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農と食の魅力を五感で体験できる “ワンダー”なファームを

【トップインタビュー】
農と食の魅力を五感で体験できる “ワンダー”なファームを

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最終更新日:2023年3月6日

広報誌「alic」2023年3月号

株式会社ワンダーファーム 代表取締役 元木 寛 氏に聞く

株式会社ワンダーファーム 代表取締役 元木 寛 氏

 国際的な原材料価格の上昇や円安などでエネルギー・食料品などの価格上昇が続き、国民生活に大きな影響を及ぼす中、国産農畜産物の安定供給の重要性がますます高まっています。また、新型コロナウイルス感染拡大の影響が続く中、マイクロツーリズム(近距離旅行)の観光資源として、地域の農や食が改めて注目されています。福島県いわき市で株式会社ワンダーファームを経営する元木氏にお話を伺いました。

Q 現在の経営概況について、教えてください。

いわき市

 私は、福島県いわき市でワンダーファームグループを経営し、トマトの生産、加工品の製造・販売やレストラン経営など六次産業化に取り組んでいます。
 環境制御型のハウスで気温や湿度などの生育環境をモニタリングし、自動で窓を開閉するなどコンピューター管理で最良な状態を維持しながらトマトの養液栽培を行い、周年出荷しています。

Q 異業種からの農業参入だったそうですね。

 私は、福島県のサラリーマン家庭に生まれ、農業とは縁遠い環境で育ちました。鉄道会社に技術職で就職し、東京でしばらく勤務したころ、いわき市で稲作に従事しながらトマト生産に取り組んでいた義父から、農業をしないかと声を掛けられました。農業の知識が全くない私にできるのか不安でしたが、いつか地元で働きたいという思いがあったので、鉄道会社を退職し、2002年に、26歳で有限会社とまとランドいわきの立ち上げに携わりました。補助事業を活用して更地だったところにオランダ式の大規模なハウスを建てて、養液栽培に取り組みました。いきなりトマト生産を任され、最初の数年は計画の半分ほどしか収穫できない年が続きましたが、ようやく目標の生産量を上げられるようになった6年目ごろに、東日本大震災が発生しました。

Q 六次産業化に取り組まれた経緯について、教えてください。

ワンダーファーム

 震災の影響で、売上は半分に落ち込み、厳しい状況に追い込まれましたが、それまでの活動が奏功して、何とか震災の翌々年ごろには震災前と変わらないまでに売上が回復しました。その経験が、現在のワンダーファームの経営につながっています。
 震災直後は、かなりの間、収穫したトマトを廃棄せざるを得なかったのですが、取り上げたニュースを見た全国の方から、ありがたいことに、多数の注文が入るようになりました。たまたま震災の少し前にホームページやネット通販を始めたばかりだったので、従業員の多くが避難する状況でも何とか注文を受けて、お客さまにお待ちいただきながら販売しました。また、避難所にトマトを届けた活動も評価いただいて、地元の方や報道で知った海外の方も買いに訪れてくれました。そういった取り組みがつながって、経営を立て直していきました。
 一方で、近隣の生産者からは「まともに出荷できないから廃業しようか」という声も多く聞かれたので、駄目もとでいいからと一緒にインターネットで野菜を販売したところ、購入していただけたのです。そのとき、地域にこういったビジネスモデルをつくっていかないといけない、何かできないかと思い付いたのが、直売所とレストランでした。さらに、県から六次産業化制度の利用を後押しいただいて、加工にも取り組むことにしました。
 高速道路のインターチェンジも近い現在の土地を、地域の方々の賛同を得て借りることができ、構想から約3年が経った2016年に、株式会社ワンダーファームを開業しました。

Q 開業からこれまでを振り返って、いかがでしょうか。

 開業当初から年間約20万人の来場者があり、人気のモモ狩りバスツアーのプランに、当社のトマト狩りや食事などを取り入れていただきました。直売所やレストランは、地域の生産者の販売先の一つとなるなど、経済効果や雇用を生んで、一定の地域貢献になってきたと自負しています。
 しかし、コロナ禍になって、状況は大きく変わりました。来場者は、それまで地元6割で観光客4割でしたが、現在は地元からマイカーで来る方が大半で、全体で約半分に減りました。特に利用者が多かったレストラン部門への影響は大きく、営業形態をビュッフェスタイルからコースやアラカルトでの提供に変更しました。

