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【トップインタビュー】養豚経営におけるICT活用〜畜舎環境の見える化で経営改善〜

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最終更新日:2021年7月7日

有限会社森吉牧場 代表取締役社長 佐藤 文法 氏に聞く

 農業分野では担い手の減少・高齢化により労働力不足が深刻な問題となっています。政府は、これまで生産者の経験や勘に頼っていた技をビッグデータ化し、ロボット、AI(人口知能)およびIoTなどの先端技術に活用した「スマート農業」を推進しています。秋田県にある有限会社森吉牧場では、作業の省力化や環境整備を目指してクラウドシステムを導入するなど、積極的に新しい取り組みに投資を行っていることから、ICTの畜産業への導入における課題やメリットを同社社長の佐藤 文法氏に伺いました。
豊かな自然の中にある有限会社森吉牧場
豊かな自然の中にある有限会社森吉牧場

Q 企業概要や秋田県で養豚を始めた経緯について、教えてください。

図
 当牧場は、株式会社フリーデン(以下「フリーデン」という)が2003年に森吉町(現・北秋田市)から誘致を受け、そのグループ企業として2007年に設立されました。私自身は大学卒業後、フリーデンで養豚業に従事しました。森吉牧場の創業と同時に秋田県に移住して立ち上げに参加し、2016年に社長に就任しました。人手をかけず省力化した衛生管理基準の高い農場づくりが創業時からのコンセプトです。グループ内では最も新しい農場だったため、グループ内で初めて自動体重識別機(ソーティングシステム)(注1)など最新技術を積極的に導入してきました。また、農場HACCP認証制度(注2)が始まる前からHACCP対応に取り組んでおり、2012年に畜産分野での国内第1号となる認証を取得しました。
 2014年には、飼料用米の給与を開始しました。牧場から提供したたい肥を使って地元の米農家に飼料用米を生産してもらうことにより、地域循環型農業を実現しています。  2018年には、JGAP(注3)の個別認証を取得しました。翌年には、JGAPの団体認証が始まったことから、グループ全体として認証を取得し、現在に至ります。省力化しながら、高い衛生管理基準を順守した農業に取り組んでいます。
 飼養頭数は、現在、常時約2万2000頭(母豚2000頭含む)で、フリーデンのブランド「やまと豚」を中心に出荷しています。

(注1)給餌に際して豚の体重を測定し、基準体重に達した出荷可能な豚を選別する。
(注2)畜産農場における飼養衛生管理向上の取組認証基準(農場HACCP認証基準)は、農場の衛生管理向上により畜産物の安全を確保するため、管理ポイントを設定、監視・記録の継続実施によって、農場段階で危害要因をコントロールする手法。平成23年から民間での認証手続きが始まった。
(注3)食の安全や環境保全に取り組む農場に与えられる認証で、農林水産省が導入を推奨する農業生産工程管理手法の1つ。詳細は、広報誌2017年11月号「【農林水産省から】畜産におけるGAPの取組みについて」をご覧ください。

Q HACCPやJGAPの取り組みついて、実需者からの評価はいかがでしょうか。

 牧場として直接、消費者の声を聞く機会は少ないですが、HACCPやJGAPシステムを導入していることで安全で安心できるとの評価をいただいています。加えて、飼料用米を給与したプライベートブランドとして、大手トンカツチェーンでメインに取り扱われており、甘みやうま味がある豚肉として好評を得ていると感じます。
GAP

Q 養豚経営の課題などをお聞かせください。

 まず第一に飼料価格がかなり高くなっている中でコスト削減について考えていかなくてはなりませんが、地元の飼料用米を活用できることが強みだと感じています。 
 また、従業員35名のうち28名は地元で雇用しており、地域の方々の理解を得ながら、引き続き良好な関係を築き地域に貢献していくことも企業として大切なことだと思っています。 
 養豚経営において、最も重要なのは、畜舎の衛生管理です。飼料の栄養成分調整などに取り組んで工夫しても、まず畜舎の衛生環境の状態が良くないと、食味の良さにつながらないと認識しています。 

Q 畜舎管理のためにクラウドシステムを導入しているとのことですが、きっかけは。

 フリーデンの他の社員から、野菜生産などの分野では、圃場の環境を計測、記録、モニタリングできるクラウドシステム(注4)が導入されていると聞き、これを畜産分野でも活用できないかと興味を持ちました。やはり養豚業というのは、経験とか、勘とか、感覚に頼る部分がとても多い一方で、若い人たちにそれを伝え、習得させていくのにかなり時間を要していました。クラウドシステムを利用して畜舎環境をデータにして見える化を実現することで、皆が理解しやすくなると確信し、グループ内で先頭を切って3年前に導入しました。幸いにも、企業誘致を受けた際に、光回線を通していただいたので、整備へのハードルはそれほど高くなく、また、従業員たちも前向きに捉え、賛成してくれました。

