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海外情報 畜産の情報 2024年4月号

輸出拡大を目指すカナダ牛肉産業の現状 〜業界が抱える課題とCPTPP発効後の対日輸出動向について〜

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調査情報部 伊藤 瑞基

【要約】

 近年、カナダ産牛肉の対日輸出量は大幅に増加し、日本の牛肉輸入量に占めるカナダ産牛肉の割合は上昇傾向にある。23年はカナダ国内での干ばつの影響による生産量の減少やカナダドル高の為替相場などを背景に、輸出量は減少に転じる見込みであるものの、政府・業界団体は輸出拡大に向け、生産性や競争力の向上、持続可能性の追求などを掲げている。

1 はじめに

 カナダの牛肉生産量は世界の牛肉生産量の約2%であり、牛肉供給大国である米国(同22%)やブラジル(同18%)などと比較するとその割合は高くはない(表1)。しかし、カナダで肥育される牛の多くは大麦や小麦、トウモロコシといった飼料穀物で肥育され、穀物肥育牛肉に限れば、カナダは世界第3位の生産量を誇る。さらに、牛肉生産量の約4割が輸出に仕向けられており、輸出量では世界第8位となる。
 日本にとってカナダは、米国、豪州に続く3番目の牛肉供給国であり、近年の輸入割合は上昇傾向にある。
 本稿では、日本の牛肉需給に影響を与えるカナダの牛肉産業について、(1)牛肉需給の動向(2)環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTTP)発効後の対日輸出などの動向(3)政府や業界による輸出拡大の取り組み−などの視点から現地調査を基に報告する。
 なお、単位の換算には、1ポンド=0.4536キログラム、1エーカー=0.4047ヘクタールを使用した。また、本稿中の為替レートは、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均為替相場」2024年2月末TTS相場の1カナダドル=112.49円を使用した。

2 牛肉需給の動向

 カナダの直近10年の牛肉需給動向を見ると、2022年までは、同国の牛肉生産量および輸出量はおおむね増加傾向で推移してきたものの、23年は減少している(表2)。
 

 

 (1)牛飼養頭数

 カナダの牛肉生産は、放牧に適した土地を多く有する西部のアルバータ州やサスカチュワン州などを中心に行われている。同国全体の肉用経産牛頭数の6割以上をこの2州で占めており、両州の気候状況が同国全体の肉牛飼養の動向を大きく左右する構造となっている(図1)。
 実際に、過去20年にわたり西部を中心とした干ばつの影響を受けて、カナダの牛飼養頭数は減少傾向で推移しており、2005年の1688万頭から23年には1215万頭まで減少した(図2)。特に22年以降はアルバータ州など西部での干ばつの深刻化や、飼料価格や土地代などの上昇に伴う生産コストの上昇も重なったことで、飼養頭数の減少がさらに進んでいる。カナダ政府は牛肉産業が国や地域経済を支える重要な産業であるとして、畜産農家への課税優遇措置やアルバータ州生産者向けの財政支援(注1)などを行ってきた。
 
(注1)海外情報「カナダ政府、干ばつなどの被害で畜産業者への課税猶予措置を適用(カナダ)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003600.html)、「カナダ政府、アルバータ州肉牛生産者に対する支援策を公表(カナダ)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003662.html)を参照されたい。




 

(2)肥育牛価格

 カナダの肥育牛価格は、2018〜21年は多少の変動を繰り返しながらも100ポンド当たり150カナダドル(1キログラム当たり372円)前後で推移していた(図3)。しかし、22年以降は米国を含む北米地域での牛の飼養頭数減少や飼料高などを背景に上昇し、23年の平均肥育牛価格は同223.83カナダドル(同555円)と20年比で45.6%高となる大幅な上昇を記録している。現地業界団体によると、肥育牛価格が高値で推移していることは、繁殖農家やフィードロット経営の収益率が改善し、飼養頭数の回復が期待されるものの、大麦などの飼料相場がいまだ高値圏にあることや、干ばつや食肉処理場の稼働問題など不確実性要素が大きいことが、多くの生産者の増頭意欲を妨げているという。
 

 

 (3)と畜頭数

 過去10年にわたってカナダの飼養頭数は横ばいで推移しているが、米国からの生体輸入によりフィードロット飼養頭数が増加傾向で推移する中、牛と畜頭数は増加傾向で推移している(図4)。2020年はコロナ禍で食肉処理・加工施設の労働者不足により稼働率が大きく低下し、と畜頭数は減少に転じたが、21年以降は再び増加傾向にある。現地情報によれば、現在も食肉処理・加工施設の人手不足は続いているとされるが、カナダ政府が23年5月、農業食品パイロットプログラム(注2)の期間延長を決定するなど、移民による労働力の確保などの対応を行ったことで食肉処理場の稼働率を上げている。
 
