行う荷受組合をスタートしました。青果の関係では、グループ会社としてクラカフレッシュ、クラカアグリの2社があります。
 荷受組合では野菜・果実の卸売を行っておりますが、国内の加工・業務用野菜の需要が近年拡大していることから、カット野菜(※1 )の供給に対応できるよう平成10 年に組合内にカット野菜部を立ち上げました。現在グループの総売上額の4分の1がカット野菜部の売上げになっています。
 クラカフレッシュは、青果業界でいう仲卸的な存在です。大手のスーパーや外食店には組合が納品し、地域の中小規模の量販店などにはクラカフレッシュが納品しています。
ク ラカアグリは、カット野菜向けの露地野菜の生産を行う法人です。現在、岡山県内で合計約10 ha の農地を借り受け、キャベツ、ねぎ、レタスを生産し、組合のカット野菜部に原料として供給しています。

(※1 )ここでは、外食・中食事業者又は消費者向けに調理用食材や調理済み食品として販売される、野菜の加工品(パック詰めのミックス野菜、サラダ等)のこと。
 

クラカアグリで生産を行うこととした理由は何でしょうか。

えがみ
 低コストで原料野菜を生産することに加え、地産地消を目指して岡山県産の野菜の産地を作りたいと思ったことがきっかけです。圃場が近くにあれば原料の生産に管理の目が行き届きますし、実際に自分たちで野菜を作ってみると生産者の苦労も理解でき、それを販売にも活かすことができます。水田や耕作放棄地を活用した野菜の生産のモデルを示したいとも考えており、おかげさまで全国から多くの農業団体や行政の方が視察に来られます。
 キャベツで言えば原料の約6割が岡山県産ですが、夏場は群馬県、長野県、北海道の高冷地に頼らざるを得ません。そこで産地のリレー出荷で、周年安定供給を確保しました。新設した集出荷貯蔵施設により端境期(はざかいき)に冷蔵分を出荷することで、キャベツについては年間を通じ、全て国産で賄われています。
 

自社農場を経営する上で苦労された点は何ですか。

子豚
 借り受けている農地は、ほとんどが耕作放棄地を含む水田です。野菜は播種期を誤った、あるいは定植時期に雨が降って畑に入れなかったなどにより、収穫が0になる恐れがあり、これまで稲作をしてきた農家の中には不安がある。そこで私たちが栽培技術や排水対策の支援・指導を行い、また、加工・業務用野菜を作ればこれだけの収入が確保できますという普及活動をしてきました。
 倉敷から車で1時間ぐらい県北に上った中山間地域の限界集落に160町ぐらいの水田があるのですが、そこでキャベツを作ってみないかと声をかけました。定植時期を誤ったために1年目は収穫0でしたが、クラカアグリで苗を作り、トラクターも持っていって農作業を行った結果、1年で100t程度収穫できるようになりました。今年は13 名まで生産者が集まって組合が作られ、女性も参加するようになりました。個々の農家で収穫をする日には、組合の皆さんが集まって手伝い、参加された方には時給で労賃を払うのです。これによって今までになかったコミュニケーションが生まれ、中山間地域の活性化に少しでも貢献できたかと思います。収穫したキャベツがカット野菜に加工され、地元の店頭にも並ぶという面白さが、生産者にも広まってきているのです。
 

クラカアグリでは、クラウド型の営農支援ツール(※2)を使用されていますね。

 借り受けている県内の農地は、西の矢掛町から東の倉敷市矢部まで分散し、行き来に車で1時間ぐらいかかります。圃場は大きい所で3反ぐらい、1反以下の所もあり、全部で90 あります。栽培管理に当たる自社スタッフは現在4人のみで、1人を除いて、去年の新卒採用者を含む20 代の若手ばかりです。
 そうした中で、営農支援ツールを使用してどの圃場でどのような作業をしたかを全員が共有できることが、作業効率の面で大きな特徴です。それにより、管理が行き届いて、安定的な生産につながっていると思います。

(※2 )航空写真による農地地図上で圃場ごとに農作業の実績などを記録・共有し、生産管理を行うシステム。スマートフォンやタブレットでアプリケーションとして使用できる。