(注4)センサーを通じてデータを蓄積し、リモートで畜舎環境をモニタリングするシステム

Q クラウドシステムの概要と活用方法を教えてください。

 当牧場では、1畜舎に通信機器を1台設置した上で、温度・湿度センサーと二酸化炭素センサーを各1カ所取り付けています。このセンサーによって24時間・365日2分ごとに畜舎内の環境(温度・湿度・二酸化炭素)を自動で計測し、データをクラウドに蓄積します。本システムにより、実際に畜舎に行かなくても、リモートで計測したデータをモニタリングできます。1畜舎当たりの費用は、初期費用30〜40万円に加えて、月額使用料・通信料が1万円です。また、光回線を利用して畜舎内にWi-Fiを巡らせてタブレット端末を使える体制にしました。
 クラウドシステム導入以前にも畜舎環境のデータを記録していましたが、その時代は後からしかデータにアクセスできませんでした。しかし、本システムを使用し始めてから、ほぼリアルタイムにタブレット端末でデータを確認できるようになり、現場での環境管理の即時性やきめ細かな対応が可能になったほか、その後の豚の生体変化などの予測もしやすくなりました。基本データである温度と湿度のほか、換気の指標として、二酸化炭素の計測を行うことで、豚の生体に大きな影響を与えるこれらのデータを的確に把握して環境管理の向上に活かしています。
システム

Q クラウドシステムを導入して、経営にどのような効果が表れたでしょうか。

 複数の取り組みを行っているので様々な要因が複合した結果だとは思いますが、肥育面では、事故率が改善されています。さらに、最近は、1日当たりの増体量が約50グラム増えて非常に良くなっていて、出荷が追い付いてないような状況です。
 若い従業員は機器への順応も早く、今までは勘が頼りでよく分からなかったものが数値として見えるということで、理解度が高まり日々の管理のスキル向上に非常に大きく役に立っています。また、従業員間でタブレット端末を使ってデータを遣り取りできるので、広い牧場内で人を探し回ったり集まって打合せをしたりする必要がなくなり、時間短縮や働き方改革につながっています。

Q 新型コロナウイルスの感染拡大は、経営に影響を与えていますか。

 物流を制限されなかったことから、大きな影響は出ていません。牧場内は、密にならないように出勤時間や人数を調整して工夫しており、当初は従業員同士のコミュニケーション不足が懸念されましたが、データを見ながらタブレットで情報交換ができるようになったことが結果的にコミュニケーション不足を解消することにつながりました。

Q 今後の展望を聞かせてください。

略歴
 ICTを活用した省力化によるコスト削減は、避けられない課題ですが、そのほか、タブレット端末からの遠隔操作が実現すれば、ソーティングシステムを組み合わせて、重量や検査結果を分析して、かなり質の高い飼養管理体制を構築できるのではないかと思っています。
 現在は、データを見ながら従業員が現場に出向いて換気のためのファンの操作などを行っていますが、今後、遠隔操作で制御できるようになれば、畜産業でももっとテレワークが進むことになると期待しています。クラウドシステムを活用して帳票類を共有できれば、あえて出社してデータを整理したりしなくてもいい状況も生まれてくると思いますし、これからの時代には必要かと思います。これまで作業に時間がかかり残業になりがちだったことも、より効率化したり不要になったり、職場でなくてもできるようになったりと、経営のみならず従業員にとってもメリットが大きいと思います。
 グループ内では、種豚場でも同じシステムを試験的に導入し始めていますが、今後は他の農場との間で従来の紙ベースではなくデータ化した迅速な情報共有ができるかと考えています。また、当牧場では、排水の浄化槽にもセンサーを設置して水質分析も開始しましたが、端末からの遠隔操作が可能になれば、グループ内でこの技術を横展開していきたいと他の場長たちと話しています。
 さらに、当牧場にも若い女性社員が入社してきていますので、クラウドシステムなど取り扱いやすいツールを使って積極的に活躍できる場を提供していくことで、養豚業という分野のイメージ向上を図っていきたいと考えています。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
Tel:03-3583-8196