(注2)カナダ国内の食肉処理・加工施設などで働く外国人労働者に対して、永住権の申請を認めるもの。当初は2020年から3年間と限定的に開始されたが、カナダ移民局はさらに2年間のプログラムの期間延長を決定した。


 

(4)牛肉生産量

 カナダの牛肉生産量は、2015年以降、と畜頭数や1頭当たり枝肉重量の増加から堅調に推移しており、22年の牛肉生産量は138万トンと過去10年で最高を記録した(図5)。しかし、23年は前年の干ばつで多くの繁殖雌牛が淘汰とうたされたことなどによる飼養頭数の減少から、牛肉生産量も減少し、今後も減少傾向が続くと予測されている。


 

(5)輸出動向

 カナダの牛肉生産量の約4割は輸出に仕向けられており、国内消費量が減少傾向にある中で、輸出拡大は業界にとって重要な課題として取り上げられている(図6)。輸出量は2013年以降、世界的な牛肉需要の高まりや18年のCPTPP発効を背景に堅調に推移しており、輸出額も過去10年で3倍以上に拡大し、22年は過去最高を記録した(図7)。





 

(6)カナダ産牛肉の特徴

 現地業界団体によれば、カナダ産牛肉の主な特徴として、次のような点が強調されている。
 
ア 穀物肥育牛
 カナダ肥育牛の多くは、国内で豊富に供給される大麦や小麦などを主体とする穀物肥育(グレインフェッド)により仕上げられ、前述の通り穀物肥育牛肉に限った生産量では世界第3位である。しかし、近年干ばつの影響による大麦などの生育不良から飼料価格は高騰しており、一部地域では米国産トウモロコシなどへの代替が進んでいるという。
 
イ 飼養品種
 飼養品種はアンガス種が最も多く、全体の約5割を占め、その他シンメンタール種が約20%、シャロレー種が約12%と続いている(図8)。これらの品種は、北半球の低温の環境に耐性があり、肉質面でも脂肪がつきやすいという。


 
ウ 格付制度
 カナダでの食肉の格付けは、カナダ牛肉格付協会(CBGA)による同国独自の制度が導入されている(注3)。2022年にCBGAで格付けされた牛肉は、上位等級からプライム級の割合が3.5%、AAA級が55.7%、AA級が18.9%、A級が0.8%となった(図9)。肉質の向上が進んでいることから、17年と比較してプライム級が約2.1ポイント上昇、AAA級は約9.5ポイント上昇している。
 なお、牛肉の格付けは任意ではあるが、と畜される肥育牛のほぼすべてが本制度により格付けされている。
 
(注3)『畜産の情報』2018年12月号「カナダの牛肉輸出見通し〜輸出拡大を目指すカナダ牛肉業界」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_000397.html)を参照されたい。

コラム1 カナダ国内の牛肉消費動向について

 カナダでは近年、干ばつなどによる牛肉や農産物などの生産量の減少やコロナ禍で発生したサプライチェーンの混乱が続いたことで、食料品をはじめとしたインフレが加速している。食肉の消費者物価指数を見ると、2023年11月時点で前年同月比5.0%増と上昇しており、牛肉小売価格については22年以降、過去5カ年平均を大きく上回っている(コラム1−図1)。しかし、こうした状況下でもカナダ国内の牛肉需要は堅調であり、物価変動の影響を排除した2000年を100とする22年のカナダ小売牛肉需要指数(注1)は約125と高水準にある。
 今回調査時(23年11月)のアルバータ州大手スーパーマーケットの牛肉価格を見ると、AAA級(注2)のサーロインが1キログラム当たり27.49カナダドル(100グラム当たり309円)、ももが同21.98カナダドル(同247円)で販売されていた(コラム1−写真1)。これらは日本で販売される輸入牛肉価格(注3)と比較しても近い水準にある。




 
 また、近年では持続可能性などに対する消費者ニーズの高まりから、一部の商品には持続可能な牛肉に関するカナダ円卓会議(CRSB)(注4)から発行されたラベルが貼付されている(コラム1−写真2)。このラベルは、同スーパーマーケットの牛肉製品がCRSBに認定された農場や食肉処理加工施設から少なくとも30%以上供給されていることを意味している。また、カナダでは近年、中東地域などからの移民が増加していることから、宗教上の対応としてハラール牛肉の認証ラベルの貼付も確認された(コラム1−写真3)。




