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【トップインタビュー】食とどう向き合うか〜消費者団体の視点から〜

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最終更新日:2019年11月6日

一般社団法人全国消費者団体連絡会事務局長 浦郷 由季氏に聞く

一般社団法人全国消費者団体連絡会事務局長 浦郷 由季 氏
一般社団法人全国消費者団体連絡会事務局長 浦郷 由季 氏
 近年は高齢化、共働きや単身世帯が増加するなど生活スタイルが多様化していることを背景に食生活・食習慣が大きく変化しています。特定の時季のみに販売される季節商品である食品の廃棄もニュースとなる中で、私たちは食に対してどう向き合っていくべきか、食品の消費をどのように賢く行っていくべきかなどについて、消費者のくらしの向上のための活動を行っている一般社団法人全国消費者団体連絡会の浦郷由季(うらごう ゆき)事務局長にお話を伺いました。

.貴連絡会の沿革や組織概要を教えてください。

 消費者団体の全国的な連絡組織として、11団体により1956年に設立されました。設立後しばらくの間は高度経済成長期であり、当時の消費者にとって関心が大きかったテーマが活動の中心でした。公共料金などが値上がりする中での物価問題や、工業化に伴い深刻化した公害問題への取組みに、主に軸足が置かれていたのです。
 1990年代になると、より政策提言型の運動に転換し、消費者保護のための関連法制の制定、消費者庁の創設などに力を尽くしました。その時期に地方の消費者団体も会員に迎えて組織整備を進め、2013年には一般社団法人として法人格も取得しました。現在、全国及び地域レベルの消費者団体やNPOなど計48団体が会員となっており、消費者の権利の実現とくらしの向上などを目的として活動しています。
 
 

主な活動内容を教えてください。

 これまで消費者政策、環境・エネルギー、そして食の安全・表示の問題という3つを主なテーマとして、意見発信・提言や国の審議会への参画などを行っています。特に消費者政策は主要なテーマであり、地方消費者行政については、プロジェクトを作り、都道府県調査やシンポジウムの開催などを実施しています。また、行政や専門家、事業者などとのネットワークづくりもすすめています。
 今後に向けては、消費者運動をもっと若い世代にも広げていく必要があります。そのためにはNPOなど、現場に密着した活動に取り組んでいる団体と連携することも考えています。連絡組織としての性格上、個々の会員団体の活動内容に立ち入ることに限界もありますが、課題を共有しながら、消費者運動の発展を目指したいと思います。
 国際的な消費者運動との連携も進めており、当連絡会は国際消費者機構(CI)(※1)の正会員となっています。今年は4年に1度のCIの世界大会が、「デジタル時代における消費者保護」とのテーマでポルトガルで開催されました。同じく今年、日本で開催されたG20消費者政策国際会合にもオブザーバーとして参加し、各国の政策や課題を共有することができました。
 
(※1) 各国消費者団体の連合組織。消費者問題解決のための国際協力を目的としており、現在100か国以上200を超える団体が加入している。
 
えがみ

食品分野では、表示の問題に力を入れてきているとのことですが、その状況について教えてください。

 残留農薬や異物混入などが社会問題となった一時期と異なり、近年は食品の安全性自体は確保されるようになったこともあって、食に関する活動の焦点は表示関係に置かれるようになってきました。加工食品の原料原産地表示の導入などをめぐって、行政との間で活発な議論を交わしていた時期もあります。ただ、2017年に自分が事務局長となって以降は、それほど大きな論点はなくなってきている印象です。
 そうした中で、現在は食品添加物の表示制度に関する消費者庁の検討会に参加しています。容器包装のラベルにはスペースに限りがあるので、商品に関する情報を何から何まで記載するのは現実的でないことは当然です。安全に関わる表示項目についてはスペースを十分に確保し、その他の表示項目とのバランスを考えることが、制度設計に当たり大事だということを会として確認しています。
 
 

食品の表示においては、どの程度の情報が消費者に提供されるべきだとお考えでしょうか。

 表示を行うためには事業者に相応にコストがかかり、それが消費者に転嫁されることにもなる点は、もちろん理解しています。また、一口に消費者と言っても、アレルギー物質を含めた安全性に関わるものを別とすれば個々人によって求める情報は異なります。
 消費者にとっての「知る権利」や「選択の自由」を強調すれば、できるだけ詳細な情報が網羅されるべきということになり、現にそのような主張もなされます。個人的には、容器包装に記載されていない事項であっても、消費者からの照会に対して事業者側からきちんと開示がなされ、情報の入手が阻害されない状況が整っていることが重要ではないかと考えます。
 