直売所で販売されるトマトジュース
直売所で販売されるトマトジュース

トマトや地元野菜を豊富に使った料理
トマトや地元野菜を豊富に使った料理

Q トマト生産の目標について教えてください。

 いわき市は日照時間が長く生産に有利な環境であり、当社はまだまだトマトの生産量を増やす余地があります。  特に、コンビニエンスストア(サンドイッチやサラダなど)やハンバーガーチェーンで使われる業務用トマトは、最近、需要が伸びてきています。業務用は、カットやスライスに適した品種(カバナロやデリカなど)があり、生食用や加工用(ジュースやケチャップなどの原料)に比べて、粒が揃った固さのあるトマトが求められます。  大手企業は、従来、業務用には海外産を多く扱っていましたが、最近の原油高やウクライナ情勢などを受けて、国産品に大きくシフトしてきています。ちょうど潮目が変わって国産品の価値が見直されているタイミングにあるので、われわれ日本の生産者にとっては、大きなチャンスだと感じています。トマトの国内流通量の6〜7割を業務用が占めるようになってきていますし、大きなロットでの供給が求められています。当社でも、業務用の割合を年々増やしており、今年は半分以上に切り替えていきたいと計画しています。

Q 人材育成について教えてください。

 従業員は、パートタイマーを含め20代から60代まで幅広く、マネージャーは30代が中心です。
 農業生産については、栽培管理者に大半を任せています。栽培管理者の育成には、5年程度かかりました。植物の状態を見る目を養い、ハウスとはいえ天候リスクを踏まえて調整する能力や、ITの知識も身に付ける必要があるからです。
 これまで部門別に雇用していましたが、コロナ禍では柔軟に人材を活用しようと、レストランや加工工場の従業員をトマトの収穫にも従事させたりしています。当初は戸惑いの声もありましたが、結果として、生産部門の過程や苦労が共有され、従業員間のコミュニケーションが活発になっています。
 また、労務管理システムを導入して一人一人のタスクを見える化したところ、ノウハウの共有も進み、全体的な生産性向上につながってきています。

Q 地域農業に対する思いを教えてください。

トマト

 さまざまな事業を行っているので、よく「何屋さんなの?」と聞かれますが、私はやはり「農家です」と答えます。私のアイデンティティーは農業にあり、この地域の農業を良くしていきたいという思いに突き動かされています。
 地域や食の魅力は、まさに農業によってもたらされています。例えば、美しい景色やきれいな河川などの環境資源は、農の営みによって維持されています。食料の供給という面でも、農業が国を支えていると言っても過言ではないはずです。農業という産業を盛り上げていきたい、もっと良い産業にしていきたいという純粋な思いで活動しています。
 ここ数年はコロナ禍の影響もあって、首都圏から地元に戻って農業をやりたいという若者が増えています。喜ばしい地方回帰の動きですが、行政などと連携していかにサポートしていけるかが重要です。当社でも、新規就農に向けて研修中の若者をアルバイトとして雇用しています。

Q 読者に向けてメッセージをお願いします。

 国産そして地域の農畜産物を選んで買っていただけることが、農畜産物の安定供給につながり、生産者と消費者の双方のメリットになっていくと思います。ぜひ食べて応援していただきたいです。
 ワンダーファームでは、直売所やレストランのみならず、BBQなどを楽しめるスペースを設けたり、地元の生産者や飲食店の方にマルシェやキッチンカーを出店してもらうイベントを定期的に開催したりして、常に新しい体験を提供できるように努めています。今年は、トマト狩りに加えて、収穫したトマトを使ったピザ焼き体験やケチャップ作り体験もスタートします。ぜひお越しください。

 
元木 寛 氏
株式会社ワンダーファーム 代表取締役
福島県生まれ。
2002年 有限会社とまとランドいわきを立ち上げる。
2013年 「農林水産祭」天皇杯を受賞。
2016年 株式会社ワンダーファームを開業。
※本インタビューは、令和5年1月12日に株式会社ワンダーファームにて実施しました。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
Tel:03-3583-8196