 
 今後の食品価格については、金利はいまだに高水準にあるものの、カナダ中央銀行が再度の利上げを保留していることなどから、24年の食品価格のインフレ率は2.5〜4.5%と緩やかになると予測されている。しかし、食品については気候変動対策としてサプライチェーンの脱炭素化などが求められており、今後の牛肉価格上昇のリスクとされている。
 このような中で、将来的な国内の牛肉消費については減少を予測する見方が強い。消費者の節約志向などを背景に、牛肉から鶏肉へ需要がシフトしており、1人当たり牛肉消費量は1990年の33.90キログラムから2022年には24.84キログラムまで減少した(コラム1−図2)。また、移民は増加しているものの、文化的にも食肉の嗜好しこうが異なることや価格の問題から、牛肉需要の増加は限定的で、消費量は減少すると見込まれている。
 
(注1)物価変動の影響を排除した牛肉小売価格と1人当たり牛肉消費量を基に算出される指標で、基準年より高いと需要が高いことを示す。
(注2)上から2番目の等級。生鮮牛肉として供される牛肉の7割が同級に格付けされ、米国の等級のチョイス級に相当する。格付制度については後述(2 牛肉需給の動向(6)カナダ産牛肉の特徴 ウ 格付制度)。
(注3)農林水産省が公表する「食品価格動向調査(食肉・鶏卵)」との比較。
(注4)カナダ牛肉業界内での持続可能性への取り組みを推進するために発足した、さまざまな分野の関係者が参加する枠組み

3 CPTPP発効後の対日輸出などの動向

 日本は、米国に次いで輸出量、輸出額ともにカナダ産牛肉の2番目の輸出先となっている。2018年3月のCPTPP発効以降は、日本に輸出されるカナダ産牛肉の関税率が引き下げられたことや、23年に加工品を含めたカナダ産牛肉に対する輸入制限(注4)が解除されたことも対日輸出拡大への追い風となっている。
 
(注4)2003年にカナダ国内で初の牛海綿状脳症(BSE)が確認された後、日本はカナダ産牛肉および加工品などの輸入禁止措置をとり、その後、30カ月齢以下の月齢制限を課していた。
 

(1)対日輸出の動向

 CPTPPにより、日本のカナダ産牛肉の輸入関税率は当初の38.5%から2033年には9%、内臓肉については最大50%から9%まで段階的に引き下げられることとなった(表3)。22年の同国産牛肉の対日輸出量は6万7800トン(18年比では111.3%増)と大幅に増加した(図10)。また、日本の牛肉輸入量に占めるカナダ産の割合を見ると、18年が4%程度であったものの、22年には約8%と2倍以上に拡大した(図11)。日本向けの輸出部位(内臓肉を含む)としてはかた肉が28%、ブリスケット(かたばら)が10%、フランク・プレート(ばら系)が9%、ロイン系が2%、内臓肉が34%を占めている(図12)。








 
 CPTPP発効当初、最大の競合国であり、TPPから離脱した米国と比較して、カナダは価格競争力の面で優位な状況となった。しかし、20年に日米貿易協定が発効し、米国産牛肉の関税率がCPTPPと同水準となったことで、関税面で米国産に対する優位性はなくなった。また、近年はカナダ国内の牛肉価格の高騰や円に対するカナダドル高から、同国産牛肉の価格競争力が低下し、23年の対日輸出量は減少している(図10、13)。

 

(2)他国への輸出動向

 今後の対日輸出にも影響するカナダ産牛肉の主な輸出先としては、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)下で無関税の輸出が可能である米国やメキシコ、さらに近年、牛肉需要が高まりつつある中国が挙げられる。
 
ア 米国向け
 米国は隣国であるという地理的なメリットや無関税で輸出可能であることから、カナダの牛肉輸出先第1位であり、輸出量全体の約8割を占めている(前掲の図7)。2013年以降、米国の堅調な需要により輸出量は増加傾向で推移しており、主要輸出部位としてはチャック(かた)系やロイン系が主となっている。米国農務省(USDA)によると、今後数年は米国内の牛肉生産量の減少が続くことで、カナダからの輸出量は堅調に推移すると見込まれている。
 