「攻めのIT経営中小企業百選」にも選定されたIT活用の取組みについて教えてください。

 カット野菜の取引先からの注文書は、以前はファックスで届いた手書きのものを全て手入力していたため、受注業務だけで退社が夜中を過ぎることが大半でした。受注管理システムの導入により、オンラインによる受注体制が整いました。オンライン化が出来ていない取引先からのファックスの注文も自動読込み機能により効率化され、今は交替制で20 時には帰宅できるようになりました。
 また、以前は野菜のカット工場への指示書を手書きで作っていましたが、工場へ直接データで送信するシステムを2013年に導入しました。約1,300種類にも及ぶカット野菜の部品を各取引先別に自動で仕分けるよう指示します。また、ジャガイモ、カボチャなど重いものが先に納品コンテナに入り、最後にホウレンソウなど柔らかいものが上に来るように稼動させるピッキングシステムも導入しました。これにより、作業効率化とリードタイムの短縮が図られ、人為的ミスも減少しています。
 カット野菜工場は、3交代の24 時間体制で運営していますが、将来的にITと連動したロボットで出来ることはないかと考えています。同じサラダでも、パック詰めのものはある程度は自動化できていますが、カップサラダは人手で詰めています。そこにロボットを活用できないか思案中です。
 

気象データとの連動による野菜の需要予測が可能になる取組みも視野に入れているそうですね。

環境
 AI(人工知能)を自分たちのビジネスにも活用できないかということで、気象データと消費者の購買行動の相関関係をAIで分析し、今後の需要予測に使えるのではないかとの発想で始めました。
 AIにどのようなデータを与えて、どのような結論を導くかについては、やはり人間の調整が必要です。今の進捗状況としては、当組合の商品販売データが実際に使えるかを検討しているところです。地域によって人口も違いますし、取引先の中でも消費者への販売が上手なところもあればそうでないところもあるので、単純に販売データを気象データと組み合わせるだけではうまくいきません。人口の大小を加味するとか、販売価格の影響を足し引きするなど、どのように係数を加えるかといったことを共同研究しています。
 

食品マネジメントシステムISO2200(※3)の認証を取得されたメリットは何ですか。

養豚場
もともと取引先からの要請もあり、カット野菜工場に衛生管理システムを導入する必要性を意識していました。2009年に認証を取得して意外だったのは、工程管理が標準化されたことで、それまでの帳票類が少なくなり、効率化に繋がった点です。
ISO22000は、何よりもお客さまに安全安心なものをお届けするというのが大前提ですけれども、事業規模が拡大してくるとやはりリスクも拡大します。事故を防ぐことは、会社を守るという意味でも大事なのです。3年に一度の認証更新の際に指摘を受けながら、PDCAサイクルの中で改善できるのが、ISOの良いところだと思います。
(※3 )安全な食品を生産・流通・販売するために食品の衛生管理システムの国際標準規格。

今後の加工・業務用野菜の供給についてのお考えを教えてください。

 なぜ国産品だけでなく輸入品を使わなければならないかという観点から考えれば、野菜の実需者が求める「4定」(定時・定量・定価格・定品質)を満たしていないことが、国内産地の弱い部分でしょう。加工・業務用野菜の国内での生産基盤がしっかりしないと、カット野菜が100円程度でコンビニで売られるような価格水準・販売形態も維持できなくなる。そのため需要に対応する全国の産地づくりが必要と思われます。収益性を考えれば、加工・業務用野菜は水田転作の有望な転換先と言え、その支援に力を入れていくことが求められます。またそのことによって、耕作放棄地も蘇よみがえり、自給率の向上にも繋げられるのではないでしょうか。
 
江上先生

倉敷青果荷受組合 理事長 冨本 尚作(とみもとしょうさく)氏

昭和26年  岡山県生まれ
昭和49年  倉敷青果荷受組合 入組
昭和55年  倉敷青果荷受組合 理事就任
平成15年  倉敷青果荷受組合 常務理事就任
平成22年  倉敷青果荷受組合 理事長就任
平成28年 クラカアグリ株式会社設立 代表取締役就任
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農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
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