現在の食料事情や食生活のあり方、その中で消費者としての私たちが心がけるべきことについてはいかがでしょうか。

 いまの日本では、食品ロスが問題となるくらい食べ物は量的には足りており、消費者の選択の幅も広くなっています。そこにインターネットも含めた情報の過多が生じ、消費行動がトレンド情報に振り回される状況が生じているように思われます。その時々で短期的なブームとなる食品に加え、季節のイベントを利用した商品の販売戦略がとられる中で、消費者も賢明に向き合う必要があるでしょう。事業者側からすれば、消費者が求めるから販売しているということですが、毎年クリスマスケーキや恵方巻などが大量に売れ残っている光景には心が痛みます。
 健康志向が強まっているのも確かですが、一方で、食品の安全性に関する基本的な理解は行き届いていない面も感じます。例えば、農薬や添加物には使用基準が定められており、流通している食品はそれを満たしているのですが、これらを気にする消費者は多いです。消費者教育ないし食育をもっと進め、リテラシーを高めていく必要があるでしょう。そのような情報を、私たちももっと消費者に伝えられたらと思っています。むしろ店頭で購入する段階では安全な食品が、自宅での保存・調理の過程で衛生管理を怠ることで食中毒などの原因となることもあるといった点について、認識が必要と考えます。
 

消費者に向けた食育をどのように進めていくのが良いでしょうか。

 健康な生活を送る上では様々な食材からなるバランスの良い食事を、適度な分量で摂取するのが大前提であると考えます。こうした点に加え、先ほども述べたような食品のリスク管理についての基本的な理解を促進していくことが重要で、このために私たちも学習会を開催して普及に努めています。当連絡会だけの取組みでは限界もあるので、様々な機関・団体との連携を進めていきたいと考えます。
 周囲に食料がありあふれている状況の中で、個人が食に関して真剣に向き合う機会は少なくなっているのではないかと思います。私自身もそうですが、農業の生産現場から遠い場所で育つと、農作物がどのように作られるのか、家畜がどのように育つのかについて実感として分かりません。当たり前のように食卓に上がる食べ物も、様々な過程を経て届けられているということを理解する機会を設けることが必要でしょう。
 

国産農畜産物や、その生産現場に求めることを教えてください。

 加工食品の原料や家畜の飼料などを含め、日本は食料の供給を輸入に頼っている部分が大きいと思います。今後、世界的に人口が増加し気候変動の影響も生じる中で食料の安定的な供給を図るためには国内の農畜産業を維持していくことが重要だと考えます。
 しかし、それは長期的な世界の食料需給の中での話であり、消費者が当然に国産を求めているということとは違います。価格面も含めて考えれば、すべて地産地消であれば良いということでもなく、例えば外食・中食では輸入品でかまわないとする人の方が多いのではないでしょうか。生産者も、国産であれば“安全・安心”だから消費者が求めてくれると考えるのではなく、それを科学的・客観的に裏打ちしてもらいたいと考えます。GAPや農場HACCPといった制度を利用して生産管理をしていることをもって、具体的に消費者にアピールしていくことが望まれます。

貴連絡会の今後の方向性について教えてください。

 どの消費者団体も、構成員の高齢化という課題を抱えています。特に若い世代の関心を引き付けることをねらいに、SNSを活用して幅広く一般の消費者に情報発信できるよう試行錯誤しています。
 今後も行政や事業者サイドをはじめとする様々な関係者とも連携をとり、日々アンテナを高く張って活動していきたいと思います。
 
横顔
一般社団法人
全国消費者団体連絡会事務局長  浦郷 由季(うらごう ゆき)氏

神奈川大学経済学部卒業。7年間の会社勤めの後、専業主婦として子育てをしながら生協の活動に関わる。
2009年 生活協同組合ユーコープ 理事
2013年 日本生活協同組合連合会 理事
2017年 全国消費者団体連絡会 事務局長
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
Tel:03-3583-8196