イ メキシコ向け
 米国同様、無関税で輸出可能なメキシコ向けは、近年、需要の高まりやペソ高で推移する為替相場を背景に輸出量が拡大しており、2022年は2万6500トン(18年比72.0%増)と大幅に増加した。輸出部位は内臓肉やかた肉が多くを占めており、日本向けと類似している。現地業界団体によれば、22年以降、円とペソの為替動向が両国向けの輸出量を左右する一因とされており、日本向けの輸出量の減少分をメキシコ向けが相殺する形となっている。
 
ウ 中国向け
 中国向けは、2017年以降、カナダ産牛肉に関する輸出要件の設定や工場の輸出認定が進められたことで、輸出量は堅調に推移していた。しかし、21年にカナダの肥育牛農場で非定型の牛海綿状脳症(BSE)に感染した肉牛が検出されたことから、中国はカナダ産牛肉の輸入停止措置を続けている。現地情報によれば、カナダの業界団体は両国の大使館を通して輸入解禁を要求しているものの、現時点ではっきりとした回答は確認できていないとされる。

コラム2 アルバータ州肥育農家(フィードロット)の事例

 カナダの肉用牛生産は小規模経営が基本であり、飼養頭数47頭以下の農場が全体の6割を占めている。また、近年は後継者不足などにより生産者が減少する一方で、1戸当たりの飼養規模は増加傾向にある(コラム2−図1)。


 
 今回、現地調査を行ったアルバータ州にあるCattleland Feedyardsは、2005年に設立され、親子2代にわたり肥育農家として肉用牛生産を行ってきた。飼養品種はアンガス種やヘレフォード種、交雑種(F1)などさまざまな品種を飼養している。また、約1万2000エーカー(4856ヘクタール)という広大な敷地で自家用飼料(大麦、小麦、菜種、干し草用のアルファルファ)を栽培し、フィードロットの収容可能頭数は設立当初の500頭から現在は2万5000頭まで拡大した(コラム2−写真1、2)。当該地域の気候は、年間平均降水量が約480ミリであるが、23年は同300ミリを下回るなど、ここ数年は極度の乾燥状態にあるという。
 通常、約12カ月齢のもと牛を導入し、平均260日程度(8〜9カ月程度)の穀物肥育(通常385キログラム程度まで肥育)を行い、大手パッカーであるカーギルやJBS、中堅パッカーのハーモニービーフ社に出荷している。主要飼料である大麦は、干ばつや中国の大麦需要の高まりから、フィードロットで必要な量を確保することが困難になり、23年までは不足分を米国産トウモロコシで補っていた。しかし、米国まで長距離移動で自家集荷をしなければならず、経済的にも体力的にも負担が大きかったため、現在は導入を取りやめ、自給している大麦などに戻したという。




 
 現在の肥育牛の取引相場は上昇しているが、ここ数年は穀物・燃料価格の高騰、天候リスクなどから予測が困難であり、規模拡大の判断が難しいという。これら生産コストの上昇に対処するため、粗飼料やサイレージなどの自給飼料を供給することで、輸送費の低減や穀物相場の乱高下に左右されない経営を目指しているという。
 持続可能性やアニマルウェルフェア(AW)への取り組みとしては、堆肥を穀物へのスターター肥料などとして使用するなど、家畜排せつ物の効率的な再利用を行っている(コラム2−写真3)。そのほか、第三者によるAW監査の実施や、牛用の通路の一部をカーブ構造にして牛が直角に曲がることや後方の牛との接触を防止しており、過度なストレスを与えないよう工夫している(コラム2−写真4)。




 
 その他、国際基準を満たすとされるCCIA(カナダ畜牛認証機関)のRFIDタグ(電子個体識別タグ)が導入され、個体ごとの情報の管理・追跡が可能となっている(コラム2−写真5)。今後の販路拡大や輸出への取り組みについては、自社のブランド牛肉として、持続可能性やAWの観点からも需要があるイタリアなどのEUへの輸出に力を注ぐとしている。さらに、需要が見込めれば、日本や中国などアジア諸国への販路拡大も視野に入れたいと語っていた。

4 牛肉産業の成長戦略

 カナダ牛肉産業の輸出拡大に向けた代表的な取り組みとして、カナダ牛肉関係団体が一丸となって推進している「国家牛肉戦略」(注5)と、それを基に長期的かつ具体的な達成項目を定めた「カナダ牛肉業界2030年目標」が挙げられる。
 
(注5)国家牛肉戦略の概要については、『畜産の情報』2018年12月号「カナダの牛肉輸出見通し〜輸出拡大を目指すカナダ牛肉業界」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_000397.html)を参照されたい。
 

