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酪農は土づくり、草づくりから〜広島県庄原市 和田牧場の取り組み〜

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最終更新日:2015年5月13日

広島県の北東部に位置する「庄原市」
広島県の北東部に位置する「庄原市」
牛のえさは大きく分けて2種類あり、乾草や牧草などの繊維含量が高い粗飼料と、トウモロコシや大豆かすなどのエネルギーが高い濃厚飼料があります。
これらをバランスよく摂取することが、牛の健康上とても重要となっています。
日本における飼料自給率は全体で見ると26%程度で、粗飼料は76%ですが、濃厚飼料は12%と、そのほとんどを輸入に頼っています。

そのため、国内の飼料価格は海外の穀物相場などの影響を大きく受けることになります。
乳用牛の飼養にかかる生産費のうち、飼料費は5割弱を占め、高どまる飼料費の低減への対応の一つとして、自給飼料への切り替えが挙げられています。
しかしながら、酪農家は搾乳作業や飼養管理などに労働時間が制約され、自給飼料生産にすぐに取り組むには難しい状況にあります。

このような中、今回ご紹介する和田牧場の和田慎吾さんは、広島県庄原市で酪農経営を営み、牛に給餌する粗飼料の約9割を自給しています。

◆酪農経営は「土づくり、草づくりが基本」

経営主の和田慎吾さん(和田牧場の飼料畑にて)
経営主の和田慎吾さん(和田牧場の飼料畑にて)
広島県の北東部に位置する庄原市は、県内最大の酪農家戸数シェア(33戸:約2割)を有する酪農地帯であり、また、肉用牛生産の盛んな地域でもあります。
和田牧場は、昭和39年に現経営者である和田氏のお父様が酪農経営を開始し、平成2年に和田氏が就
農、13年に経営を承継しました。
和田牧場ではお父様の代より「土づくり、草づくり」を基本に自給飼料を生産しており、和田氏もそ
の営農スタイルを踏襲しています。
承継時の13年当初は乳用牛35頭程度を飼養していましたが、規模拡大を目指して同年に土地を借り受け、飼料作付面積を拡大してロールサイレージの生産を開始するとともに、16年からはTMR(注1)の給与を開始し、現在は和田氏と2名の従業員で乳用牛101頭を飼養しています。

注1:TMRとは、粗飼料、濃厚飼料、ミネラル、ビタミン等を混ぜ合わせた乳牛に必要な栄養素を全て含んだ配合飼料です。

◆牛が年間を通じて、同じえさを食べられるように

和田牧場では、9.5haの飼料畑で自給飼料を生産しています。
畑は借地を除き牧場に隣接しているので、移動などの手間がありません。
作付品種は、国内では一般的なイタリアンライグラス、ライムギ、スーダンで、収穫は5月の梅雨
入り前から9月いっぱいまで続き、収穫後は全てサイレージとして処理し、収穫量は年間約365tになるそうです。

TMRに混合する乾草を一部購入しているものの、粗飼料の自給率は約9割にも及びます。
また、和田牧場は品質へのこだわりも強く、「牛が年間を通じて、同じえさを食べられるように」をコンセプトに、収穫量確保のため早生品種を選んだり、嗜好性を高めるために糖分含量の高い品種を選んだりするなど、牧草の品種選定に試行錯誤を重ねてきました。

さらに、生育状況の確認を日々行い、牛に必要な繊維含量と収穫量が最大になるよう、出穂期から出穂
後期に収穫するよう常に心掛けているそうです。
気象条件などの影響で収穫時期が前後してしまうことや、ほ場環境の違いにより飼料の品質に格差が生じてしまうこともあるそうですが、一つ一つロット番号で細かく管理することにより、牛にとって理想的な自給粗飼料の組み合わせを可能にし、牛に必要な繊維量を年間通して一定に保つことができるそうです。

◆えさの給与作業を省力化

和田牧場の全kネイ(手前は飼料畑)
和田牧場の全kネイ(手前は飼料畑)
和田牧場では飼料生産に手間をかける分、えさの給与作業を可能な限り省力化することで、作業時間のバランスを取っています。
例えば、一般的にえさの給与・調製作業は毎日行うことが多いですが、牛の種類によってえさの調製作業を2日または4日に1回行い、1回分の製造量を多くすることでえさの調整作業時間の省力化を図っているそうです。
給餌量は牛が食べたい時に食べられるように十分な量を与えており、調製間隔が空いても、夏場の臭気は気にならず、腐敗などの問題も無いようです。

◆牛1頭当たりの乳量は平均の1・4倍

農林水産省(注2)によると、平成25年度の牛1頭当たりの年間搾乳量は平均8198kgですが、和田牧
場では、平均1万1437kg(平成25年度実績)と約1.4倍の搾乳量を実現しています。

この乳量を可能としている要因としては、和田氏による自給飼料の品質が影響しているとのことです。購入飼料の場合、購入した時期によって品質に差が生じてしまうこともあるそうですが、自家ほ場で
収穫する自給飼料であれば、牧草の発育ステージや肥培管理を自らがコントロールできるため、通年で
ほぼ同じ品質を保てることから効果的な飼養管理ができ、搾乳成績の向上につながっているといえます。
和田氏は、今後もさらなる生乳生産量の増加を目指しており、現在の9.5haのほ場に3haを借り増しし
て12.5haとし、一層自給飼料生産に力を入れていく予定とのことです。
和田氏は、「酪農はキングオブ農業」と表現し、畑を耕すところから搾乳に至るまで、多岐にわたる知識・技術を習得することが大事とした上で、酪農は単純に乳を搾る作業までをすればよいというものではなく、乳牛の更新や牧場設備の拡充などへの投資も計画的に行い、多角的な戦略を考えて経営を進めていかなければならないと、ご自身の酪農経営に対する考えを述べて下さいました。

和田牧場で飼養されている牛たちは、えさをもぐもぐとよく食べ、活き活きとしていました。牛が年間を通じて同じ品質のえさを食べられるよう土づくり、草づくりに力を入れているからこそ、牛はおいしい牛乳をせっせと生産してくれるようです。
私たち人間と同じで、牛にとっても食べるものは健康上、また、お乳を出す上でとても重要なのだと実感させられました。
(畜産経営対策部)

注2:「最近の牛乳製品をめぐる情勢について(平成27 年2 月)」農林水産省 生産局畜産部牛乳乳製品課
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
Tel:03-3583-8196