(1)カナダ国家牛肉戦略

 「国家牛肉戦略(National Beef Strategy)」は、2015年からカナダの生産から流通までに関わる七つの団体(注6)が一丸となって掲げる5カ年目標であり、業界全体が直面する課題に対処し、より高品質な牛肉生産や輸出拡大、持続可能性の追求などの目標が設定されている。20年には、24年に向けて2回目となる目標が設定されたが、当初の目標から大幅な変更はなく、四つの大きな柱(需要拡大、競争力向上、生産性向上、業界内外の連携強化)は以前の目標から引き継がれた。ただし、前回の目標はCPTPP発効前に設定されており、今期の目標では、CPTPP加盟国への販売促進活動費を増やし輸出拡大を推進するといった項目が追記されている。
その他、競争力向上や生産性向上の項目の中には、技術革新を通じて生産コストの削減や品質向上に取り組むとした目標も掲げられている。これらの目標に対し、政府や業界団体によるこれまでの具体的な取り組み例としては、施設内での食肉品質管理システム(MQM)や生産現場での3Dカメラの導入といった最新技術の導入を支援している(表4)。こうした取り組みにより、生産から加工過程でのカナダ産牛肉の品質や安全性を向上させ、国家牛肉戦略が掲げる競争力強化や生産性向上を目指している。
 
(注6)カナダビーフ(Canada Beef)、全国畜牛肥育協会(National Cattle Feeder's Association)、カナダ肉用牛生産者協会(Canadian Cattlemen's Association)、カナダ食肉協会(Canada Meat Council)、カナダ牛肉品種協議会(Canadian Beef Breeds Council)、持続可能な牛肉に関するカナダ円卓会議(Canadian Round Table for Sustainable Beef)、肉牛研究評議会(Beef Cattle Research Council)


 

(2)カナダ牛肉業界の2030年目標

 国家牛肉戦略に向けて一丸となって行う七つのカナダ牛肉業界団体は、同戦略で設定された目標に基づき、業界の気候変動対策やAWなど、今後10年間の長期的な目標を示す「2030年目標」を設定している(表5)。具体的には、2030年までに肉牛生産にかかる温室効果ガス(GHG)排出量を33%削減することや、水資源・土壌の保全、牛の快適性向上のための飼養環境の改善、各生産者の管理強化などが盛り込まれている。
 こうした目標が設定されている中で、7団体の一つである持続可能な牛肉に関するカナダ円卓会議(CRSB)は24年1月、業界による持続可能性に対するこれまでの進展状況を公表した。過去3年間の科学的データに基づき、GHG排出量や生物多様性の保全などに関する持続可能性指標が示されており、カナダ牛肉業界は、1キログラムの牛肉を生産する際のGHGガス排出量を14〜21年にかけて約15%削減したと強調している。

5 おわりに

 近年、カナダ産牛肉の対日輸出量は大幅に増加し、米国と豪州の2大供給国の後に続く存在感を示している。
 今回訪問した現地業界関係者からも、現状では、カナダの牛肉輸出量の大部分は米国向けが占めているものの、一国依存のリスク回避の観点からも、日本は重要な輸出先として認識されている。その上で、価格競争力の面では今後も関税率が引き下げられていくことや、品質面でも高い水準の牛肉の供給が可能であると語っている。その一方で、近年の為替変動や社会情勢の変化の影響は大きく、今後の予測は難しいとの声も聞こえた。また、現在は輸出停止となっている中国向けについても、近年、同国国内の牛肉需要が伸びている中で、今後の対日輸出にも影響を及ぼす動きとして注目される。
 カナダ国内の生産面をとらえると、飼養頭数が減少の一途をたどる中で、24年は干ばつや寒気の影響からさらなる飼養頭数の減少に直面すると予想されている。穀物飼料などの相場高は、北米の穀物供給量の回復などにより、現在は収束しつつあるものの、世界的には混乱が続いており、穀物市場の見通しは不透明である。
 このような中、さらなる牛飼養頭数の減少は、牛肉業界の活力を左右すると懸念される。干ばつのリスクや穀物市場の先行きの不透明感がある中、生産者の増頭意欲を高め、牛群再構築、ひいては輸出余力拡大へとつながる、政府や業界団体による生産者への支援策などが注目される。
 
謝辞
 今回の現地調査では、カナダビーフ国際機構(Canada Beef)の清冨一郎駐日代表、アルバート・エリンフェルド氏、Cattleland Feedyardsの皆様方をはじめ、多くの方々に快く調査に応じていただきました。ここに深く感謝の意を申し上げます。